第472射:自分たちが居ない場合
自分たちが居ない場合
Side:アキラ・ユウキ
正直、俺は暇をしている。
いや、モニターの監視とか、砦の運営とかで忙しいことは忙しいのだが、拠点から出ることがなく、そういう意味で変化が無く暇だということだ。
これなら、ヅアナオの町への調査に参加していればと思う所だ。
田中さんもスラムの大きな屋敷に行って話をしていたし、光たちは本屋を探している。
不謹慎だが、楽しそうに見えるわけだ。
見知らぬ土地を探索するって、ワクワクするし。
……なんて思うが、光たちが集める情報を聞くと、そこまで自由に調査が出来るわけでもないようだ。
西側の軍は負けたことを伝えていないようで、ピリピリしている感じだし、下手に動くと危険だというのが分かる。
「ジョシーさんの方もまだ本拠地って所に到着していないしな」
ジョシーさんは西側の将軍と一緒に本拠地に行って話をすると言ってついて行っている。
ここで話し合いが無事にできれば戦争が終わるかもしれないんだけど、その手の情報が一切なさすぎるっていうのが不思議だって全員が首を傾げている。
ここまで情報がないモノかって。
ネットでもどこかの国が戦争しているなら情報が出回っていたけど……。
いや、ある意味同じか?
無作為に色々な情報が出回っていて、何が真実かわからないってやつ。
とはいえ、田中さんやジョシーさんが言っていたけど、戦争には何らかの目的があるっていうのは俺もわかる。
ここまで被害がでることを、無意味するなんて言うのは普通はありえない。
元々戦争自体普通の発想じゃありえないと思うけど、それをやっているんだから、何かしら理由があるはず。
そう少し考えていると、あることに気が付いた……。
「そういえば、ジェヤナたちに何で戦争が始まったかは聞いたことなかったか? 国が連合に入ったというのは聞いたことがあるけど……ん?」
ちょっとまて、ノスアムは敵との最前線の町ではあるけど、補給とかそういったことの話を聞いたり、連合の話を聞いたぐらいで、戦争理由を聞いていなかった?
いや、何が理由で戦争が始まったのかはさっぱりわからないとはいっていたっけ?
ああ、思い出した。そう、聞いていた。
しかし、何か引っかかりを覚える。
「なんだろう? 引っ掛かりは覚えるけど、何が理由かわからない……」
そんなことを考えていると……。
「おーい、アキラ。パン焼きたてだけど食べるかい?」
「あ、ノールタルさん」
振り返ると、そこには本当に焼きたてのパンを持ってきているノールタルさんの姿がある。
これでもラスト王国女王リリアーナのお姉さんなんだよな。
姿がは小柄な女性で、下手をすると子供にも見えかねないんだけど。
「なんか難しい顔をしているね。なんかあったのかい?」
そう言いつつ、パンをお皿に乗せてくれて、牛乳も出してくれる。
気が付けば、お昼の時間だったようだ。
「ええ、なんか引っかかりを覚えていまして……」
「引っ掛かり? 何か監視でおかしい点があったのかい?」
「いえ、そちらではなく、今回の戦争理由です」
「戦争理由?」
「はい。東側が西側に仕掛けている理由です」
「あ~、いまだによくわかっていないよね~」
俺の言葉に納得がいったのか、空いている椅子に腰かけて、モニターへと視線を向ける。
そこには、ヅアナオの付近で待機している軍が駐留している。
何とかジョシーさん率いる戦車隊に負かされたのを隠そうとしている。
……隠そうと、している?
