第478射:敵にも色々ある
敵にも色々ある
Side:アキラ・ユウキ
『こちらです』
そんな案内の言葉が耳から聞こえてくる。
いま、ノスアムの砦では俺を含めてゴードルさん、ノールタルさん、イーリスさんたちが集まってジョシーさんから伝わる音を真剣に聞いている。
なにせ、今ジョシーさんは敵の拠点に踏み込んで話し合いを始めているからだ。
確か、リサナ王国っていうんだっけ?
ノスアムが所属している国とは隣同士の国らしく、つい数年前までは領土の取り合いをしていたと、ジェヤナやその家臣たちから聞いた。
その立ち位置から、リサナは前線基地に近いんだろうと田中さんは言っていた。
まあ、森に隣接しているよりはマシかな?ぐらいが俺の感想だ。
戦争をしたことがあるわけでもないし、これが俺だよな。
と、そんなことを考えているうちに、席に案内されたのか、椅子を引く音が立ち、そこに座ったんだろうジョシーさん。
カメラがあればもっとわかりやすいんだけど、流石に向こう側に気が付かれるかもしれないってことでカメラというか、ドローンや隠しカメラは用意していないらしい。
『では、改めて来訪を歓迎いたします。ジョシー殿』
『ええ、お招きありがとうございます。デシア将軍』
普通のというのはわからないけど、俺にとってはジョシーさんが丁寧に品のある声音で返答するのはすごく違和感がある。
いつもガハハって笑っているイメージしかないし。
『そして、同席している方々のご紹介をさせていただきます。まず、こちらの……』
そう言って紹介が始まるんだけど、どうも聞き覚えのない役職を言われて、ピンとこない。
何だろう、あれだ妙な国際集団の管理何とか事務次官とかそういうの。
一緒に聞いているノールタルさんとかゴードルさんとかはわかっているのかちょっと視線を移してみると。
こちらの視線に気が付いてすぐに首を横に振る。
やっぱりわからないよな。
さて、向こうの立場が分からないとなるとどうしようもないよな~と思っていると……。
『丁寧なご紹介ありがとうございます。ですが、ご質問してよろしいでしょうか?』
『はい、何でしょうか?』
『はい。聞き覚えのない役職だったので、どういう立ち位置なのかと思いまして。何をお話に上げてよいのか分からず、申し訳ないのですが』
ああ、ジョシーさんもわからなかったんだ。
いや、あれでわかったら逆にびっくりするか。
『これは失礼いたしました。確かに、この役職は私たちもまだ慣れていないのですよ。わからなくて当然ですな』
『私たちもということは、その役職に就いたのは……』
『はい、ここ数年のことですな』
いや、数年も経っているんかいと思ったけど、向こうの反応は違った。
『今までは財務や軍部などわかりやすかったのですが、では改めて西統合国西答1等委員のダサナと申しまして、えー、この西側の国の半分、分かりにくいですが、西側諸国を東西にさらに分けて、その西側の外交官という、なので西に答えると書いているという感じですね』
マジで向こうの人も把握しきれていないってやつか。
そして名づけがめんどくせえ!?
『なるほど、それでそのあとの1等委員とは、階級のようなものととらえてよろしいのでしょうか?』
『その通りです。3、2、1、そして特級というのがありますが、特級は中央から派遣されることになっておりまして、3名しかいないのです』
『3名ですか、そして中央からとなると、実質トップは1等委員のダサナ殿ということですね』
『その通りです。特級というのは臨時で用意されるもので、現在はいないとなっています』
うーん、なんだその特級って?
意味がよくわからないんだけど、とりあえず今は偉い人っていうのは分かるけど……。
『お話を聞く限り、今回の戦争というのは西側で処理が出来るという判断なのでしょうか?』
『今のところはとつきますな』
『今の所ですか』
『はい。今回東側……ああ、なんといえばいいですかな。山脈向こうという意味での東側ですが、そちらとの戦争は今回の抵抗というとそちらからすると不快かもしれませんが、想定外だったのですよ』
『どのように想定外だったと?』
『……その、東側が大した抵抗も出来ずに敗走するだろうと』
確かにこっちを下に見ている話だな~。
というか、これって俺が想像していた通りってことか?
『ふむ。その想定に至った理由を聞いても?』
『今となってはおろかな話ですが、東側はいまだにまとまっていないという情報を得ていたのです。なので、私たちの実績というのはおかしいですが、脅威を排除することを目的とするのが今回の戦いだったのです』
『脅威というと、東側の事でしょうか?』
『東側全体というよりは、西側に面している一国を目的としていました』
ああ、あの山脈の入り口が領土に入っている国か。
『そこを押さえれば、山脈の出入口を封鎖でき、なおかつ戦力を集中できると判断したわけです』
『確かに、あの山脈を確保できれば、今のように戦力を分散する必要性はないですね。ですが、現状は違います』
『その通りです。東側はまとまり、こちらに抵抗をしてきました。予想外でしたが、それも何とか撃退出来る見込みではあったのですが、そこをあなた方に阻止されたわけです』
『なるほど』
ここまでは俺の予想通りだよな。
戦線がかなり分散していて、どこを押しても別の所から押し返されて、拠点を維持することが難しいって判断してたもんな。
そこで田中さんたちが介入してあっという間に最南端の最前線が突破されてノスアムで落とされたんだから大慌てってことか。
『それで、これからはどういうことを想定しているので?』
『それを話し合うために来たわけです。元々こちらとしては安全保障のための進軍だったわけですが……』
『それを言うのであれば、東側はそちらの侵略行為に対しての抵抗としか言いようがありませんね。後方かく乱などもしていたようですし』
『やはり、そちらは失敗していましたか』
あっさりと認めたな。
こういうのは否定するのが当然だと思っていたけど。
『意外ですね。認めるのですか?』
『元々、私はこの侵略行為に対しては否定的でしてな。向こう、つまり東側が攻めてきた時に攻めあがるべきと進言していたのでね』
『今回の戦いはこちら側でも色々と意見がわかれているのだよ。こうして反撃を受けている結果を見れは私たちの意見が間違いでなかったという証明ですからな』
『おや、デシア将軍も戦いには否定的だったのですか?』
びっくりな発言だ。
此方に攻め寄せたというか、ノスアムを取り戻すために来たのは間違いないけど、あれだけの大軍勢を率いていて戦いはしたくなかったというのは……。
『否定的ですね。何せ、外征です。しかも土地勘もない。そちらもそう言った理由で私たちに話し合いを求めてきたのでは?』
なるほど、向こうも西側に攻め込むっていうのはリスクがかなりあると思っていたわけか。
納得は出来る。
けど……。
『間違ってはないが、別に出来ないことではないんですよ。それはデシア将軍は御存じかと』
『ああ、その通りだな。国を潰すだけなら簡単に出来るだろう』
『ふむ。報告は聞いていたが、そんなことが出来るのですかな?』
『そうでもなければ、こうして大軍に勝ってここで話はしていませんよ。ですが、信じられないのも当然ですから、後で実物をお見せいたしましょう』
『それはありがたい。とはいえ、その実力を知ることが一番大事なので、話題がでたところで見せていただけませんか? それで話がスムーズに進みます』
確かに、報告を受けた側としては信じられないよな~。
こっちに馬を使わない車なんて存在しないんだから。
とはいえ……。
『今からですか? いいですが、どうやってその強さというのを証明してよいのか困りますね』
ジョシーさんの言う通り、ダサナさんたちが納得するようなことってどうすればいいんだろう?
実際人をひき潰すわけにもいかないだろうし……。




