第469射:やっぱり情報は偉そうなところで
やっぱり情報は偉そうなところで
Side:タダノリ・タナカ
「ここか」
俺はスラム街の中で、一際立派な屋敷の前で佇んでいた。
というか、こっちの世界は裏の連中も立派な屋敷を構えているのかとあきれる。
いや、地球でもマフィアのボスとかは邸宅は立派だが、なんというか、わざわざスラムに作るか?
作る連中もいるが、どうしても治安は最悪だと思うんだが。
こういう連中のほとんどは普通に治安のよい地域に家を持ってそこで活動をしていて、こういうスラム街は支部というのがほとんどと言うわけだ。
「まあ、俺の常識をこちらに当てはめてもって感じか」
そう納得していると、屋敷から厳つい男が出てくる。
「おう、兄ちゃん。この屋敷に何か用か? 物取りには見えねえが?」
「ああ、スラムで馬鹿をやっていた連中から話を聞いてな。ちょっと興味があって来た」
「興味だぁ?」
「そう、色々あってな。情報を集めている最中だ。それで何かを知っているならここの主だろうと」
「はっ、お前馬鹿か? それとも度胸があるのか?」
「どっちだろうな。それで、出てきてくれたのはありがたい。面会とかできるか?」
「できるわけねぇな」
あっさりと俺の要望を断ってくる。
いや簡潔で良い。
「じゃあ、面会するために必要なことは?」
なのでこちらも単純に条件を聞き出すことにする。
それを聞いた厳つい男は目を丸くして驚いている様子を見せた後……。
「ぶははは、ほんと面白い兄ちゃんだな。何が必要か……言われてみると悩むもんだな」
そういって目の前の男は首を傾げて悩み始める。
これは、もしかして、こいつが?
いや、自分の欲しいモノを探しているだけの下っ端って可能性もあるよな。
何せ、周りに敵の反応はない。
もちろん、豪邸の中からこちらの様子を伺っている連中はいるが、流石に一足で届く距離でもなければ、弓矢を構えているというわけでもない。
つまり、こいつが危険に合うことは特に問題ないってことだ。
向こうならあり得ないんだが、こっちは単体がレベルという謎仕様で強いことがあるからなぁ。
とりあえず、悩んでも答えは出ないし懐から一つものを取り出す。
「ま、悩みには甘いモノがいいって聞くし一つどうだ」
「なんだこれ?」
俺が取り出した銀紙に包まれたチョコを持って不思議そうにしている厳つい男。
まあ、知らなくて当然だよな。
何度やったかも覚えていないが、目の前で銀紙を破いてチョコを割って手の上においてやる。
「甘いお菓子ってやつだ。溶けるから早めに口に入れることをお勧めする」
俺はそう言って、自分もチョコを割って口に入れる。
甘い。
ビターの方が俺の好みなんだよな。
で、俺の様子を見た厳つい男も疑問を持ちつつも香りをかいで、そのまま口に入れる。
「お、甘い! うめぇ!」
「俺が言うのもなんだが、不審者が出したもの食べるのかよ」
普通は毒を警戒するだろうに、なんだこいつは?
