第463射:道中での考察
道中での考察
Side:タダノリ・タナカ
ヅアナオに向かうことを決めた俺たちは、早速ノスアムの領主であるお嬢ちゃんに通行許可証を発行してもらい、出発することになった。
ああ、もちろん通行許可証を受け取ったのはゼラン、大和君、ルクセン君だ。
俺は、一応もらってはいるが、隠して普通に旅人として動く予定なので使う予定はない。
「あー、戦争があったなんて思えないなー」
「本当にそうですわね」
ルクセン君と大和君は後部座席で青空を眺めながらそういう。
確かに、あれだけ戦っていたというのに今は快晴で長閑な時間が流れている。
田舎道をただ車を走らせているだけの状態だから、それも仕方ないだろう。
「で、タナカ殿、ヅアナオまではどれぐらいかかるんだい?」
「そうだな。地図を見る限り安全運転で3、4時間って所か」
ゼランの質問に運転をしながら答える。
精々60キロって所だしな。
日本で考えれば一県二県ってところだろう。
世界は狭いというべきか、その間に村というか民家も見えないのが、この世界の厳しさを表しているんだろうな。
魔物っていう人を襲う動物がいるんだからな。
その間に戦争って本当にびっくりだ。
おかげというべきか、当然というべきか、人の生存圏は極めて狭い。
いや、防衛できるところで無ければ生活できないのだから当然狭くなる。
もちろん、地球も昔は狼や熊などの人を襲う獣は多くいて、その被害は多々あった。
まあ、こっちは魔物もいて人を襲う数は段違いだが。
「でもさ~、魔物ってこっちでもいるんだよね。その中を軍人さんたちは進軍してくるんだから、そういう意味でも大変だよね~」
「だよな。ルーメルとかリテアの道中でも魔物は見たし、そういう戦闘もしながらだよな」
そうなんだよな。
ルクセン君や結城君が言うように、軍で動こうが魔物は襲ってくる。
つまり進軍中にも強襲されて、物資はもちろん下手をすると人員も減らすことになるわけだ。
とはいえ、人が多い分魔物を近寄らないっていう話は聞いたことはあるから、そこまではないが、強力な魔物がいた場合本当に壊滅的なダメージも受ける。
本当に厳しいが、そこであることを思い出す。
「そういえば、西側は魔物を戦力としているのですよね?」
「そうだな。だが、ジョシーからその手の話は聞いていないし、ドローンでも魔物を使役している部隊は少なかったのを覚えているか? というか魔族っていうのもいなかったのも」
「『「あ」』」
俺の指摘に大和君たちも今更気が付いたように驚いている。
「あれ? ノスアム砦に来た連中に魔族っていなかったよね?」
「ええ、いませんでしたわ……。いえ、魔族がいたとしてもあの戦闘で目立つようなことはありませんでしたわね」
『あー、そうだよな。ジョシーさんから苦戦したとかそういう話は全然聞かなかったし』
「そう。てっきり魔族を投入してきて、ノスアムを取り戻すかと思っていたら、人を中心にした編成で露骨に魔族とわかる連中もいなかったのは記録でもわかる」
ノスアムに残っている結城君の言う通り不思議すぎるんだよな。
散々後方を脅かしてきたどころか、ゼランの船をノルマンディー港まで追ってきたのにもかかわらず、ノスアム奪還のために動いた軍にはそれらしき相手はいなかったのだ。
そもそもだ……。
「思い出せば、ノスアム防衛どころか南側の防衛戦にも魔族らしき人はいませんでしたわね」
「あー、なんか言われてい見ると魔物ばかりで、人が上にいただけだよね。まあ、あれも戦車で吹き飛ばしたってだけでよくわからないけど」
『流石に戦車砲に耐えるほどの相手はいないだろうけどな。でも、露骨に見かけないですよね』
「当初はあれだけ仕掛けてきて、なんでこっちではないんだろうなとは思っていた。それにノスアムのお嬢ちゃんたちはその手の話を全然しない、というより何を言っているんだって感じだったからな」
