第485射:よくわかる立ち回りの話
よくわかる立ち回りの話
Side:タダノリ・タナカ
内乱から国を新しく作り、小国を飲み込んで大きくなったのは分かった。
まあ、良くある話というやつだ。
国が大きくなる時は、不思議なぐらいスムーズに見える。
内情は大慌てまとめていたかもしれないが、傍から見れば物凄く短時間に済ませている。
話を聞く限りおそらくは、民衆はもちろん領主には手を出さず、国主だけを倒したってパターンだろうな。
そうでもないと、短時間の制圧は無理がある。
そして問題はこれからだ。
『ウエストスターズがいかにして大国をまとめ上げたのか』
そう、最大の謎だ。
小国が纏まって大国になることは多々ある。
そしてそれは新しい戦乱というとかっこいい言い方だが、新しいトラブルの元なわけだ。
ましてや、連絡関係が脆弱すぎるこの世界で。
地球でも即時連絡と状況把握が出来たとしても、国家間の争いは止められないというのが現状。
それでどうやって、出来たばっかりのウエストスターズが各国の代表みたいな感じになったのか。
『とはいえ、先ほども申し上げましたが、私たちは当時のウエストスターズの内情は詳しく知りません。憶測も含みますがそこはご了承ください』
おっさんはそう改めて言って説明を続ける。
『当時、ウェストスターズが近隣の小国を飲み込んで大国が無視できなくなった時のはなしです。私の所属する国では流石に中央に大国が出来るのはよろしくないとして、派兵を考えていました。帰属している小国からの救援要請もありましたので』
話の流れ的には普通だな。
ウェストスターズが小国を次々と落として大きくなっているので、脅威を感じた小国が大国に助けを求める。
こういうのをずっとやっていて、中央のバランスは保たれていたわけだ。
今回も同じようにウエストスターズを潰して終わりになるというのが、おっさんの当初の感想だったはずだが……。
『しかし、私たちの国はウエストスターズに対して動けませんでした。理由に関しては、別に問題が無かったからです』
『はい?』
『疑問があるのは当然です。中央に大きい勢力が出来るのは問題だというのが当たり前での話でしたから。そこをウエストスターズは覆したわけです。具体的には飲み込んだ小国が所属していた大国に渡りをつけたわけです』
『……つまり、交易ということでしょうか?』
『その通りです。中央の国々は緩衝地帯ではありましたが、別の存在意義もあるのです。大国同士の交易を含むやり取りです』
これもまあ、ある話だな。
敵として認識してはいるが、いや認識しているからこそ、敵の動きは把握したい。
だから、敵の情報を得るために中に入る手段を模索している。
もちろん、簡単に敵対するようなこともないように動くだろうし、交易をして相手の物資の動きを図ろうともするだろう。
『なるほど、小国が多い分というわけですね?』
『その通りです。小国が多い分、色々面倒が多いのです。もちろん、ウエストスターズのような中央に大勢力が出来る方がデメリットが大きいと思っていたからこそ、今まで存在を認めるようなことはなかったのですが……』
『そこを上手くやったというわけですか』
『その通りです。小国が行っていた大国同士の繋がりをそのまま、というか、むしろそのままよりも安く行うと宣言したわけです。この宣言に私たちも驚いたものです。こういうのは情報を遮断するものなのですが、堂々と通ってくれ、道中の安全は確保する。料金は前よりも安くすると』
あ~、そう言われて納得した。
国防を考えると他国の要人の通行を許可するなんざ普通はありえない。
とはいえ、ここは条件が違ったわけだ。
何せウエストスターズにとっての仮想敵国は周辺の大国全てなわけだ。
一国ではないというのが重要なんだよな。
一国あるいは二国が仮想敵国ならば、そこの人物を受け入れるというのは敵の破壊工作を受け入れるのと同じだ。
だが、このウエストスターズの仮想敵国は中央に興味を持っている大国全て。
そしてのその大国は小国を通じて、かく大国の情報などを握りたがっている。
