第458射:困惑の中での舵取り
困惑の中での舵取り
Side:ナデシコ・ヤマト
田中さんやユーリアたちが無事に戻ってきたのは良いことなのですが、話を聞いた結果……。
「えーっと? 一体何をしたいのでしょうか?」
そうジェヤナが首を傾げているのが、今全員の心境でしょう。
結局のところ、東側連合は本格的に西側を侵攻する気はなく、東側の戦争状態を回避するために、軍を西側に集めた……。
そんな話のようですが、西側も協力して応戦してきたので、戦わざるを得ない状態で膠着状態となっていると。
これを聞けば、ジェヤナの言う通り何がしたいのかと問いたくなります。
「まあ、西側と戦いになっているのは一旦横においておくとして、東側の目的は分かる。元々ノウゼンに負けてた連中がこれ以上の失地を避けるために、西側が攻めてきたとして、ノウゼンと協力国の足止めをというわけだ。兵力というわかりやすい戦力を減らしたいわけだ」
「あー、なんかこれ以上攻められないためにって話はあったねー」
「冒険者ギルドからの見解でしたわね」
「あったあった。ノウゼンが強すぎるから、西側が攻めてきたのはありがたかったとかなんとか」
「そうだ。停戦するのには、無為にノウゼンをつついた連中にとっては本当に助かったわけだ」
そういえば、ノウゼンとことを構えた連中は殆どが追い散らされ、しかも土地も取られたという話でしたわね。
「そう、ということでお嬢ちゃん。ここで負けていた連中としては、問答無用で停戦できる理由ができるのはどう思う?」
「ああ、そういう意味でならわかります。勝てない相手と距離を置ける理由が出来たのですから、それはありがたいということですね」
「そういうことだ。東側の連中としては西側の侵攻はノウゼンと戦うのを止める理由になればよかったんだ。そして戦力も削れれば。とはいえ……西側が本格的に攻めてくるとも思っていなかったようだ」
「「「はい?」」」
私たち居残り組は首をかしげます。
「俺たちも聞いたときは不思議だったが、よくよく話を聞けばその通りだ。もともと、西側の有力者が東側に逃げてきたのがきっかけだ。だが、東側の連中からすればノウゼンとの距離が置ける、停戦できる理由だったわけだ」
「「「あー」」」
「つまり、東側は西側と侵略をするつもりがなかったと?」
「侵略は出来ればってやつだろう。何せ西側の有力者には領土を取り戻すって言っているしな。とはいえだ。ノウゼンとやり合って、戦力をお互いすり減らし、停戦を誰もが望んでいたわけだ。その間に臨むものはなんだ?」
田中が質問をすると、私たちよりもジェヤナさんがすぐの答えを出します。
「戦力の回復」
「そうだな。これ以上攻め込まれないために動く必要があるわけだ。それなのに、戦力を消費する西側に攻め込むと思うか?」
「確かにそれって矛盾しているね~」
「だから、あいまいなのですね」
その答えに私たちは納得していたのですが、どうやら、晃さんは納得しつつも疑問があったようで……。
「でも、消費しているのは間違いないですよ。そこはどう考えるんですか?」
「そうですね。西側も敵が来たとして、迎え撃っています。そこで兵力はもちろん物資も大量に消費しています。そこは意味がないのでは?」
「その通り。当初の目論見が崩れたわけだ。西側の有力者が追われたと言っても数国。全土が敵に回ったと思っていなかったんだろう。普通に考えればこれは当然だろう?」
「ああー、それはそうですね。普通は連合なんて簡単にできるわけないですし、東側の連合が一国一国話し合えば復権はできる……かな?」
「アキラ様の仰る通り、連合を相手に一国で戦うのは無茶があるでしょう。話し合いと言われるとその実情は脅しになるでしょうが、出来ないことはないでしょう。まあ、その後の安全が確保されるとは思いませんが」
まあ、確かに約束は守ったという感じにはなりますが……。
それは安定するのでしょうか?
どう見てもまた追い出されそうな気がしますが……。
あるいはそこをあしがかりに西側をというのもあるのでしょうか?
