第466射:傍から監視しているメンバー
傍から監視しているメンバー
Side:アキラ・ユウキ
「どちらも無事に町に入ったみたいだね。はい、パン」
「ありがとうございますノールタルさん」
俺はそうお礼を言って出来立てのパンを受け取りながら、モニターで田中さんやゼランさんたちの動きをおう。
勿論ジョシーさんたちの動きもあるが、あっちはひたすらに移動だから変化はなし。
「しかし、見てたけどタナカ殿の方が意外と時間がかかったね」
「ですね。戦争状態だから人が近寄らないと思っていたんですけど、逆に人が集まっていたみたいですね」
「まあ、理屈は分かるけどね。人が集まるから、その分仕事も増える。そして人手が足りないって」
「ええ。でも、負けるとは全然思っていない様子でしたけど」
「いや、むしろもう負けているんだけどね。でも、それを町の人は知らない様子だったよね?」
「そうですよね。なんか慌てた様子はなかったですし、おそらく秘密にしているんでしょうね。隔離をして逃げないようにもしているみたいですし」
「実際、あんな負け方すれば逃げたくはなるよね」
うん、ノールタルさんの言う通り、ノスアムの砦での戦いは間違いなく蹂躙だった。
勝ち負けが介在していなかったからな~。
ただ単に戦車で踏みつぶしただけ。
あれを見て、心が折れない人の方が少ないと思うけど。
「それを考えれば、あの軍を率いていた人は有能だったのかな?」
「だべな。あの状況で軍が瓦解せず、ああして秩序ある動きが出来るんだから凄いことだべ。まあ、あれで逃げ帰ったら、勝手に逃げたって報告されかねないっていうのもあっただろうが」
ゴードルさんの言うことになるほどとうなずく。
確かに、逃げることは出来るけど、それは雑兵。
ただの兵士に限るってだけだ。
少しでも立場がある人なら国に仕えているんだろうし、敵前逃亡と報告されてその後の立場も悪くなるか。
「ま、下手に瓦解して盗賊になられるよりましだし。相手もしっかりした軍隊だったってことだろう? 私たちの時よりマシさ」
「ですね」
そういうノールタルさんにうんうんと頷くセイールさん。
いやー、お二人の言葉は重い。
気軽に突っ込めない。
「2人とも、そういうブラックジョークは控えるだべ。お前さんたちは気にしていないとしても、アキラは真面目だし男だからどういう風に返していいかわからんだべよ」
ゴードルさんは本当にできた人だ。
元魔王軍四天王と言われるだけあって気遣いが出来る人だと改めて思う。
「まったくアキラは初心だね。と、どうやらゼランたちの方は交渉を始めたようだね」
ノールタルさんは相変わらず俺をからかっていたようで、こちらを見て笑った後に、ゼランさんたちのモニターに視線を向ける。
彼女たちも俺たちに会話の時の状況が見えて聞こえるように小型カメラを持ち歩いてもらっている。
流石にタブレットのカメラはでかすぎるしね。
『今日はようこそいらっしゃいました。まさかゼラン嬢がこちらまで来るとは思ってもみませんでした』
『海路がつぶされてね。陸路で軍の後ろからついてきたんだよ』
『海路が?』
『ん? しらないのかい? 西側の連中がバウシャイの港町を落としたんだよ』
『はぁ!? バウシャイをですか!?』
『ああ、その戦闘に巻き込まれて私の船も命からがら逃げだしたんだよ。町の住人も容赦なくだったからね』
『そんなことを……』
どうやらあの様子だと商業ギルドの人たちは西側が襲撃を仕掛けたことも知らないようだ。
いや、元々魔族の単独犯行みたいなものだし、そこに突っ込まないあたり本当に何も知らないと分かるからいいんだけど。
『それで、何とか陸路でやってきたわけさ。もちろん商売に情報も集めにな。ああ、それで親父の情報はあるか? あの戦闘に巻き込まれて以降連絡がさっぱりなんだよ』
『いや、ドザン殿の話は聞かないな。てっきり海路で商売場所を探しているものかと』
『そうか。まあ、あの親父ならその可能性もある。死体が見つかったらそれはそれで噂になるだろうしな』
相変わらず、こういう所は豪快というかあっさりしているというか、これが商売している人の感性なのかな?
