第498射:トラブルの原因はなに?
トラブルの原因はなに?
Side:ヒカリ・アールス・ルクセン
『しかし、動かないな』
『何かトラブルでもあったかな?』
そんなのんきな声が聞こえてくる。
僕としては、そういう会話をしていると……。
『何か起こりそうだな~』
アキラの言葉に頷く。
これは立派なフラグってやつだね。
「そうなんですか?」
撫子はよくわかっていないようで首を傾げる。
「あれだよ。意識すると悪いことが起こるとかそういうの」
「ああ、引き寄せるみたいな話ですか?」
「そうそう。映画のワンシーンみたいでしょ?」
「そういわれるとそうですね。……ああ、こういうのがフラグというのでしょうか?」
撫子がようやくお約束とかそういうのがわかってきたみたい。
まあ、ない方がいいんだけどさ……。
「でも、田中さんがわざわざ直接乗り込むとは思わなかったな」
「ですね。もっと町中で調査をすると思っていたのですが……」
意外だったのが、田中さんがわざわざ軍の駐屯地まで足を運んだこと。
あんな所に行けばトラブルの巣窟だろうに……そこまで考えてあることに気が付き。
「あ、そういうことか」
そんな声が出た。
「何がそういうことなのですか?」
撫子が珍しく僕にそんなことを聞いているので素直に答える。
「いや、今回ってさ。駐留軍の失態が欲しいってことでしょ?」
僕がその事実を告げると、言いたいことが分かったようで、ゼランも含めて……。
「『「あ」』」
そんな驚きの声が上がる。
僕もその気持ちはよくわかる。
様子を見るっていう話が、踏み込んでトラブルを引きずり出すなんて思うわけがないしね~。
……いや、今更ながら田中さんならやりかねないというか、実際やっているわけだけど。
『光の言う通りだな。まあ、町で軍の狼藉を押さえるのは大事だけど、大本は軍に問題があるからだ』
『なるほどねぇ。ということはトラブルを見つけるなら軍がいる場所の方が分かりやすいわけだ』
『普通は考えないことだべな。軍を相手にするなんて普通の人は考えないだべ』
『ですが、タナカさんなら十分に対応可能です』
セイールの言う通り、確かに田中さんなら対応可能だ。
軍を調べるって言って軍の様子を見てくるとは言ってたけど、てっきり町の窓口だと思うじゃん?
それを軍の駐屯地まで行くとは思わないよね。
周りが全員軍人とか、トラブルをもみ消すぐらいはしてきそうだし、そんな中に飛び込むとか、対応できても軍に被害甚大になりかねないというか……。
まあ、それもある意味失態ってことになるんだろうけど、それはいいのかな?
ヅアナオにいる軍が消滅しかねないけど。
「失態というのが軍の消滅とかにならなければいいのですが……」
あ、撫子も同じこと考えてたよ。
やっぱりそこは怖いよね~。
『気持ちはわかるけど、田中さんがそんなことをするわけないと思うぞ。何せ、敵と和解したいんだから。味方もなんか怪しい感じだし、確か別の指揮系統の予定だろ?』
「そんな話だったね~。別の軍を集めてこちらに向かわせるみたいな話だったし。それがどう動くかわからないもんね。その前に停戦できればってことだよね?」
「多分そうですね。別の指揮系統となると、私たちの意見を無視する可能性も高いですし、そっちが勝手に戦争を継続してしまう可能性もあります。なので早めに動くのは間違いではありませんわ」
と、そんな話をしている間に田中さんの方に動きがあったのか声が聞こえてくる。
『たっく、お高く留まりやがってよ』
ん? 田中さんの声じゃない。
どういうことかと、今度は上空の映像を見ると、田中さんの列の隣に帰りの人が見える。
なんか冒険者っぽいけど……。
『せっかく獲物を持ってきているのにこれっぽちだってな。お前らもよそに行った方がいいぜ~』
『ああ、来ただけ損だぞ!』
あ~、思ったよりも高く売れなかったってやつか。
こっちの世界って、自分の交渉がものをいうし、商品も大事なんだけどね。
どっちが悪いかはわからないけど、あまり印象は良くないな~。
そんな感想を持っていると……。
『随分荒れているな』
『ま、よくあることさ。あの手の連中は大したことのない獲物を持って大金を請求しているってのがほとんどだ』
『大したことのない獲物っていうと?』
