第507射:予定通りに動いていく
予定通りに動いていく
Side:タダノリ・タナカ
『ぶっはっはっは! たった二日でそんなことになるかい!』
俺が本日のトラブルを告げると、向こう側でジョシーが笑い転げていた。
いや、それは俺も同意したいが。
何せ、一日目はともかく、二日目であっという間に強行突破。
しかも東西南北の内3か所で。
一体何がどうなっているんだというぐらいの、統制のなさだ。
デシア将軍が不在とはいえ、ここまで馬鹿をやるとはな。
『はぁ~。楽しい。それで馬鹿共は誰の命令で動いたって?』
「確認した限りでは、ルクセン君大和君たちがいるところでダサーっていう貴族。ゼサが確認したところはセオイコ。俺が見たところはドウデだったな」
『はっ、名前は別々ね。とはいえ、門を守っている連中は何をやっているんだか』
「いや、別に戦うことを前提にしていたわけじゃないからな。話で済むと思ったところを強行突破だ。普通はありえん話だ。門の兵士が悪いとはいえないだろう。別に軍人に銃を突き付けて近寄るなって言ったわけじゃないからな」
『なんだ。あまあまの対応をしてただけか』
「それしかできん。領主の手勢よりも軍の方が大きいんだから、下手すると無理やり接収される。その口実を与えるような真似はせんだろうさ」
あくまでも領主側は被害者としての立場を取るしかない。
下手に攻撃を仕掛ければ、敵にでもされて、襲われる方になるんだからな。
『あ~、そういう意味では正解か。馬鹿たちは押さえれたんだろう?』
「押さえられたみたいだな。とはいえ、そのあとは釈放だ」
『はぁ、まあ、うかつに喧嘩は売れないか』
「もちろん、領主が自ら出向いて、被害を出した貴族たちの名前を報告していたな。これがデシア将軍の耳には届くだろうさ。そっちも注意しててくれ」
『ごまかしがないかだな』
そう、上に報告する際に話が曲げられて伝わるというのは、どこでもあることだ。
なにせ素直に伝えられると都合が悪い連中がいるからな。
「ああ、というか絶対にあるだろう。この手のことで失点を重ねたくはないだろうしな」
『だな。失敗した奴ほど隠ぺいするもんさ。軍ってのは特にな』
「まあ、今後は役に立たないやつってレッテルを貼られるからな。そうなれば使い道としては……」
『弾除けぐらいだな』
「こっちじゃ先鋒は名誉らしいけどな」
『それはもともと、真っ先に被害を受ける部隊への上からタダで贈るための作り物だろ』
「まあな。そうでもないと誰もやりたがらないしな」
『弾除けはその名誉もないってやつだしな。だから隠ぺいするさ』
死んで来いなんて命令は誰だっていやなもんだ。
とはいえ、こっちの世界でも軍人、ああ徴兵された連中も含めて、敵前逃亡、あるいは命令不服従はその場で処刑されるけどな。
まあ、銃器とかいう武器はもちろん、連絡網とか名簿、戸籍がないから逃亡できる可能性が高いのは……ありがたいのかね?
