第54射:群れとの戦闘
群れとの戦闘
Side:ヒカリ・アールス・ルクセン
「よーし。これから私たちはオーガの群れの討伐に向かう。街道沿いに出没したという発言から、この聖都に向かっている可能性も否定できない。おそらく今日中にオーガの群れとはぶつかることになるだろう。冒険者各員は油断せず、慌てず、私の言うことを聞いてほしい。では、出発!!」
そう、ギルドの指導員の人が言って、僕たちはオーガの群れ討伐へと向かうことになった。
しかし、オーガの群れが相手ということで、全員私語をすることもなく、黙々と歩いていく。
が、その中で僕たちは……。
「でも、無事に治せてよかったよ」
「ですわね」
「ああ。治るとは思わなかった」
そんな風に、先ほど治してあげた女冒険者さんのことを思い出してほっとしていた。
晃の言う通り、治るとは思っていなかった。
正直、わずかな延命ができるのが精一杯だと。
でも、その予想に反して、回復魔術というのは凄まじい物だったようで、あの大けがを見た目はすっかり治してしまった。
見た目というのは、まだ冒険者のお姉さんが寝ているから、確認がとれなかったからだ。
しかし、回復魔術の重要性というか、なんで医学が発展していないかがよくわかった。
回復魔術があれば医者は必要ない。そう思ってしまう気持ちがよく分かった。
あれだけの大けががわずかな時間で治ってしまうんだから。
「まあ、回復魔術のすごさが分かったのはいいが、それを頼りにするのはだめだからな」
「田中さん」
「いくら、大けがを治療できるとしても、死者を蘇らせることはできないみたいだからな。大けがを負えば動けなくなる。そして止めを刺される。当然のことだ。いつでも仲間が治療してくれると思うな。敵だって治療できる奴がいるのは知っているからな、確実につぶしてくれるだろう」
そう言われて、僕たちはうなずく。
確かに、ケガは治療できるけど、一瞬で治ってしまうわけじゃない。
隙ができてしまう。そこを狙われれば一瞬だというのは僕たちもよくわかっている。
田中さんとの訓練で、よくそこを突かれたから。
「何度も言うが、治せるからと思ってその場で治すのはやめとけ。ちゃんと安全を確保してからだ」
「散々そこはやられたから大丈夫だよ」
「ええ。その時はちゃんと後方に引きます」
「それで、全滅したからなー」
「わかっているならいい。あとは、オーガの群れがどの程度の戦力評価なのか気になるところだな。俺はオーヴィクたちが戦っていたイメージしかないからな。あまりよくわからん」
それは、田中さんと同意見。
あんまり強くは見えなかった。
だから、こんなに冒険者たちを集めていることに困惑がある。
「いや、タナカさん。オーガは本来1体に対して複数パーティーで挑むものですから、脅威としてはかなりのモノです」
「え、でも、オーヴィクたちは1パーティーで普通に戦ってなかったか?」
うんうん。
晃の言うように、オーヴィクたちはあの時オーガ相手に普通に戦ってたじゃん。
そして、オーガはこっちに逃げだしてきて、田中さんが仕留めた。
「アキラ。自分でいうのもなんだが、私たちはリテア聖都の冒険者ギルドの中でも上位のパーティーなのだ」
「タナカさんに鍛えられているから、そこら辺がズレてるのよね。きっと」
「そうかもね。まあ、魔王を倒すってのが勇者の目的だから、オーガ程度って思うのは仕方ないのかも」
「だけど、普通の冒険者だと、オーガは一体でも脅威なんだ」
なるほど。
オーガは冒険者たちの中では強いんだ。
まあ、確かに、魔術とかないと、武器で接近戦しかないから一撃が重いオーガ相手はきついよね。
「となると、オーガが群れっていうとかなりの脅威か」
「はい。オーガが群れでいるのなら、町の防壁が破壊される危険性もありますから」
