第488射:上の答え
上の答え
Side:ナデシコ・ヤマト
『『そんなの敵情視察に行っています』』
私はいまだにお二人のことを見くびっていた、いえ、頭の中に常識というモノがあると思っていたのかもしれません。
戦争の最中、上の命令を無視した状態を誤魔化すためとはいえ……。
「うわぁ、本当にモノは言いようだ~」
横にいる光さんはあきれて顔を引きつらせ、ゼランさんはというと。
「なるほど。確かにこういう言い回しは商売でもよくあるな。まあ、賭け金が自分の命はもちろん部下もだけど。タナカ殿やジョシーが味方なんだ。私自身が下手を打たなければどうにでもなるね」
確かに、上に逆らうというのは力関係が負けていればあっという間に潰されますが、今回は違います。
私たちというか、田中さんの実力や戦力が圧倒的です。
それに嘘も方便というか、敵の情報を探るために敵の首都にいるというのは、間違いなく大事なことです。
これをダメというのは、こちらも信用なりませんし、送られてくる援軍についての信用度を図るにも良いことでしょう。
『こっちの言い分を聞いて怒るならその程度の奴ってことさ』
『それが分かったあとでもどうにでもなる。しつけてもいいしな』
しつけるって、それは……。
ジョシーさんの言葉にぞっとしていると、田中さんは気にした様子もなく話を続けます。
『それで、お姫さん。この言い訳で通ると思うか?』
『……はい。間違いなく、通るかと。それに報告した援軍に関してですが、どう早く見積もっても3か月から半年はかかるそうです。物資に関しては随時送るそうですが』
「え? 意外と時間がかかるんだ~」
不思議そうに言うのは光さん。
よくよく考えればそう不思議でもないのですが……。
『仕方がないのです。元々、この戦線を固定というか、消耗させるような素振りでしたから、増援の予定はなかったのです。そこで、応援を送るとなると、また連合で話し合いをして、どこから数を調達してくるのかという問題になりますから』
「あ~、予定してなかったんなら時間はかかるよね~」
「それにその連中が使う物資もかき集めることになるだろうしな。半年でも早いぐらいだと思うよ」
ゼランさんがそう付け加えて説明してくれます。
その通りです。
元々予定されていない出兵というか増援、そして物資。
何より、各国から集めるとなると協議も必要になるのは目に見えていますし、そこらへんの交渉もノウゼンを中心に白熱したはずです。どこも戦力を削ぎたくはないでしょうから。
元々、東側連合の目的が敵対する予定の連合の国の戦力を削りたいという目的がありましたから。
まあ、だからと言って勝っているのを放棄するというのは意味がありませんから、戦争の継続を決断したようですが。
『それで、上の連中は今回の結果、決断に関しては、どんな感じだったって? ああ、結論じゃなくてってことな』
確かに、どういう感情で戦争継続を決めたのかというのは気になります。
その様子から、私たちもとる行動は変わってくるでしょう。
『それに関しては、本陣の方々も、さほど驚いた様子はありませんでしたね。おそらく、土地を切り取れると思ったのでしょう。このまま使いつぶされて、国に戻り文句を言われるよりはマシと』
『あっはっは。まあ、その通りだよな。最初は敗北というか、なあなあの出来レースだったんだから、そこから評価が上がるような状況になったんだ。もちろん使いつぶされるのは嫌だろうが、このまま使われるだけっていうのも気に入らないだろうさ』
そうですわよね。
当初の予定ならば、適度に連合軍の兵を減らして、東側の紛争を鎮静化しようという目的もありましたから。
とはいえ、その兵を減らすというのは、あの連合の方々が死ぬということ。
指揮官たちも無事で戻ったとしても、敗北の責任はとらされるという、踏んだり蹴ったりな結末となるでしょう。
それならば、このまま侵攻して結果を出した方が良いという話ですね。
