第509射:準備を整えてどうなるか
準備を整えてどうなるか
Side:タダノリ・タナカ
事前というか、撤退前に必要物資の数を出すために現在の在庫などは出してもらったのが……。
「思ったよりも消費は少ないな」
「え? 少ないの?」
俺の独り言に、ルクセン君が反応して聞いてくる。
「俺たちがヅアナオに行っている期間を考えると、もっと消費するかと思っていたんだが、見るか?」
「えーっと、うん」
何故か悩んだ末、データが映ったタブレットを見る。
「……よくわからない」
「ま、普通はそうだな。そこで、ヅアナオの住民の数だ」
俺はそう言って、上の方にあるヅアナオの総人口の数を指さす。
「えーっと、ヅアナオは4千人前後なんだ。ああ、こう見るのか……って、あれ? 一日二食も食べてない?」
「確かに、どういうことですか?」
そう、2人の言う通り、日割りにすると、一日1食ちょっとぐらいの消費ぐらいになっているのだ。
「いや、それは俺も聞きたいんだが……。結城君」
『はい? なんですか? 敵が追いかけてきましたか?』
俺に聞かれてもわからないので、現場にいる結城君話を聞いてみることにする。
「いや、結局敵は追いかけてきてはいないな。ドローンの方はどうだ?」
『ドローンの方からは敵の姿は見えませんね』
「そうか。で、話は別なんだが、そっちから送ってもらった必要物資と現在の在庫だが……」
『ああ、そっちですか。何か問題でも?』
「問題というより疑問だな。俺たちがヅアナオに行くにあたって置いていった物資の消費数が少ない。町の分も大砦の方に置いていったんだが、何があった?」
『あ~、アレですか』
食事の量が少ないという話なのだが、そこまで焦っている様子はない。
まあ、俺としても消費量が多いと思っていたので、問題があるかというとそこまではない。
ああ、ノスアムの住人が餓死していると困るから、それは勘弁してほしいが。
『近隣の村との交易が再開したって話はしていますよね?』
「ああ、まだ町との交易はまだみたいだが」
『俺もそれを心配していたんですがジェヤナと話してみると、そこまで町との交易に比重を置いていないみたいなんですよ』
そこまで言われてピンときた。
そういえば、道中もそこまで馬車が通るような便利な道ではない。
地球と比べて車などがない世界だ。
馬車で運べる量なんてたかがしれている。
つまりだ、各町の食料というのは……。
「つまりどういうことなんだよ。わかりやすく言ってよ」
『わかったよ、光。つまりだ。別に今回のノスアムの戦いで人死には出たけど、畑はそこまで荒らしてなかっただろう?』
「畑? あっというまに門を粉砕して、領主館も制圧したから特にそういうのはしてないよね?」
「ええ、確かにそういうのは。ですが、物資の供給はしていたはずですが?」
『そりゃ、人死には出たし、物資って言っても食料だけじゃないしな。炊き出しはしたけど、あれってあの騒動の中で畑の収穫とか狩りが出来なくなっただけで、懐柔の意味もあったからな』
そう、結城君の言う通り、人がいなくなって物資が枯渇しただけで、畑や森など収穫物は無事だったわけだ。
なにせ、東側連合の略奪は俺たちが防いだしな。
「……えーっと、そうなると、ご飯とかあまりいらなかった?」
『いらないっていうと違うけど、自給自足のバランスは別に崩れていなかったから、俺たちから物資を大量に出すことはなかったって話だ』
『そうだべな。まあ、唐揚げとか白パンは好評だから出してはいるけどな~。ノスアム大砦の手伝いとかノスアムでの活動手伝いでな~』
「なるほど。報酬として出しているわけですか」
ルクセン君と大和君の前で口にするのはあれだが、人死による人手不足が落ち着いたってことだろうな。
人が補充されたからってすぐに使えるわけでもないし、町の損壊が少なかったとはいえ、それでも荒れたところはあっただろうしな。
