第510射:帰還後の宴
帰還後の宴
Side:ヒカリ・アールス・ルクセン
「たっだいま~!」
そんな風に元気よく扉を開けると……。
「お帰りなさい。ヒカリ、ナデシコ、ゼラン」
「無事の御帰還心よりお喜び申し上げます」
「よくぞ帰ってきました~」
と、ユーリア、カチュアさん、ヨフィアさんが笑顔で迎えてくれる。
さらには奥のテーブルには所狭しと食事が用意されている。
どうやら僕たちが帰ってきたことを祝うため……だよね?
「えっと、あのご飯って……」
「ええ。ヒカリさんたちが無事に戻ってきたお祝いですね」
「おおっ、やっぱりか~!」
よし、そうなら食べてやろうと一歩踏み込んだ時……。
「そういえば、晃さんやゴードルさんがいませんがどうしたのでしょうか?」
なんか後ろにいる撫子がそう待ったをかけてきた。
いや、疑問なんだろうけど、僕からすればどう見ても待ったの声だけど。
「ああ、お二人は仕事がもう少しで終わるとのことでしたので、そちらに」
「もうすぐ終わって戻ってくるかと思いますのでお席にどうぞ」
「そういうわけですよ~。アキラさんとゴードル殿ならそう問題はありませんから安心してくださいな~。で、こっちとしてはタナカ様の姿が見えないのが不思議なのですが~?」
「ああ、田中さんはちょっと砦の点検してくるってさ」
「建ててからしばらく経ちましたからと。用事がある場合は呼び出してくれと言っていましたし、呼びかけてみましょう」
確かにヅアナオに行って相応に時間が経っているからね。
田中さんとしては気になることがあったんだろう。
ということで、撫子がイヤホンに指をあてつつ、呼びかけてみる。
「田中さん、聞こえていますか? 大和です。ユーリアさんたちが出迎えてくれているのですが、姿が見えないということで心配されています」
すると、すぐに返事が聞こえてくる。
『ああ、そうだったか。わざわざ悪いな。ちょっと砦の基礎を調べていた。無茶して石を置いただけだからな。地盤は一応固めたとは思ったが、今のところ沈下や傾きとか、防壁自体の損傷はないみたいだ。まあ、そっちの出迎えの後にゆっくり調べるとしよう』
そういって連絡が途切れる。
それは、ユーリアたちも聞こえていたようで。
「なるほど。確かに急な工事で作ったものですからね。確認したくなることはあるでしょう」
「だねぇ。それで、実際どうなの? 砦の建付けが甘かったとかあるの?」
「いえ、今のところはそういうのは確認できておりません」
僕の質問にカチュアさんがピシッと答える。
普通は悩むと思うんだけど、この人完璧メイドさんだしね~。
そういう所は難しく考えないようにしよう。
この人はそういうもんだって。
「ですね~。今の所雨漏りや、配管の水漏れとかそういうのは確認できていませんよ~。使っている人たちも正直快適すぎるぐらいですかね~。明るいし、エアコンとかあるし、布団はふかふかだし」
カチュアさんに同意するようにヨフィアもそういう。
というか、問題がないってそういう関係か。
確かに、この砦は田中さんが建てていて、こっちの世界に合わせてはいない。
つまり、現代の地球規格の砦だ。
電気は通っているので、電灯は点くし、エアコンで空調は快適だし、布団も藁のベッドよりも確かにマシ。
そう考えると、本当に快適だよね。
と、そんな風にヨフィアが話していると、田中さんだけでなく、晃とゴードルのおっちゃんも戻ってくる。
「待たせたな」
「お待たせしました」
「いや~、待たせてごめんだべ」
「おかえり~。席座ってご飯食べよう」
僕はそう言って3人を席に促す。
すぐにカチュアさんとフィオラが側によって僕たちの飲み物を注いでくれる。
それを確認したあと、ユーリアが音頭を取り……。
