第486射:平和のために踏み出す
平和のために踏み出す
Side:ヒカリ・アールス・ルクセン
『というわけで、ウエストスターズの流れは理解していただけたでしょうか?』
う~ん、わかったような、わからないような……。
僕がそんな感じで首を傾げていると、撫子はうんうんと頷いている。
「なるほどそういうことですのね」
「あの話分かったの?」
「解るというのはちょっとアレですが、流れは理解できましたわ。難しく考えることはございません。ただウエストスターズはその力と知恵で上手く立ち回ったという話ですわ」
「あ~、そういう解釈でいいの?」
「いいですわ」
「だね。難しいことは考えずそういう風な結論でいいさ」
ゼランも同じ見解みたい。
「でもさ、結局僕たちがどう動くかって話は?」
「そちらに関してはジョシーさんにかかっていますわね」
「ああ、確かウエストスターズに来ないかって話になっているだろう?」
「あったね~。そっか、ウエストスターズに行けば詳しく調べられるわけか。あ~、でも敵の本拠地だよね?」
そこが一番気になる。
敵のど真ん中に行くってそれだけ危険だよね?
「いえ、今の話を聞く限り、敵と味方に分かれている可能性が高いですわね」
『そうだべな。戦争としたいメンバーと戦争はするべきではないってメンバーで分かれているみたいだべ』
ああ、そういう話だけど、敵がいるのは間違いないよね?
ゴードルのおっちゃんの言う通りだ。
『ま、どこの国でも友好的なやつと敵対的なやつがいるって話さ。私たちのラストでもあったことだよ』
『はい。あのクズに付き従う連中とリリアーナ様の良き人たちもいましたし』
ノールタル姉さんが苦笑いしながらそういって、セイールは顔をしかめてそういう。
なるほど~、確かにあの時のことを考えると同じようなものかな?
いや、デキラがリリアーナ女王を追い出して自由にやってノールタル姉さんやセイールに酷いことしていたし、向こうの方が悪いね。
勢力が拮抗?しているっぽいからまだ安全かな?
『ジョシーさんが行って派閥の対決が激化とかないかな~』
『あはは~。十分あり得ますね~。ウエストスターズが混乱してくれることの方がこっちとしては利点が大きいですし~』
会話に入ってきた晃の想像はまあいいとして、ヨフィアさんの意見は本当にありそうでこわいよ。
『実際あり得ることだしな。ジョシーによる変化を求めているんだからな。しかも話を聞けば戦争推進派の方が力が強いから、今回の東側への侵攻に繋がったわけだ。敗北の最大理由であるジョシーを始末しようと考えても不思議じゃない』
「え? でも田中さんをどうにかしないとダメでしょ?」
ジョシーさんをどうにかしても意味がない気がするけど?
『そういう根本の話じゃなくて、戦争推進派が主導権を握るために必要な事って話だな。ジョシーを倒せたなら、兵器も含めて怖くないって言い張れるだろ?』
「……いいはれるの?」
別に戦車を真っ向から破壊したわけじゃないのに?
