第453射:本部の考え
本部の考え
Side:タダノリ・タナカ
相変わらず、いや偵察した通りというべきか。
俺たちが本部と呼ぶ、東側と西側を繋ぐ唯一の山脈のルートで陣取っている拠点は、ドンと構えている。
「随分と安定したように思えますわね」
「そうですね。私たちが来た時は、もっとあわただしく設営も適当でしたからな。タナカ殿が物資を安定して送ってくれることが大きいのでしょう」
そうお姫さんと爺さんがいう。
そういえば、確かにテント張りの簡易的な建物などは減り、木造の建物が多くなったように思える。
まあ、半年、俺たちが来てから3か月は経っているから、それぐらい余裕が出来たってことか。
今までは何時本部まで敵がなだれ込むかわからなかった状況だからな。
敵にわざわざ拠点をくれてやる必要性は感じないってことだろうが……。
今考えると、それも怪しい話だ。
半年も停滞している状態で、しっかりした拠点を構築しておけば防衛も安定するだろうに。
とはいえ、そっちもすぐに西側に攻め込めると思ったといえばそれまでか?
いや、ここは要所なのはまちがいない。
ここを落とされれば西側に展開している軍は干上がる。
しっかりとした拠点を作っていてもおかしくはなかった。
まあ、たかが半年ともいえるが。
俺たちのように車のような輸送能力があったわけでもないし、簡単に建物一つを建てるといっても、それにかかるコストはとんでもない物になるだろう。
上層部としては敵の拠点を奪って利用する方が安上がりだと思うのは間違いない。
もちろん、東側が簡単に取れるという甘い見通しもあっただろう。
それに東側は揉めているところに、西側が攻めてくるということで一応まとまったが、文字通り一応でいつ蹴落としてやろうという意思もあるからな。
身内を警戒していたか?
うん、やっぱり想像ではどうにもならんな。
それに半年、いや約一年戦っているというが、あの国境に集結して約一年なのかは聞いてはいない。
下手するとあそこに集まったのは2、3か月前というのもあり得るわけだ。
発足時を始まりと考えれば、まだわからなくもないが、向こうが事実を話さない以上、こっちも何もできないのが現状だ。
下手するとこちらは後ろから背中を刺されることにもなりかねないからな。
とまあ、そんなことを考えながら兵士に案内されて、本部の会議室へと通される。
この前のテントとは違って木造ではあるが、家の中でだ。
さて、どんな話があるんだろうと身構えているたら、席に座っていた連合をまとめている連中が立ち上がって歓迎をしてくれた。
「おお、ユーリア姫、マノジル殿、そしてタナカ殿、報告は受けている。よくぞ敵の一角を落としてくれた」
「うむうむ。それに車をつかった輸送のおかげでこうして拠点をより強固なものにでき、なおかつ物資がスムーズに多く届くようになった。本当に感謝しておる」
「そうだ。そして極めつけはあのドローンというもの、おかげで他の戦線の状況をつぶさにみられるし、奥の偵察も可能だ。下手な偵察よりも確実にそして敵の数も何もかもを調べられる。おかげでどの戦線も落ちついている」
こんな感じで各々ワイワイ話してくるのだ。
事前に結城君たちと話していた、後ろ暗いことがある連中とは思えないぐらいだ。
まあ、連中が言っていることを考えると、俺たちの支援が無くなるというのは死活問題だし、感謝するのは間違いではない。
何より、今まで動かなった戦線をあっという間に押しあげたんだ。
戦車の実力も見せてはいたし、露骨に敵対はしないか。
おだてるぐらいの知能はあったとみるべきか。
さて、ここからどうするんだろうとお姫さんの様子を伺うと、相変わらずの営業スマイルで。
「皆様、ご健勝のようでなによりです。私たちルーメルがその後押し、ご助力をでき嬉しく思います。そのご様子だと、他の戦線も押し込めた、あるいは良い情報が得られましたか?」
そう言いつつ、案内される席へとつくお姫さん。
ちなみに爺さんも俺も席に着く。
