第462射:誰が残って向かうのか
誰が残って向かうのか
Side:ヒカリ・アールス・ルクセン
『と、そろそろこっちも今日は止まってキャンプするみたいだ。一応顔出してくるから、今日はこれまでだな』
そういってジョシーとのお喋りは終わった。
意外と初めての話が聞けて僕的にはとても面白かった。
なんか海外に古い道具は輸出しているって話は聞いたりテレビで見ていたけど、それを実際に使っているっていう人から直に聞くのは初めてだからね。
あと、車についてとかも日本と外車の性能差というか仕様の違いが知れて良かった。
まあ、ジョシーや田中さんは戦争に使う際の使い勝手とかになるのは当然だけど、戦争って感じがした。
そう思っていると。
「よし。俺たちはヅアナオに潜入する方法を考えるぞ」
あ、そうだった。
最初の話は本の行方を追って、ヅアナオにたどり着いたからジョシーに連絡したんだったね。
「まあ、潜入に関してはどうにでもなるだろう。別に通行許可証が無くても一般人として行けばそこまで問題もないだろう」
「え? そうなの?」
「今回の戦争で路頭に迷う人が多いだろうからな。そんな人全員に通行許可証が配れると思うか? ゼランはどう思う?」
「無理だね。逃げる連中もいるだろうし、それに紛れるってことだね?」
「そういうことだな。下手に通行許可証なんて手に入れると裏を探られてばれかねないと俺は思っている」
なるほど~。
最初から分からない方がいいってことか。
「でもさ~、逆に信用がないってことだよね?」
僕は素直に思ったことを言う。
通行許可証があればそれは信用されたってことでもある。
「まあな。とはいえ、通行許可証を譲ってもらうとか奪うはすぐに足がつくからな」
「そっちじゃなくて、普通のノスアムからの許可証で来たって商人にはできないのかな?」
「光さん、それは戦争中で……」
「でもさ、商人は違うでしょ?」
「ああ、そういうことか、光はただの商人としてヅアナオに行けないかってことか」
「そうそう。今は戦闘停止しているんでしょ? 情報封鎖しているって話は聞いてないけど?」
そう、さっきのジョシーからは商人の行き来は特に制限していないようだったし。
「なるほどな。そういうのもありか。拘束される可能性はあるが……ゼランどう思う?」
「んー、悪くはないかな。別に侵略しようってわけじゃないし、下手をすると拘束されるっていうのはあるが、それはどのルートでも同じことだしな。正直にというか確認が取れないノスアムからっていうのはある意味妙手かもな」
「なるほど、情報欲しさで普通に通されるか」
意外と僕の提案は田中さんやゼランさんに刺さったみたいで、少し考えている。
「それなら、分けてみるか?」
「いい案かもな。どちらが拘束されても調べは出来る。戦力の分散という意味ではあれだけどな……」
「別に戦争をしようってわけでもないからな。自分の身一つだけなら牢屋からでも逃げ出せるメンバーで行けばいい。となると、一つはゼランだ。ヅアナオにには商売したことは?」
「無いよ。とはいえ、まあ、私が商人として向かった方が怪しまれないだろうね。あとはタナカ殿が別方向から難民というか移動で入るっていうのはどうだい?」
「それがいいな。そうなると、ゼランの方の戦力だがどうする?」
「そうだね~。こっち、ノスアムにも戦力は残すんだろう?」
「それはな」
それで視線は僕たちの方に向く。
そう言えば、ヅアナオに行くとはいっても、ノスアムをがら空きにしていいわけじゃないよね。
そうなると、僕たちの誰かが残ることになるわけか。
「リクエストはあるか?」
「リクエスト言っていいんですか?」
「まあ、結城君たちやゴードルたちなら特に問題はないと思っているな。ああ、お姫さんと爺さんはこっちに残ってもらうが」
