第66射:穏やかな探索
穏やかな探索
Side:ヒカリ・アールス・ルクセン
「なんか、森に入る前にすごく疲れたよねー」
「ですわね……」
「もっと、魔術の調整ができたらなー」
僕たちはそう言いながら、森の中を進んでいく。
あのあと、オークの死体を集めて燃やしてアンデッド化するのを阻止してから、陥没させた地面を戻そうと思ったんだけど、なんか上手く行かなくて、途中で土を魔術で出してスコップで穴に投げ入れる作業になったんだよね。
いや、田中さんのスキルでスコップがあったのはすごく助かったけど、なんで異世界に来てまで土木作業してるのか、不思議に思ったね。
どこかのラノベみたいに、最初の町から基本的に動かない冒険者じゃないんだし……。
「まあ、そこは今後の課題だな。ルクセン君たちは自分たちの能力が凄すぎることと、隠す方法をもっと学ぶ必要があるな。この前のオーヴィクたちと魔術の練習をした時と同じだ。森を全焼させるところだったろう?」
ああー、そういえばそんなことあった。
あの時は慌てて魔術で水をかけて鎮火したっけ。
いやー、あそこまでの被害になるとは思ってなかったよ。
「というか、オークの遺体を燃やしたあとの処理は、リカルドたちに任せてきたからな。疲れたとか言っても説得力はないぞ」
「あははー……」
「……大人の凄さを思い知りましたわ」
「だなー。大人になるって辛い……」
「大人のありがたみをかみしめて、疲れる仕事を残って引き受けてくれたリカルドたちの為にも森の探索はがんばるぞ」
「「「おー」」」
Side:タダノリ・タナカ
ということで、リカルドたちは死体の後始末と何かあった時のための連絡要員として、あの場所に残っている。
俺たちが森から出てこないときは、ギルドに連絡するためだ。
戦力分散はどうかと思ったが、この森の探索を決めた時にヨフィアが言ったように、この森へ探索に入ったのは、結城君たちの経験を積むためだ。
なので、そういう意味でもリカルドたちが残ることが最適ということになった。
俺はもちろん最終防衛ラインだな。
なので、俺がやられた場合は、即座に撤退ということになっている。
その時に、ルクセン君たちが五体満足か分からんがな。
「ねえ。田中さんなにか物騒なこと考えなかった?」
流石、女性と言ったところか、ルクセン君は勘が鋭い。
隠す必要もないので、包み隠さず話すことにする。
「俺がやられた場合は、ルクセン君たちは有無を言わずに撤退ということになっているが、俺がやられる時に、ルクセン君たちがまず無事か?と思っただけだ」
「うわー!? こんな何がいるか分からない森の中でそんな事考えるー!?」
「ほら、そう叫ぶな。俺たちの存在を、知らせることになるぞ?」
「うっ……」
俺はそう言うと、ルクセン君は慌てて口を閉じる。
こういう風に慌てるのはまだまだだな。
それとも、あえて恐怖を紛らわすためにこういう態度をとっているのか。
「光の気持ちはわかるけど、田中さんの言うように、田中さんが倒せないとか、ピンチになるような相手に逃げる自信はないなー」
「確かにそうですわね。田中さん、何かいい方法などはありませんの?」
「うーん。難しい質問だな。まあ、魔物が知恵のない動物、獣タイプなら、囲まれるようなことはないだろうから、逃げ出す暇はあるだろうな。逆に知恵があるオークやゴブリンたちなら囲まれているだろうから、怪我を覚悟で一点突破だな。状況によりけりだ。まあ、銃で囲まれたら、終わりだな」
逃げるも何もない。
ああ、いや、森の中ならワンチャンスあるか?
