第451射:移動中の雑談
移動中の雑談
Side:タダノリ・タナカ
『っていうことで、僕たちは調べものをするつもりなんだけどどう?』
俺は車で東側連合の本部がある渓谷へ向かいつつ、ルクセン君たちと連絡を取っていた。
内容はノスアムへの説明だ。
ゴードルが主に説明を引き受けてくれたおかげで、お嬢ちゃんたちは納得してくれた。
ま、これ以上ノスアムが荒れるのは避けたいだろうしな。
それで、その中で大和君が提案した、隙間時間での情報収集。
これは、ノスアムの人に聞きまわるのも含むが、一番の目的はノスアムに存在する書庫のことだ。
この大陸のことは俺たちはさっぱりだ。
本が絶対に正しいとは思っていないが、情報が全部間違っているということもないだろう。
なにせ、こっちに来ては戦争の対応ばかりであまり調べられていないからな。
ということで、拒否する理由はないが……。
「シシルとギネルの冒険者ギルドの二人はどうなんだ?」
『あの二人は特に? ノスアムに来てからは西側にあるはずの冒険者ギルドと連絡を取ろうとしているけど』
「そういえばそうだったな。ノスアムの冒険者ギルドはスッカラカンだったか?」
『うん。ノスアムの人たちを残して、どこかに行ったみたい。僕たちが囲んだ時に脱出したみたい』
確かにあの時は民間人には手を出してはいないが、抜け出した連中もいなかったはずだが……。
ま、徹底抗戦は避けていたし住人がこっそり戦闘中に逃げることぐらいは許容していたからな。
とはいえ、冒険者ギルドとしてはどうなんだとは思うが、ま、何かを知っていたからこそ逃げたという可能性はあるか。
「そういえば、冒険者ギルドの方の資料とかは見られるのか?」
『え? どうだろう、僕は聞いていないから分からないけど』
「ノスアムの領主よりも広く情報は集めているだろうから、向こうが否定しないなら調べさせてもらうといい」
『あ、そっか。わかった聞いて調べられるなら調べてみるよ。って、そこで思ったんだけど、ジョシーの方はどうなってるの?』
ルクセン君からジョシーの進捗について聞かれる。
特に隠していることもなかったが、逆に言う理由もなかったので説明していなかったなと思い、ジョシーの状況を話す。
「今は移動中だな。特に変わった様子はない。いや、周りは警護の兵士が固めていてのんびりできないとは言っていたな」
『そりゃ、敵になるかもしれないんでしょ。襲い掛かられないとも限らないし』
「いや、乗っているのが装甲車で、ベッドを入れておけばよかったとかそういう話だ。あれは居住性に関しては最悪だからな。ついでに徒歩に合わせているからな」
ジョシーからはそういう不満が届いている。
もちろん、馬車とか徒歩で進んでいるので移動速度はすこぶる遅い。
これは暇すぎて辛いだろう。
『まあ、確かに車で徒歩の速度というのは退屈でしょうね』
『俺も退屈しそう』
「暇があるなら話し相手にでもなってやれ。喜ぶと思うぞ?」
俺がそういうと……。
『そうそう。私も大概退屈でさ~。ま、戦車の中じゃないのが救いだね。あれの中ならもう死んでるね。本当に』
ジョシーが会話に入ってきた。
ま、こいつなら俺たちの会話を聞いていても当然だな。
別に聞かれないようにしているわけじゃないが、無理に聞けというわけでもない。
だからジョシーの判断によるわけだが、ちゃんと聞いているということは傭兵として情報を集めることを怠っているわけじゃないだようだ。
ま、それだけ鈍っているならさっさと死んでくれるだろうから、それはそれで……。
と、そこはいいとして、戦車の中は冷房とか贅沢なものはないからな。
蒸し暑いことこの上ない。
そして装甲車も基本的に冷房が効くような構造でもない。
どちらがマシかというとという話だ。
そんなことを考えている間にジョシーの話は続く。
『それで私の状況については以上だが、将軍連中とは道中の駐留、キャンプで話し合いの席は設けているのは知っているよな?』
「ああ、話も他愛のないモノだと思ったが、何か聞きそびれたことがあったか?」
一応ジョシーは道中で案内されている立場であり、つまりは要人として招き入れられているわけだ。
だから、食事の用意はもちろん、建前上の警護をされているわけだ。