「色々積もるお話はあると思いますが、まずはヅアナオへの遠征、そしてウエストスターズへの繋ぎが出来たことに対して乾杯し、食事を楽しみましょう。乾杯」
「「「乾杯」」」
そう言って、僕たちは久々の地球の食事を楽しむ。
いや、ノールタル姉さんのパンとかもあったし、こっちに来てから慣れ親しんだ料理も結構あった。
まあ、それだけこの世界に馴染んだって感じかな。
そんなことを考えながら、ヅアナオであったことを話ながら食事はゆっくりとなっていく。
「それでジョン・スミスの本は見つかったのですか?」
「ああ、それは俺も気になった」
「いや、それがさ。本屋さんって言われて行ってみたんだけど……」
「個人の本屋さん程度で、そこまで蔵書はありませんでした。とはいえ、20冊中5冊はジョン・スミスの著書があったようです」
「「「多いな」」」
田中さんを除いて全員がそんな声を上げる。
うん、僕たちも驚いたもんね。
「内容は?」
「それがそこまで僕は読んでないんだよね~」
「私やゼランさんも同じですわ」
「本は後回しにして、商業ギルドとかで情報収集していたからね」
「ああ、そういえば親父さんのことを探していたね。そこら辺の情報はあったのかい?」
あ、ノールタル姉さんがちょっと聞きずらいこと率直に聞く。
同返したものかと思っていると、ゼランさんが素直に口を開く。
「いや、全然。まあ、こんなところにいるのであれば、東側に戻っているだろうし、死んでさえいればそんな噂が広がっているだろうしね。どこかで足止めを食らっているって思っているさ」
「そっか。ある意味朗報かな?」
「どうだろうね。親父も動けるなら商売をやっているはずだからね。連絡の一つでもよこしそうなもんだが、まあ、私も離れていた期間は長い。死んでいるか生きているかは微妙なところだね」
「でも、足止めっていうぐらいには確信があるんだ」
「そりゃね。しぶとさは私がよく知っている。とまあ、親父のことはいいとして、商業ギルドの話だ」
「あ、そうだった。それで?」
うん、僕もゼランさんのお父さんのことに気を取られていたけど、商業ギルドでの話は大事だよね。
「残念ながらヅアナオも軍の動きとか、そういうのはさっぱりらしい。とはいえ、伝えたとは思うが、軍が近くに駐留したおかげで物資枯渇が見えていてな。嗜好品はもちろん食料品の値上がりも始まっていたね。タナカ殿も現場を見たんだろう?」
「ああ、軍が町とは別で肉の買取とかも始めていたが、以前の2倍近くにはなっていたな」
二倍も値上げって日本じゃ大騒ぎだよね。
キャベツとか葉物野菜の値上げだってよく騒がれるし。
「二倍ですか。ゴードルさん、それって普通ですか?」
晃も気になったのか、ゴードルのおっちゃんに話を聞いている。
ああ、軍を率いていたし、そういう物資の値上げとかには詳しいのかなってことか。
「うーん。規模は確か、万越えだっただべな?」
「ああ、残存は4万近いはずだ」
「それでヅアナオの住人の数は……」
「ざっとしか分からないが、1万はいかないはずだよ? ノスアムよりは大きいけど、バカでかいってわけでもない」
「うん、それなら駐留している期間を考えるとマシと考えるべきだべな」
「ああ、あの規模の軍隊がいればヅアナオの規模なら、もう枯渇していておかしくもないからな」
田中さんもゴードルさんの意見に同意する。
「上手く指示をしていたんだろうな。とはいえ、それもつい先日破られたわけだが」
「軍の締め出しをしておいてよくいうよ」
「そっちもエカイを通じて物資が取り上げられるかもって言ってただろうに」
そう言って、田中さんとゼランが笑いあうのを見て、ああ、やっぱりこの2人は敵に回すと本当に厄介だよな~って思いながら、のんびりと食後のデザートを食べるのであった。




