第497射:軍の様子を直接見に行く
軍の様子を直接見に行く
Side:タダノリ・タナカ
とりあえず、酒場で情報を得た俺はゼランに連絡を取る。
「ということで、商業ギルドが一番トラブルが起きそうだな」
『ああ、まあ、ああいう所はトラブルが起こって当然か。私たちが行ったときは運がよかったのかな?』
「そうだろうな。どうせ取引があるんだろうし、エカイのことを話して協力してもらえばどうだ?」
『そうだな。そうするよ。タナカの旦那はどうするんだい?』
ゼランたちは商業ギルドに貼るからな~、俺がどう動きべきかというと……。
「そっちを裏側から伺って証拠をとってもいいし、あえて、物資を軍に高値で売りに行ってもいいかなと思っている」
『うわ~、足元見られているって怒らない?』
『いえ、それが目的なのでしょう』
大和君の言う通り。
わざと怒らせてトラブルに巻き込まれました~って証拠を取れるのはありがたいわけだ。
まあ、だからと言ってやりすぎれば俺が直々に軍の連中を潰す必要があるから、それはそれで問題があるわけだが。
「ま、とりあえず。軍の様子を見てくる。どれぐらいピリピリしているかは実際に行ってみないとわからないだろうしな」
『それはありだね。現場を見るのはいいことだよ。とはいえ、私たちだとトラブルの方が大きくなりそうだからね。そっちは任せるよ』
「その予想は間違ってない。俺がいってくるから商業ギルドは頼む」
『わかったよ。こっちはまかせときな。ああ、とはいえ、軍で暴れるのはやめてくれよ?』
「向こうが手を出さなければな」
俺はそう返事をして、俺は歩き出す。
目的地は軍の駐屯地。
最初は冒険者ギルドでもよって依頼を受けてからと思ったが、トラブルを狙うのであれば正規の手続きを抜けた方が確率が高いだろうという狙いがある。
そして、さらにはあのデシアとかいう将軍が排斥したい連中と接触するのも手だろうな。
本当のことを言っているのかという確認のためでもあるからな。
俺たちを使って身内の敵を倒そうとしていても特に不思議じゃない。
状況的には限りなく可能性は低いが。
なにせ、そんなことに俺たちを利用すれば、次の目標は己だしな。
いや、利用するのは間違いないが、敵対するかって話だ。
そこをちゃんと見極めるためにも、デシア将軍が排除したい連中の情報を引き出せるなら引き出したい。
「とはいえ、どうするかだな……」
一旦エカイの所に行って知っているか聞いてもいいが、既に町の門をでているし、戻るのも今更というのがある。
こういう時は、そのまま向かって出たとこ勝負がいいだろう。
面白い目がでるか、それともつまらない結果になるかはわからんが。
ということで、約1キロ先にある西魔連合の駐屯地へとたどり着く。
所々煙が上がっていることから、何やら食事の支度でもしているんだろう。
というか、既にノスアム西砦での攻防から一ヶ月近く、いい加減退屈しているだろう。
いや、別にそうでもないか?
この手の大遠征で一ヶ月なんて僅かなもんだ。
ちなみに地球でも同じだ。
敵地に乗り込むような進攻作戦はどうしても準備に手間取るし、こうした駐屯地を築くのも簡単な話ではない。
素人はただのテントを立てただけだろうと思うだろうが、しっかり木の杭で壁を作って囲っている状況だ。
村、あるいは規模的には町にも匹敵する駐屯地なので、簡単に攻略できるものでもない。
まあ、だからこそ物資の心配で近場の町を荒らすんじゃないかという不安があるんだよな。
この手の軍が負けて崩壊すると、そのままばらけて盗賊とかなって、各村々や町に被害をもたらすわけだ。
うん、本当に面倒だな。
で、そんなことを考えつつ駐屯地へとたどり着くと、入り口には兵士がちゃんと立っていてこちらに視線を向けていると同時に、入り口にたむろしている人たちも見える。
よく見ると看板を見ているようで、俺もそちらに移動してみると。
「やっぱり、食料を高く買っているんだな」
「そりゃそうだろう。あとは嗜好品か~酒にワインな~」
「解体はこっちでするから獲物もか。でも、冒険者ギルドも商業ギルドもこっちに出してくれっていっているよな? 安い値段で」
「まあ、そりゃ、軍で消費するのと町で消費するので違うしな。こっちに持ってくるのも一苦労だろう?」
「ああ~、その手数料分みたいなもんか」
むさくるしい男ばかりで、多少高いぐらいの買い取り額にワイワイ話し合っているようだ。
俺も看板をみると、確かに魔物や獲物そのものや食料品などの買取をしていると告知している。
額も聞こえてきた通り、少し高いぐらいだ。
まあ、流石にぶっ飛んだ額を出すとすぐに枯渇するのは分かるが、それでもケチだな。
いや、町との軋轢を少しでも減らそうってことか?