つまり……。
『敵の敵は味方と』
『面白い言い方ですな。まあ、あながち間違ってはおりませんな。そう、下手にウエストスターズを攻撃すると、その情報源が無くなるわけで、大国としては問題があるわけです。つまり、情報源を盾にとって大国と渡り合っているというわけですな』
ウエストスターズを利用したい国と、潰したい国とのバトルになりかねないという話だ。
ウエストスターズだけであればどうにかなるだろうが、大国が攻撃を仕掛けて時点で、ウエストスターズには必ずその大国に反感を持つ大国が味方に付くことになる。
余程の正当な理由が無ければウエストスターズを潰すことを賛同しない。
何せ利用価値があるんだから、守ろうとするだろう。
つまり、ウエストスターズ国内での敵国の活動に関しても、他の大国が手を打つわけだ。
下手にウエストスターズ国内で優位に立ってもらっても困るからな。
『……冷戦か』
ぽつりとつぶやいたジョシーの言葉は俺に聞こえる。
冷戦。
まあ、当たらずとも遠からずって所か。
地球のように世界破滅の兵器はないが、こっちの人からすれば西側の国々が大戦争を始めれば世界の終わりと変わらないか。
だから水面下で戦うしかないと。
この発想、なおの事地球の連中に近いな。
とはいえだ。
『お話は分かりましたが、よほどうまく立ち回れたのですね』
『そう思います。普通、このような状況に持ち込む前にウエストスターズが潰れるはずなのですが、それを上手く躱した。いえ、細かい小競り合いはあったようですが、それを制したと』
『ええ、魔族を使ってその戦いを制した。小競り合いというは嘘ですよ。隠してはいますがね、ある大国がウエストスターズを認めず潰すために軍を動かしました。数はウエストスターズを潰すには十分と言っていい数であり、それを率いる将軍たちも勇猛果敢な者たちでした』
やっぱりそういうのはあったわけか。
そして結果はというと……。
『ですが、その軍はなんと一晩にて全滅。文字通りです。将軍も含めて指揮官クラスはほぼ捕縛、兵士は半数が死傷という大惨事だったそうです』
『その話は私は初耳ですな』
『私もひそかに手に入れた情報ですので。とはいえ、魔族が強力だという話は聞いたことがあるはずです。おそらくその戦いが原因かと』
『『なるほど』』
実績も十分。
大国が自信をもって送った軍を完封したと、その大国は心底肝が冷えただろうな。
ウエストスターズがそのことを他の大国に告げれば寄ってたかって叩かれただろう。
何せそこまで多くないかもしれないが軍を損じているわけだ。
そこら辺を上手く使ったな。
一国が味方に付いたわけだ。
『とまあ、ウエストスターズを中心に国内が急速に安定し、そこで大国たちが大同盟を結んだわけです。とはいえ、問題はなくなったわけではありません。確かに西側の国々は安定しましたが、代わりに軍人は仕事を失いかねませんでした。なにせ、大きな戦争は起こりえなくなりましたからな』
だな。
起こるとすれば西側全部を巻き込んだ大戦争だ。
そんなの余程じゃない限りはないだろう。
どこかの国を生贄にして終わりにするのが無難だ。
やられた側は必死に抵抗するだろうが。
『その代わりに東をというわけですか?』
『ええ、そういう話ですな。まあ、反対する者も多かったのです。何せ西側でも軍が動く理由は多かった。魔物が多くいる地域もありますし、そこを安定させて更なる発展をという話もあったのですが……』
『軍人というか領地の増加は望めないですからな。何せ安定させるといってもその土地は既に誰かのモノ。もちろん未開拓地域もありますが、誰が資金を出すかという話になります』
まあ、そうだよな。
短絡的だと思う人がいるかもしれないが、人のモノを奪った方が良いというのはどこも同じだ。
強盗が人がいない荒野に向かうわけもない。
そう言う話だ。
『というわけで、ウエストスターズの流れは理解していただけたでしょうか?』
色々謎なところはあるにはあるが、ウエストスターズというのが俺たちの目標だというのはわかった。
さーて、これからどう動くか。




