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レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま


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第64射:攻撃と結果

攻撃と結果



Side:アキラ・ユウキ



「ぶぎぃぃ」

「ぴぐぅぅ」


遠めにいるオークの声が風に乗って聞こえてくる。

正直なんて言ってるかわからん。

まあ、でもあいつらはあの一帯から動いていないから、攻撃するだけだな。

ん? なんであの一帯から動いてないんだろう?


「なあ、撫子。なんであいつらあそこから動いてないんだろう? あんな目立つ場所で?」


俺は、攻撃準備を整えている撫子にそう疑問をぶつけてみる。


「そういえば、おかしいですわね。群れの真ん中に何か動けない理由があるでしょうか? もしかして人質?」

「うえっ!? 人質はまずくない? 僕たちの攻撃に巻き添え食らっちゃうよ?」


光の言う通り、人質がいるのなら、攻撃するのはまずい。

どう考えても、俺たちの連携魔術攻撃の巻き添えを食らう。


「ヨフィアさん。確認できますか?」

「うーん。この双眼鏡には特に何も映らないですけどねー。というか、この状況で人質はもう生きていないでしょうし、生きていたとしても助かる見込みは少ないですから、無視して、いや、一緒にパッと殺してあげるのも優しさですよ?」

「「「……」」」


ヨフィアさんの言ってることは理解できる。

ゴブリンとかオークは人の女性を襲い、男は食われる。

男ならまず生きていないし、女性は散々犯しつくされてボロボロのはずだ。

そう勉強してきた。

そんな状態で生きていても、今後生きたいと思える人も少ないってことも……。

でも、それでも、生きている、助かるかもしれない人を見捨てて、自分の手で……。

そんな感じで葛藤していると、不意に田中さんから声をかけられる。


「心配するな。上空から確認した。群れの中に人はいない」


上空?

なんで、と思って上を見ると、遠くではあるが、オークの群れがいる上空に何かぽつんと浮かんでいるのが見える。


「ん? あれって、ドローン?」

「そうだ。撮影用の高性能ドローンだな」

「なんでそんなものが?」

「俺はああいう新しい物が趣味でな。というか、ドローンの軍事利用は昔から検討されていたからな。無人機の小型化。素晴らしい限りだな」


そう言いながら、田中さんは恐らく操作を行っているタブレットをこちらに見せてくる。

そこには画面が何分割で別れていて、地面を映している画面にはオークの群れが映っている。


「おー、双眼鏡以外にもこんなものが、これが、道中、ヒカル様たちが言っていたかめら?というやつですね。凄いですねー。あ、もしかして、この画面に映っているのって私たちじゃないですか?」


ヨフィアさんに言われて気が付いたが、確かに地面のほかにあるモニターには俺たちの姿が映っている。かなり性能がいいドローンなんだろう。


「……確かに、オークの群れの中に人質のような存在は見られませんわね。ならなんでここにとどまっているのでしょうか?」

「さあな。まあ、そういう細かいことは、オークを倒してからでもいいと思うぞ」

「そうですわね。オーガテンペストのような脅威があったとしても、オークと話ができるわけでもないしですし、やるしかないですわね」


田中さんの言葉におされて、撫子は疑問を振りほどいて、きりっとした表情になる。


「では、みなさん。今からオークの群れに対して攻撃を行おうと思います。まずは、もう一度周囲の確認を」


そう言われて、俺たちは辺りを見回すが、人影や獣、魔物の姿は見当たらない。


「僕は問題なし」

「俺も問題ないよ」

「私も問題は見当たりませんでしたよー」

「上空も含めて問題は無い」


最後に田中さんにそう言われて、ヨフィアさん以外、はっとして空を見る。


「その様子だと、空は無警戒だったみたいだな。あと、今後は地面の中も注意しておけ」

「地面って? 何か潜ってるとか?」

「潜っているのはそうそう……、いやこの世界ならわからないが、とりあえず、地面から伝わる音には気を配っておけ、地響きとかで色々わかるもんだ。しかし、ヨフィアは空も普通に警戒していたな。空から攻撃を受けることは多いのか?」

