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レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま


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65/524

第65射:進むか引くか

進むか引くか



Side:タダノリ・タナカ



「あー、本当に美味しそうな匂いがー」

「おなかがすくなー」

「……お二人とも、もっとまじめにしてください」


そんなことを言いながら、ルクセン君たちはオークの死体を確認している。

まあ、いい匂いなのは事実だが、良くも悪くも、本当にこの3人は戦場に慣れてきたな。

普通なら、嘔吐して動けなくなるのだが、そこは既に通り過ぎたか。

真っ向から戦った相手の命を奪うのは、そこまで圧迫感を感じないものだが、こうして、戦術で罠にはめて蹂躙すると気に病むのは軍人でも多い。

命令だからといって、人殺しが大好きな兵士はそんなに多くないからな。

まあ、そういう人殺しが大好きな奴は、味方に置いていても危険だから、特殊部隊に放り込まれるんだが。

ああ、優秀という意味の特殊部隊ではなく、暗部の特殊部隊な。


「……どうやら、見事に全滅しているようですね」

「ですね。かなり後方にいましたが、魔術による攻撃の音は聞こえましたから。よほどの威力だったのでしょう」

「そうですねー。本当にすごかったですよー。こうバリバリーって感じで」


既に、リカルドたちも呼んできて合流している。

そして、一緒に討伐証明部位や使えそうな物の回収に当たっている。

大和君の作戦で倒したのは、オークが24匹。

子供はなしの、大人だけの群れだ。

まあ、子供はわずか半月ほどで大人と同じサイズになるらしいから、若いのがいたかもしれないが、残念ながら、オークの顔はわからん。

できるのは、遺体からはぎ取ったアイテムを有効に活用するだけだな。


「でも、なんかこのオークって皮鎧とさびてるけど、剣もっているよね。作ったのかな?」


そう言ってルクセン君が見つめるオークの死体には、ボロボロではあるが、確かに武具が存在していた。

だが、ルクセン君の疑問からも分かるように、どう見てもサイズがあってなく、無理に着てたり、使っている印象がある。


「いえー。オークたちが作れるのはゴブリンたちと同じぐらいの木の槍とか、石の斧ぐらいですよー。おそらく、冒険者からはぎ取ったかとー」

「……はぎ取ったって、それはつまり」


ヨフィアの言葉に結城君が顔を顰めながら、確認をとる。

まあ、当然の答えだよな。

作れないのなら、誰かから奪ったということだ。

この場合の奪う、はぎ取ったは、命も一緒にということだが。


「ええ。このオークに殺された冒険者がいるみたいですねー」

「……そうですか。このオークを倒したことで、せめて弔いになればよいのですが」

「はいー。敵は討ちました。それが十分手向けになりますよー」


そうヨフィアに言われて、大和君はオークがもっていた錆びた剣をとり、大事そうに布に包む。

どこに持って帰るつもりだと、聞くのは余計な世話か。

まあ、置いて行かれるより、どこかに弔われる方がいいだろう。

戦闘の邪魔になり命に係わるようなら、注意するが、これぐらいの感傷に浸ることも許されなければ、人はストレスを感じる。

ここら辺のケアも上司、人の上に立つ連中はしないといけない。

これが無ければ上司も部下も信頼は築けないし、お互い安心して背中を任せられん。


ま、そこはいいとして、このオークたちがこの場所にたむろしていた理由はなんだ?

森の中ならいざ知らず、なんでこんな目立つ場所にいた?