木の幹を盾に逃げる。
とはいえ、勝率は低いだろうな。
「流石に銃相手に逃げられる気はしないよね」
「だなー。でも、魔物相手ならまだ逃げ出す余裕はありそうだな」
「ですわね」
「大事なのは、頭を真っ白にしないことだな。油断や、突然の事態、ショックを受ける状況でその場で立ち尽くすことがないようにな。その分チャンスが減るし、危険になる。日本でもそういうことわざがあるだろう? なんだっけな……」
「勝って兜の緒を締めよ。ですか?」
「おおうそれそれ。大和君ありがとう。戦いが終わったと思った時が一番危ないんだ。戦いの終わりなんて誰かが告げるから終わりってわけでもないからな。常に油断せず気を引き締めろってことだ。こう雑談しつつも、森の音に気を配れってことだな。」
そんな話をしながら、俺たちは森の中を進んでいくが、特にモンスターに会うこともなく進んでいく。
たまにシカなど動物を見るだけで、森の中はいたって平和に見える。
「何にもいないねー。あのオークたちはどこで戦ってたんだろう?」
「案外、かなり遠くから逃げてきたのかもしれないな」
「そうなると、オークたちの足跡を追えばよかったんでしょうか?」
「そうだな。何か原因を探るのなら、オークたちが通って来た道を進む方がいいかもしれないな」
「あ、それさんせー」
「追ってくるなら、そこからですよね」
「それがいいかもしれません。どんな相手と戦ったのかもわかるかもしれません」
そういうことで、俺たちは一旦オークがいた森の周囲の探索はやめて、オークの足跡を追跡して、オークと交戦した何者かの後を追うことにしたのだが……。
「この足跡って、何か変じゃない? いや、足跡は問題無いんだけど、逃げてきた方向っていうか……」
ルクセン君の言うようにこの逃げてきた方向はおかしい。
よくよく意識してみると、森の外側ギリギリをずっと移動してきているのだ。
「これって、このまま進むとロシュールって国の領土じゃないの? 大丈夫かな?」
「領土を越えるって不味くないですか? 密入国ってやつですよね?」
「このまま行っていいものなんでしょうか?」
そう聞かれて、俺はしばしば考え込む。
別にこの時代の国境は有って無いようなものだし、密入国なんてし放題だ。
パスポートもなければ、身分証明書もギルドで発行されるものに限られるし、ステータスも個人情報で無暗に見せるものではなく、町に入る時名前と犯罪歴が無いかを調べるだけのものだ。
なので、ロシュール領土へ入るのは問題ないが……。
「密入国とかでは問題ないだろうが、その前に、ロシュールの領土までいくと、時間がかかりすぎる。そこが問題だな」
「あー、そうか。オークたちはロシュール側から来たかもしれないから、時間が足らないか」
「確か、3日でしたっけ?」
「正確には1日半で戻れる範囲ですわね。余裕をみるなら、オーガテンペストと遭遇した森の時みたいに、1日で戻ってこられる距離がいいでしょう」
「大和君の言う通りだな。森の中だし、どんなトラブルがあるか分からない。オークの足跡を追うのは1日ぐらいでいいだろう。俺たちが遅れて、リカルドたちが報告すれば、オーヴィク君達がすっ飛んでくるだろうからな」
俺がそう冗談をいうと、3人は神妙な顔つきで……。
「ありそうだねー」
「オーヴィクなら来るな」
「来ますわね」
と、そう断言した。
まあ、オーヴィク君たちならありそうだが、その前に俺たちの立場をしっている冒険者ギルドは大慌てでやってくると思うぞ。
下手したら、ルーメルとの立派な開戦理由になるからな。
とまあ、方針は決まったので、俺たちはロシュールの国境へ向けてオークの足跡を追い進むことになったのだが……。
「ぎゃうぎゃ!?」
「ぎゃひん!?」
意外というか、当然というか、4時間ほど進んだところで魔物を発見して、それを速やかに撃破した。
「これってコボルトかな?」
「多分。犬の顔しているし」
「もうちょっと、可愛らしいイメージがあったのですが、狼男ですわね」
結城君たちが言うように、遭遇した魔物はコボルトという犬の面に、毛むくじゃらではあるが二足方向で人間っぽい姿の魔物である。
そしてその容貌は、地球的に言い表すのであれば、大和君が言った通り、狼男だ。
いや、身長は低いので狼小男だな。
それが二匹いて、どうしたモノかと様子をうかがっていたら、臭いでばれたようで、こちらに襲い掛かって来たところを返り討ちにしたのだ。
「……ちっ、やっぱり情報通りだな」
俺はつい、そう文句をいう。
