第50射:街道沿いお仕事
街道沿いお仕事
Side:ナデシコ・ヤマト
「へぇ。そんなことがあったんだ。やっぱり私たちはついて行かなくて正解だったわねー」
そう言うのは、同じ宿を拠点にしている冒険者のラーリィ。
私たちが今日、聖女ルルア様の面会で起こったことを話したら、苦笑いをしながら言ってきた。
まあ、その通りだと思いますわ。
ただの挨拶が、エクストラヒールを覚えるための訓練に代わり、最後にはペストの対処までしてしまったのですから。
「で、アキラは覚えたのかい? エクストラヒールは?」
「いやー、そんな簡単に覚えられたら苦労しないって」
「ま、そうだよな」
「うーむ。アキラが覚えてくれれば冒険が楽になったんだがな」
そんな風に晃さんはオーヴィクさんやサーディアさんと話しています。
「ヒカルはどうなの? 覚えたのかしら?」
「無理無理、今日一日で覚えられるわけないよ。覚えたのは精々、病気の箇所に集中して回復魔術を当てると治療になるってことぐらいかな」
「それって結構難しいはずだけど、そこはやっぱり勇者様って所かしら?」
「そうなの? リテア教会のシスターさんと神父さんは普通に患部に回復魔術を絞ってたけど? それに、傷口があればそこに回復魔術かけるよね?」
「見よう見真似でね。でも、効果は高くないのよ。目で見えてわかるぐらい回復速度があがるのは稀ね」
「そうなんだー」
どうやら、私たちが無意識でやっていた怪我をした場所に対して回復魔術を集中して治療するという行為は案外難しい行為だったようです。
「で、ナデシコたちはこれからどうするの? 明日からもエクストラヒール習得の為に治療で教会?」
「そうですわね……。できればそうしたのですが、田中さんどうでしょうか?」
私の一存では決められる内容ではないので、とりあえず田中さんに聞いてみることにしました。
「ちょっと待ってくれ。流石に教会の方に関係者でもないのに連日診察室を借りるのは色々な許可がいる。まあ、今日みたいに聖女様から直接許可を貰えればいいだろうが、明日もまた聖女様に会いに行ってお願いをするのはどうかと思うからな」
確かに、今日は運よく聖女様と会えましたが、明日もそうとは限りませんし、よそ者が診察室を借りるというのは色々問題があるでしょう。
「とりあえず、明日はグランドマスターに話をして、聖女様が言っていた、街道の魔物退治手伝いの話を聞きに行くのがいいだろうな。先に向こうの用事を済ませてた方が色々融通は利かせてくれるだろう」
なるほど。
確かに、聖女様は街道の魔物のことを懸念されていましたね。
そこの問題を解決してから頼んだ方が、いいですわね。
お世話になりっぱなしではこちらも心苦しいですから。
「なら、私たちと一緒に仕事しない?」
「そうだな。アキラたちなら俺たちも歓迎だよ」
「ああ、君たちの腕前なら気にしない。むしろ頼りにしている」
「そうね。大物が狩れそうだわ」
そう、オーヴィクさんたちは、私たちと一緒に仕事を受けてくれると言ってくれました。
私たちにとってはありがたいことです。
「私はいい話だと思いますわ。光さんや晃さんはどう思いますか?」
「僕はさんせー。初めての場所だし、大人数で動いた方がいいよ」
「俺も賛成。だけど、田中さんたちの意見は無視できないよ」
そう言われて、田中さんたちを見る。
すると、私たちの視線に気が付いたヨフィアさんが口を開きます。
「べつにー、いいですよー。オーヴィクさんたちがいるのは心強いですから」
「ですね。こういう魔物が生息する区域では、人数と質が揃っていることが大事ですから」
「オーヴィク殿たちなら、何かあっても仲間を見捨てるような真似はしないでしょう」
以外にもヨフィアさんはいいとして、ルーメルの騎士であるキシュアさん、近衛隊長だったリカルドさんも同意してくれます。
それで、肝心の田中さんは……。
「その話に異論はないが。まずはグランドマスターの話を聞いてからだな。街道沿いの魔物退治とはまた別の仕事を受けることになるかもしれないからな」
「あー、そっか。その可能性もあるよねー」
「なら、私たちが付いて行ってあげようか? 難易度の高いクエストならどのみち、ヒカルたちが受けなければ私たちが受けることになるんだし」