そして敵の本拠地に向かうのだから、話す内容の打ち合わせは必須だ。
下手をすれば、西側の連中は上層部の首はポーンと飛ぶし、ジョシーに関しては単身というか少人数で乗り込んでいるのだから、西側の連中からは今までの戦績からしても、首を飛ばしたいと思っている連中は山ほどいるだろう。
出来るかどうかは別としてだが。
『基本的に礼儀作法とかの話だったから、こっちの流儀で行くってことにしたんだがいいよな』
『『『えっ!?』』』
ジョシーの答えに結城君たちがびっくりした声を出す。
まあ、こいつの普段の言動を知っていれば当然の反応だと思うべきだろう。
だが、一応違う。
そこら辺を安心させるためにも聞いておこう。
「結城君たちが驚いている。ちゃんとその流儀を教えてやれ。普通に銃口向けての脅しだと思われているぞ」
『んあ? いやー、言われてみると本質的には変わらないんじゃないか? ま、行っていることは分かったからアキラたちにちゃんと説明してやろう。私が言っているのは向こう側の礼儀に乗っ取る理由はないって話だ。こちらの礼儀、敬礼ぐらいでいいだろう。別に忠誠を誓っているわけでもないし、頭とか膝を下げたりはしないってやつだ』
そう、こっちの流儀というのは自軍のルールに乗っ取って礼儀を行いますという話だ。
そして、どれだけ偉い人が出て来ようがそれ以上のことはしないという意味でもある。
なにせ、臣民じゃないんだからな。
庇護もして貰っていないのに、何を礼を取る必要があるというのかというやつだ。
だから必要最低限というわけだ。
もっともジョシーがそれ以上覚えているかという問題もあるが。
何せ傭兵だ。
仕えるべきは国ではない。
会社であり、会社は次々に戦地もとい職場を用意するので、その都度会う可能性の低いその国のお偉いさんのために礼儀作法を末端の兵士まで叩き込む必要はない。
そう言うのは対応をする上の連中だけでいいのだ。
その例を適応するならば、ジョシーもその場合の上官に当たるわけだが、これも戦時だし、なにより相手の国の情報がまともに入ってこない。
敵は西魔連合と勝手に呼んでいるだけであり、ノスアムの連中も正式名称をしらないのだ。
ここまでよくわからない相手もいないだろう。
だから、礼儀を知る方法がないというわけだ。
それで、その説明を聞いた結城君たちはというと。
『『『ほっ』』』
露骨に安心したという息を吐いた。
『ははっ、私がそういう風に見られていたってことか。ま、否定はしないが』
「否定しろ。お前が戦闘地以外で……そこまでトラブルは起こしていなかったからな」
『あるの!?』
俺の答えにルクセン君がびっくりした声を上げる。
『そりゃ、傭兵やっているんだ。恨みも方々買う。町中だろうが攻撃してくる奴は攻撃してくるからな。私もそんなときには反撃するさ。それにそれは私だけじゃない。そっちのダストだって散々恨み買ってるからな』
「ま、襲撃とかはあったな。とはいえ、俺は基本拠点から動かないからお前ほどじゃない。そして後始末をするのは俺たちだったからな」
『え? ジョシーを狙ったのに?』
「そういうわけにはいかないってことだ。個人的恨みでお姫さんを狙われたと言って、俺たちやルーメルが傍観するか?」
「ありえませんね」
さっと、一緒の車に乗っているお姫さんが答える。
『お、ユーリアも聞いてたんだ』
「当然です。これからはこの情報が大事になりますから。しかし、そういうことも対応できるジョシー殿なら、やはり今回の訪問は最適ということですね」
「ああ、ジョシーならどうとでもなる」
『そうそう。だから心配はそこまでしなくていいぞ。というか、一番心配なのはノスアムだしな』
『え? 僕たち?』
「ああ、ゴードルとノールタルとかはいいが、結城君たちは搦め手に弱いからな。相談することは忘れるな。勝手に判断して勝手に動くとまずいってことを覚えておくと良い」
必ず報告連絡相談を行えというやつだ。
「さて、俺たちももうすぐ本部だ。面白い話が聞けるといいんだが」
『あ、頑張ってね~』
『こっちも楽しみに聞かせてもらうさ』
ということで、他のメンバーも楽しみのようだし、何かしら情報が得られるか?
そんなことを考えながらハンドルを握りなおすのであった。