魔族という、あのゲテモノの話をしてもジェヤナを率いるノスアムの連中はその存在すら知らないようだった。
魔物を兵としているのは知っているみたいだったが、それだけなんだよな。
上層部の動きは全く知らないし、ノスアムの町を支配下に置いているオナイエ王国がどういう意向で、西魔連合が動いているのかもわからないということだ。
……本当にどうなっているんだと思うが、まあ、地方の田舎町に都会の政治事情が分かるかと言えば違うしな。
情報伝達速度も電話一本で終わるわけじゃないから、何とも言えないが。
それでも微妙なんだよな。
西側をまとめる組織が出来たというのに、内容を知らない地方の町の領主とか。
もっと町の人たちも盛大にお祝いでもあればいいはずなんだよな。
それがない。
魔族のこともしらない。
「そういうわからないこともあるから、ゼランの方も西魔連合のことを調べてみてくれ」
「了解。まあ、話を聞けば聞くほどおかしい話だしね。オナイエ王国の状態も不明だし、本当によくわからない戦争だよ」
本当にな。
目的がさっぱりだ。
だからこそ前線の指揮官たちも困惑している。
東側連合が撤退しないことを願うね。
とはいえ、攻めては来ているんだしないと思いたいが。
「まあ、ヅアナオで最優先は本の出所。そしてその他の情報収集だ」
「意外と大雑把?」
「それぐらい範囲が広い方がいいでしょう。何を絞って調べていいのかすらわからない状態ですし」
「ナデシコの言う通りだな。今は情報がほとんどない。ジョシーが本部という所に向かっていて、情報が出たとしてもそれが本当かどうか判断する材料もないからな」
ゼランの言う通り、今のままでは、ジョシーが集めた情報の精査すらも出来ない状態なのだ。
ルーメルは下手をすると孤立しかねないところだし、これからどう動くか判断するためにもしっかりとした情報収集が必要ってわけだ。
そんなことを話していると、10キロ先行しているドローンが防壁を捉える。
「おっと、ヅアナオが見えたな。あとは車を降りて、別々で侵入するとするか」
「えー、まだあと10キロ以上あるんでしょ。もうちょっと……」
「流石に防壁の上から発見される可能性があるからな」
人の目線の高さでさえ約4キロ先が見えると言われている。
防壁となると下手をすると数十キロ先が見えるわけだ。
まあ、実際は遠すぎたり、意外と平坦だと思っている地面は起伏があって見えないことも多いので、発見される可能性は少ないが。
それでも10キロはギリギリだ。
『徒歩で約2時間半って所か。頑張れー』
「ちぇ、晃は砦でのんびりでいいよね~」
『そうだべか? なら夜の監視てつだうだべか?』
「あ、いやいいです」
ゴードルがそう言って結城君のフォローに入る。
確かに移動や調査の苦労はないが、砦とノスアムの維持があるから楽というわけではない。
むしろ部下が山ほどいるので、大変ともいえるだろう。
正直、俺としては結城君とゴードルたちの方が大変だと思うね。
ノールタルやセイール、お姫さんの爺さんがいたとしてもだ。
拠点の維持っていうのはそれだけ大変なんだよ。
トラブルなんて毎日起こるモノだからな。
そんなことを言いつつ、全員が下車して、用意した荷物を背負う。
「おおう……。重いとは思わないけど、邪魔だよね~」
「長旅をしてきたという感じですからね。とはいえ、馬車があるだけマシですが」
「だな。タナカ殿、売り物頼めるかい?」
「ああ」
今回ゼランがノスアムからの商人という設定だから、馬車を持ってきている。
勿論馬車を引く馬も車の荷車を繋いで運んできた。
それぐらいは演出しないと怪しまれるからな。
販売品はゼランに一任している。
といっても基本は小麦粉と香辛料だけどな。
後は貴金属。
下手な物はトラブルを呼び込むからな。
「よし、じゃあ、俺は別行動で行くぞ」
「はーい。気を付けて」
「お気をつけて」
「また」
ということで、俺はノスアム以外の方面へと草木をかき分けて進むのであった。