本人も俺の疑問は伝わったようで。
「別に兄ちゃんが仕込むとは思わなかっただけだよ。しかし、珍しいモノ持ってるな」
そう言って残っているチョコに視線が注がれる。
そりゃ珍しいだろう。
何せ地球産のものだし、カカオがこの近辺にあるとは思えないからな。
「残りも食べるか? 溶けるしな」
「いいのか? もらうぞ」
俺としてはこうして話が出来る相手が一人でも増えるのはありがたいことだ。
情報量には人によって差は出るだろうが、まずは会話ができないと話にならないからな。
チョコで釣れるとか日本だと不思議かもしれないが、世界ではこういうのは多々ある。
というか、食べ物ほどわかりやすいモノもないからな。
厳つい男が甘いチョコを美味いと言って食べる状況からもよくわかると思う。
もちろん、人の味覚には違いがあるから何が絶対かはわからないがな。
そんなことを考えているうちに厳つい男はすっかりチョコを食べきってしまう。
「ふう。お、溶けてるな。確かに溶けやすいようだ」
チョコを掴んでいた手にチョコが溶けてついたのを確認して、俺が言っていたことが間違っていなかったと思ったようだ。
ちなみに手に付いたチョコも舐めとった。
「それで、話を戻すが結局どうすれば話を聞いてもらえそうだ?」
「あ~、そういう話だったな。そもそも何を聞きたいかに寄るな。それは言えるのか?」
「そりゃ、別に後ろ暗いことじゃないが、表というか軍人がうろついている中で聞き辛くてな」
「軍人に聞かれたくないこと。つまり戦況か?」
「ああ、徴兵はもちろん、戦場のど真ん中でしたっての避けたいだろう? まあ、戦争だから仕事がないかと思っていたが、雰囲気は勝っているものじゃないだろう?」
俺がそう言うと、厳ついおっさんは真面目な顔つきになって……。
「ほう、わかるか?」
「わかるだろう。楽しそうにしてないからな。酒盛りもなしてない。というか、ここは東側じゃなくて西側だろう? 一度戻って来たった話も聞いたしな。やばいならさっさと情報を知りたいってわけだ」
と、口から出まかせを言う。
俺としては西側の状況を知りたいのだが、それを露骨に聞けばスパイとかで睨まれそうだしな。
別に戦いになっても構わないが、今のところは西側の連中はジョシーと交渉して本国に戻っているところだ。
トラブルは避けるに限る。
「なるほどな。確かに軍人に聞けばそのまま切られてもおかしくないな。かと言って表の連中が事情をしっているわけもないか。あるいは領主や関係者だが、そうなると軍人に伝わるな」
「だろ?」
「だが、それでこっちに来るっていうのもおかしい話だ。冒険者ギルドにでも行けばいいだろうに。あそこなら多少なりに情報はくれるだろう?」
「まあな。とはいえ、身の入りの良い仕事なんてのはないだろう?」
「それはな、良い仕事は他の冒険者が取っているに決まっているな。それに軍が来たことで魔物の討伐とかも少なくなるし、お前さんが凄腕の冒険者ならそもそもお金には困ってないだろうし、軍が動いた噂なんぞしっているだろうしな」
そう、冒険者をやっているなら、わざわざここには来ない。
腕が立つならなおの事面倒ごとを避けるのが基本だ。
「まあ、そういうわけで、きっかけとして絡んできて金銭巻き上げようとした馬鹿がいたんで、それを返り討ちにしてここに来たってのは言ったよな?」
「ああ、その手の馬鹿をやったわけか」
「手を出してきたからな。ちゃんとそこの常識は教えて置いた。死体は増えてないから安心してくれ」
「はぁ、まあその馬鹿は後で俺からも締めるとして、やっぱり兄ちゃんはただもんじゃねえな。普通は関わることをやめるんだが」
「いや、それはここに来ている時点でわかっているだろう。その手のことも多少は知っているんだよ」
「多少どころじゃねえな」
俺の言葉を即座に否定する厳ついおっさん。
「まあ、それはどうでもいい。それで情報は得られそうなのか、そうでないのかはっきりしてもらえるか?」
ここで問答をするのも疲れてきた。
建設的な答えが返ってこないなら本屋を探した方がよさそうだと思えてきた。
「なんだ、あんな甘いモノを渡したってのに、手ぶらで帰るのか?」
「ここで詰めるよりもほかに時間を割いた方が得だと思ってな」
素直に本音をいう。
お前らごときに時間をかけるのはもったいないってな。
「ぶははは、本当に面白い兄ちゃんだな。わかった。俺が知っていることなら教えてやろう。だが、さっきのちょこだったか? あれを追加でもらおうか?」
「あの程度なら10枚でもくれてやるよ」
俺はそういいつつ、カバンから取り出すふりをして板チョコを10枚取り出して手に乗せる。
「おお、これで前払いももらえたわけだ。じゃ、中に案内してやる。外で話すような内容でもないからな」
ということで、気に入られてのか、それとも身ぐるみをはがすつもりかは知らないが、屋敷に入ることはできたわけだ。
さあ、屋敷が残るように話が出来るといいな。