「んー。多いってわけではないですがー。この前行ったガルツの森とかでは、スパイダーに上からとか強襲されたじゃないですかー。その感覚ですかねー。勿論、空から鳥とかゴーストとかが襲ってくることもありますけどー」

「なるほどな。ま、こういうところはヨフィアを見習うといい」



Side:ナデシコ・ヤマト


空と地面ですか。盲点でした。

いえ、視野狭窄でした。

目の前のことに捕らわれ過ぎていましたね。

今の時代、制空権が一番大事だというのに。

やっぱり、まだまだ未熟者のようです。


「はい。今後注意いたします。では、改めて問題が無いのは確認できましたので、私と晃さんであのオークの集団に落とし穴を仕掛けます。成功してもしなくても、追撃で晃さんが水の魔術で相手を濡らし、私と光さんで雷の魔術で攻撃をします。いいですか?」


私が手順を確認すると、全員が頷くのを確認して、オークの集団へと目を向けます。

理由は分かりませんが、少なくとも私たちが発見してから既に20分近くはあの場所から動いてはいません。

まあ、私たちにとっては好都合です。


「では、5、4、3、2、1、……」

「大陥没」

「アースダウン」


静かに2人でそう告げます。

さあ、範囲はどうでしょうか?


「ぶぎぃぃぃーー!!」

「ぶぎゃぁぁぁぁー!!」


見た感じ、オークの姿が消えていて、声だけだ聞こえています。


「成功したみたいだな。お見事」

「おー、凄いですねー。これなら、大軍に囲まれても十分戦えますねー」

「いえ、まだ終わっていません。晃さん」

「おう」


2人に褒められて、気を取られたりはしません。

一気に畳み掛けます。


「スコール」


晃さんがそう言うと、一気にオークたちがいたところに激しい雨が降りつけます。

雲も無いのに不思議ですが、今は理屈を聞いている暇は有りません。


「光さん」

「おっけー、いくよー!!」

「乱れ雷」

「ライ○イン、じゃなくてサンダー」


ドガガガガァアァァン!!


2人のその言葉で、今度はオークたちの頭上にすさまじい光と爆音が絶え間なく響きます。

しまった。思ったよりも魔術の音が大きいです。これは盲点でした。

物凄い爆音と閃光で私と光さんも、その場で蹲ってしまいます。


「み、耳が……」

「も、物凄いですねー」

「視界も閃光で潰れるな。まあ、それは相手も同じか。スタングレネードの強化版だな」


と、田中さんだけは平気そうに、オークの群れがいた方向を見つめていました。


「見た感じは、反応ないな。……よし、ドローンからの映像届くぞ」


いつの間にかドローンも空に再び上げていたようで、タブレットを持ってこちらに見せてくれます。


「ほう……」

「「「……」」」


そのタブレットに映っていた映像を見て、声を出せたのは田中さんだけでした。

なぜなら、地面は見事に陥没し、オークの群れを全て閉じ込めていました。

それはいいんです。ですが、問題はこれから、映像に映るオークたちは全て突然のこと驚きはしたものの、壁をよじ登ろうとしたのでしょう。

……ほとんどが、土壁に手をかけたまま、黒焦げになって煙を出し……死んでいました。

魔物、人の敵だとはいえ、不意打ちでこんな殺し方をしてしまったことに、嫌悪感がでてきます。

これは本当にやってよかったのか? 仕方のなかったことなのかと。

……私たちの魔術の威力を試すため、ただそれだけのために殺したのではないかという疑問が渦巻いています。

戦略云々も、町や村に被害を及ぼすのもただの予想の一つなだけで、彼らは何もしなくても森に戻っていったのではないかと……。

ですが、逆に何かを起こす問題を引き起こす可能性もありました。

だから、だから……。


「落ち着け。お互い敵同士という認識がある中で、敵を見つけた。だから攻撃した。それだけの話だ」

「田中さん……」


私が思い悩んでいるのが分かったのでしょう。

そんな声をかけてきます。


「結城君もルクセン君もだ。気に病むな。戦争ではよくあることだし、自然界でも同じことだ。油断している相手を倒して自分の糧にする。それが食べるか経験か、それだけだ。いや、動物だって我が子に狩りを教えるために、弱った獲物を襲わせることなんてよくある話だ。それを、残酷というのか?」