『こういうのはその場の空気というか乗りも必要なんだよ。というか、現実はそんなもんだぞ。出来そうだからヤルだけだ。失敗を恐れて動かないっていうのは逆に少ない』
「あ~、そういわれるとわかるけど、戦争だよね?」
『だからこそ、ジョシーを倒して戦車恐れることはないってことで押し切るわけだ。ここで戦争中止というか停戦に持ち込んでみろ、戦争推進派の連中は下手をしなくても今回の敗戦責任を取らされる。将軍の命にかかわるといったが、それは上の政治家連中も同じだ。国に多大な損害を与えたんだから相応の責任を取ることになる。素直に負けました。間違っていましたってなると思うか?』
「それはならないよね~」
日本の政治家だってのらりくらしだし、こっちの世界の政治家なんて物理的に首が飛びそうだし、何としてもどうにかしようとするよねって。
「それ確実に何かトラブルがあるんじゃない?」
『あるだろうな。そこをどう利用するかって話だ。反戦派もそこら辺を上手く利用するつもりだろう。会話だけで済むとは思っていないはずだぞ』
と、そんな風に話していると、ジョシーがおっさんたちに質問を始める。
『ウエストスターズの今までと現在の立場は理解しました。しかし、その話だと私が赴けば戦争推進派と思い切りトラブルになりそうですが? そこはどうお考えですか?』
『それは当然あるでしょう。私たちも戦争をやめようというのです。向こうからすれば殺したいぐらいでしょうね』
『ですが、そこが弱点でもある。私たちはもちろん、ジョシー殿を排除できずに失敗してしまえば一気に流れを変えられるわけです』
『私が負けたというのを補強するのに十分となるでしょう。あはは、情けない限りではありますが』
『なるほど。一戦交えるのは既に想定済みだと』
ジョシーも特に焦ることなく話を聞いている。
いや~、殺されるかもしれないってところで普通の対応だね~。
『ま、和平を結ぶときは代表者にちょっかいを出そうとする連中は山ほどいるしな。俺たち傭兵はそういう連中の排除もよくやったもんだ。映画ほど派手じゃないが、敵の拠点とかがっつり制圧に向かったな』
「え、マジ?」
『本当だ。だって和平の使者が殺されてみろ。和平がおじゃんだぞ? 戦争をしたい連中にとっては使者を殺すだけでいいんだから躍起になる。あっちは銃で撃つだけで良いからな』
「……それを考えると物凄く難しいのでは?」
『もちろん。元々和平の使者がくるってことはほぼ戦争は終結しているからな。和平の使者を殺したところで和平がならないってこともまずない』
「え? 殺す意味ないじゃん?」
『それでもってやつだ。和平の調印はのびるだろうし、可能性はゼロじゃない。まあ、その前に大規模な掃除があるから戦争したい連中は軒並みって話になるだろうし、調印式の町なんざ警備は異常になる。そこを生き残るっていうのは難しいぞ』
確かにな~。
それぐらいはするよね。
『まあ色々言ったが、これは現代、地球の話だ。情報網とか物流とか、諸外国の反応とかその他もろもろの要員があってのことだ。だがこっちでは別に世界各国からたたかれるわけでもないからな』
「その分、行動を起こしやすいというわけですね」
『そういうこった。それをジョシーもわかっているだろうし、こうなると……』
そう田中さんが言葉を切ると、そのタイミングでジョシーが口を開き。
『わかりました。ウエストスターズへの訪問。受けさせていただきます』
あっさりと承諾した。
まあ、あのジョシーならやるよね~。
何せ合法的にドンパチできるようなもんだし。
『おお、それはありがたい』
『ですが、今からすぐにというわけにもいきません。ノスアムにいる本隊と連絡を取る必要がありますが、そこはよろしいでしょうか?』
『ええ、それはもちろん。こちらの身の安全はもちろん、戦争推進派の連中に忠告するためにも戦車をもっと多く持ち込んでもらえればその分交渉もしやすくなりますので検討いただけませんか?』
ああ、しかも戦車をもっと増やせとか向こうも言ってくるし。
その場合、ウエストスターズの王都が火の海に早変わりしそうだよね。
『わかりました。代わりにもっと同行者が増える可能性もありますが、そちらはよろしいでしょうか?』
『当然のことです。むしろジョシー殿の上司、上官殿にお越しいただければ、今後の対応もスムーズかもしれません』
うへぇ、しかも田中さんを呼ぶとか。
ウエストスターズの未来はもう……いや、和平というか戦争をやめようって話だよね?
だから、戦いになるにしても小規模だよね?
そんなことを考えている内にジョシーが一旦こちらに帰還する期間について話し合っている。
これ、僕たちも回収されて、ノスアムで大会議?
というか、僕たちもウエストスターズに行くことになる?




