第513射:戦車の戦い方
戦車の戦い方
Side:タダノリ・タナカ
意外と真面目に説明してしまった。
いや、戦争をするのだから、こういう教育は必要だな。
そうでもないと中途半端に学び失敗するケースが多々ある。
戦争の中での失敗は死亡になるからなおのことだな。
傭兵もそこらへん適当にはしない。
あっという間に死んでもらったら、こっちとしても意味がないし、却って危険な目に合うからな。
バカに傭兵は務まらないわけだ。
戦い方を知っていないとな。
とはいえ、それを知っていてなお、馬鹿をする連中は山ほどいるわけだが。
まあ、命を懸けているんだから最初から戦争をしている連中は馬鹿ともいえるんだが……。
「ということで、塹壕を突破するために作られた戦車、装甲車ではあるが、新しい兵器が出来れば、その兵器に対抗する兵器も出てくる。対戦車戦を考えた同格の戦車はもちろん、歩兵でも戦車の装甲を貫けるアンチマテリアルライフルとかな。とはいえ、歩兵が持てる兵器で戦車の装甲を抜くのはかなり難しい。
側面だったり、装甲の薄いところでやっとだったりする。
グレネードランチャーやRPG、対戦車ロケットランチャーとかでも同じだ。
まあ、技術の進歩で効果的な兵器もあるが、それに対応するからな、いたちごっこというわけだ。
「へ~。そうなると戦車ってあまり意味ない? 歩兵で倒せるんでしょ?」
「意味がないってわけでもない。まず、戦車が戦うのは基本的に平地だ。市内の障害物の多いところで戦うことはまずない。よく映画であるが、それは戦争の終盤だ。国土の市街地が戦場になる時点で、既に大勢は決している。そこで戦車を一両二両片付けたところでたかが知れているからな」
「あ~、それもそうか」
「なるほど。戦車が市内で戦っている時点でもう戦争としての決着はついているのですね」
「そうだ。ルクセン君や大和君が知っている市内での戦いというのは基本的には内乱に近い状況になっているって感じだな」
「「内乱」」
「そう。国と国ではなく、国の中での戦いだからな。要所となる市街地の取り合いになる。だから必然的に市街地戦になるわけだ」
国と国のやり合いなら、基本的に軍の要所を叩くのだが、内乱は政治の中枢や、政治家たちの力を生み出す場所が攻略目標になるわけだ。
目的の違いというやつだな。
「それに、現代戦に置いて戦車はそこまで重要じゃない」
「へ?」
「そうなのですか?」
2人ともびっくりしている。
まあ、目の前で戦車の強さを目の当たりにしたからな。
眼前の自分の目で見た力を信じたくなる気持ちは分かる。
だが……。
「結城君、分かるな?」
「ええ。空ですよね」
「その通りだ」
そう、現代の戦いは地上はあまり重視されない。
なにせ、頭を押さえればどうにでもなるからだ。
つまり、空。
「制空権が大事なわけだ。つまり、飛行機。空戦」
「「あ」」
2人とも俺の言っていることが分かったようで声を上げる。
「どういうことだべ?」
ゴードルは飛行機の存在を知らないから、そういう反応は当然だ。
空を、頭を取られるという意味を理解していないからな。
「ゴードルは高いところから攻撃は厄介だと思うか?」
「ん? ああ、そういうことだべか。地元ではハーピィが魔術を使える連中を掴んで魔術を空から打ち込んできて厄介なこともあったべよ。デキラの奴は、それで味方に引き入れるのをやめたべ。それを考えると戦車みたいなのを空に浮かべて、砲撃でもすれば物凄い脅威だべな」
俺の一言で空の脅威をすぐに認識したようだ。
というか、空飛ぶ魔物がいるようで、それを用いた空戦はあったようだな。
当然というか、それが敵対だったというのはあのアホ魔王も馬鹿だなぁ。
いや、味方に付けようとはしたようだが……。
と、そこはいいとして。
「話を聞いて分かったと思うが、現代戦に置いて、地上の進軍はあまり意味がない。何せ、頭上、つまり空を制圧して、空から地上へ対して攻撃を行えばいいだけだからな」