確かに、それは自然の摂理です。

……これも、その一つだということですね。


「あれー? なんか私にフォローの声がないんですけどー?」

「ヨフィアは魔物を倒した罪悪感じゃなくて、大和君たちが使った魔術に驚いたんだろうが」

「ちぇー、わかってたか。でも、ここまでの規模で地面を陥没させられるなんて本当にすごいですね。そして、水で濡らして雷が感電でしたっけ? それで一網打尽。これはすごいですねー」


ヨフィアさんはこの状況に対して、特に何も感じていないのか、いつもの様子で、私たちを褒めてくれます。

これは、彼女なりの気遣いなのでしょうか?


「ヨフィアはなんかこの罪悪感に関してのフォローはないのか?」

「んー。一度は感じることですしー、無くしてもだめなものですからねー。これで、今後動きが鈍って、誰かが命を落とすとしても、それも経験ですからねー。私は放置するタイプですかねー。自分で実感しないとわからないことって多いですしー」

「シビアだな」

「田中さんみたいに過保護な方が珍しいですよー。まあ、勇者様たちですし、過保護も納得ですがー」


……ヨフィアさんの言うことはもっともです。

私たちは何度も田中さんに忠告を受けてはいますが、いまだにこのように考えてしまったり、ためらってしまうことがあります。

ですが、ヨフィアさんの言うように、誰かの命を落とすような失敗はしないと思いたいです。


「ま、そこはいい。あとはオークの討伐証明を回収だ。そのあと、森に進むか、それとも戻るか決めよう」

「ですねー。ここで思い悩んでも仕方ないですし、魔物の遺体を処分しないといけませんからねー」


そう言って、二人はオークがいたところへと足を進めます。


「……えと、撫子、晃、追いかけよう」

「あ、うん」

「そうですわね」


光に声をかけられて、私たちもようやく二人を追いかけます。

それで、ようやく気が付きます。

……そうか、これが駄目なのですね。

こうして私たちがショックを受けて止まっている間にも、世界は動いています。

これが致命的なミスになるのですね。


「おー、こんがりだな」

「美味しそうですねー」

「あ、そういえば、オークって美味しかったっけ?」

「そうそう。確か宿では良い肉っていわれてたよな」

「……この現場を見て、その会話はどうかと思いますが、いい匂いなのは同意ですわ」


凄惨な現場なはずなのに、ヨフィアさんのおかげで気が紛れてきました。

光さんも、晃さんも笑顔が見えます。

こんな現場で笑うなんて、日本では正気を疑われますわね。

でも、これがこの世界の生き方なのです。


「複雑に考えているようだが、日本でも地球でも変わらんぞ。家畜を殺しているのとなんも変わらんしな。いや、食うために育てているという方が残酷かもしれんな。こっちは少なくともお互い命を懸けて戦っているからな」

「「「……」」」


田中さんにそう言われて、私たちは沈黙します。

……そう言われると、地球の方が物騒のような気がしてきました。

いえ、そんなことはいいとして、まずは、オークの死体を片づけなくては!!




こちらでは第1話以降久々の一回の話で二人の視点をお送りしました。

ナデシコの方が作戦を立てたいいかなーと思ったからです。


いや、実は途中できがつけば、アキラからチェンジしていただけです。

いつか埋め合わせはします。



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― 新着の感想 ―
[一言] スライムに襲われた経験のあるアキラは上空を警戒していてもいいと思う…あの経験を忘れて毎回スライムに襲われるというのもキャラの個性としてはアリなのかな?…禿げた勇者(河童状態)がジョン(必勝ダ…
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