ラーリィさんがそういうと、オーヴィクさんたちも、同意して頷きます。
「そうだな。下手に分散するより、一緒にクエストを受けたほうが成功率は高いし、安全だ」
「そうねー。今回の街道沿いの仕事はこの前オーガが出てきたこともあるし、人数は多い方がいいわ。ナデシコたちの腕前は知っているし、頼りになるわ」
「まあ、私もその意見には賛成だが、クエストの達成料が人数分で分けて少なくなるのが問題だな」
「そここそ、私たちが一緒に行ってグランドマスターに掛け合えばいいじゃない」
「ラーリィの言う通りだな。田中さんよければ、俺たちもついていっていいですか?」
「ああ、そうしてくれるとこっちとしてもありがたい」
そういうことで、翌日。
私たちは冒険者ギルドに来ていました。
「なるほどのう」
目の前では、田中さんとオーヴィクさんが昨日話し合ったことを言って、グランドマスターが考え込むようなしぐさをしていました。
「とりあえず、報酬の方はこっちの勝手だからしかたないとして、この2パーティーで一緒に動くことは許可してほしい」
「別にそこは問題ない。よくある話じゃ。報酬の件もどうにかしてやろう」
「ありがとうございます」
「なになに、オーヴィク君たちの堅実な判断は好感が持てる。冒険者は冒険するのが当たり前ではあるが、命を簡単に捨てるような判断はしてほしくないからのう。ほかの連中は戦果稼ぎとか言って1パーティーで臨むことが多いからな。まあ、オーヴィク殿たちみたいに複数パーティーで臨むものも少なからずいるがな」
……話は分かるのですが、街道沿いの魔物の件は結構危険なはずです。
1パーティーで行って問題ないと思えるのでしょうか?
そう思っていると、次は田中さんが口を開きます。
「そう言ってやるな。向こうは俺たちとは違ってお金に余裕がないからな。一人分の取り分が減るのは痛い」
ああ、なるほど。
……お金ですか。
私たちはリカルドさんたち、ルーメルからの支度金や武具は提供してもらっているし、色々仕事をこなしているので多少は余裕がありますが、普通の冒険者はそうもいきませんよね。
やっぱり、私たちは恵まれているのでしょう。
「まあ、その代償で命を失う可能性が高いわけだが。それで生き残れば、いい冒険者になるだろうよ」
「はっ。お主みたいに飄々と今後もやっていける冒険者がおるか。一度全滅の憂き目に会えば、基本的に引退じゃよ。本人のやる気があっても、一度パーティーが全滅したというのは縁起が悪いからのう。ほかのパーティーに入れてもらえる可能性は低いのう」
「死神ってやつか。まあ良くある話だが、別の意味では生き残った幸運の持ち主なんだがな。まあ、それも含めてだろう。それを乗り越えた奴は強い」
……田中さんの意見はわかりますが、流石にそれは真似したくありませんわ。
「というか、俺たちに相談する内容でもないな。これは、ギルドが考える話だ」
「いや、ただの雑談じゃったんだがのう」
「なら、雑談はこれで終わりだ。編成や依頼料の話が終わったならあとは、仕事の話だ。で、街道の方はどうなっているんだ?」
ばっさりと雑談をきって、お仕事の話を進める。
「街道の方は未だに変わらず巡回、討伐はつづけておる」
「じゃあ、それだな。もう一度回復魔術の練習をしようにも、何か手土産が欲しいからな」
「まあ、それがいいじゃろう。いくらルルア殿の推薦があるとはいえ、よそ物じゃからな」
「で、街道の巡回、討伐だが、どこの巡回に行けばいい? それと、街道に魔物が現れている理由とかは分かったか?」
「巡回ルートはルーメルよりの大森林の方じゃな。あそこはまだ誰も行っておらん。小さい村への道であるし、あまり主要道ではないからな。あと、残念ながら魔物が現れている理由は分かってはおらん」
ルーメルよりの大森林ですか。険しい道のりになるかもしれませんね。
しかし、残念ながら、街道に魔物が現れている理由は分かっていないようです。
何か分かっていれば対応のしようもあったのでしょうが。
そう、私は納得しかけていたのですが、田中さんは違ったようで……。
「ちょっとまて。その話だと小さい村はほったらかしになっているってことか?」
