第490射:残る者が行うべきこと
残る者が行うべきこと
Side:アキラ・ユウキ
『良し、いざとなればジョシーと俺2人でさっさと脱出できるし、それで行くか』
と、そんな感じでウエストスターズ行きが決まる。
待ち合わせはノスアムの西砦となり、一旦田中さん、そして光と撫子、ゼランさんが戻ってくることになる。
まだ町の調査をしたいところだけど、軍のトップとそのほかの政治家を連れて敵の本部に乗り込むんだ。
下手に戦力を分散させるべきじゃないというのは分かる。
田中さんとジョシーさんがウエストスターズへ行っている間に、敵が再侵攻しないとは言えない。
その時は俺や光、撫子がおそらく正面に立って迎撃することになる。
ゴードルさんが指揮権を持ったけれど、指揮官ならなおの事前にでるわけにはいかないもんな。
「どうしたんだい? 何か不安かい?」
不意に声をかけられて振り返ると、そこには小柄な女性。
俺にとっては良きお姉さんであるノールタルさんがコップを持って立っている。
「はい、ホットミルクだよ」
「ありがとうございます」
温かいミルクを飲んで時計を見ると、あの会議から小一時間程度経っていることに気が付く。
「悩んでいるように見えました?」
「まあね。あの会議のあと沈黙したままだし」
「そっか」
「それで、何を悩んでいたんだい?」
「ぱ~っと話ちゃいましょ~。そして、私の胸に飛び込んでください」
気が付けばヨフィアさんもいて、いつものように笑顔だ。
「あはは、心配かけちゃいましたね。別に大したことじゃないんですよ。敵が攻めてきたら、俺たちが前に立つのかなーって」
「なるほど。確かに、ゴードルは指揮官だし、前線で部隊をまとめるのはアキラたちだね」
「まあ、それはそうですね。何せ現代兵器の使い方を習熟しているのは残っている中ではアキラさん、ナデシコさん、ヒカリさんだけですからね~。でも、大丈夫。私やノールタルさん、そしてセイールさんも一緒ですから」
「それは心強いって、戦場に出る気ですか?」
普通に受け入れてしまいそうだったが、そこはちゃんと言及しておく。
そうでもないと、無茶をするのは目に見えているから。
「何を言っているんだい。アキラたちが戦うっていうのに、私たちが出ない方がおかしいだろう?」
「そうですよ~。一応私たちもタナカ様やジョシー様に銃器の扱いは教わっていますし、火力は多い方がいいでしょう」
「あ~、確かに」
言っていることは間違っていない。
銃を使える人は、このノスアムでも一握りだ。
いや、ルーメルから来ている人たちに限っている。
田中さんがそうしたんだよな。
フリゲート艦に乗員しているメンバーだ。
そうでもないと、艦を動かせないからな。
ちなみにフリゲート艦は今でもノスアム近くの海に停泊している。
この西側の海岸は意外と切り立って、港を作れる場所が少ないようなんだ。
ゼランさんが昔行ったところも結構奥に行った所らしく、そこから西側の販路を作ったとか。
まあ、おかげでフリゲート艦が発見される可能性は限りなく低し、支援砲撃も内地に届くぐらいまで艦を寄せられる。
いや、ミサイルだから意味ないか?
