第480射:戦車試乗会
戦車試乗会
Side:ヒカリ・アールス・ルクセン
『では、今から走行性能をご覧いただきます』
な~んかジョシーさんが、こう受付嬢? いや、なんかこう展覧会とかで商品説明しているお姉さんみたいな感じで凄い違和感があるんだけど……。
「リサナの皆さん、ついて行けているのでしょうか?」
「さあ? 装甲と走行の違いも分かってないんじゃない? ああ、いや翻訳されているからわかるのかな?」
「くくくっ、あはははっ! はらいたい! ひっー!」
ゼランは爆笑しているし、撫子も僕もあまりの茶番にしらけている。
とはいえ、リサナにいる偉い人たちは戦車の性能の突出振りで口が開いて閉まらないみたい。
まあ、剣は通じないどころか、ハンマーはもちろん、衝車で攻撃してもびくともしないんだし。
いや~、重量的に無理なのは分かっているけどさ~。
それを実演させるとかびっくりというか、向こうもなんでやる気になったのかな?
いや、戦車がそこまで丈夫でないと思っていたのかな?
その疑問が撫子に伝わったようで……。
「別に不思議な事ではありませんわ。自分で試すというのは、一番本人が納得できるものなのです。よく言うでしょう。百聞は一見に如かずと」
「えーっと、確か、百回聞くよりも、一回見る方がいいってやつだっけ?」
「ちょっと違いますわ。百回というのは人から何度も聞くという意味で、一見というのは自分の目でみるということですわね」
「同じ気がするけど?」
「自分で体験することが大事というと違うでしょう?」
「ああ、そういわれるとわかる」
確かに、自分で体験するほうが分かるよね。
「つまり、体験することが大事ってわけか」
「その通りです。いくら見せられても、こちらで何か細工をしているのだろうと思われればそれまでですわ」
「確かに」
向こうは魔術とかあるし、それでごまかしていると思われればこっちの意図も伝わらないだろう。
敵ならそれでいいけど、リサナに集まっている人たちは反戦派って言っているし、ちゃんとこちらの実情を知らせる方がいいってことか。
そんなことを話している間に、戦車が走り出す。
ブオオオ……。
「「「……」」」
こっちまで耳を押さえたくなる走行音。
離れてはいるけど、ここまで聞こえてくる。
いや、車みたいにはならないと思っていたけど、思ったよりもキャタピラの音が凄いね。
前一緒に行動していたはずだけど、僕たちは専用の指揮車両だったからそこまで気にならなかったのかな?
そして、見学しているリサナの偉い人たちも無言になっている。
追加でさらに演出がされる。
目の前にはちょっと細めの木があるけれど……。
バキボキバキ……。
あっという間に木々をなぎ倒していく。
さらには巨木とまではいわないけれど、幹がしっかり太い木を目の前にし。
ドンッ!
なんと砲撃した。
幾ら幹がふといとはいえ、複合装甲でもなんでもない普通の木はその幹に大穴をあけて倒れる。
そして、倒れたとはいえ、走るには邪魔な切り株というか根本が残っているのに、それを気にせず進む。
いやもちろん、乗り心地は最悪だろうけどさ。
「思ったより、能力を見せるね。いいのかいあれ?」
「見せるというのは戦車の性能の事でしょうか?」
「ああ、確かに戦車が強いというか、まあ見せる必要はあるが、砲撃もいるかい?」
「攻撃手段がバレるってこと?」
「そうそう。砲から攻撃されているっていうのは流石に馬鹿でもわかると思うけどね」
確かに、攻撃手段がバレると対策はされそうだけど……。
「戦車は砲塔も回りますからね。ほら」
撫子がそう説明して言う間に、映像の戦車隊もわざと目標の木々から離れて、木々の周りを走りながら、砲塔だけを横に向けて砲撃。
あっという間に岩だった目標が粉砕される。
「あ~、確かにできるけど、そこも見せるのか。いや、これが正解か?」
「ゼランは砲塔が回るっていうのも隠しておいた方がいいと持っていたの?」
