第456射:探し物って面倒なことが多い
探し物って面倒なことが多い
Side:ヒカリ・アールス・ルクセン
「うわー、これ本当に銃のことだよね」
僕をそう言って、本から目を離して、隣の撫子に視線を向けると、そこには撫子も驚いた様子で……。
「ええ、間違いありませんわね。しかも、名前がふざけていますわ。ジョン・スミスなんて」
「あはは、だよねー」
僕も知っている、偽名の代名詞みたいな名前だ。
シシルさんやギネルさん、そしてジェヤナたちにも聞いたけど、ジョン・スミスって名前は此方ではそういう偽名ではないらしい。
つまり、本物の可能性が高いってこと。
まあ、こっちで本当にジョン・スミスという名前の人が書いたって可能性もなくはないけど、その可能性を信じるのはねー。
「それで、田中さんには?」
「会議中だろうし、メールしてる。あとは連絡待ち。それでジョン・スミスの作品とかそっちはあったか?」
「いやー、僕は見てないなー。撫子は?」
「私の方も見ていませんわね。とはいえ、まだまだ蔵書はありますし、調べてみないとわかりません」
撫子の言う通り、蔵書はそこまで多くはないとはいえ、物語をしっかり確認したわけでもないからほかにある可能性はある。
……可能性はあるんだけど……。
「はぁ、全部見直すの?」
「それしかないだろう。俺も戻ってギルドの書籍を調べなおしだ。下手するとジョン・スミスの名前を他の名前に変えて著書を出しているかもしれないし」
「そうですわね。幸い時間はあるのですから、こちら、西側の文化を調べるためと思えばいいではないですか。さっさと調べて情報を得ましょう」
うへ~、撫子は前向きだな~。
僕は本を長時間見ているっているのは苦手なんだけど……。
その内心を読み取ったのか、晃が口を開く。
「ま、撫子の言う通りだけど、ずっと本を見ているっていうのは、監視カメラを見る業務もあるから、精々一時間ぐらいがいいんじゃないか? 集中力が持たないのは知っているだろ?」
「うんうん、僕は本を見ると目が痛くなっているからね~」
ナイスフォローと思いつつ、僕も晃の意見に賛同する。
「ふむ。確かに、モニターを見続けるのは辛いですからね。分かりました。無理のない程度で調べて行きましょう」
「ああ、で、その前にだ。これを読んでどこの話とか思いつくか?」
「いや、全然。地名は出てきたけど、全然聞き覚えがないし、創作じゃないの?」
僕はペラペラとめくりながら本を見るけど、地名や町の名前にノスアムとかはなく近隣の村や町の名前すらもない。
「もともと、こちらの人たちは地図は重要なものですからね。近くの村や町でさえ知らない人も多いです。聞いてみないことにはわかりませんわね」
「まあ、そだよなー。ということは少なくともジェヤナたちには聞いた方がいいよな」
「シシルさんとギネルさんには?」
「聞いたけど東側では聞いたことないってさ。まあ、本なんてどれだけあるかわからないし、調べてみないと何とも言えないけどさ」
「うへ~」
それって下手をすると東側の本も調べないといけないってことだよね~?
「そう嫌そうな顔をするなって。まだ決まったわけじゃない。とりあえず今はノスアムで調べることを優先するってことでさ。あとは田中さん次第にはなると思うけど」
「ま、そうだよね~。って田中さんに知らせたのに、そういえば連絡ないんだよね?」
まあ、それほど重要な話ってわけでもないけど、情報らしい情報が見つかったんだからなにか反応があると思うんだけど。
「ああ、ほら、田中さんから連絡きてただろう? 今日は東側連合の偉い人たちとノスアムを落とした話をしに行っているんだよ。ジョシーさんの件は伏せたままの奴」
「あー、そういえばそういうのあったね」
「上が妙なことを考えているのは間違いありませんから、気苦労が増えますわよね……」
状況を考えればどう見ても上がろくなことを考え居るのは間違いないからね~。
下手するとそのまま攻撃されてもって言われてたけど……。
「……連絡がないというのは、緊急を要しているということはありませんわよね?」
撫子が不穏なことを言う。
そういえば、この本を読み始めて撫子、私ときているから、軽く1時間は経っている。
田中さんならこの話を聞けばすぐにでも連絡がありそうだけど……と思っていると。
「お、噂をすれば田中さんからだ」
どうやら、晃に連絡が来たみたい。
よかった、何も問題は……無いんだよね?