「ああ、あのでかさと怪力ならいけるな」
「ですから、こうして冒険者総出で来ているわけです。確実につぶさないと、オーガ一匹でも大変なんで、ここでやっておかないと、被害が甚大になるかもしれません」
「話はわかったが、そういうことになると、オーガと面と向かって戦うのは、オーヴィクたちとか戦えるパーティーってことになるのか?」
「はい。そうなると思います。もちろん、タナカさんたちもその戦力になると思います。グランドマスターから認められているのはみんな見ていますし」
「ちっ、あの爺。ことごとく利用しようとしているな。オーガを退治したあとはそのまま、森の探索しろってお達しもあるからな」
そう、実はグランドマスターのおじいさんから、魔物が集中している地域もオーガ討伐もかねて調査してくれと、言われているんだ。
まあ、地域が近いから当然といえば当然だけど、僕たちはそれだけ危険ってことだよね。
「仕方ないですよ。ここまで冒険者が揃っていることもめったにないですし、俺たちとしても安全でしょう」
「それがさらに腹立たしい。後で依頼料を上乗せだ」
どうも、田中さんはグランドマスターのおじいさんのやり方は気に入らないらしく、文句を言っている。
別に僕としては当然の話に聞こえるんだけど、田中さん的には何か納得できないものがあるようだ。
「何がそんなに不満なんですか?」
「俺たちで問題を解決してこいって暗に言われているんだよ。オーガの群れを退治した後に、さらに森の探索だ。どれだけメンバーが残ると思っている? オーガが出るかもしれない森の中の探索を誰がわざわざ行きたがる?」
「それは……」
ああ、そうか。
森の中だと、人数の多さが生かせないから、せいぜい数パーティーがいいところ。
こんなに大人数で森に踏み込むと逆に邪魔になりかねないよね。
「そうなると、俺が知る限りオーヴィク君たちと俺たちのパーティーそして、この団体様の中にどれぐらいいるか知らんが、そんなに多くはないだろう?」
「……ですね。多くてもせいぜい10チームいるかどうか」
「10チームで森の探索、原因の発見できるといいけどな。オーガの群れが外に出てきたってことはそれ以上の戦力が森の方にいても何も不思議じゃない。何チーム戻ってこれるか」
……なるほど。だから田中さんは文句を言っているのか。
さらに危険かもしれない森に少ない数で行ってこいって話なんだから、そりゃ文句を言うよね。
「まあ、それも、あのオーガの群れを無事に退治できてという前提だがな」
「あの?」
田中さんがそう言って見る先には、何やら遠めに何かが動いているのが目に入って、すぐにギルドの指導員の人が声を上げる。
「オーガの群れだ!! 数は23!! 思ったよりも聖都に近い、ここで何としても止めるぞ!!」
「「「おおっ!!」」」
「予定通り、オーガと対峙できるランクのパーティは前列へ!! ほかは後方で弓を構えろ。逃げた連中を牽制する用意を!!」
そう言われて、僕たちはオーガを倒せる実力があるので、そのまま前に出る。
でも、前に出たのはわずか僕たちやオーヴィクたちを含めて6パーティー。
オーガを倒せるチームは僕たち以外には4パーティーしかいなかったようだ。
幸い、まだオーガの群れはこちらに気が付いていないようで、座ったままでじっとしている。
「俺たちのパーティーは、1匹ならともかく、23体も相手にできないぞ」
「私たちのパーティーもせいぜい2、3体が限度ね」
「俺たちもせいぜい1、2体だな」
「遠距離って前提なら、3、4は行けるけど、近距離は無理だ」
ほかのパーティーで大体最大数で10体。
あと2、3体ってことになるよね。
「で、オーヴィクたちは5,6体として、グランドマスターとやりあってたあんたたちはどれだけやれるんだ?」
そして、話は僕たちに来る。
