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レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま


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第56射:まだまだまだ

まだまだまだ



Side:ナデシコ・ヤマト



遠目に見えるラーリィさんとクコの姿に私はゾッとしました。

知り合いが血まみれで倒れているというのはこれほど、衝撃的だと思いませんでした。

自分たちが訓練や戦闘で怪我をして血まみれになるのは有りましたが、ラーリィさんたちの姿は、私たちの血まみれなどとは比較にならないほど、本当の血まみれだったのです。

そして、状況はそれで終わりではありませんでした。

未だに、オーヴィクさん、サーディアさんがボロボロになりつつも、オーガと戦っていたのです。


飛び出したい気持ちを必死にこらえてどうしようかと思っていると、田中さんたちが話し合いますが、その答えは私たちが納得できるような回答ではなく、見捨てるというモノでした。

理屈は分かります。ですが、それが受け入れられるかは別です。だから私は飛び出そうとしたのですが、光さんが先に飛び出してしまいました。


「いやだよ!! ラーリィ!! 今助けるから!!」


ラーリィさんと特に仲のよかったヒカルさんには私よりも耐えられる話ではなかったのでしょう。


「ちょっ!? 光!!」

「待ちなさい!!」


田中さんの注意を無視して飛び出して行き、私たちもそれが駄目と分かっていつつも、光さんを止めるためと自分に言い訳して、後を追いかけようとしたのですが……。


「待て二人とも。じっとしてろ」

「「え?」」


ガチャン。


私たちを止める言葉だと思ったのですが……、いえ、私たちを止める言葉であったのは間違いありませんでしたが、その物騒な音と共に言ったその言葉の意味は……。


無謀だから止めたのではなく、射線の邪魔になるから動くなという意味でした。


ズドン!! ズドン!! ズドン!! ズドン!!


私たちが一瞬停止した瞬間に、私たちと木々の間を縫うように、銃撃をします。


「うひゃ!?」


先に走り出した光さんも銃撃音に驚いて足が止まります。

当然です。迂闊に動けば田中さんから撃たれるかもしれないんですから。

しかし、銃撃が再び響くようなことはありませんでした。

なぜなら、オーヴィクさんたちが戦っていたオーガたちの頭は全部撃ち抜かれて、かなり悲惨な状況になっており、その場から動かず佇んだまま死んでいました。

あまりの出来事に私たちは動けないでいると、田中さんだけは、未だに警戒を解かず、銃を構えたままオーヴィクさんたちの傍まで歩いていき……。


「すまない。危険だと思って手助けをさせてもらった。勿論こっちが勝手にやったことだ。魔物の素材はそっちでもっていってかまわない」


そんなことを言って、ようやく私たちも我に返りました。


「ちょ!? どうやってこの障害物が多い森で的確に狙撃できるの!?」

「……相変わらず、物凄いですわね」

「ありえねー……」


と、口にするのが精々でした。

ですが、私たちの感想になんら反応を見せず、田中さんはオーヴィクさんたちを見つめていて、ようやくオーヴィクさんも我に返ったのかお礼を……。


「あ、タナカ……さん?」

「た、す、かった」


言って倒れてしまいました!?

2人とも大怪我を負っています。

腕はあらぬ方向に曲がっていて、攻撃を受けた衝撃なのかは知りませんが、擦り傷、切り傷がいたるところにあります。

治療をしないと、と思っていたのですが、横から聞こえる言葉で更に私たちは現状を認識させられます。


「あ、う……」

「……うぐぐ」


ラーリィさんたちがいたのを忘れてしまっていました。

しかも明らかに、オーヴィクさんたちよりも重傷です。

生きているのが不思議なぐらいの怪我です。

綺麗な顔が半分潰れて、手足が千切れています。


「俺の銃撃を褒めてくれるのはいいが、ラーリィとクコは早く治療をしないと死ぬぞ?」

「はっ!? ラーリィ!!」


田中さんの言葉でようやく優先して治すべきが誰なのかを認識し、私も動きます。

ラーリィさんには光さんが向かった。

なら、私はクコさんですね。


「クコさん、今助けます!!」

「俺も!!」


私に合わせて、晃さんが付いて来ると言って、早く治せると思っていたのですが……。


「とは言え、オーヴィクたちも重傷だからな。結城君はオーヴィクたちの方に行け」

「あ、はい!!」


また視野狭窄していたようで、オーヴィクさんたちのことをほったらかしとなっていました。

それを田中さんが指摘してくれたおかげで、オーヴィクさんたちの治療は晃さんが行うことになり、私は独力でクコさんの治療にあたるのですが……。

幾ら回復魔術をかけても、治っている様子はありません。

血が止まらない。怪我がひどすぎる?

回復魔術の限界を超えている?

そんな嫌な予感を肯定するように、ラーリィさんの治療に当たっている、光さんも声を上げます。


「な、なんで、なんで回復しないの!? 治ってよ!! ラーリィが死んじゃう!!」


ラーリィさんも同じ状況のようです。そうなると、考えられことは1つ。


「……もう、クコさんたちには体力が残ってないのですか? そんなことって……」


自分で事実を口にして、絶望感に包まれていく。

クコさんとラーリィさんは……助からない。

……私の手では助けられない。


「ああっ!! あああーーー!!」

「ちょ!? 光さん!?」


そう、私はあきらめに近い思いを抱いていると、光さんが叫びます。

錯乱でもしたのかと思って押さえようとすると……。


「僕だって勇者なんだから!! これぐらいのチートいいじゃないか!!! エクストラヒーーーール!!」


そう叫ぶと、光さんを中心に、辺りを包むように広域の回復魔術が展開される。

でも、ただの回復魔術じゃ……。


「う、うそ!? ラーリィさんの腕が、って、クコさんの足も、顔も……」

「おいおい!? 何が起こっているんだ。オーヴィクとサーディアさんのケガも勝手に……」


この原因はどうみても光さんの回復魔術。

まさか本当に、エクストラヒールを使ったの!? 使えるようになりましたの!?