『そうか。まあ、なら後ろから刺される心配はないか。というか、援軍か。それは今の部隊とは別ってことだよな?』
『うむ。タナカ殿の言う通り、新規編成したのを送り込むという感じじゃな。本陣の戦果にはならないんじゃが、そこは考えておるようじゃぞ?』
『だろうな。援軍を出すって話だが、このままだと本陣の連中は現状維持ってことになる。そうなれば、別に戦果を挙げたわけでもないってことになるしな。普通は納得はしない』
『いや~。指揮官からすればルーメルである私たちが敵国を削り取ったんだから、戦果で十分通用するだろう? まあ、上はその戦火を本陣の連中のモノにしないために援軍を送ったんだろうが』
ジョシーさんの言い方で援軍の意味が理解できました。
「えーと、どういうこと?」
光さんはその言葉の意味が分からないようで、首をかしげています。
「光さん。簡単にいうと、援軍が今後戦果を挙げれば、あの谷間に構えている皆様の戦果ではなく、援軍を送りこんだ上の戦果だということができるという意味です」
「ああ、援軍を送ったのは上の人だから、別に今の連中の戦果じゃないよっていうってやつ?」
「そういう意図もあるだろうね。下手に戦果を挙げられると、今後東側連合に参加している連中の立場をあげなくちゃいけないしね。元々、消耗の予定の連中だ。そんな扱いをしたんだ。立場を上げられるとどうなるかってな」
「そりゃ~、仕返しされるに決まっているよね~」
普通に考えれば当然ですね。
死ぬように仕向けたのですから、復讐があってしかるべきでしょう。
『ちょっとまってください。というとは、まだまだ東側のトラブルは続いていくってことですよね?』
そこで晃さんがそう告げて、私と光さんも忘れていたことに気が付きます。
そうでした。
元々、上の連中の行動を聞いていたのはルーメル軍、つまり私たちにとって東側が敵になるかどうかという話でした。
最悪西側に付くことも話していましたが……。
『そうだな。問題は連合の指揮官たちが俺たちの実力をどう伝えているかってところだな。知っているなら今後、その援軍の連中がちょっかい出してくること確実だしな』
そうですね。
連合の指揮官たちは、使い捨てのようにされているというのがあり、ルーメルに寄り添ってはいますが、その代わり、手柄を上げられると困っている本国の人たちが敵に回るという言うことになります。
その手先である援軍が何もしないわけはないでしょう。
『ま、ルーメルのノスアム占有を認めている時点で、そこらへんで何か仕掛けてくるのは間違いないな。そっちの準備はしておけよダスト』
ジョシーさんも当然のように何か仕掛けてくると思っているようで、田中さんに注意を促します。
『だろうな。とはいえ、まだ数か月余裕があるしな。準備は任せたよ。まあ、ダストはこっちに来るんだろう?』
『そこはお前が戻って相談だな。戻る前に、情報をあらかた聞いてくれ、規模ぐらいわからないと聞きようがない。あと方角だな』
そうでした。
ジョシーさんの方は私たちをウエストスターズに案内するという話があったのでした。
敵の本丸で色々話し合いをするということでしたわ。
「ノスアムの人たちだけじゃどう考えても援軍の人にいいようにされそうだしね~。誰が今回みたいに残る必要があるよね~」
光さんの言う通りです。
援軍の人たちがどんな人物かはわかりませんが、今までの話から察するに、こちらにそこまで友好的だとは思えません。
『そうですね。ノスアムはルーメルの所有としたとはいえ、それは本陣、現在の本部にいる指揮官たちが私たちの力を見て決めたこと。上から派遣された援軍の連中が何を考えているかはわかりません。こっちの落ち度を付いてくることもあるでしょう』
『面倒ですが、そういうのはありますなぁ~』
『ま、そういう時はぶっ飛ばすのがいいんだが。わざわざ敵対するのも面倒だしな。対応策は話し合うか』
ということで、今度はやってくる援軍に対しての会議が始まるのでした。