とはいえ、今の話を聞けば現状の戦力では不可能に近いですわね。
「えーと、つまり東側の人たちは西側がここまでまとまって抵抗するとは思ってなかったってこと?」
「ルクセン君の言う通り、ここまで頑強な抵抗があるとは思っていなかったんだろう。適当に進んで逃げてきた連中の約束を果たしてはいおしまいって所だな」
「それは意味があるのでしょうか?」
私は素直に質問をぶつける。
それで終わってしまえば東側連合は解散、ノウゼンと戦っていたことが解決するわけではありません。
「まあ、そこらへんは外交の問題だろうな。ノウゼン側と敵対していた側で継続して戦うのか、それとも終わりどころを見つけるのかって話だが、それが分からないから今は止まっているって所だな。だから俺たちはこうして戻ってきたわけだ。何も決まらないってな」
「なるほど」
確かにその状態では何も決まりようはないでしょう。
動くにも動けないというやつですわね。
「あの~、そうなるとルーメルの皆さんは撤退となるのでしょうか?」
ジェヤナは恐る恐るそんなことを聞いてきます。
そこには、嬉しさというよりも不安があるように聞こえる声です。
なぜと思っていると、すぐにユーリアが口を開き……。
「いえ、私たちは東側連合に協力してはいますが、指揮下にあるわけではございません。何より私たちが去ればこのノスアムがどうなるか分かりませんし、せめて安全を確保してから離れます」
「よかった」
その言葉にジェヤナだけでなく、家臣たちも安心した様子です。
「しかし、ジェヤナ殿。その様子だとノスアムの立場は危ういと考えておられますか?」
マノジルさんが難しそうな顔でそう尋ねます。
確かその話は前もあった気はします。
「……はい。以前お話したとおもいますが、事実として敵側に降伏したのです。皆様の温情でノスアムの領主として今もいられますが、普通はこれはありえません。追い出されればいいところで、一族郎党町人の前で吊るされるかと」
「まあ、占領するのであればそれが当然ですな」
私たちとしては信じられないことを言っているのですが、マノジルさんやユーリアもその話に異は唱えません。
いえ、私も聞いていますし、この世界の侵略がどういうモノなのかというのは知っています。
敵国に対しては根こそぎ奪うというのが基本だということ、戦いに人道などという甘さはないというのも。
地球だって昔はそういうものだったのは、記録としては知っています。
「そこで、今更西側に戻ればよい立場になれるかというと微妙でしょう。もちろん立ち回りしだいかとは思いますが、情けないことながら、私たちノスアムには軍に勝る戦力などはありません」
「ま、西側からしても前線基地だしな。ノスアムを欲しがる可能性は高いな」
「はい。もちろん、戦力に余裕がなく勝手にしろという可能性もなくはないですが……」
「そういう偶然を祈るのは止めたほうがいい」
私も田中さんの意見に同意です。
残念ながら力が無ければ蹂躙されるのがこの世界です。
「ということで、ルーメルの皆様にはこれからもノスアムに住む人たちのためにもいてほしいというわけです。領主としてはお恥ずかしい限りですが、伏してお願い申し上げます」
ジェヤナさんや部下の方々は改めてそう言って頭を下げます。
私たちも見捨てるつもりはありませんが、かといって今の話を聞くと下手をすれば東側が敵になりかねないというのもわかります。
ここは田中さんの判断を聞きたいのですが……。
全員そう思ったようで視線が集まり。
「先ほども言ったが、上がどう動くかわからないか、現状維持だ。そして俺たち自身も資料を見つけたこともある。東側が撤退しても俺たちがここに残るのは自由だ。物資とかそういう問題があるが、そこらへんは解決案があるから、後はお姫さんの判断次第だな」
「ルーメルとして敵を作ることはしたくはありませんが、ノスアムを手放すのは悪手でしょう。まあ、占有権を口にすればトラブルの元。見捨てるつもりはありませんが、立場は明確にする必要性はないでしょう」
「うむ。それがよろしかろう。あくまでもノスアムとルーメルは対等という方が、今後は便利やもしれぬからな。あくまでもノスアムは負けておらず、対談でまとめたと」
なるほど、マノジルさんの言う通りなら、敵対した、占領されたのではなく、和解したとも取れるのですね。
そんな風に関心しながら、今度はこれからの本などの調べものの話になるのでした。