「それはもちろんそういたします」
「流石にワシや姫様が一緒に行ってもぼろが出るだけじゃろうしな」
あー、流石にユーリアやお爺ちゃんは偉い人って感じのオーラやしぐさしているからね~。
と、そこはいいとして、リクエストしていいなら。
「じゃ、僕は行きたいかな。ヅアナオがどうなっているのか見てみたいし」
「それなら私もですわね。西側の別の町というのは興味がありますわ」
「あー……俺は残ろうかな」
なぜか晃だけが動向を拒否する。
何でだろうと思っていると。
「ま、ノスアムに残ってもらえるならいいな。ドローン監視を出来て、砦の指示が出来るメンバーが残っているのは助かる。砦に関してはゴードルでいいだろうが、ドローンとか細かい機械操作となると、結城君がいるのは助かる」
あー、確かにそうだ。
何か有事の際には、地球の知識がいるだろうし、それを満遍なく使えるとなると、私たちの中で一人残った方がいいよね。
「ノールタルとセイールはどうする?」
「私はノスアムに残るよ。見てくれがちっこいからね」
「私もヒカリやナデシコほど強いわけではないですし、ここで残って何かの時に備えておきます」
どうやらノールタル姉さんとセイールは残るみたい。
まあ、危険がゼロってわけじゃないし、こっちに残った方がいいかもね。
「砦とかはおらに任せておくといいだよ。とはいえ、ゼランの方に男がいないってことになるけど、そこはいいだべか?」
「あー、それは船員から引っ張ってくるよ。商会に男もいるしね。そういえば、海の方はどうするんだい? ノスアムの近くの海に停泊中なんだろう?」
そういえば、すっかり忘れていたけど、僕たちがこの大陸にやって来たフリーゲート艦は近くの海で待機させているみたい。
いつでも支援を出せるようにってさ。
向こうは暇だろうし、こういう時に助けてもらえるならこっちも助かる。
「海は魔物がたまに襲ってくるぐらいで特に問題ないな。船の装備でどうにでもなるし、暇にしているな。ああ、とりあえず沿岸を調査しては戻っているって感じか」
「沿岸の調査?」
僕がそう聞くと田中さんはそう言えばと言いつつ、テーブルに地図を広げる。
といっても海岸線を映した写真ばかりだけど。
「これはなんでしょうか?」
僕が疑問を口にするよりも撫子が先に聞いてくれる。
「今話した沿岸調査の結果だ。西側は向こう100キロの範囲で港らしき場所はない」
「「「ふーん」」」
そのことに僕たちはそれぐらいしか返事が出来ない。
何がおかしくて正しいのか、よくわからないから。
「つまり停泊する場所がないってことは、港町もないわけだ。いや、途中で村らしきところはあったがな」
そういいつつ、田中さんは数枚の写真を取り出すと、拡大したもので確かに建物っぽいものはあるけど、町ってレベルじゃなくやっぱり村レベルのモノだ。
「ま、海から別の町にアプローチも考えていたが、ないモノは仕方ないしな。ゼランもあまり情報はないんだろう?」
「ああ、西側は魔物の被害が大きくてね。ノスアムもそうだが、海に近いのに港はないんだよ。だから、私たちも西側よりも東側で商売をすることが多い」
あー、そういうこともあってゼランは西側のことを良く知らなかったのか。
「そうか。だがないこともないんだろう? ジョシーが敵の本拠地に向かっているから、近場の港や近海を押さえれば、来た道を逃げるよりはマシだろうと思ってな」
「ん? ジョシーが襲われているってことかい?」
「まだ何も起きてないが、どちらにしろ使える港を探すのは間違っていない。上を通して正式に利用できるか、あるいは制圧するかの違いはあるけどな」
そう言って笑う田中さんは実に楽しそうだ。
うん、本当にどっちでもいんだろうね。
と、そこはともかくこうして僕たちはヅアナオに向かう準備を始めるのだった。




