第46射:聖女と会う
聖女と会う
Side:アキラ・ユウキ
俺たちは今、のんびりと目の前にそびえる大聖堂へと向かって歩いていた。
「でも、オーヴィクたちは来れなくて残念だねー。けど、あれ、絶対わざとだよねー」
光が言う通り、オーヴィクたちは今回の聖女様訪問には付き合うことはなかった。
まあ、腰が引けた感じで、仕事があるとか言ってたから、ついて来たくなかったんだろうな。
面会までの時間、色々手伝ってもらったんだけどな。
シボール孤児院の様子見とか、俺たちの訓練相手とか、気持ちいい人たちだ。
特にオーヴィクは俺と年齢が近いから、友達って感じになれてよかった。
この勇者御一行って、女性多めだからなー。
そういう意味でも、オーヴィクたちが一緒だったのは嬉しかった。
だから、これ以上無理は言えないか……。
「仕方がありませんわ。普通の人なら、国のトップと会おうとも思わないですわ。しかも、特に何か話したいこともなかったようですし、それにつれていこうとするのは酷でしょう」
撫子も同じ意見のようだ。
ただついて来てくれは嫌だよな。何だこいつらって目で見られるし。
「まあなー。俺たちもミコットのことが無ければ、わざわざ会う必要はないと思ってたしな」
「そうそう。最初からルーメルのこととか、僕たちの件で会えるなら会おうって話してたのに、それもすっかり忘れてたよね」
「ええ。そういう交渉事は全て田中さんたちに任せていましたから、あまり意識に深く残らなかったのでしょう。これも直していかないといけませんわね」
こういう面倒事はちゃんと俺たちでやらないとな。
今回はまさにそう言う感じだったし、田中さんに任せて、俺たちはミコットとアロサのことで残ったから意識が薄かったんだろうな。
あの時、ミコットに止められたけど、俺が行くべきだったよな。
とそんなことを考えていて、背中に骨折をしているミコットがいることを思い出す。
「ミコット。痛くないか?」
「うん。だいじょうぶだよ」
背中の振動とかで辛くはなさそうだ。
というか、背中の重さが気にならないほど軽い。
正直、俺たちの旅鞄の方が重いぐらいだ。
改めて、ミコットたちが置かれていた状況がひどかったとわかる。
幸いなのは、ここ数日でミコットは足の骨折以外では目に見えてわかるぐらい血色がよくなっている。
汚れていた体も、光と撫子がしっかり洗い、髪や服も整えたおかげで、どこかのお嬢様と言った感じだ。
で、ミコットが住んでいるシボール孤児院はどうなったかというと……。
「アロサもおんぶしてあげようか?」
「いらねー。というか、ヒカルは俺よりちょっと大きいぐらいじゃないか。それで、俺よりも随分年上とか驚きだよ」
「ははは、身長で馬鹿にされ、年齢でも侮辱するとはいい度胸だ。おんぶしてやろう!!」
「やめろって!? ナデシコ助けろよ!!」
「アロサ君はもうちょっと女性に気を使うことを覚えた方がいいですわ」
「ふははは、勇者をなめるなよー」
「ちくしょー!? こんなことで力をつかうなよー!?」
こんな感じで、アロサは今でも仲良くやっている。
聖女ルルアさんが孤児院へ踏み込んでくれたおかげで、孤児院の環境は劇的に改善されて俺たちと会った時よりも、アロサも顔色とか身なりは良くなっている。
というか、どれだけ孤児院の管理者がクソだったかって話だよな。
あ、因みに、ここ数日でアロサとミコットは俺たちが勇者であることをうっすらとだが納得してくれた。