いや、この世界だと商売でさらに海だと命がけだから、そういう風になるのか。
地球でも航海での商売は命がけって言ってたしな。
『じゃ、それはいいとして商売の話だ』
『ああ、そうだったな。こちらに来たのは商品を持ってきたんだったな。それでゼラン嬢がお持ちになったものは?』
『ここに出すぞ』
『はい、どうぞ』
そう言って、テーブルの上に詰め替えた小麦粉や胡椒、塩、砂糖が入った瓶を並べる。
いつもの商品だ。
露骨に印刷された袋に持っていくとそれだけで騒ぎになるから俺も詰め替えは手伝わされて大変だったのを覚えている。
『これは、右側から小麦粉、胡椒、塩、砂糖だ』
『は? 胡椒は分かりますが、他は白いですよ?』
『精製の精度が違う所を見つけてな。ほれ、実際に中身を確認すればわかるだろう』
『確かにその通りですな。では失礼』
そう言ってギルド長さんは瓶のふたを開けて小皿に乗せて中身を確認する。
「やっぱり、あの白さって珍しいだろうな」
「小麦粉も塩、砂糖も作り方次第で焦げるというか不純物が混ざって色が変わるからね。私も小麦粉や砂糖、塩を見た時は驚いたよ」
「塩も岩塩だと大体色が付くだべだからな」
「あーそういえば」
確かにお店で売っている高い塩ってほのかにピンクだったりするもんな。
そう言うモノか。
そんなことを考えているうちに商品を確認したのか、ギルド長が驚いた様子で……。
『これは素晴らしい。小麦粉も最上級の品ですな』
『うんうん。納得してもらえて助かるよ。それで、これはいつもの袋で10ずつ用意できる。あ、小麦粉は50はあるね』
『そんなにですか! よい取引先を見つけたのですね』
『ああ、お得意様さ。それで取引はして貰えるかい?』
『それは喜んで。とはいえ、そちらの提示する金額はもちろん、支払い方法に関してはどういたしましょうか?』
確かにそこは交渉しないと何も始まらないよな。
金額とその支払いをどうするのか。
同じように聞こえるけど、意外と違うんだよな。
いや、企業とかになると値段の交渉とかは普通にあるんだろうけど、日本の個人が店舗に値切りすることは珍しい。
でもこちらの世界はそう言う値切りは普通にする。
なので、こうした商人とのやり取りはなおのこと激化するわけだ。
それが収入に直結するから。
もちろん、立場とかそういうのも加味されるけど。
「これは長くなるね。ゼランは商売に関しては厳しいし」
「んだ。商人としては当然だべ。あとはタナカだべだが……」
ということで、田中さんの方に画面をメインに切り替えると……。
ドンガッシャーン!
いきなりすさまじい音が響いてきて、驚いて耳を押さえる。
ここまでの音量を聞いて耳がおかしくなりそうだ。
「ちょ、ちょっといったい何がどうなっているんだい? さっきまでおじさんと話していて、町に入ったばかりだよね?」
「はい、そのはずでしたけど、何がどうなってるんだか」
「どうやら、ドローンは屋外にいるみたいだべ。つまり屋内で暴れているみたいだべな」
なんというか、少し目を離しただけでこうなるとは、流石田中さんというべきか。
えーと、どうしたものかと思っていると……。
『な、なんだてめぇ!』
『それはこっちのセリフだ。いきなり襲い掛かっておいて何を言ってるんだ。そっちが良い仕事があるって言ったんだろう?』
ああ、そういうことか。
家屋はパッと見て普通の場所じゃない。
スラムとか暗所って感じだ。
「あ~、わざと乗り込んだね」
「タナカさんならやりかねないですね」
ノールタルさんとセイールさんの言っていることは当たっていると思う。
何故なら……。
『さて、武器を構えている連中もいるようだが? 話し合いはしたくないのか?』
絶対笑いながら言っているだろうって言葉をいっているのだから。
あれは相手が可哀想だ。




