第517射:やってみるしかないですね
やってみるしかないですね
Side:ナデシコ・ヤマト
『お待たせいたしました』
『あ、お久しぶりです。ナデシコ、ヒカリ、アキラ』
「お久しぶりです」
「やっほー」
「元気そうで何よりです」
私たちはマノジルさんの話を聞いたあと、魔術に対して知識が深いとされる聖女エルジュとラスト王国の女王であるリリアーナさんとの話を聞くことになりました。
「……ということがありまして、結界の方法に何か案はないかと思いまして」
『なるほど……』
『そういうことですか。しかし、ゾンビ化のことは知っていましたが、それを防ぐとなると……』
2人とも少し沈黙し考えた後、口を開きます。
『私からは、ゾンビ化ということなら、教会の浄化を基盤とすれば、負担なくできるかとは思いますが』
『そうですね。王城などで万能に望まれている結界と違い、効果を限定することで、その手の結界を逆に防げるかと』
マノジルさんの話から、2人は町全体というなら、効果を限定して張ってみるのはどうかという意見がでます。
「お、それって行けそうじゃない?」
「おちつけ光。詳しく話を聞かないと」
「そうですわね。まだ確定したわけではありません」
光さんの気持ちはよくわかりますが、それでもぬか喜びにならないため、詳しい条件を聞かなくてはいけません。
『条件ですが、教会の聖域を広げる感じですね』
「「「せいいき?」」」
エルジュさんの言葉の意味が分からず首をかしげる私たち。
『えーっと、どこから話したものでしょうか……』
『エルジュ様、ゾンビが生まれる理由と、教会の意義について説明してはどうでしょうか?』
『ああ、そうですね。ヒカリたちはゾンビが生まれる条件というのは知っているでしょうか?』
「え? ゾンビが生まれる条件? そりゃ……死体があることじゃないかな?」
『はい。その通りです。そこからさらに考えてみてください。ならば、墓場となっている場所や、死体を安置している教会は、なぜゾンビだらけにならないのでしょうか?』
「んん? なんか聞いたことがあるような……」
光さんが首をかしげている横で、晃さんが苦笑いしながら口を開きます。
「前に教えてもらっただろ。ゾンビになる個体は少ないことと、あとはゾンビにならないように処置をするって話」
「ああ、あったね。そんな話。ん? じゃあ、教会がその処置をするってこと?」
『あはは、処置というと間違いではありませんが、教会にはそういうことは言わない方が良いですよ』
『ヒカリらしいことではありますけどね、教会の人たちは人々の安寧の為に祈っていることですから、そこは注意してください。おそらく、そちらの大陸も同じ方法だと思いますので』
「あ、うん。気を付けるよ」
確かに、その言い方だと真剣に人々の為に働いている教会の人たちは良い顔はしないでしょう。
『ですが、処置という言い方は間違いありません。冒険者や一般の人もそういうゾンビ化を避けるために、動物や魔物に対して燃やしたり、魔石を抜くなど、浄化したりということをします』
「あ、そうだ。魔物の死体はちゃんと処理しろって言われた」
その通りです。
もちろん、お金を稼ぐためではあるのですが、基本的には燃やしたり、魔石を抜いたりして、ゾンビ化を防ぐのです。
最近は人相手ばかり、そして実際に私たちが手を下すことはないので、すっかり失念していました。
『思い出していただけて何よりです。そして教会はそういうゾンビ化しないように町で活動をしています。それを広げる形になります。とはいえ……』
『落とされた町にも教会はありましたよね? あそこの安置された遺体はゾンビ化しておらず、そのままだったと記憶していますが……』
「ああ、確かにそうだった。なるほど、腐敗が進んでいたからとかではなく処置……対処していたから、ゾンビ化していなかったとみるべきか」
そういえばそうです、バウシャイの町の教会地下墓地は確かにそんな感じでした。
『はい。おそらくはその通りです。つまり、ちゃんと結界を施しているところは反応がなかった。いえ、ゾンビ化を防げたということ』
『ならば、話は早いですね。そのバウシャイと同じレベルの結界を張れれば、まずはゾンビ化を防げるでしょう。……とはいえ、町や砦全体となると、どういうレベルなのかという話になりますが』
問題はそこですわね。
実際、防げることは現場に証拠がのこっていました。
ですが、それは教会だけ。
……ん? ちょっと違和感が。
「あれ? でもさ、教会は無事だったっていう話だけど、教会の神父さんやシスターさんたちが生きのこってなかったよね?」
光さんの言う通りです。
教会に結界が張ってあったのなら、神父さんやシスターさんが生きていてもおかしくないはず。
ですが、教会に生存者はいませんでした。
つまり、結界は発動していなかった?
『ああ、それは基本的に墓地だけに結界を張ります。それだけ範囲が狭ければコストも少なくなりますから』
「そういうことか」
確かにわざわざゾンビ化しない場所に結界を張る理由はないですからね。
「疑問だが、ゾンビ化を防ぐために燃やすという方法もあるが、なぜそれを取らない?」
その時田中さんが当然の質問をします。
言われてみればその通りです。
ゾンビ化すると人を襲うようになると聞いています。
その危険を残して、遺体を安置するのはなぜでしょうか?
『それに関しては理由は色々です。死者を燃やしたくないという遺族の気持ちもあれば、悲しい話ですが、燃やす費用がないというのもあります』
「ん? 燃やす方が高いのか?」
『教会の人が手筈を整えますからね。共同墓地であれば、最後に簡単な処置をするだけですが、教会主導となると』
「そういう違いか」
よくわかりませんが、教会の人を呼んで色々やってもらうとお金がかかるということでしょうか?
しかし、私もある疑問が浮かびます。
「いまお話がでた共同墓地となると処置が簡単と言いましたが、それでゾンビ化の心配はないのでしょうか?」
教会の地下墓地は厳重にしているのに、なぜ共同墓地はそこまで警戒をしていないのでしょうか?
「ああ、それに関しては私が説明いたしましょう。いえ、以前も軽く説明は致しましたが、必ずしも遺体がゾンビ化するわけではないのです」
「「「あ」」」
そういえばそんなことを説明していましたわ。
「そして、ゾンビ化する遺体も元々魔力が多かったなどの原因がありますからのう。確かに例外的にゾンビ化することもあることはありますが、魔力がない遺体がゾンビ化しても基本的には大したことがありませんからな。すぐに退治されるか魔力が切れて自壊することがほとんどです」
『はい。マノジルさんの説明通りです。つまり、共同墓地を利用する時点でそこまで脅威がないということです』
「なるほどな。じゃあ、今からやるべきは教会の地下墓地で行っているような結界を広げるってことか」
『そうですね。それが一番確実かと。ですが、大陸が違いますし、その結界の張り方も違ってきます。それでトラブルになっては問題ですし、しっかり教会と話をしておいた方がいいでしょう。道具についてもそこで聞き出してくれればこちらから支援できるかもしれません』
こうして、一旦教会の結界を拡大するという方向で話はまとまりましたが、勝手にやるわけにはいかないので、まずはジェヤナさんに話を通してから、教会を訪ねて協力を申し出るという話になりました。
「まあ、当然と言えば当然だが。これ、間に合うか?」
「田中さんが出る前に何とかしたいよね~」
晃さんと光さんの意見に同意です。
なんとか田中さんから物資を補充できる状態で準備を整えたいものです。
ということで、駆け足で目的地に向かうのでした。