俺も大和君が言っていたことは疑問だった。

だが、ドローンを飛ばしても、その答えになるようなものは見当たらなかったので、俺もオーク討伐の証明部位とうまそうな部位を回収しつつ、原因を探していた。

あ、因みに、前回のオーガ討伐のおかげで大金が手に入り、アイテム袋を買うことができた。

グランドマスターから格安で譲ってもらったので、まだお金に余裕はある。

しかも、結城君たち3人と俺、4人分確保できたのだ。

笑いが止まらんね。オーガテンペストの討伐がそれだけ価値と意味があるモノだったってわけだ。

これだけの一攫千金。大和君たちは命を懸けるに値するのかと、思い悩んでいたが、あの報酬を現代価値で考えると、オーガの群れ、オーガテンペストの討伐で約5億ぐらいだ。

こりゃ、命を懸けるに値するな。

しかも、経費は弾丸が5発だ。ぼろい商売もあったモノだ。

まあ、現代兵器を使用する地球での作戦依頼の額だと、ふざけるなって感じだがな。

下手すると、経費だけで赤字だ。


「……ん?」


そんなことを考えていた時、不意に視界に妙なものが入った。


「これは、傷だが、えらく傷が荒れてるな」


大和君たちが撃った魔術とは全く別物の傷が、オークに刻まれていた。

切り傷というには、傷口がギザギザというか引きちぎられるようになっている。

他の魔物と交戦でもしたか?

他のオークの様子を見てみるか。

俺はこのオーク以外に同じような傷が無いか確認をとることにすると……。


「24体中10匹か」


約半数が同じような傷を負っていた。

個体によっては、雷で焼かれていて、傷の判別が難しいので、結城君たちは見落としたのだろう。

この場で動かなかった理由が分かってきたな……。


「田中さんどうしたんですか?」

「ん? ああ、結城君か。なんとなくだが、この場所にオークが集まっていた理由が分かってな」

「え? そうなんですか?」

「絶対じゃないがな。ほら、ここの傷を見てみろ」


俺はそう言って、オークの遺体についている傷を見せる。


「うわっ、これかなりひどいっていうか、なんか引きちぎられたような感じですね。って、あれ? 撫子と光は雷でしたよね」

「そうだ。だからこの傷はそれ以前に付いたモノってことだな」

「でも、これってなんか草とかが傷口についているから、治療したあとですかね?」

「たぶんな。恐らく、何かと……」


そう話そうとすると、不意にオークの遺体に影が差す。


「お2人とも何かあったのですか?」

「なになにー? 面白い物でもあった?」


大和君とルクセン君が気になったのかこちらの様子を見に来たようだ。


「丁度いい。リカルドたちも含めて、今後の話し合いをするか」


説明を1人1人にするのはめんどくさいからな。

まとめてやるのが効率がいい。

ということで、さっそく全員を集めて、オークの遺体の傷のことについて説明をする。


「……ということで、この傷は大和君やルクセン君の付けた傷ではない。しかも治療痕も見られることから、何かと争ってここに逃げてきたとみるべきだろうな」

「あの森の中に、オーガテンペストみたいな怪物がいるってこと?」


ルクセン君がそう言うと、全員の顔がこわばる。


「いや、まあ、可能性はゼロじゃないが。おそらく違うと思う」

「なぜそう思ったのでしょうか?」

「そうだな……大和君。オーガテンペトクラスの魔物がいたとして、あれだけの数のオークがまとまって逃げてこられると思うか?」

「うーん。すみません、よくわかりません」


大和君にはピンとこないようだ。

だが、結城君は理解の表情があり……。


「あ、そうか。傷があったオークが半数いたから、そこまで強くない魔物と争っていた? だから、まとまって逃げていた?」

「そうだ。多分、縄張り争いでもあったんじゃないか? けがを確認した約半数のオークは全員ガタイはよかったから、戦士、戦う役だったんじゃないか? 負傷して戦えなくなり、群れで移動することにした。で、この場所にとどまっていたのは、傷の治療のため。そして、敵の追撃を警戒するためだ。見晴らしのいい草原だからな。ここは」


まあ、そのせいで、俺たちに発見されたんだが。

運がなかったなお前ら。

そう思っていると、今度はリカルドたち大人組、というかこちらの世界の人が理解を示した。


「なるほど。確かに、事例はありますな。ほかの魔物の群れと衝突して、その地域にいた魔物が集団で移動するというのは、聞いたことがありますな」

「私も聞き覚えはあります。しかしながら、王都勤務だったので、そういう事件に遭遇することはありませんでしたが」

「あー、そういえば、私も二度三度ぐらい、こういう討伐に駆り出されましたねー。その時はゴブリンの群れで、すわ、魔物の進行か、それとも強力な魔物が出現したか。と思っていたんですけど、どうやらオークの群れがやってきたみたいで、追い出されただけのゴブリンのようでした」

