第455射:本国が何を考えているのか
本国が何を考えているのか
Side:タダノリ・タナカ
東側連合の上層部から、本国連中が何を考えているのかわからんという話を聞いて、俺たちはさらに頭を悩ませることになる。
幸い、連合軍の上層部は西側をこれで全部制圧できるとは思っていないようで、なるべく現状維持をしているというのが本音らしい。
まあ、かといって……。
「話は分かりましたが、この状態は何時まで続けるおつもりで? いつまでも物資が補充されるとは思っていないのでしょう?」
お姫さんの言う通り、永遠に戦争状態を保てるわけがない。
俺たちルーメルメンバーが加わったことで楽になっているのは事実だが、俺たちだって終わりのない戦いなぞしたくはない。
無駄に物資を消費するなんて勘弁だから、どこかで終わりを見つけるはずだ。
何より、戦争が長引けば下で戦っている連中の士気は下がってしまう。
既に半年を超えて一年目が目前。
殆どが徴兵された一般人たち。
家が恋しくなっても何も不思議じゃない。
下手をすると、いつ崩壊してもおかしくないというわけだ。
その認識をどう思っているのだろうか?
「命令であればいつまでもというのは軍事としてだな。現状は無理だな。精々あと2、3か月だろうな」
「うむ。逃亡兵も出てきている。幸い、ルーメルの物資で逃亡兵は今の所止んだが、それも長くは続かないだろうな」
やっぱり出ていたのか逃亡兵。
先が見えない戦いに投入されるっていうのは、稼ぐことなく死ぬってことだからな。
当然の帰結ともいえるが……。
「それでも2、3か月ですか。もう時間はありませんが、どうするおつもりでしょうか?」
お姫さんはものすごく困惑した顔をしている。
たった2、3か月なんて下手すると兵士と物資の移動で終わってしまう期間だろう。
つまり、残された時間はほとんどないということだ。
撤退を前提にしているのかと思うぐらいだ。
「上としてはまだ現状を維持して欲しいらしい。何が目的かはわからんがな」
「しかし、もう2、3か月ぐらいしか持たないのでしょう? 前提が崩れているのでは?」
「そこは、本国に伝えている。ルーメルの支援に関しては問い合わせている分もあるから、そこも含めて返答があるだろう」
「私たちが加わったこともまだ伝えて返答がない状態なのでしょうか?」
その発言にびっくりだよ。
いや、まあ、得体のしれない軍隊が加わったというのは、会議が会議を呼ぶというやつだろうが、それでも、加わって3か月以上は経っている。
いったい何をやっているんだってレベルだ。
「そうだな。ルーメルのことは軍事力も含めて記載はしているが、どこまで信じるかというのもあるのだ。そしてルーメルを主力にというのも言ってはいるが、それでも人員が足りないし、兵の士気も限界だと伝えてはいる。これから向こうがどう判断するかというやつだな。どうおもう、タナカ将軍?」
ここで俺に視線が集まる。
というか、俺を将軍とか笑い種だが……。
「将軍ではないが、一部隊長として判断するのであれば、まず信ぴょう性がないからルーメルの件は物資ぐらいを信じて、兵たちを入れ替えるぐらいしか方法はないと思うが……」
俺は本部の将軍の質問に素直に答える。
別に俺たちの内情を調べるような質問でもないからな。
素直に答えることにする。
その答えの結果だが……。
「だろうな。兵を入れ替えることで士気を保つ。これしかないだろう。元々、戦力的には敵を食止められても攻め込むほどの兵力が無いのは本国の連中も理解しているのだ」
「理解しているのに、この作戦を実行しているのですか? 矛盾していませんか?」
お姫さんの指摘の通り、作戦の失敗を前提に動いているのなら、意味のない行動と言えるんだが……。
「いや、予定通りだ。ここでこうして主力を集めているのが大事だというのは先ほど教えただろう?」
「……つまり、各国の戦争能力を奪うことが目的だと?」
お姫さんがさらに目を鋭くする。
そう、身内の足を引っ張るために出張っているのなら説明がつくんだ。
結局のところ東側連合はいまだにいがみ合っているというか、信頼してないんだろうな。
そこでお互い疲弊するために西側への防衛に回している。
いやー、案外これをすることで平和を保つことになると思っているか?