しかも、こんな範囲を一気に治せるエクストラヒールを。

すごいですわ。と声をかけようと思ったのですが、光さんの顔は辛そうで……。


「うぐぐぐ……こふっ……」


血を吐いて倒れてしまいました。


「ひ、光!?」

「光さん!?」


慌てて、駆け寄ろうとすると……。


「落ち着け。まずは、治ったように見えるオーヴィクたちの確認が先だ。ルクセン君の容体は俺が確認しておく。何かあれば呼ぶからまずはそっちだ。順番を間違えるな」

「はい」

「わかりましたわ」


田中さんの言うことは一理も二理もありますわ。

私は最初からずっと状況に流されてばかり、もっと、もっとしっかりしなくては……。

そう思いつつ、クコさんやラーリィさんの容体を見ると、呼吸も安定していて、血に濡れていた部分やちぎれた手足もつながっています。

ちゃんと神経まで回復しているのかはわかりませんが、あとは起きてから確認するしかないでしょう。

オーヴィクさんたちの方も同じようで、内傷についてはわかりませんが、外傷は完全に治っているようです。


そして、血を吐いて倒れた光さんですが、特に呼吸は乱れておらず、肉体的には問題ないようです。

どうやら、実力が伴わない魔術を使うことができる人は体に負担をかけてしまうということがあるらしいです。

吐血はその一種なのだとか? いや、吐血ってかなりまずいものではと思ったのですが、すでにポーションを飲ませていましたし、私の回復魔術で万全だということです。

実際、光さんは穏やかな顔で眠っているのでそうなのだと思いたいです。


しかし、治療が終わったとはいえ、オーヴィクさんたち4人に、光さんも眠っている状態で移動するのはかえって危険と判断されたので、その場で野宿ということになりました。

いえ、それよりも大事だったのは……。


「さて、残るは、死体の処理だな。血の匂いにつられて何かがくるかもという理由もあるが、冒険者の骸ぐらいは葬ってやらないとな。一時とはいえ、一緒に戦ったんだし、バチは当たらんだろう。どうせ、動けないんだしな」


そう、オーヴィクさんたち以外の、助からなかった冒険者たちの弔いでした。

オーガの群れを一緒に倒した人たちで、本当にわずかな時ではありましたが、気のいい人たちでした。

その人たちが物言わぬ骸になっているのを見て、……私たちは本当に死と隣り合わせの世界に来てしまったんだと、改めて理解して涙しました。


弔いが終わったあとは、すでに日が暮れかけていて、誰もまだ治療をした人たちは目を覚まさず、田中さんの言う通りその場で夜を過ごすことになりました。

しかし、田中さんは気を使ってくれたのか……。


「回復魔術を使って疲れているだろうから、二人は寝るといい。ルクセン君やオーヴィクたちの様子を見るという意味もある。外の警戒は俺たちに任せておけ。治療は任せっきりだったからな。これぐらいはするさ」


といって、私たちを夜の警戒から外してくれました。

でも、疲れているのに目がさえていて眠れません。

それは、晃さんも一緒だったようで、眠くなるまで、横になりながら話をすることにしました。


「……光。すごかったな」

「はい。光さんはきっとエクストラヒールを覚えたんでしょうね……」


最初に話したのは、光さんのことでした。

助からないと思った、クコさんたちを救ったあの魔術はすごかったです。


「でも、光。倒れちゃたな」

「ええ。でも、一時的なモノみたいですし、よかったです」


代償とでもいうべきなのでしょうか? あの奇跡のような魔術を使った後は血を吐いて倒れてしまいました。

最初は驚きましたが、無理に魔術を使うときにはよくある現象のようで、キシュアさんやヨフィアさんが落ち着いて対処してくれていたので安心しました。


「「……」」


そこで、会話が途切れてしまいます。

あとは、暗い話しか残っていませんから。

ですが、いつかは直面することだと思っていましたし、ここは私が話すべきなのでしょう。

晃さんは男性ですから、きっと女性の私にこういうのを話すのは遠慮してしまうでしょうから。


「……オーヴィクさんたちは助かりましたけど、人が沢山なくなりましたね」

「……そうだな」

「……私は、正直に言って、死ぬ恐怖より、あの時はオーヴィクさんたちが死んでしまうことの方が怖かったです」

「俺もだなー。だから、飛び出そうとしたんだけど、田中さんに止められたよな」

「ええ。そして、あっという間にオーガの群れを倒してしまいました。私たち、少しはましになったかと思っていましたけど……」

「結局、まだまだだよな。って、このセリフ今まで何度もいってるな」

「ですわね」


そう言って、なぜか二人で笑ってしまいます。


「焦っても仕方ないってことか」

「ええ。そうですわね。これも何度もいいましたけど」

「だなー。ま、あれだ。死んだ人たちのためにもとか言わないけど、頑張ろう」

「はい。いつか、後悔しないために」


そんなことを話した後、私たちはようやく心に整理がついたのか、眠りにつきます。

明日起きた時には、光さんやラーリィさんたちとまた話せるといいなと、思いながら……。






人死にを見ても、まあ、何とか平気だったナデシコたち。

しかし、ヒカルは目を覚ますのか? ラーリィたちも。

夜は無事に過ごせるのか?


そして、田中はどうするのか。

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