「ヨフィア。その時はどうなったんだ?」

「ゴブリンたちは、オークたちと交戦してて満身創痍。こんな感じで、草原の真ん中で休憩しているところを、冒険者たちの集団が発見討伐。そして、そのまま拠点を探しに森に入って、オークたちを発見。オークたちもゴブリンたちほどではありませんでしたが、やっぱり疲弊していたので、こちらもまとめて討伐。そのあと捜索したんですが、それらしき拠点などはなく、縄張り争いだったんだろうってことになりました」


ふむ。状況的には似ているといってもいいな。

俺がそう考えていると今度は大和君が口を開く。


「話はわかりますが、今回の傷を見ると、ゴブリンなどの知っている魔物の攻撃ではないように見えますし、オークの集団を引かせるほどの魔物たちなら、一度戻って報告するべきではないでしょうか? オーガの群れが出たこともありますし……」


大和君は一度戻ってギルドに報告するべきって判断か。


「他の皆はどう思う?」

「僕は、撫子が言っていることは分かるけど、一旦森を見に行くべきじゃないかなと思うよ」

「なぜですか? それは危険ですよ? オーガテンペストのような魔物がいれば私たちだってただでさえ危険なのに、命の危機にさらされるかもしれませんわよ?」

「うん。それはわかる。だけどさ、結局近くの町に連絡に行くにしても、リテア聖都のギルドに連絡に行くにしても時間はかかるじゃん。それで、オークを追い出した何かが移動しちゃったらもうわからないよね? そうなると、正体不明のままになるし、とりあえず僕たちが確認だけでもするべきじゃないかな?」


ルクセン君はとりあえず偵察するべきか。


「どちらの意見もわかる。で、他の皆は何かほかに案はあるか?」

「ふむ。私はどちらかと言うと、ヒカル殿よりですな。もっと詳しいことを調べなければ、ギルドや町の領主が動いてくれるかどうか……。オークの群れはあれど、ここは国境近くの辺鄙な所ですからな。ただの魔物の群れがいたと言われかねません」


リカルドはルクセン君に賛成と。


「私は心情的には、私たちの身の安全を考えるのであれば、報告ですね。聖都まで報告すれば、いままでの功績がありますので、調査隊を動かすことはできるでしょう。ですが、ヒカル様の言うように、そこまで時間が経てば、脅威がどこに移動するかわかりません。なので、一度確認して、様子をうかがう必要はあるかと思いますので、ヒカル様の案に賛成です」


キシュアもルクセン君に一票。


「さて、安全を重視するのか、それとも探索を優先するのか。そう言う話ですよねー。でもー、今回は元々、アキラ様たちの訓練を目的に来ていることから考えると、あからさまな危機でもない限りは、探索にいくべきかとー」

「うっ」


目的を考慮すると、ヨフィアの言う通りだな。

それを大和君もわかったようで、罰が悪そうな顔になっている。

まあ、オーガテンペストのことがあったからな、警戒するのは仕方がない。

しかし、これでどう動くかは決まったも同然だが……。


「最後に結城君の意見を聞こう。この状況が覆る話が出るかもしれない」


俺がそういうと、一斉に結城君に視線が集まり……。


「いや、そんな無茶ぶりされても何も案なんて出ませんよ。光とヨフィアさんの言う通り、探索に一票で」


こうして、俺たちのこれからの行動は決まった。


「ま、その前に、この地面を埋め直すか隆起させるぞ。こんな魔術の痕跡を残しておけば騒ぎになるからな」

「「「えー」」」


3人は後始末については考えていなかったようだ。

前にもオーヴィクたちと一緒に訓練ついでに森を燃やしたり消し飛ばしたりして色々大変だったんだけどな。

まあ、あれか、これが若さというやつか。





読者の皆様ならどうしますか?

まあ、勇者っていうおやくそくだよねーこの場合は。


個人的には安全策で調べないよね。



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