第457射:帰還と説明を開始
帰還と説明を開始
Side:タダノリ・タナカ
本部での話し合いは成果が無いとは言わないが、殆ど進展がなく終わり、俺たちはようやくノスアムに戻って来た。
実に3日の往復というやつだ。
やはり道が土だとどうしてもアクセル全開には出来ない。
精々30キロがいいところだな。
それ以上は震動が激しすぎて、まともに運転をするのが難しい。
と、そこはいいとして……。
「おつかれさん。お姫さん、爺さん体調は大丈夫か?」
「はい。馬車よりは確実に安定していますし、乗り心地もいいので問題はありません」
「お気遣い感謝じゃ。問題はないが……それよりも東側連合の本国じゃな」
「ま、そりゃそうだよな」
あの会議から帰り道も考えてみたが、答えは出ない。
出ないというか、考えるだけ無駄というのが俺の結論だな。
国と国が協力しているんだから、何かしらの目的があって当然だ。
ここで出すべき結論は……。
「ま、東側連合がどういう結論を出そうが、俺たちはノスアムをどうするかが大事だな」
「……そうですわね。このまま東側と袂を分かつ可能性も考慮しなければいけません」
「ふむ。姫様それは極端ですな。何せ東側としての初の成果でもありますからな。放棄というのは無いでしょう」
そんな話をしながら領主館へと歩いていく。
まあ、お姫さんの言うことも、爺さんの言うこともわかる。
向こう、東側はもともと西側を削れるとは思っていなかった。
というか、東側のトラブルを治めるための方便だったというのが正しい。
そこで実際に西側がこちらに攻めてきたというのがあるわけだ。
それで戦わざるを得ず、消耗戦になっている。
この戦いを収めることができるなら東側が預かっている西側の王族とか貴族連中を引き渡してもいいだろうぐらいは判断するだろうな。
ノスアムも同じだ。
切り取ったとはいえ、東側というかお姫さん率いるルーメル軍の成果だからな。
とはいえ、それを簡単に放棄するかというと首をかしげることになる。
何せ、爺さんの言う通り初めて獲得した町だ。
話し合いが終わったところで、それで絶対に攻めてこないというわけでもないから、楔としてノスアムという拠点はそのままの方がいいという話も出てくるだろう。
素直に手放すのは、被害が出たことを考えると、納得はしにくいんじゃないだろうか?
まあ、大前提にノスアムは東側連合ではなくルーメルの支配地域というのが付くのだが。
それを手放せというなら、相応の代価が必要になる。
それをどこからもってくるとか、ぱっと考えただけでもそれだけで会議が紛糾するのが目に見えている。
下手をすると、その会議の間にルーメルが敗北してノスアムを手放してしまえば、その会議も必要ないとか考えて、西側と結託する可能性もなくはない。
それだけでルーメルに渡す資金やお礼がなくなるんだからな。
とはいえ、手に入れた土地を手放すことを嫌がる連中もいるだろうし、防衛網の要で必要だと思う連中もいるだろう。
つまり、今の状態では何もわからんってことだ。
とはいえ、ルーメルの俺というか、お姫さんや結城君たちがノスアムの人を見捨てるっていうのはいよいよでもない限りはないだろう。
そうなると、敵が増えないように動くことが当面の目標か?
何せ、ノスアムで銃の記述がある本が見つかったのだ。
この拠点を捨てるというのは調べが終わるまでは、俺も反対だ。
元の世界に戻るというのが目標ではあるが、ノルマンディー港に攻めてきた魔族は俺の銃を知っていた。
その答えが見えた気がする。
……しかしながら今まで、敵で銃砲を使った様子もないのは不思議だが、この本が関係していないとは思わない。
何かしら関係性があるはずだ。
「あ、田中さんおかえり~」
「ユーリアもお帰りなさい」
「マノジルさんもご無事で」
気が付けば、ルクセン君たちがいる書庫に到着していたようで、出迎えの言葉をかけてくれた。
「ああ、そっちはあれから本を調べているようだな」
「はい。ナデシコたちも無事でなによりですわ」
「ほほ、老体とはいえ、車での移動じゃからな。何も問題はないわい」
俺たちはその言葉に対して返事をしつつ、ルクセン君たちが座っている向かいの席に着く。
「それで、あれから進展は……なさそうだな」
3人の顔には見るからに疲労が見える。
最初は、ヒントが見つかってやる気が沸き上がったのだろうが、結局何も見つからず今に至るということだろう。
「あはは、その通りです」
「それで、お嬢ちゃんやノスアムの連中に話は聞いたか?」
「そっちも全然。この本を読んだことがある人もいなかったし」
「読んだこともか?」
「はい。どうやら、先代、ジェヤナのお父様が本を集めていたようで、大量に買った本の一つだそうで、何かを調べるためというわけではなかったようですわ」
なるほどな。
趣味で買い集めたか。
そうなると……。
「じゃ、どこで手に入れたとかは聞いたか?」
「え? どういうこと? 本って本屋じゃないの?」
「その本屋に聞けばより詳細が聞けるんじゃないか?」
「「「あ」」」
その事実に今更気が付いたようだ。
まあ、こういうのは第一次所有者で止まりがちだよな。
何より、沢山の蔵書もあるんだ。
まずはそっちが優先になっても何も不思議はない。
「ま、こっちも報告があるからそのついでに聞いてくる」
「あ、そうだ。そっちはどうなったの? 確か、なんかすごくややこしいって言ってたよね?」
「そういえば、そうでしたわね。私たちもお話を聞きに行っても?」
「たしかに、二度手間になりますし」
「そう言われるとそうですね。タナカ殿さえよければ、ジェヤナ殿たちへの報告に一緒に行ってはいかがでしょうか?」
「そうじゃな。東側連合の話はちょっとどころの話ではなかったからのう」
どうやら俺以外はまとめて話を聞いた方がいいと言っている。
特に否定する理由もないし、二度手間もその通りだ。
「ああ、一緒に聞いた方がいいし、大丈夫だ。あと、ジョシー聞こえるか?」
『おう、聞こえるぞ。随分面白いことになってるな。本のことも聞いてるぞ。データよこせ』
「そっちは後でだ。情報がまだ正確に集まっていない。とはいえ、そっちでも注意はしておけ。文献があったということと、あの化け物の話から……」
『わかってるさ。ま、その手合いが出てくれば張り合いが出るってもんだ』
「ハチの巣になるなよ」
『当てられるならな。じゃ、しっかり情報集めろよ。こっちはいまだに暇なんだ』
そう言ってジョシーとの連絡は終わる。
あいつがこっちの話に耳を傾けていないわけがないからな。
承知の上ってことだろう。
ただの馬鹿でなくて本当によかった。
「えーと、田中さんなんかジョシー銃の事しってるぽいけどいいの?」
「ああ、構わない。あれはあれで知能があったらしいからな。トリガーハッピーでなくて助かった」
「助かったって……はぁ、まあジョシーならどうにかなるかな?」
ルクセン君もアレの扱いが分かってきたようだ。
下手に指示してもどうにもならんからな。
適当に放っておく方が効果的なんだよ。
下手に手の届くところに置いておくと面倒を見る必要があるからな。
「さて、ジョシーのことはいいとして、東側本部で話したことを説明するためにもお嬢ちゃんの所へいこう」
そう、下手をするとジョシーよりも厄介な話だ。
ぐちゃぐちゃというより、最初からよくわからんかったことが明確になって来たというべきか。
とりあえず、ノスアムの連中も集めて東側本部での本国の混乱っぷりを話すこととなったのであった。




