第493射:裏の連中との交渉
裏の連中との交渉
Side:タダノリ・タナカ
大和君たちと今後のを動きを話し合ったあとすぐに俺は宿をでて、スラムにある立派な屋敷に足を延ばす。
この前はあえて馬鹿共に喧嘩を売ったが、今回はそう言うのはないので、絡まれずに屋敷の前にたどり着く。
てっきり、スラムに住んでいる連中がちょっかい出してくると思ったが、そういうのもなかったんだよな。
「……ああ、軍がいるから」
俺はスラムの馬鹿共が大人しい理由に思い至る。
確かに人が集まって治安は悪くなるだろうが、スラムが荒れれば面倒だ。
つまりスラムにとっては荒れれば軍に押しつぶされるということになりかねない。
統制を効かせているってやつか?
地球ならそれが陽動ってというのもあるが、こっちは治安維持部隊じゃないからな。
軍人が踏み込むってことは蹂躙されるってことだ。
正直、こっちの方が大人しくなるような気もするな。
まあ、力による統治は色々と問題があるんだがな。
「よう。兄ちゃんじゃないか」
俺がそんなことを考えていると、厳ついおっさんが屋敷の内からやってくる。
タイミングが良すぎだな。
「おう、元気そうで何よりだ。エカイ」
俺が厳ついおっさんの名前を呼ぶと不機嫌になるどころか、笑顔になって。
「ふははは。俺の名前を知ってなおここに来るっていうのは余程な度胸だな」
「別に、友人に会いに来ただけだ。ついでに色々話したいことがあってな」
そう言うと今度は目を鋭くする。
当然だよな。
裏社会のトップに近いおっさんことエカイと知って話というのは利用するぞって話だからな。
普通は喧嘩を売るような行為だ。
しかも裏社会だし、下手をすると始末されかねない。
普通なら近寄りもしないが、俺はそれがありがたいってことになる。
「ほう? 俺の名前を知っていて話とは、覚悟はあるんだろうな?」
「もちろん。とはいえ、そっちにとっても利益のある話だ。このヅアナオが無くなるのは困るだろう?」
「……どういう話だ? そっちで何か掴んだのか?」
「ここで詳しく話すはよろしくない。紅茶、頼んでいいか?」
俺はそう言いながら、この前渡したチョコを差し出す。
すると、鋭かった視線が和らぎ。
「おう、上手いのをごちそうしてやろう。こっちだ」
そう言われて、俺は再び屋敷の中に入る。
中は相変わらず人がいないが、気配がないわけではない。
まあ、俺と荒事になった場合被害が出ないためだろうな。
「ここで待っててくれ」
「ああ」
俺は前の同じ会議室に案内されて、ソファーに座りながらある行動を起こす。
別に大したことじゃない。
今回取り扱う予定の商品を出しているだけだ。
チョコは大量に、質の良い小麦粉、そして塩に、砂糖。
極めつけに胡椒。
あとは、出迎え用のお菓子、焼き菓子にケーキぐらいでいいか?
これがあれば大抵どうにかなる。
この物資を作り出す能力は便利すぎる。
そんなことを考えているとエカイのおっさんだけではなく、使用人と思しき女性とさらにエカイのおっさんよりも体の大きい男と平均的ではあるが視線の鋭い男が入ってくる。
準備万端って感じだな。
「待たせたな」
「ああ、そっちは随分と人が多いな」
俺が答えると、護衛と思しき二人の目が鋭くなる。
「そりゃ、俺を利用しようなんて面と向かって言うんだ。護衛ぐらい当然だろう?」
「それもそうだ。で、3人の紹介はするのか?」
「ああ、気にするな。とはいえ、使用人の紹介だけはしておこうか。この屋敷の管理を頼んでいるメイヤだ。俺がいない時の対応を頼むかもしれない。まあ、話がうまくいけばだが」
にやっと笑いながらそう紹介して、メイヤと呼ばれた使用人の女性は恭しく礼を取る。
こいつもヨフィアと同じく、そっち系だな。
まあ、わざわざ指摘する理由もないか。
「上手く行くことを祈るさ。で、まずは食べてみないか?」
用意したチョコや焼き菓子、ケーキを差し出す。
「チョコは分かるが、他は何だ?」
「焼き菓子とケーキってやつでどちらも菓子だな。まあ、焼き菓子の方はわかるんじゃないか?」
こっちにも焼き菓子は存在する。
味に関してはわからんが、小麦粉を焼いて固めるだけだしな。
「まあ、わかるが。こっちのけーきか? これは?」
「こっちもある意味同じ素材なんだが、作り方が特殊で上品な味わいかな?」
「なんで疑問形なんだよ?」
「甘いものはそこまで得意じゃないんだよ。おっさんだってすべての名物料理が得意ってわけじゃないだろう?」
「……ああ、そういうやつか」
思い当たるところがあったようで苦い顔つきになる。
名物料理だからといって口に合うわけじゃないからな。
「甘いのは間違いない。そっちのメイヤだったか? 他の護衛にも食わせてやれ。俺の印象を良くするためにな」
「露骨にいうねぇ。ま、俺が真っ先に食べるのも問題だろうし、おい」
「はっ」
目つきの鋭い男が前に出てくる。
「とりあえず、ここの全員分はあるから、一通り食べてみてくれ。あ、紅茶はあるか? 甘いから口直しがあると甘い物が苦手な奴でもいけるだろう」
「なるほどな。メイヤ、淹れてくれ」
「かしこまりました」
メイヤと呼ばれた使用人がパパッと紅茶を用意する。
うん、性格はカチュアタイプかな?