と、話がずれたけど、その関係でノールタルさんもヨフィアさんも銃器は使えるようになっている。
上手いと思うけど、やっぱり田中さんとジョシーさん相手だとペイント弾まみれになるんだよ。
俺たちもだけど。
身体能力に関しては俺たちの方が上なのに、不思議なんだよな。
いや、戦闘経験とかの差っていうのは分かるんだけど。
それでも限度があるというか……。
「その顔はタナカ殿に負けたことを思い出しているね? でも仕方がないさ」
「そうそう。ノールタル様の言う通りです。タナカ様はぶっ飛んでいますから。あの女も」
相変わらずヨフィアさんはジョシーさんに撃たれたことを根に持っているね。
……普通は根に持つか。
何せ死ぬ寸前までいったし、カチュアさんはマジで心肺停止していたし。
あれで普通に仲間に成れるジョシーさんがびっくりって感じだよな。
そんなことを想像していると、ふと最初の不安が無くなっていることに気が付く。
「ありがとうございます。みんなでやれば怖くないですね」
「そうだよ。この砦だって、簡単に攻略されるわけもないし」
「ですね~。そこでゴードル様が指揮して、アキラさんたちが銃を構える。これは負けないでしょう」
確かに、別に平野で敵と向かい合うわけじゃないし。
この砦を盾に戦うなら、正直兵士のみんなに危険な目に合わせる必要もなかった。
何せ、オートタレットが存在するから。
オートタレットが何かというと、自動射撃砲台だからだ。
つまり、人がいなくても設定していれば、対象を認識して攻撃してくれる。
まあ、弱点がないわけじゃない。
自分で考える頭がない。
つまり、融通が利かないわけだ。
誰だけを残してくれというのは理解できないし、手加減しろというのも難しい。
何せ銃だし、基本的に当たれば致命傷で、手足ならと思うけど、その場合向かってくる可能性があるんだよな。
つまり、胴体が適切なわけだ。
命中率とかも考えると胴体なんだよな。
そして、胴体は基本的に当たれば致命傷や重症で動けなくなるから、無力化できる。
だから占領されると敵にも使われる厄介なモノでもあるけれど、そこらへんは俺たちが制御するし、最悪田中さんに頼んで一斉撤去という方法もある。
「うん、改めて考えてみると、負ける要素はないか」
「だろ? まあ、油断はしちゃだめだけどな」
「はい。油断だけは駄目です。アキラさんたちは、タナカ様が用意してくれた、防弾ガラスの後ろから指示をすればいいんです」
二人の言うように、油断は禁物だ。
流れ弾は……こっちの世界にはないけれど、流れ矢や流れの魔術が飛んできて死亡とかは普通にあるしな。
何せルーメルの闇ギルド制圧戦でその類の負傷者は多かったし。
「そうなると。ちゃんとした点検だな。監視に穴が無いか調べよう」
「その意気だね。まあ、その手伝いは難しいんだけど」
「他のお手伝いはおまかせくださ~い」
「はい。その時はお願いします」
俺はそう言って、まずは改めてノスアム砦の状況を確認する。
まずはさっき言った監視について。
一応、このノスアム砦は監視カメラやドローンでの監視を常時行っている。
軍事施設だからな。
もちろん、いざという時はノスアムの住人を避難させることも考えているから、外周はもちろん、内部もしっかりと見張っている。
こういう軍事施設が落ちるときって、敵が攻めてくるよりは内部からの攻撃によるところが大きいって田中さんもジョシーさんも言ってたからな。
敵が攻めてくる時は勝負が決している時が多いって。
まあ、確かにこの砦を数を揃えただけの西側だろうと東側だろうと突破することは難しい。
何せ、フリゲート艦からの援護射撃はもちろん、砦からの砲撃も出来るし、銃撃も出来る。
相手が現代兵器を持ち込んでいるならともかく、接近戦においても配置してある戦車もあるし、まともな損傷を与えられるかも怪しい。
これで負ける方が難しいよな。
だから内側だ。
「敵だって馬鹿じゃない。攻めてくるなら内側からの可能性は高い」
味方に扮して内部の制圧、物資の処分とかは田中さんも危惧していたから、俺たちというか砦を運用するための区画は厳重にセキュリティをかけてある。
カードキーはもちろん、指紋認証もやっているから本人以外は入れない……はず。
何か引っかかる。
何だろうと思いつつ、その区画の入り口の一つを拡大してみてみると、一人が開けてついでに人が一緒に入っているのが確認できる。
「紛れ込みだっけ? 確かオートロックのマンションとかはこういうのがあったよな」
わざわざカギを出して開けるのが面倒だって人がやる方法だ。
いや、これで侵入してよからぬことをする人もいると聞いたことがある。
これ、どうしたらいいんだろうか?
監視員を立てる?
それも買収されたら終わりだよな。
これは、一旦田中さんたちに相談する必要があるかな。