「そうじゃ。村からの連絡は元々ある方ではないが、心配ではある。ついでに村の方も確認してきてくれ」
「巡回に加えて仕事が増えてるじゃねーか」
「巡回じゃよ。巡回の過程でその村による。ついでじゃ、ついで」
「じゃ、村が壊滅してても捜索などはせず一旦報告ってことでいいんだな? 巡回が優先だからな。村が全滅するようなところで、少数で調査なんざしないぞ?」
「ちっ。そこは好意でやってくれい」
「馬鹿か。そこまでやってほしければ、もっと上乗せしろ。先ほどの冒険者たちが全滅するかもっていう話も、ある意味お前等が原因じゃねえか。危険地域で行動を限定しないで送り出す奴があるか。異常を認めた場合はさっさと引いてこいってのは戦闘地域では当然だぞ。情報が何よりも大事だ」
そういう田中さんの話は理解できるのですが、どうも何か怒っているように感じます。
「そんなことを言って、大人しくしている連中ではないぞ。冒険者どもは。そう言うのは兵士じゃからのう」
「聞くか聞かないかじゃない。確かに兵士と同じような結束力行動力はないだろうが、ちゃんと注意をして情報は与えとけってことだ。何も言わなければ、信頼を無くすぞ」
「……お前さんから信頼という言葉を聞くとはな」
「こういう仕事だからな。情報は大事なんだよ。誤情報でひどい目にあったことは何度もあるからな」
なるほど。実体験があるからこそ、でしたか。
「そして、その誤情報の依頼で死地に向かって、戻って来たとすれば、そこのギルドの依頼は疑うだろう。流石にそっちだって、攻略できないと判断しているパーティーに無理な依頼は基本的に受けさせないだろう?」
「まあのう。仕事の達成ができるからこそ、お客から仕事が集まるからのう」
「それと同じだ。信用がないとこの業界はやってられないんだよ。で、今回の話もそうだ。今回はリテア聖国との共同作業だろうが、やばいと感じれば協力要請をだせ」
「……この状況で、リテアに協力要請はのう」
なぜか、グランドマスターはリテアへの協力要請に難色を見せます。
なぜでしょう? あ、そう言えば、今はリテアの内部は聖女様が色々忙しく動いているのですから、外への仕事は冒険者ギルドに任せているでした。
その忙しいリテアに、援軍のお願いはしづらいということですね。
「じゃなければ、偵察隊と討伐隊にわけとけ。そっちはとりあえず、巡回が仕事、魔物が出たら退治って言う風にいってるんだろう? 下の依頼書にはそう書いてあった」
「うむ。しかし、対処できない魔物はでていないのじゃがな」
「それは運がよかったな。オーガが出ても楽に討伐できるなら、次は魔王か?」
「馬鹿をいうでない。オーガは並の冒険者は逃げるしかないわい。……って、あ、そういうことか」
「そうだ。偵察レベルの巡回冒険者が挑むような相手じゃないだろう。それを見かけたら即時撤退といっておくんだよ。具体的な数字、敵を教えて確実な情報収集するんだ。英雄志望のバカが勝手に暴走して魔物が街道にでてきている原因に突っ込んで刺激したらどうなる」
下手をすれば、街道どころかリテア聖都に魔物が押し寄せてくる!?
「まずいの……。しかし、それは飛躍しすぎでは?」
「飛躍ならそれはそれでいいだろうが。それとも何か? 俺たちが勝手に街道にあふれかえっている原因をぶっ潰してはい終わりというのを期待してないだろうな?」
「流石にそこまではのう。じゃが、そこまでのことは今までなかったぞ?」
「まあ、俺の話はあくまで、最悪の話だからな。別に爺さんが重要視しないならそれでいい。だが、最悪が起きた場合は冒険者の被害、それにリテア聖国からも咎めがあると覚悟しておけ。あと、俺たちは巡回による情報収集を徹底して、敵を探して街道を外れたりはしないからな。その条件なら巡回の仕事は受ける」
「うむむむ……。まあ、お主たちが敵わないというのは大事な情報じゃな。ならばそれで頼む」
「よし。その依頼引き受けた」
ということで、私たちはリテア聖都周辺の街道巡回の仕事を受けることになりました。
特に問題なく終わるといいのですが……。
こうして、田中一行は魔物の出没率が多くなっている街道の巡回へと向かう。
そこで、何をみるのか?