主にオーヴィクたちとの訓練を見てだ。
因みに、オーヴィクたちとの模擬戦の結果は、ボロ負け。
勝てるわけないと思ったが、流石、リテアでトップの冒険者だって感じ。
全然、戦いの経験が違う。個人にしても、連携にしても。
ただ勝てたのは、魔術の純粋な火力勝負。
俺たちの科学知識の差ってやつだ。
まあ、威力が高すぎて……。
『間違っても実戦で許可なく使うなよ。下手な所で使えば、使った本人以外全員死亡だ。というか、下手すれば使った本人も二次被害で死ぬな』
と、田中さんに言われたぐらいで、間違っても核反応を想定して魔術を使うなと強く注意された。
できるかどうかではなく、試すことも禁止。
まあ、そうだよな。核爆弾を撃てる人間になるわけだから、危険極まりない。
自分も死ぬ危険があるし、俺たちも絶対に使わない。
と、話がそれたけど、そういうことで、アロサは文句を言いつつも、俺たちを勇者として認めて仲良くやっている。
「いい加減にやめろよヒカル。もうすぐ聖女様と面会するんだぞ。お礼を言わないといけないんだよ」
「おー? 女性を馬鹿にするようなことをいう子を、会わせるのはだめな気がするんだけどなー」
「そうですわね。流石に助けて下さった聖女様に失礼があるといけませんわねー」
「わかった、わかったから、大人しくするからおろせよ」
「おろせ? んー、聞こえないなー」
「おろしてください。お願いします」
そんな風に、雑談していると、俺の背中にいるミコットが声をかけてくる。
「お兄ちゃん。私も降りた方がいいのかな?」
「いや、ミコットは足が折れてるんだし、このままでいいよ」
「でも、聖女様に会うんならしつれいじゃないかなー?」
「大丈夫だよ。聖女様がそんなことを言うわけないよ」
けがでどうしようもない人に、文句を言うような人が、孤児院を助けることなんてないからな。
もし文句を言うようだったら、その人は聖女なんかじゃないってはっきり言える。
病人に鞭打つような人は慕われたりしない。
そんなことを話しつつ進んでいると、気が付けば大聖堂の扉が迫っていた。
「さて、ここからは、御祈りをしている人もいるから、お喋りは控えろよ」
そう言ってこちらに注意を促す田中さん。
それに逆らう人はこの中にはいない。
戯れていた、光とアロサもすぐに離れて、コクコクと頷くだけだ。
無論、アロサがこうなった理由は、訓練風景を見たからだ。
あと、孤児院に行ったときに色々あったらしい。
……可哀想に。アロサはこれから逞しく生きていくだろう。
「ようこそ。お祈りですか?」
「いや、面会の約束がある。場所はどこに行けばいい?」
「面会でしたら、礼拝堂奥の右の扉の方へお進みください。そこで私と同じような係の者がいます」
「丁寧にありがとう」
「いえ。あなた方にリリーシュ様の加護があらんことを」
丁寧な兵士さんに頭を下げて、開け放たれている大聖堂の扉をくぐり、奥に入ると……。
「うわぁ……」
「……見事ですわね。地球のサン・ピエ○ロ大聖堂にも劣りませんわ」
「いや、すげー……」
残念ながら、撫子のような感想は光と俺は出てこなかったが、黙っていることができないレベルのすごい教会だった。
なんというか、ここまで装飾するかっていうぐらいきらびやかで、天井には絵がびっしりと書いてある。
えーとなんていうんだっけ? こういうの、ルネサンスだっけ?