それでついでに俺たちの分も用意してくれる。
「では、失礼いたします」
意外と目つきの鋭い男は礼儀正しいようでそう言って焼き菓子を口に含み……。
「甘い」
「「そりゃな」」
俺とエカイで同時にこぼす。
「いえ、そんな甘さでは……。いいえ、ではこちらも」
そう言って次はケーキを用意したフォークで食べると……。
「こちらも甘いですが、それでいてなんだこの食感は滑らかな食感は……」
「生クリームだな」
「生クリーム?」
「こっちでは牛の乳を飲む習慣はあるか?」
「あるな。普通に料理に使ったりする」
「それを泡立てるとこうなる」
「泡立てる? 液体を?」
「まあ、色々泡立てる材料を入れてそうなるわけだ」
工程は知っているが、ゼラチンとか氷をどう用意するかとか面倒だしな。
それにこっちでは飯の種になりうる。
「なるほど、商売の種ってわけだ」
「そうだな」
「で、毒はありそうなのか?」
「いえ、ありません」
ステータスを確認しているようだ。
こっちではそれがあるから毒物の判定は楽だよな。
「じゃ、いただくか。メイヤも食べてくれ。商売に使うそうだからな」
「かしこまりました」
ということで、次はエカイたちもお菓子を食べ始める。
「ほう、これは……」
「……美味い。初めて食べる」
「素晴らしい……」
3人の口にもあったようだ。
こうして、出したお菓子は十分に満足してもらえたようだ。
「ふぅ、紅茶で確かに口の中がすっきりするな。コーヒーも合うんじゃないか?」
「合うな。ああ、コーヒーケーキってのもあるぞ。甘さ控えめだ」
そう言ってコーヒーケーキを取り出す。
本当に何味でもあるよな。
「へぇ、本当にコーヒーの香りがするな。うん、コーヒーの味がするのに甘いが、そこまでじゃない」
「見事なバランスですね」
「これ、少し苦い」
「私は好みだな」
大男の方は甘党のようだな。
目つきの鋭い方はこちらの方が好みか。
「で、食べながらでいいんで聞いてくれるか?」
「ん? そんな感じでいいのか?」
「まあ、受けるかどうかはそっち次第だからな」
ということで、俺はヅアナオの近くに駐留する軍の狼藉についての対処を話すことになる。
「なるほどな。確かに、そうなれば面倒だ。それを警戒してスラムのチンピラにはしばらく大人しくしとけって言っているんだがな。で、お前さんは何者だ? 調べたが近隣の出じゃないのはわかった。でもな、お前さんほどの腕が立つ奴を知らないってのはおかしすぎる」
「そこは当然だ。ほれ、東から海を渡ってくる商人に雇われていてな」
「あん? ああ、随分西側にある港のか?」
「そう、この戦争で親父さんが行方不明になったって嬢ちゃんから捜索も頼まれているんだよ。あと、商売ルートの開拓」
「そういえば、商業ギルドにゼランの嬢ちゃんが来ているって言ってたな」
「なんだ知っているのか」
「親父さんには俺も世話になったしな」
マジか。
どれだけ人脈広いんだよ。
「とはいえ、ゼランの嬢ちゃんは覚えちゃいないだろうな。あった場所は違うし、こんなに小さいときの話だしな」
なるほど、それだけ前か。
「知っているなら話が早い。荒れてしまえば商人は移動が難しくなる。だから、将軍と協力して押さえてくれって話なっているわけだ。まあ、証拠を集めるだけなんだが」
「納得だ。この戦争が続いてというか、その戦争のせいで親父さんが行方不明とかふざけているな。いや、良くある話だが。わかった協力しよう。ヅアナオにとってもいいことだしな」
「あっさりだな。まあ、ゼランは商業ギルドから固める。領主とは面識が無くてな、どういう反応をするかわからないのが懸念だ」
「あ~、領主はやめとけ。町の運営は良くもなく悪くもなくだが、よくいる平民を見下す貴族だ。商人が繋がりを持とうとするなら余程金銭を積まないと難しだろう」
そういうことか。
商業ギルドから手を付けたのは正解だったわけだ。
「ゼランの言うことは間違いなかったわけだ。協力の物資は提供する。このお菓子を含めてな。それで……」
こうして、ゼランとの面会を約束しつつ、これからのことを話し合うのであった。