まあ、当然だよね。
冒険者さんたちも、僕たちがどれだけやれるかは聞きたいはずだ。
というか、オーヴィクたちは5、6体は倒せるんだ。
「俺たちは、オーガとまともに対峙したことはない。オーヴィクたちが逃がしたのを遠距離の魔術でやっただけだ」
田中さんが僕たちの代わりにそう答えてくれる。
「そうか、なら、遠距離で倒せるパーティーと組んで接近してくるまでに減らしてもらおう。近接は行けそうなら参加してくれ。その時は指示を出す。まずは、俺たちが敵をおびき寄せる。射程に入ったら魔術をぶっ放してくれ」
ま、作戦は妥当なところだし、田中さんも口をはさむことはなかった。
単純でわかりやすいし、効果的だからだろう、
そして、まずは囮になるパーティーの人たちがオーガの群れの方へと向かっていく。
その間に、僕たちは作戦会議をする。
「もうさ、一気に広域殲滅魔術でやっちゃっていいんじゃない?」
「ええ。それがいいでしょう」
「だな」
「私も手伝うわよー。ヒカルたちほどじゃないけど、これでも範囲攻撃はできるからね」
ラーリィも攻撃に加わって、魔術も吹っ飛ばすで決定して、オーヴィクたちは万が一の時のために僕たちの守りに付く。
すると、時間もさほどかからず、囮の冒険者たちがオーガを釣ってくる。
「やってくれー!!」
そう叫ぶ後ろには、オーガの群れが追いかけてきていて、地響きがこちらまで伝わってくる。
「味方に当てるなよ」
田中さんの注意で僕たちはいっせいに狙いを定め……。
「わかってるって。いっくぞー!! トルネード!!」
「当てたりしませんわ!! 大鎌鼬!!」
「なんか二人ともかっこいいな!! ウィンドバースト!!」
「別に名前なんていいのよ!! ブラストウィンド!!」
予定通り、周りに二次被害の出にくい、風の魔術をほかのパーティーの人と一緒に一斉に打ち込む。
お互い魔術が干渉しないように、間をあけてとか、時間差で連続だ。
それだとオーガたちがよけそうな気がするのだけど、体が大きいオーガはよけることなく、僕たちが放った魔術に突っ込んでいき切り刻まれる。
多分、体が丈夫だから平気だと思ったのかな?
でも、残念。僕たちの魔術の威力は田中さんから閉所で撃つなって言われるほどのお墨付きの威力なのだ!!
いや、ここまで効くのはびっくりだけど。
ここまでの団体様に撃ったことないし、今回は素材の回収はほぼあきらめて、威力重視にしているから。
「「「おおっーーー!!」」」
後ろで控えている冒険者たちからも歓声が聞こえる。
そして、気が付けば、オーガが立っている様子は見られなくなっていた。
「よし。オーガは魔術と弓の攻撃でほとんど倒したみたいだな。前衛は確認に行くぞ。生きているやつもいるかもしれないから、油断するなよ!!」
「「「おう!!」」」
そう言って、待機していた前衛のパーティーがオーガの確認に行く。
僕たちはその場で待機。
「思ったよりも、オーガたちに効いたね」
「いや、ヒカルたちの魔術の威力が異常なのよ」
「まあ、流石勇者様ってところね」
「正直助かったよ。あの数の中斬りこむなんてぞっとするからね」
「ああ。助かった」
オーヴィクたちとそんな会話をしていると、様子を見に行っていた冒険者たちが戻ってきて……。
「みんな聞いてくれ。オーガは全滅した!!」
「「「おおー!!」」」
この宣言で、リテア聖都に迫っていた危機はあっけなく解決したのだが……。
「予定より、損耗が少なかったのは幸いだ。これからオーガを倒せるパーティーはそのまま森の調査へ。残りの冒険者たちはオーガの死体を回収して冒険者ギルドへ運んでくれ」
僕たちの仕事はこれからのようだ……。
意外というか、当然というか、遠距離攻撃で殲滅。
そして、戦いの舞台は森へ。
田中たちは森へと向かい何を見るのか?