それに俺たちが居座っていて、どう動きべきか、悩んでいたところもあるだろう。
だが、時間がたって人の問題も、物資の問題も解決されて、物資の消費が落ち着いてきたわけだ。
『あ、でも、何があるかわかりませんから、必要物資は減らせないですよ?』
「ああ、大丈夫だ。減らせとかそういうのは言うつもりはなかったからな。消費が少ないことが疑問だったわけだ」
『そうでしたか。ならよかったです。あ、そういえばヅアナオに帰還してきたジョシーさんはどうなっているんですか? 確認はしたんですよね?』
「確認はした。ちゃんと戦車と装甲車で帰って来たな。その後は見てはいないが、事前に駐留軍の失態については伝えていたし、その対処に動くんじゃないか? ドローンの方はまだ動きは見えないけどな」
俺の持っているタブレットはヅアナオのモニターを映しているが、表立って動き出す様子はない。
まあ、まずは状況の把握とかに勤めるだろうしな。
ジョシーを送り出すことも必要だ。
見張りというか、案内用の人員が付くこともあるだろうしな。
『まあ、まだ戻って3時間ほどですからね。全体の把握と、領主に話を聞きに行くとしても色々ありますか』
「だな。大人数を管理するとなるとそう簡単に動くことはできないさ」
これが、軍の弱点だ。
一度命令されれば目標を達成するまでは止まれない。
だからこそ、その動きを止めるために、盛大に攻撃してみせたわけだが。
生半可な声などでは無理だ。
それが現実。
とはいえ、今回は軍のトップが動きを止めたいと思っているからな。
失態を徹底的に洗うだろう。
『なら、物資を出してもらう時間はありそうですね』
「ま、余裕があると思うのは駄目だろうがな。とりあえず、経過報告に関してはジョシーから連絡が来るだろうから、俺たちはノスアムに戻って物資の補給を進めておく。幸いジョシーからの指摘で戦闘車両に関しては既に数がでているからな」
「結構沢山戦車を持って行くんだっけ?」
「ああ、向こうで出すわけにもいかないからな。こっそりも出来ない」
「流石にごまかせる大きさではありませんわね」
「戦車が気がついたら増えていたとか、どこのホラーだよ」
『いや、ホラーっていうか、明らかにおかしいよな。そうなると、誰かがって話になるから、田中さんたちが危険だよな』
「まあ、喧嘩を売られる分は構わないとおもっているが、別にトラブルを望んでいるわけじゃないからな」
そう、別に俺たちと戦いたいというのであれば受けて立つ。
とはいえ、元々の目的はウエストスターズとの停戦をして、帰る方法を探すことだ。
わざわざ敵を増やすことはしない。
なので多少は配慮をして動く。
相手が向かってくるなら別だが。
そう思っていると、ゴードルから声がかかる。
『トラブル……。なぁ、タナカはどれぐらいの確率で話し合いが上手く行くと思っているだ?』
ゴードルが珍しく殿をつけずに話してくる。
俺としては呼び捨てで構わないのだが、向こうとしては指揮官と部下って扱いをしておいた方がいいってことで呼んでいるらしい。
流石は元四天王で魔王の元で将軍として戦っていたことだけはある。
現場たたき上げは俺としても好ましい。
まあ、別に勉強ばかりで上に上がった将校が悪いってわけじゃないがな、現場を軽視する連中が多いからな。
と、そこはいいとして、そのゴードルがウエストスターズに赴いてどれだけ話し合いがまとまるかと聞いているんだ。
「……そうだな。正直向こうの状況がわからないが、銃器を知っている魔族がいたことから、銃火器があってもおかしくはない。それを考えれば、こちらの戦車を見れば話し合いには応じると思う。上が戦車を理解できればな」
『問題はそこだべか。将軍たちはこっち側だったべな?』
「ああ、被害甚大になるから和解したいと」
『やっぱり、戦争を推し進めていた連中が問題だべか』
「だな」
どうしても邪魔をしてくるだろうな。
やっぱりそれを考えると上手くいくかどうかは微妙なところだ。




