第468射:交渉を経て情報を
交渉を経て情報を
Side:ヒカリ・アールス・ルクセン
「ふぅん、この町も大変なんだね」
「ええ。軍が思った以上の日数駐屯するもので、物資が足りなくなってきているのです。冒険者ギルドでも近辺の食料になる動物や魔物はもちろん、木の実などを採取を増やしているところです。もちろん私たち商業ギルドでも近くの村や町から物資を集めてはいますが、それでも万を超える軍を維持するための食料は簡単に賄えるわけもなく……」
「こうして私たちが売る物資も高騰していると」
目の前でゼランさんがギルド長と話をしているんだけど、持ってきた商品は思いのほか高値で売れたんだよね。
しかも質の悪い小麦粉もだ。
一応予備で持ってきてはいたんだけど、それも欲しがるどころか定価の1.5倍で仕入れてきたから驚きだよ。
これを軍に売りつけるんだと。
「町の連中は食べれているのかい?」
「……今のところは」
ギルド長の返事はあまりよくないって感じなのは僕もわかった。
このままじゃ、食べれなくなるって感じだったね。
「いったいどれぐらい持つ? こっちとしても情報を集めるためにこの町に来たんだ。荒れてしまって情報が滞るのは困るんだよ」
うん、ゼランさんの言う通り、情報が集まらなくなるのは困る。
何のためにここに来たのかわからないよね~。
「この状態が続けばあと10日が限度とみているな」
「短いな。村や町からの仕入れは?」
「そっちも数が多いが。とはいえ、実際に10日というわけではありませんな」
はい?
どういうこと?
10日で食料はなくならないの?
「だろうね。あの大軍が自前の食料がないなんて、それこそ崩壊して町に襲い掛かるしかない」
あ、そういうことか。
確かに自分たちが持っている食料がゼロってわけじゃないもんね。
ん、でもそれじゃなんで物資の高騰とか起きているだろう?
実際には物資があるんだよね?
「まあ、向こうとしても買い物できる町があるんだ。支給される食料だけじゃ物足りないっていうのは当然だしな。何より、町が物資を買い取られると思って、自分たちで買いだめとかでも続いているってとこかい?」
「その通り。そして商人たちもここで稼ごうとして値段を上げていますな。そういう意味でも長期の滞在はやめてもらいたいものですが……」
あ~、なるほど。
不安から買いだめとか、そういうのが起こって値段が上がっているっわけか。
あと稼ぎたい商人とかも。
なんか日本でも災害があった後はあるあるだけど、こうして話を聞いていると洒落にならないよね~。
日本と違って物流とかあって無いようなものだし。
「で、最初の話に戻りますが、軍の駐屯、それからくる物価の高騰に伴い、物資が枯渇しているのは事実なのです」
「だから、私が持っている物資が欲しいってわけか」
「その通りです」
なるほどな~。
そういう意味では町の物資がないっていうのは間違ってないわけか。
「高級品はもちろん、一般に売るモノもというわけです。それでどうでしょう?」
「最初に聞いた情報は?」
「もちろん、協力させていただきます」
「じゃあ、改めて父親のドザンの生死行方、あとこの町の状況と、西側がどういう状況なのか商業ギルドの見解、あと本屋」
「最後の本屋というのは?」
「ノスアムの領主さまからのお願いでね。本を仕入れてほしいって言われているんだよ。前まではほかの商人、えーとマルフっていう行商人だったんだけど、この前の戦争で身動きが取れないって話でね」
本屋の話は別に嘘を言っているわけじゃないし、問題ないかな?