「ん? でもさ、対空兵器だっけ? そういうのもあるでしょ?」
「あるな。戦車に対抗できる兵器が作られたように、戦闘機や爆撃機に対しての兵器が出来るのは当然だ。とはいえ、地上を走る兵器よりも、同じ航空機で空を制した方がいい。対空兵器を使う時点で……」
「……既に勝負は決しているということですわね」
「そういうこと。じゃあ、一旦制空権は忘れよう。なにせ、ウエストスターズ側には航空機どころか、戦車、重火器も存在しない。あるのは……精々魔術ぐらいだが、アレも頑張って1キロ先だしな~」
「確かに、視界が確保できなければ、上手くねらえませんわね」
「うんうん。威力が大きすぎるっていうのもあるよね~」
魔術は重火器のように重くはないし、弾薬なども持つ必要はないが、完全に魔術を使う側の技量に左右されるからな。
まあ、重火器も技量によるところは大きいが、訓練さえ受ければ、基本的に誰でも操作できる。
それは大きな違いだ。
そして、射程は大違いとくる。
「ということで、結城君たちは基本的に戦車を小隊として扱って、敵と戦うことになる。ドローンによる航空攻撃も出来るが、それは分かりずらいからな」
「わかりずらい?」
「それはどういうことでしょうか?」
「2人とも、敵はどういう方法で倒されたかってわからないと、警戒しないでしょう? ドローンとかになると暗殺に近いし」
「結城君の言う通りだ。向こうの理解を超えすぎる手段でやられると難癖をつけてくる。というか、偶然とか利があり受け入れられる屁理屈で意地を張ることが多々ある」
「「はぁ?」」
俺も同じ気持ちだが、本当に戦いではあるのだ。
いや、命がかかっているからこそ、負けを認めてはいけないってことだろうな。
「わかりやすくいうと、指揮官だけをドローンで倒しても、大多数の兵は残っているから、別に脅威ではないと思われるわけだ」
「あ~、なんとなくわかって来た」
「屁理屈のように思えますが、指揮官しか狙えないと思われるわけですね?」
「そういうこと。実のところは違うが、いいように勘違いして、頑張ろうとする。だから、誰の目から見ても勝ち目がないと納得できる行動で勝たなければいけないってわけだ。その分かりやすり誰からの目からみても……」
「そっか、戦車を出せば勝てないって思えるのか~」
「確かに、あの戦車は鉄でできていますし、あの装甲を作る技術なども含めて知らしめれば圧倒的な差があると、多くの人に知らせられるわけですね」
「そういうこと。絶え間なく攻め込まれて、周りを死体で埋めるのもいやだろう?」
「うん、それはないね」
「ありえませんね」
死体の山を築くっていうのも、こちらの実力を示す行為ではあるんだけどな。
まあ、衛生面とか人道的にとかで、2人にとっては絶対やれないだろうなとはおもう。
「ということで、その戦車を上手く利用した戦いかたを教えるってことだな。それが1小隊4両編成ってわけだ」
「4両が一緒にずらーって走るってこと?」
「イメージはそれでいいが、陣形ってやつだな」
「陣形? えーと、戦国時代でよく聞く、鶴翼の陣とかでしょうか?」
「そうだ。戦うための隊列ってことだな。もちろん、戦車にも多くの陣形がある。基本的には縦陣と横陣で、パンツァーカイルっていう重戦車を先頭に楔陣形で突っ込む。つまり敵陣をぶっ壊すという方法が有名だな」
「楔?」
ルクセン君は陣形そのものをそこまで知らないようなので、そこからじっくり教えていくことになる。
まあ、今まで一騎当千というか、こちらの技術力重視で兵隊を操ってという戦いは俺たち自身はやっていないからな。
やっても横陣で迎え撃つぐらいの物だ。
実際使うことがあるかどうかは別として、知っているだけでもこういうのは、色々応用が利くものだ。
知っていると知らないは大きな違いだからな。