「はいはい。驚くのはいいが、ほかにも人はいるからな。立ち止まってないですすめ」
「あ、はーい」
「ヒカリはこういうの見たことないのか?」
「ないよ。こういう大きい教会は僕たちの国にはないからね。お寺とか神社だし」
「おてら? じんじゃ?」
アロサにはわからないよなー。
違う宗教の建物とか言ってもピンとこないだろう。
そんなことを話しながら、兵士さんに言われた礼拝堂の奥の扉へと向かうと、そこには受付の人かしらないけど、兵士さんが言ったように人が立っていた。
「すみません」
「はい。なにか御用でしょうか?」
「いえ、面会を予約していた田中です」
「タナカ? ああ、タナカ様ですね。少々お待ちください。案内の者を呼んでまいります」
そう言って、兵士の人は近くにいた、シスターさんに声をかけて、シスターさんは頷いて扉の奥へと消えていく。
きっと、案内の人を呼びに行ったんだろう。
少し待っていると、奥からちょっと背の高い男の人がやってきた。
「お待たせいたしました。彼が案内を務めてくれる。近衛兵のデストといいます」
「……よろしく」
どうやら、この人はあまり喋らない人のようだ。
背の高さも相まってちょっと怖い。
「おにーちゃん。あの人こわい」
ボソッと背中にいるミコットがそういう。
「大丈夫だって」
あ、とりあえず。ミコットのことは言っておかないとな。
「あの、すいません。俺の後ろの子なんですが、足を骨折していて、背負ってるんですが、このまま行って大丈夫でしょうか? 歩かせたくはないんです」
「……問題ない。けが人に鞭打つような人はいない。痛くないか? ベッドを用意させるが?」
「ううん。お兄ちゃんが背負ってくれるから平気」
「そうか、いいお兄ちゃんがいるな」
「うん」
見た目と違って、良い人のようだ。
「……では、こちらに。武器は預かるが、いいか?」
俺たちは前もって武器は置いてきているので、ここで武器を預けることもなく、すんなりと中に入る。
廊下は特にお城の時と変わり映えはしなかった。
まあ、こういうものなのだろう。
中では、シスターさんや、兵士さんたちを見かけてすれ違う。
みんないろいろ忙しそうだ。
「意外だな。思ったよりも動き回っているな」
「……聖女様が活発に動かれている。その関係で忙しい」
そうか、いろいろやってるから、教会の人たちも忙しんだよな。
「……今は、孤児院の関係の調査に追われている。そして、あなた方がきっかけだと、クラックから聞いている。おかげでその子供たちの命を助けられた。感謝する」
意外と、よくしゃべる人なのかもしれない。
そして、礼儀正しい人だ。
「クラック? 誰?」
「……私と同じ、近衛の兵士だ。彼、クラックに情報を提供してくれたのがきっかけだ。あなた方が教えてくれたのでは?」
いや、俺は知らないなーと思っていると、田中さんが答えてくれる。
「ああ、それは俺だ。アロサに案内を頼んでいるときに、偶然クラックとあってな」
「……そうか。感謝する」
「いや、子供たちのために動いたのは間違いなく、そこの結城君たちだ」
「……あなた方は人がいいのだな」
「デスト殿ほどじゃないがな」
なるほど、田中さんのおかげか。
俺たちがミコットの看病にかかり切りの間に動いてくれていたんだ。
孤児院の援助だけじゃなくて、こうやって訴えることもやっているなんて、感謝しかないよな。
そんな感じで会話をしているうちに、デストさんが兵士が控える扉の前で止まる。
「……ここが、聖女様の執務室だ。少々待ってくれ」
そう言って、デストさんが兵士に用件を話して、部屋の中に伺いを立てると、すぐに部屋へと通される。
流石に、アロサも緊張した面持ちをしていて黙っている。
俺たちも、有名な聖女様と顔を合わせるので緊張している。
執務室はなんというか、立派な調度品が並んでいて、シンプルながらも、気品があふれていた。
そして、その奥の机に書類の山と共に、美女が座っていた。
「ようこそ。ルーメルより召喚された、勇者様方とそのご一行様。私がこのリテア聖国の聖女、代表を務めているルルアと申します」
彼女はそう言って、にこやかに挨拶をしてきた。
でかいおっぱいが揺れる。机の上に乗ってつぶれる。
「……おっぱいすげえ」
「「ふっ……!!」」
俺がそうつぶやいた瞬間、両隣にいた光と撫子の肘鉄がわき腹に入り、ミコットを背中に乗せているので、悶絶することも、倒れることもできずに脂汗を流してただ耐えることとなった。
お、俺が悪いんじゃないだろう? あれは、おっぱいが……。
聖女ルルアと会う。
この出会いは何を生むのか。
そして、おっぱいはよい物だというのがわかったが、怪我の元でもあると晃は学んだ。