マルフさんとは別件で動いてはいるんだけど、ジェヤナから許可証はもらっているし、正式な依頼って感じだよね。
「ああ、なるほど。確かにノスアムの御領主さまが本を集めているのは聞いています。わかりました。地図をご用意します。ですが、ほかの情報についてはすぐにというわけには……」
「わかっているさ。とりあえず、今知っていることをまずは教えてもらうか」
「……先に契約をしてからですな」
「それは情報を聞いてみないと契約していいかわからないね。あとで、価値がない情報を渡されてもってね」
ああ、そういう可能性もあるのか。
情報も大事な商材っていうのはルーメルの頃からよく聞いていたし。
とはいえ、僕としてはこういう交渉はやっぱり苦手だな~。
こんなことをしていると、何が正しい情報なのかわからなくなりそうだし。
相手としてはこっちの物資の契約をちゃんとしてくれるか心配というのもあるんだろうけど、これはお互い様って話でもある。
どんなふうに折り合いをつけるんだろうと思っていると……。
「何をいっているんだい? こっちは最初に高級品を持ち込んだっていうのがある。その後は通常商品もだ。情報を先に聞かないと割に合わないね」
「ぬむう」
なるほど、そういう考えかたね。
向こう側は白い綺麗な小麦や砂糖、そして塩コショウが欲しいって言っていたし、それを提供するっていってたんだし、追加で通常の商品を頼んだのはギルド側。
だから、先に情報だせってこと。
とはいえ、この理屈を飲むかはギルド長さん次第だよね~。
「……わかった。だが、先ほども言いましたが情報については集めている最中で、変わっている可能性もある」
「そこは理解しているよ。こっちも情報がゼロってわけじゃない。そっちと比べるだけの事さ。まあ、わざと妙な情報を渡すことが無いと信じているさ」
「そんな真似するか。どこぞのわけわからずの商人ならともかく、ゼラン嬢は父のドザン殿から付き合いもあるからな」
「そう願うよ」
そうか、ここで信用が効いて来るのか。
確かに、いくら良い商品を持っていてもそれが盗品だとかそういうものだと買い取ったギルドの信用も落ちるよね。
だから、取引する商人との信用が大事なんだ。
ゼランさんは昔から付き合いがあるから、こうして情報を教えても問題ないって判断したんだね。
そんなことを考えていると、ドアから秘書さんが入ってきて、書類をギルド長に渡す。
書類に目を通してから、机の上にその書類を置く。
いや、ゼランさんに差し出したってのが正しいのかな?
その意図はゼランさんもわかったようで……。
「見ていいのかい?」
「構わない。どうせ更新されていくものだし、ギルドにとって秘匿するべき内容はなかった」
「じゃ、早速」
そう言ってゼランさんは書類に目を通していく。
素早く目線が動ているのが分かる。
何かいい情報があるといいんだけど~。
あ、違うか、さっき言ったじゃん。
大した情報はなかったって。
「ふぅん。まあ、確かに大した情報じゃないね」
ゼランさんは書類から視線を上げる。
もう読み終えたんだ。
そして中身は全然と。
「ま、見せてもらったんだ。今後の情報も期待して物資はちゃんと勉強して譲るよ」
「そうか、助かる」
まあ、無理して教えてもらったみたいなもんだし、これで良いのかな?
「それと、ギルド長からの意見を聞きたいけどいいかな?」
「私のか?」
「ああ、この戦争とかいきなり西側が魔物を連れて連合を組んだことに関してだ。いきなりすぎて東側も大慌てでね。いったい何があったと」
「ああ、それか」
うんうん、僕たちの方でも全然わかってないんだよ。
西側であるノスアムのジェヤナたちも知らないっていうし、いったい何が起こっているのかな?
「正直私にはわからん。精々この町の支部長でしかないからな」
「別に答えを求めているわけじゃないさ。何かを得てはいるだろう?」
「……先ほども言ったが正確ではない」
「わかっているって、とはいえ、そっちが集めている情報も間違っているともいえないだろう?」
「……はぁ、わかった。ゼラン嬢には話しておくべきだな」
「ああ、頼むよ」
ああ、むしろこっちの方が目的だったのかな?
ノスアムでもわからない情報が、ヅアナオの商業ギルドで全部わかるわけなんてないもんね。
そうなると、裏で情報を集めている人から聞くしかない。
さて、このおじさんは西側がどういう風に動いているのか、予測しているとか情報を集めているのか、僕も撫子も集中して話を聞くことにする。




