第464射:別の町の様子
別の町の様子
Side:ナデシコ・ヤマト
「待て、お前たちノスアムから来たのか」
そう言われて私たちは門番だけでなく、門の後ろからも集まってきている兵士に囲まれました。
流石に甘く見すぎたでしょうかと思っていると、ゼランさんは特に驚いた様子もなく。
「はい。いやー、戦争があったそうで。こっちはノスアムを中心に商売していたもので、ヅアナオからの商品が来なくて頼まれたんですよ。はい、こちら許可証です」
そう言って、ジェヤナさんから渡された通行許可証を渡します。
さあ、どうなるか……。
「確かにこれは間違いなく許可証だな。しかし、お前たちの様子から見るに戦争を知らなかったのか?」
「たった数日なんですけどね。それで戦争が終わっていたそうで、私も知り合いに聞いた時には驚きました。そして、商人ってことで商品のやり取りをご領主様に任されたんです」
「領主様、確かお若い方だったが、無事なのか?」
「ええ。ジェヤナ様や補佐の叔父殿も無事ですね。そのご報告も兼ねてきたのですが、こちら書状です」
ゼランさんはそう言ってジェヤナさんから預かっている手紙も見せます。
一応、近隣の町の領主とは繋がりがあるようで、手紙を持たせてくれました。
敵対したとしても、この手の手紙の手紙のやり取りや使者を攻撃したりというのは、部下の人が判断できるものではありまんわ。
とはいえ、油断は禁物ですが。
恨みなどがあれば、使者を討ち取って宣戦布告の代わりにするというのもよく聞きます。
どうなるかと緊張して成り行きを観察していますと……。
「うん、こちらの蝋封も間違いないな。特に商人の行き来を止めているという話は聞いていない。まあ、先の戦いではヅアナオからでた軍が戻ってきたから負けたんだろうが。ノスアムにはそれだけの数が集まっているのか?」
「いえ、私は特には見ていないですね。……ああ、いえノスアムの砦の方に陣を張っている軍は見ましたね」
「ああ、そっちに来ているのか。当然か。それでノスアムは安全だったと」
「安全ではありましたが、おかげで干上がる寸前というやつです。東側の軍から配給はありましたが、それでも近隣の交流を絶たれるとですね」
「まあ、それもそうだな。積み荷の確認も済ませたし、通って良し」
ゼランさんが話をしているうちにほかの兵士が積み荷を確認したのか、馬車から降りてきています。
いつの間にというか、別に大したものは載せていないので、調べる手間もないですが。
「どうも」
そういって私たちはヅアナオの町へと入っていきます。
入ってすぐの印象は正直ノスアムよりはなんか荒れているというか物々しい雰囲気が漂っているからです。
その原因はというと……。
「おー、軍人さんだよね? あれ?」
「多分そうですわ。何せ、いまだにヅアナオには攻め込んできた西魔連合の軍がいまだに陣取っていますから」
そう、ヅアナオの町には軍人そこまでは入っていないですが、すぐ近くの平原に陣というかテントを張って駐留しているのです。
ノスアム砦での大敗を喫したあとは、ヅアナオまで引いて今後の予定を待っている状態です。
物資は持つのかと心配になっていましたが……。
『いや、この手の戦いは普通数か月を予定しているからな。当分は持つだろう。問題があるならジョシーから物資を融通するって言ってもいい。とはいえ、ヅアナオがあるんだからそこで物資を集めるように命令をしているかもしれないが』
なるほど、確かに行軍や戦争には時間がかかるものですからその分物資も大量に持ってきていて当然ですわね。
そして、町に物資を頼むというのも当然だと思いますわ。
「物々しいけど、なんか商人とか多いよね」
「ああ、それは商人にとって戦争は稼ぎ時だからね。まあ、負けていると徴発されちまうから見極めが難しいけど、基本的に取り上げたりはしないさ。そんなことをすれば商人はもちろん、町の人だって逃げ出すからね」
なるほど、徴発で無理やり取り上げているのではないかと思っていたのですが、それは最終手段というわけですわね。
私たちだって無理やり物資、家財を取り上げられるぐらいなら逃げ出しますし。
「だから、商人がいるって言うのは商売が成り立っているってことさ。それに、軍人がちゃんと見回りをしているってことはそれなりに秩序があるってことさ。まあ、末端になると無茶を言うのもいるが、それは少数だろう」
確かに全員の統制は難しくても、トラブルを避けたいのはどちらも同じというわけですわね。
「あと、ついでに言うと、こいつらはいわば敗走しているんだ。そんな気力はないだろうさ。下手をすると逃げ出しかねないからひとまとめに外の陣で管理しているんだろうさ」
「「ああ」」
そう言えばジョシーさんの戦車隊に文字通り轢きつぶされましたからトラウマになってもおかしくはありません。
その状態で自由にさせれば、普通は逃げ帰るとか、自暴自棄になって暴れる可能性も否定できません。
そう言う意味でもちゃんと管理しているということでしょう。
「さて、後はこの荷物を売るってことだが、下手に個別で売り払うよりギルドに売るのがやっぱりよさそうだな。さっきも話した兵士とトラブルになるのは避けたいしね。よし、お前ら商業ギルドに行くぞ」
「「「おう」」」
ゼランさんの指示で、一緒に付いてきている商会の皆さんは移動を開始します。
この男性メンバーのおかげで、兵士たちはもちろん他の人たちにも舐められずに済むのですからありがたい限りです。
……まあ、見た目だけであって、実力は私たちの方が強いのですが。
そう考えていると、目の前に大きな建物が見えてきます。
隣の倉庫のような場所に馬車も沢山止まっていて荷物を卸しているのが見えます。
つまり、あそこが商業ギルドというやつなのでしょう。
「お~あれが商業ギルドか~。って今更だけどさ、ゼランってこっちの商業ギルドとは繋がりあるの?」
そう言えばそうですわね。
此方、西側の国とはそこまで交流はないと聞いていましたが?
「ああ、繋がりならあるよ。港町ばかりでこうした内陸にわざわざやってきたのは初めてだが、大体商業ギルドは繋がっているからね。知らない場所でも大丈夫さ。それだけ親父が残してくれた商会は名が売れているんだよ」
「そういえば、お父さんって行方不明なだけだよね?」
確かに、ゼランさんのお父様は今回の魔族騒動で離ればなれになっているだけと聞きましたが?
いえ、連絡がつかないというのはある意味……。
「まあね。とはいえ、商業ギルドを通じて連絡をすることは出来るはずなんだ。死んでいなければそれぐらいは出来そうだとは思うんだけどね」
「え、それって……」
「まだ確定じゃないさ。見ての通り西側はわけがわからない状況だし、生きている可能性もある。そのためにも情報を集めるってわけさ」
そんなことを言いながら私たちは商業ギルドへと足を踏み入れます。
なかは冒険者ギルドと同じようにカウンターが並んでいて、そこに商人と思しき人たちがギルド職員と話をしています。
冒険者ギルドと違うのは、どこのカウンターから交渉と思しきやり取りが聞こえてきます。
ここでの話し合いで売り上げが決まるわけですから、当然と言えば当然なのですが……。
「こんな大っぴらに交渉しても良いのでしょうか?」
「ここにいる連中は規模が小さい連中さ。大取引は個別の部屋だよ」
なるほど、確かによくよく見てみると、荷物をそのまま持って渡している人が大半です。
馬車などを持っていない人がこのカウンターにくるのでしょう。
「さて、空いたね。あっちに行こう」
ということで、空いたカウンターに座ってこれから商売の話をしつつ情報を集め始めるのでした。