「まあな。こういうのは対策されるからな。とはいえ、改めて考えると、あの走行速度、そして強度があって、射角が自由となると対策しようもないよな」
「まあね~」
こっちの人じゃってつくだろうけど。
地球だと戦車でも破壊できるような兵器なんて結構あるからね。
まあ、それがどれだけ用意するのに大変とか費用が幾らかかるかはわからないけど、田中さんなら敵に戦車があれば対戦車兵器を遠慮なく使うだろうなってのは予想が出来る。
と、ゼランさんの話に戻すけど、対策は本当にしようがない。
「あえて、言うなら田中さんがいってたのは、落とし穴だっけ?」
「ええ、落とし穴、あるいは戦車が越えられないような溝、塹壕があれば戦車はそれを超えることは出来ません」
「あ~、重い故か。でも、落とし穴にしても、堀にしても、戦車が通れないほどって余程だぞ?」
「まあ、それはね」
「それに、砲撃があるだろう? 近寄らなくても攻撃できるのなら意味がない気がするな」
「確かにその通りですわね」
うん、こっちの人から見るとなんて厄介な兵器なんだろうか。
そんなことを話している内に演習というか、実演が終わったようで、リサナの人の前に改めてジョシーがたって戦車を改めて見せる。
その説明を受けているリサナの人たちは顔を固くしている。
「あれはどうしようもないって思っている顔だな」
うん、私もそう思う。
というか有効な兵器がないなら、一般人の僕たちだって戦車相手にはどうしようもないって思うほどだし。
こっちの世界の人が鋼鉄の戦車をどう止めるとか想像できない。
いや、魔術があるかな?
でも、大岩だろうとぶっ壊す戦車相手に有効な魔術とか、僕たちでも思いつかないよ。
あ~、一応周りの炎で囲むとか?
息が出来なくなるしさ。
……うーん、普通に突破されそうだけど。
「そういえば、船もあったな」
「最近は戻っていませんが、フリーゲート艦ですわね」
「そうそう。あれも物凄かったよな砲台も積んでいたし」
砲台よりも、ミサイル攻撃が出来るのが一番やばいんだけどね。
そんなことを話している内に、戦車は整列して停車する。
『最後にこちらにどうぞ』
ジョシーはそんな風に一台の戦車に案内する。
その戦車はなぜか荷台っぽいところがあって、そこにリサナの偉い人を案内する。
わざわざ手すりどころか、網の柵もあって、落ちないようにしている。
傍から見れば不格好な戦車だとおもう。
上にあれだけ広がればただの的だし。
そしてどこかでも見たことがあると思っていたら、わかった。
あれだ、ママチャリなんだ。
いや、どちらかというとスポーツ自転車にかごを無理やり付けている感じかな?
まあ、観光にはちょうどいいかもしれないけれど。
実際、リサナの偉い人たちは興奮した様子で、戦車の荷台に乗っているし、ちょうどいいと言えばいいんだろう。
正直、安全性を考えると装甲車とかの後部に乗るべきなんだけど、それだと体験としては微妙だよね~。
『『『おおおっ……!』』』
そして走り出す戦車に乗っているおっさんたちが、興奮の顔をしているのが本当に微妙というか、いや、男の子はいくつになってもああいうモノかな?
僕もああいう兵器に乗るとワクワクするし。
「なっさけない顔をしているね」
「写真を印刷しておきましょう。あとで何かに使えるかもしれません」
「いいね。いざという時に使えるかもしれない」
なんか、ゼランと撫子があくどい顔しているし。
そして、戦車の試乗が終わって、リサナの偉い人たちとジョシーは城の中へと戻っていく。
「さ~て、戦車を体験して、これからの話はどうなるかね~」
「今からが本番ではありますけど、内容は決まっている気もしますわね」
「そりゃ、戦車を見ちゃったしね~」
「まあ、どういう風になるのかはちゃんと聞き届けないとね」
ということで、ワクワクの戦車体験もおわり、いよいよ向こう側がこちらに対してどういう選択を取るのかということになる。
僕としても、少し緊張しているんだけど、ジョシーはどちらでもいいんだろうね。
笑顔でかかってこいとでも言いそうだ。