『わかりやすいのは量だな。うさぎほどの肉でイノシシほどの肉の金額だせってやつだ』
『そりゃ、がめついって話じゃないな。倍額でも割に合わない』
うん、量がグラムから数キロレベルで違うよ。
うさぎって意外と小さいんだよね。
逆にイノシシって見た目のわりにかなり大きいから、取れるお肉はかなりの差が出てくる。
それで、お金よこせって。
やっぱりこういうクレーム客はいるところに入るんだな~。
『と、列が動き出したな。あの馬鹿がもめていただけか』
『みたいだな。ま、問題にならない程度に稼ぐさ』
『それがいい』
列もどうやら動き出したようで進んでいく。
あの迷惑客のおかげで他の業務が止まっていたって感じか。
やっぱりああいうのは迷惑だよね~。
「そういえば、駐屯地って中はどうなっているんだっけ?」
『どうって、兵士が暮らしている場所でしかないけどな。えっと5番と6番、7番で駐屯地上空だぞ』
「ありがと」
アキラにそうお礼を言ってモニターを変えてみる。
すると当然、駐屯地全体が画面に映る。
6番、7番は多分指揮官がいるような豪華なテント周囲と、物資をため込んでいる場所に見える。
「何か気になることでもありましたか?」
「いや~、僕たちってさ、改めて敵の拠点っていうと変だけど、軍の集まっている場所をみたことないじゃん?」
「ああ、なるほど」
僕の言いたいことが分かったのかゼラン姉さんが同意する。
「そういえば、軍の動きばかりで実情を見ていなかったね。タナカの旦那が乗り込んでいるんだ。ついでに何を求めているか、上からも調べてみるとするか。まあ、捜査は任せるけど。お願いできるかい?」
「はい。お任せください。それで、何を?」
「まずは、食糧庫だね。一応どれだけ量があるのかとか、本当に商業ギルドに記載がある分だけなのかとか」
「映像だけでわかるものでしょうか?」
「まあ、見てみるだけ損はないさ」
確かに、少しでも情報が欲しんだし、見る分だけ損ってことはないだろう。
とはいえ、撫子がモニターを食糧庫のようなテントに画面を切り替えるんだけど……。
「テントだね」
「テントですね」
『テントだな』
本当にそうしか言いようがない。
テントを上から撮っているだけだし、中が見えるわけじゃないからね~。
食料品を野ざらしってわけにもいかないだろうし、当然と言えば当然だけど。
「そこは見えなくて当然だね。なら見えるところだよ。冒険者とかから買っている商品はどこかにためてここに移動しているはずだよ。記録、整理をいったんしてから納めるものだからね」
確かにそう言われるとそうだよね。
軍の食料なんだし、ちゃんとどれだけ量があるのかっていうのは記録を取るだろうし。
「解りました。えーっと、確か田中さんたちが並んでいるのはこちらでしたから……」
そう返事をしつつ撫子が駐屯地全体を映しているドローンに切り替えて探してみると。
「あ、なんか入り口の近くにタルとか袋が置いてない?」
「確かに、ここですわね」
田中さんが並んでいる入り口の近くに、それっぽい物が見つかる。
「買取した食料は別に扱っている感じか? まあ、保存食じゃないものもあるしね」
そういえばそうだよね。
お肉とか持って行っているけど、長持ちしないよね。
燻製にしても精々一か月ぐらいだし、量があるからその場で消費って感じ?
「ああ、今の話でわかりました。煙が上がっている場所は料理でもしているのだと思いましたが、どうやら燻製肉などを作っているようですね」
撫子は僕たちの話を聞いて、調理をしている場所を見つけたようで、よく見ると確かに普通の料理とは別に燻製肉を作っている。
あれだ、煙が多すぎるってやつ。
「ふむ。なら、塩とかが結構売れるかもね」
「塩?」
「保存食を作るうえでは大事なんだよ」
『そうだね。パンを作るにも塩は大事だし』
『だべ、簡単には補給できないものでもあるべ』
ノールタル姉さんにゴードルのおっちゃんも同意する。
やっぱりそういう香辛料というか、戦略物資っていうんだっけ、そういうのは大事なんだね。
そう思っていると。
『それ、面白いな。塩をちょっと持って行ってみるか』
と、田中さんがつぶやいたのが聞こえてくるのであった。
うん、本当にトラブルは控えてほしんだけど。
いや、狙ってもいるんだけど……。