「なにか、わかりそうな……」
「あの軍に何か引っかかっているのかい?」
「見たいです。えーと、ここまで出かかっているんですけど」
なんか、気持ち悪い。
答えが目の前にあるのに……。
「あの軍ですか」
「お、セイール。見回りはいいのかい?」
「ええ。あとはゴードルさんに任せています。そろそろパンが焼けるから取ってきてくれと。それでに香りに誘われて」
なるほど、確かに良い香りだもんな。
しかし、最近セイールさんも最近は普通に感情を見せるようになった。
あったときは酷いもんだったしな。
まあ、慰み者にされていたんだから当然だけど。
いや、女性をそんな目で見るのは失礼だよな。
そんなことがあっても立ち直っている立派な人だ。
「それで、2人で何を話しているんですか?」
「ああ、アキラがね。何か引っかかるんだって、この戦争理由」
「戦争理由ですか……。それが分からないから調べに行っているのでは?」
「その通りです。だけど、なんか忘れていることがあって」
「忘れていること?」
「あはは、ごめんなさい。何か混乱させるようなことを言ってしまって」
「いえ、アキラさんが言うのですから、何かがあるのでしょう。しかし、あの軍も可哀そうに」
「可哀そう?」
「そうだね。タナカ殿たちが来なければ東側は押し込めたんじゃないかな?」
「あ」
その言葉で俺の引っ掛かりの答えが見つかった。
「そうだ。この状況は俺たち、いや、田中さんがいたからもたらの結果ってことだ」
「ん? そうだよ」
「はい。そうです」
何を当たり前のことをって感じで、首をかしげる2人に俺はそのまま説明を続ける。
「つまりです。本来は俺たちが居なければ負けていたってことです」
「ああ、そうだろうね」
「そうですね」
「今回ノスアム奪還に軍が集まったとは言っていましたけど、5万もの人数が僅か一、二か月で集まるわけがありません」
これが地球なら集まっても不思議じゃないけど、ここはすぐに連絡が取れる機器もないし、人を集めるにも農民とかを雇う制度だし。
連絡してから人を集めるだけでも一月はかかるだろうし、それを率いる領主たちを集めるのにも時間がかかるから、事前連絡も含めると半年は最低時間はいるはずだ。
幾ら、敵が空を飛んで情報や輜重を輸送できるとしてもだ。
末端まで空を飛んでの物資や連絡をしているとは思えない状況。
結局南端の戦線には敵の航空部隊は来ることが無かった。
つまり、敵はそういう輸送や連絡手段はごく僅かか、無いのかってことになる。
だから、おかしかったんだ。
ここまで話すと俺の言いたいことが分かったのか。
「そうか。つまり、敵の本当の目的はともかく、軍勢の多さを考えると……」
「敵は東側を押し返そうとしていたってことでしょうか?」
「多分、上手く行けば西側に攻め込むような戦力だと思います。ノスアム奪還に集まったのは5万を超える大軍隊です。対してノスアムは俺たちと南側に戦力をある程度集めて1万。他の方面軍を合わせても同数に届くか微妙なところです」
そう、俺たちというか東側は既にこの状況で一杯一杯だったのは山脈の司令部でそう聞いている。
もともと、撤退というか、戦場の固定化みたいなのを狙っていたという話だ。
物資も届くかどうかって話だったし。
「そうだねぇ、そんなところに5万も一点集中されると、普通なら突破されるねぇ」
「はい。普通は無理な数字です。1万で砦にでも籠もれればいいですけど、1万も収容できるような機能的な場所と砦は存在しませんでしたし、糧食品も俺たちが居なければかなり厳しいモノだったはずです」
「それこそノスアムから無理やりだったかもしれません」
「その場合、ノスアムから好意的に迎えられていたとは言い難いです」
「それはね。……つまりノスアムも敵に回る……いや、もともとノスアムも落とせなかった?」
改めて田中さんを中心とする俺たちが居なければ、ノスアムが落とせただろうか?
そう言う所に思い至ったみたいだ。
「俺もそう思います。元々、あの戦力じゃノスアムどころか南の戦線を突破するのも難しかった」
あそこも田中さんの戦車隊がいたからこそだ。
つまり、この状況の変化は田中さんがいたから。
居なければ、集まっていた軍が今頃は東側に攻め込んでいた可能性もある。
「これ、タナカ殿に連絡する必要があるんじゃないか?」
「ですね」
ということで、俺はこの話を至急田中さんにすることになるのであった。