「どうしますか、田中さん」
「ここはあまり訓練に向かないようだな。とりあえず、ルーメルの方に戻って訓練した方が効率がいい。結局でてきたのは、オークやコボルトぐらいだな。こっちの方面は練習にならんか」
いや、オーク程度なら訓練になるかと思っていたが、思ったよりもルクセン君たちが優秀だったおかげと、オークと交戦した魔物が出てこないことで、気が緩んできているな。
森の中で強力な魔物を警戒して進んで出くわしたのは、ゴブリンよりも上、オークよりは下というコボルトのみ。
これは経験を積みにはならんな。
いや、こういうこともあるという意味ではいいが、目的は結城君たちの訓練だからな。もうちょっと歯ごたえがないとこちらとしても困る。
そんなことを考えている間に、結城君たちはコボルトの討伐証明や売れそうなものをはぎ取っていた。
「でも、もっと奥に行ったら、いい場所があるかもしれないし、オークたちと戦った魔物が出るかもしれないよ?」
ルクセン君はまだ探すつもりらしいが……。
「いや、それはやめとけ」
「何ででしょうか? 理由を聞いても?」
「大和君、一応ここはロシュール領だ。既に踏み込んでいると思った方がいい。仕事の関係で国境の近くまで来ただけで、これ以上ロシュールの深くに行くなら、貴族や、最悪、王族を相手にしないといけない」
「あー、それは嫌ですね」
「僕は、戻るのに賛成」
「……そうですわね。いちいちリテアと同じような対応するのは面倒ですわ。分かりました。戻りましょう。私たちのわがままでルルア様の様に時間を割いてもらうのも悪いですし、それに、リカルドさんたちのこともありますし、光さん今回はこの辺で戻りましょう」
「だな。戻ろう。よかったじゃないか。少くなくとも、国境沿いまではオークを襲った魔物たちはいないようだし」
「ま、そうだね」
「ええ。それが分かっただけでもよかったですわ」
そういうことで話はまとまり、俺たちは来た道を戻ることになったのだが、俺は改めて立ち止まり、辺りを見回す。
「田中さんどうしたの?」
「何かいましたか?」
「……何も見えませんが?」
「ん? ああ、別になんでもない。ってわけでもないな。コボルトがいたってことは臭いをたどってきたんだろうなと思ってな。これだと俺たちが帰り道で休む時に襲われないかと思ってな」
「あー。あの顔なら臭いをたどるぐらいやれそうだよね。犬顔だし」
「だな。燃やすか?」
「あとは、コショウがあれば臭いは紛らわせるとか聞いたことがありますが。そっちの方がいいのでしょうか?」
3人は俺が言った適当な嘘を信じて、色々話しているが、俺はある一点に視線を向けていた。
見た目は何もない場所だ。
だが樹に寄り添うように誰かがこちらを見ている気がしてならない。
どこかのお化けか?
たまに傭兵時代に感じたやばいという感覚だ。
いや、日本でもあるか、所謂心霊スポットだ。
ここは不気味というか、何もいないのに、何かの気配を感じるのだ。
こっちの世界では幽霊はゴーストというアンデッドの魔物として認知されているし、姿が見えないということはないはずだ。
しかし、幸いというか、敵意はなさそうに感じる。
敵意があるなら既に襲い掛かってきているだろうからな。
ああ、プレデ○ーとかの分類か? 透明で襲い掛かってくる戦士ってやつ。
まあ、とっさにルクセン君たちの足を止めさせたのは正解だったかもな。
密入国は簡単だと言っておいて、ロシュール領に少し入るぐらいなんともないのだが、無理やり、ロシュールの王族と会わないといけないといって、これ以上の前進をやめさせたからな。
「田中さん? なんか見えるの?」
「いや、何も見えないな。さ、大和君の言うようにコショウを撒きながら帰るか。この世界の人たちが聞いたらひっくり返りそうだがな」
「コショウってこっちじゃ高いもんねー」
「びっくりしたよな」
「でも、昔は金と同じ額で取引されたとか、勉強でありましたよね?」
そんな話をしながら、俺はその場から立ち去って行った。
さて、あそこには何がいたのやら。
まあ、それを確かめる機会は果てしなく遠そうだが。
ひとまず、これにて俺たちのリテアの最後の仕事は終わるわけだ。
そして、ようやく、どこかの本の一巻おまけのシーンへ。
このシーンのためにヒカルから田中へ視点を移動。
このため、次回はヒカルの視点からやりたいと思います。
これから、田中たちは戻っていき、さらなる冒険が待ち構えている?
ユキが来るまであとどれぐらいかなー?