こういう時のお約束だからな、共通の敵を作り出すっていうのは。
それを考えればおかしくはない。
ないが、ここに送られている兵士たちは不幸でしかないな。
平和のために死ぬことを望まれているんだ。
「おそらくだがな。とはいえ、現実として西側から魔族という連中が攻めてきているのも事実」
「本国もそこは悩んでいるだろうな。西側から亡命してきた連中が本当のことを言っていたのだから」
「魔族が攻めてきたと?」
「その通り。おかげで私たちはここで本格的な防衛戦をしている。元々国境でにらみ合って、敵の上層部と話し合って終わりの予定だったのだ。西側の亡命者も引き渡すことも視野に入れて」
おいおい、亡命者は生贄か。
とはいえ、それで戦争回避できるならそれはそれで正解か。
全部の亡命者を渡す必要はないんだし、いずれそれを使って西側に攻め込んでもいい。
今はやるべきじゃないってことだな。
内側が乱れに乱れまくっているから。
「では、今ここで話しても仕方がありません。本国の人たちがこの状況をどうするつもりなのかを聞いてからということですね?」
「ああ、そうなる。とはいえ、ルーメルのことを信じるかどうかは別として、攻めてきているのは事実だから、何とかするとは思うが……」
「そこは本当に連絡が来てからだな」
ま、上からの話が来ないと動くに動けないわな。
人員はないし、物資もない。
補給の予定が無ければ撤退するしかないわけだ。
「それで、本部の連絡が無ければ動けないというのは理解しましたが、私たちの戦線以外は特に侵攻をしていないということでよろしいのでしょうか?」
「ん? ああ、その通りだ。先も言ったように維持できる兵士がいないからな。それを考えるとルーメルが多少兵力を増員したとはいえ、ノスアムを落とすというのは驚きだった。戦車を知ってはいたが、それでも人を一人ずつ倒せるわけでもないからな。町を支配下に置くというのはそれだけ難しいのだ」
「私たちは良くて町を破壊するぐらいかと思っていた。兵を送ったとはいえ、制圧して維持するような戦力はないからな」
なるほどな。
確かにいっていることは間違っていない。
俺たちがいくら強いとはいえ、ノスアムを壊すことは出来ても、占拠できるとは思っていなかったわけだ。
確かに戦車は僅か20両ほど、兵士は一万はいたが、それを養う能力がノスアムにはないし、結局町として維持できるかというと難しいところだろう。
町の人から略奪なんてすればそれこそ町は持たないだろうし、あれは俺の妙な能力があってのことだ。
物資が出せるっていうのは本当に強いな。
それでも人の数がいないのはそれだけ不利になるんだが。
「現状は理解いたしました。それで、本国から連絡が戻ってくるのは何時頃の予定で? 私たちはこのまま待っているべきなのでしょうか?」
「ふむ、いつ戻ってくるかはわからない。とはいえ、先ほども言ったが当初の予定の期限が差し迫っていることもあるので、もう一週間以内には連絡があると思っているが……」
「では、一週間後にまたこちらに来ます。ノスアムを押さえたとはいえ、周りは敵ばかりです。撤退するにしても、兵をまとめなければなりませんし、その用意は進めておくべきでしょう」
「確かに、用意をしなければスムーズには進まないか。わかった、ユーリア殿。頼む。とはいえ本部からわけのわからん連中も来るかもしれない。注意はしておいてくれ」
「はい」
はっ、やっぱり背中から刺される可能性もあるか。
幸いなのはここの連中じゃないってことか?
いや、本国の連中が指示するなら下手をすると東側全部がって話になるのか。
あー、面倒。
とはいえ、裏が多少しれたのは成果か。
下手すると、逃げた方がいいかもなーと考えつつ、連絡がないかと確認すると、結城君からメールが送られてきていてそれに目を見開くことになる。
『銃に関する記述がある本を発見』
そう書いてあった。