撫子と顔を見合わせつつ、晃が通話に出るのを見守っていると……。
「はい。晃です」
『こちら田中だ。報告書は読んだ。確かに、銃に関する記述があるな』
田中さんもやっぱりあの内容は銃のモノだと思ったみたい。
『あとは、その本がいつ頃書かれたのかっていうのと、どこの話なのというのが分かればいいんだが……調べられたか?』
「いえ、まだそこまでは」
『まあ、そうだろうな』
田中さんに報告してからたった一時間しか経ってないもんね。
「これから、ジェヤナたちに話を聞こうかとは思っているんですが、大丈夫ですか?」
『それは問題ない。話を聞いて地域が分かれば調べに行きたいとこだな。ところで、ノスアムの方は何も問題はないか?』
「はい。こうして調べモノが出来るぐらいにはゆっくりしてますよ。ジョシーさんからの到着連絡はありませんけど」
『まだ向こうはのんびりとした移動中だろうからな。定時連絡は来ているんだろう?』
「はい。定時連絡は来ていますし、同伴させているドローンからもちゃんと確認できています」
『こっちも確認した。あっちはほっといてもいいだろう。銃に関する記述はもっと調べてからだな。敵の本拠地に向かっている最中に寄り道は難しいだろう』
「確かに」
まあ、そりゃそうだよね~。
一応、敵さんの本拠地に行って色々話そうって時に寄り道をしている暇はないよね。
逆に怪しまれるし、その方が問題だよ。
『というか、ジョシーが興味を持てば西側の連中を無視して行動しかねん。それこそ問題だ』
「「「あー」」」
確かにその通りだ。
面白そうとか思ったら、仕事放棄をしかねないよねジョシーって。
まあ、やることはちゃんとこなすとも思うんだけど、不安はぬぐえないよね。
そう思っていると、撫子が質問を始める。
「そういえば、今連絡をしているということは話は終わったのですか? ノスアムの件についてはどうなったのでしょうか?」
『ああ、そっちは終わった。だが、それも意外と問題でな』
「問題ですか?」
『この戦いを指揮している連中はまともだったが、本国の連中が何を考えているかわからんって話だな』
「えーっと、どういうこと?」
僕は正直何を言っているのかわからなかった。
『それは戻ってから話す……でいいか? 別に今すぐどうこうなる話じゃないし、下手な説明をすると混乱を助長するからな。俺も色々考えてみる』
「え? 田中さんもよくわかってないってこと?」
『多少予想は出来るが、それでも微妙なところでな。ルクセン君たちは調べものをしつつノスアムを安定させてくれ。戻ったら話す。あと、お嬢さんたちにその本のことを聞いてみててくれ』
「わかりましたわ。田中さんたちも気を付けてお戻りください」
そう言って撫子が連絡を終わらせる。
僕はよくわからない状態のままだ。
仕方がないので、晃に視線を向けて……。
「さっきの話分かった?」
「いや、内容も何も聞いてないから判断しようがないだろう。田中さんもよくわかってないみたいだし、戻ってきてからゆっくり聞けばいいさ。すぐにどうこうって話じゃないみたいだし」
「そうですわね。下手に内容を聞くと、今よりも光さんは混乱するかもしれませんわよ?」
「あー、なるほど。これ以上もやもやするのは嫌だな。うん、じゃ私はさっそくジェヤナに本のことを聞きに行くよ。これ持って行ってもいい?」
「ああ、記録は取っているからいいよ」
「私もついて行きましょう。聞きたいこともありますし」
「うん。撫子がいてくれると安心だよ」
ジェヤナたちから言われたこと忘れる可能性は高いし。
ということで、僕たちは銃の情報を調べるためにジェヤナの所に向かうのであった。