「ま、町の証言もエカイの方も十分に集まった。デシア将軍としては撤退の方向で舵を切れるだろうさ」
『反対意見を出す奴は、今回のことで更迭だしな。ああ、それでダストがこっち、ウエストスターズの方に行くのは決定でいいんだろう?』
「ああ、そうだ。結城君たちは居残りだな」
『それがいいとは思うが、武装についてだな』
「武装? 戦車を引き連れていくってことで話がまとまっているんじゃないか?」
『ああ、戦車はそうだが、ほかに関してだな。どこまで見せるべきかって話だよ。いきなり必要に応じてお前がポンポン出す気はないんだろう?』
「そりゃな。俺の身柄を押さえようとかするバカがでてくるし、補給を潰すのは戦いにおいては当然だしな。そんな弱味をさらす気はない」
まあ、狙われたところでやり返す自信はあるけどな。
『だから、最初から出しておかないと怪しまれるだろう?』
「そういうことか。確かに後でいきなり追加とかはできないな。誤魔化せるトレーラー系を持っていくか?」
『武器庫用ならともかく、戦車を運搬する車はのせられるのは一台だろう? 意味なくないか? 戦車の摩耗を押さえるっていうのならわからないでもないが、そこらへんはダストがどうにでもできるんだろう?』
「戦車の整備に関してはそうだな。無駄に台数を増やすだけか」
戦車の運搬する車両は存在するが、戦車自体が元々大きいことと、相応に自走ができるので、トラクターなどに積んでも一台だけだし、それ以上は道が適応していない場合も多い。
なので、空挺戦車でもない限り、多数を積んで移動するというのは現実的ではないわけだ。
『そうそう。それなら戦車の台数を増やした方がいざという時には色々動けるだろう?』
「それはわかるが、逆に向こう側へ刺激にならないか?」
こういう訪問を名目として状態で過剰な戦力は相手を刺激しかねない。
まあ、戦力を見せるという意味合いはあるんだが……。
『なるに決まっているだろう。というか、なんだ日本にいてひよったか? こういう圧力は常にあるもんだろう? 向こうが見えているものしかわからないってならなおのことだ』
「あ~、そういうことか。どうも現代と同じに考えてしまうな」
『そういうことだ。向こうは海の向こう、果ては別の大陸から直接戦力を送り込むなんて能力があることがわからないからな』
俺としたことが、そっちのことが頭から抜けていた。
地球の現代戦において、戦力を眼前にそろえるというのは、そこまで意味がない。
むしろ戦力をわかりやすい場所に集めてしまうということで、戦意高揚や威信を保つため以外ではマジでやりたくないことだ。
軍事パレードとか代々的にやっているが、アレもある意味危ない。
もちろん、それだけ軍事力を動かせるという意味合いでもあるのだが、それはどこからでも撃ち込める。
つまり攻撃できるからというのもある。
だが、こちらの世界は、戦力を送り込むには人を送り込む必要があるわけだ。
いや、地球もそうだが、足、あと武器の性能が段違いだ。
占領を考えなくていいのであれば、攻撃をある程度足並みをそろえる必要があるが、地球上のどこだとしても10日もかからないだろう。
もちろん、占領を無視した攻撃を仕掛ける許可が下りるまでには年単位の時間と準備が必要だろうが、GOサインが出た際の軍の動きはこちらとは比較にならない。
対してこっちは、遠距離にある国に対して、即座に戦力を送り込む手段は存在しないし、知らない。
だから、俺の力をばらしたくないのであれば、事前に相応の戦力をそろえている必要があるわけだ。
なにせ圧力をかけないと相手がこちらを舐めるからだ。
それは避けなくてはいけない。
「ある種の砲戦外交か」
『いや、ある種じゃなくて事実砲戦外交だろう。戦車で寄せるんだから』
「そうだな。で、人員に関しては考えないとな。流石に無人だと、俺かジョシーが怪しまれることになる」
『そこは、お飾りでもいいから、戦車要員として連れていくしかないだろう。一応、フリーゲート艦に使えるのはいるんだろう?』
「いるな。そこら辺の人選をしないといけないか」
『しないと不味いな。まあ、お前が怪しまれるだけだから、そこまで気にしないと言えばそれだけだが。魔術で適当に動いていますとかでも言い訳は効きそうだしな』
「そっちの手もあるか。とはいえ、どのみち有事の際に使える武器庫系はいるな。あと拠点になる輸送車類も」
『あった方がいいな。ああそれと、デシア将軍を装甲車に乗せてはいるが、寝るときも装甲車だしな。決して寝心地は良くはない。まあ、本人は馬車よりはマシとか言っているけど、一応VIPだからな。そこらへんで使えるキャンピングカーとか頼めるか?』
ああ、確かに将軍とかを不便な環境に置いておくのは此方の面子にも関わるか。
防御面に関しては装甲車よりは低いが、まあ、近寄れないように布陣をすれば問題はないだろう。
ただのテントよりは丈夫なのは間違いない。
「わかった。そっちがヅアナオで色々やっている間に、ノスアム西砦で準備しておく」
『おう、それで頼むよ』
ということで、俺たちは今後の予定を細かく決めていくのであった。