なにせトップのデシア将軍はヅアナオの町とは険悪になりたくないって話だしな。
その指示でギリギリのところを攻めたか。
で、受付は入り口とは別か。
俺が見かけた入り口とは別に搬入口を用意しているらしい。
そこで、品物と金銭の受け渡しをやっているようだ。
確かに、あの入り口でやってしまえば、出入りしている兵に敵が紛れ込まれかねないか。
そういうところはちゃんとしているんだな。
そうでもしないと大混乱するのは間違いない。
そんな風に納得しつつ、俺はその搬入口へと向かう。
木の杭で整えられた壁沿いに歩いていくと兵士たちが立っているのが確認でき、先ほどと同じように兵士ではない男たちがたむろしているのが見えるし、商人らしき人たちもいて馬車と一緒に待っているのが見える。
そしてその列は進んでいる様子はない。
これは……。
「すまない。この列は……」
「ん? お前さんも何か売りに来たのか? 聞いてきたってことは想像できていると思うが、売り待ちの列だよ。ちょっと高い買取りぐらいだが、軍に覚えがあると便利だって考えるのはみんな同じなんだろうな」
「なるほどな。ちょっと歩くだけで高く買い取ってくれるならここにくるか」
「ああ、何せ冒険者とか狩人だしな。この程度の距離、近場に行くぐらいだろう?」
「確かにな」
俺は列に並びつつ、前に並んでいた男から情報を得るために雑談に興じることにする。
「しかし、あんたも慣れているな。もう何度か来ているのか?」
「ん? ああ、これで3度目だったか。狩人でな。獲物を取って生きているんだが、金はある方がいいからな」
「まあ、あってこまるもんじゃないよな」
「だろ。とはいえ、商業ギルドか冒険者ギルドに売ると安いってわけじゃないが、高くもないからな。こうして高く売れる場所があるから売りに来ているってわけだ」
男の腰にはおそらく動物の足であろうものが吊るされている。
モモ肉というやつだな。
残念ながら動物学者でも肉屋でもないから、何の動物なのかはわからない。
「俺は今回初めてだが、何か注意することはあるか?」
「注意な~。まあ、相手は軍人さんだからな。丁寧な対応をしたほうがいいだろうさ。横柄な対応をした奴は追い返されたって話だしな」
「横柄って、売りに来てそんなことするのか?」
「あれだよ。自分の方が立場が上だって勘違いしているんだよ。もっと高く売りつけるとかな」
「ああ、なるほど」
まあ、あながち間違いでもないが、町に来ている軍人に売りつけるならともかく、こういう公式な窓口で値上げで横柄にっていうのはちょっとリスクが高いだろう。
そう言うのを考えられない馬鹿がいるのはどこの世界も同じか。
いや、馬鹿の度合いで考えると地球の方が上か?
銃器を持った連中の前で挑発する馬鹿がいるからな。
「あとは、まあ、誰でも一緒だが機嫌が悪い時は無難にしろってはなしだな」
「機嫌が悪いと交渉に問題がでるのか?」
「そりゃな。目の前で物資を取られたりっていうのは聞くな」
「それはひどいな」
そんなことをすれば軍の評判は落ちるだろうに。
「とはいえ、証言は軍人の方が優先されることがほとんどだしな。その時は運が悪かったとあきらめるしかない」
「訴えるもなにもってことか」
「ああ、俺たちじゃ太刀打ちできないしな。とはいえ、金払いが良いのは間違いない。俺は遭遇したことはないし、大丈夫だとは思うが」
なるほど、酒場で聞いた話はあながち間違いじゃないと。
そういう交渉能力が無いと面倒そうだな。
でも、それに目を瞑っても儲けがあるってわけか。
「しかし、動かないな」
「何かトラブルでもあったかな?」
そんなのんきな話をしながら、俺は列が動くのを待つのであった。