「うむ。情報と圧倒的な戦力があるというのは非常にありがたい。こちらも安心して指揮が取れるというものだ。とはいえ、簡単に戦線を押し上げてカバーできる戦力がないというのが正直なところだな」
そう本部のトップであるノウゼンから出向してきたおっさんがそう言うと、周りの連中もうんうんと頷く。
なんというか、堅実だな。
いや、まあ全滅すれば首が飛ぶのだから、当然と言えば当然だが。
「つまり、兵力の増員は見込めないと?」
そしてその会話を聞いてお姫さんがいきなりぶちこむ。
さっきの会話は戦力がないという言葉から、これ以上は援軍が無いということでもあるからだ。
「……お恥ずかしながら、西側を全部制圧する戦力は元からない。何せ我らとて東側を全部制圧しているわけではないのだ」
「うむ。もとより我々に与えられているのは戦線の維持が目的だからな」
「初耳ですが? 元々は東側に逃げてきた西側の方に土地を取り戻すためと聞いていますが?」
意外なことに、狙いを白状する。
まあ、フェイクというのもあるだろうが、とりあえず言及をしておくお姫さん。
「それは間違いではない。が、どう考えても東側の限定的な戦力でどうやって西側の敵を全て倒せようか」
「ああ、私たち都合よく飛ばされたわけだ。まあ、こうして支援があるだけましだが、消耗するのも望ましくない」
「そもそもだ、ノウゼンが攻めたとか言っている連中は自分たちが仕掛けたことを忘れているだけだろう。都合のいい」
「「「……」」」
露骨に目の前で東側のトップたちに対して文句をいう光景が広がっている。
流石に俺たちはこの状態は予想外だった。
こっちは上の意向を組んでこの状態を維持していると思っていたが、不満たらたらだとは思わなかった。
「驚きました。それを承知の上でこちらに来ているものかと」
「いえ、承知はしてはいます。そうやって時間を稼いでおけと」
「……なるほど。上はこの戦いに対しては別の目的があるというわけですね」
「その通り、先ほども言ったが、この程度の戦力で東側と同じと言われる西側の平定など、どれだけ戦力がいるか。いまある戦力だけでは到底足りないのは先刻承知です。そこまで考えられない馬鹿などとうの昔に死んでいるか、後方で喚くだけです」
あー、そういうことか。
話が分かって来た。
この東側の連中は飛ばされてきたわけだ。
いやー戦力保持というのも目的か。
ノウゼンの領地拡大は不可抗力的なものだったと冒険者ギルドからも聞いていた。
まあ、領土を取られた側は堪らんだろうが、ノウゼン側としては停戦をしたかった。
他の連中も立て続けにノウゼンが勝ったということで、戦えば負けるかもと思っている側と取り返すべしという戦力が居るだろうことは分かる。
そこで、今回の西側のトラブルだ。
お互いに一旦停戦して、準備期間に入ったと考えるべきか。
しかし……。
「なぜ私たちにそれを話したのでしょうか?」
そう、お姫さんの言う通り、今の内容は下手をすると上層部批判になりかねない。
ここに監視がいないとも限らないのだ。
迂闊に話す内容じゃない。
「それはルーメル陣営があの勢力争いに関わっていないからとわかったからな」
「うむ。あれにかかわりがあるものなら、こうして物資を送ったり戦力を送ってノスアムを落としたりはしないでしょう」
うんうんと頷く本部の連中。
なるほど、これまで精力的にこいつらを支援したことが味方と認識させたわけか。
確かに、内輪もめをしたい連中にとっては動かれては困る状況だしな。
ここに固定するために、送り込んだわけだ。
とはいえ……。
「では西側への侵攻は望んでいないと?」
「そこが不思議なのだが、しっかりと戦争状態にある。東側に攻め込んでいるは間違いないと思っている」
「西側から国を逐われた有力者が居るというのは事実らしいです。要請を受けている以上取り返すのが当たり前ですが、現有戦力では無理。だから、何か上が動くだろうとは思っていますが、まだ動きませんね」
つまり、ここの連中もやっぱり西側の動きは知らないというわけだ。
さて、こちらが持っている情報をどこまで出すべきだ?




