第449射:ついでに色々やろう
ついでに色々やろう
Side:タダノリ・タナカ
結城君の指摘で各国が大混乱する可能性に気が付いた。
そう言えばそうだ。
こっちの世界は通信技術がものすごくつたないし、交渉能力も高くない。
面倒になれば武力でっていう話だ。
ここで、仲間内に敵がいると分かれば、真っ先に叩くとかそういう可能性が出てくる。
その果ては連合の内輪揉めじゃなくて、東側の大争乱になりかねない。
そこの渦中に放り込まれるルーメルは西側を相手にしつつも東側もとなるか。
別に放っておけばいいのにとは思うが、ハブエクブとか協力してもらった国を見捨てるっていうのは結城君たちが気に病むだろうし、これからゆっくり調べものって感じじゃなくなる。
つまり、東側の混乱は俺たちにとっては好ましくないってわけだ。
だから混乱を促すようなことを言うのはやめようという話は間違っていない。
俺としてはさっさと犯人が分かれば和解というか、そこらへんに持ち込めるかと思ったが、それは企んでいる犯人だけのことで、周りからすれば厄介者を倒すとしか思えないわけだ。
俺が爆弾を投げ込んで、爆発してしまえば厄介事が生まれるってことになっていただろう。
俺も俺で目的と手段が入れ替わっていたな。
俺たちは帰る方法を探すためにこっちに来たわけで、敵をぶち殺すために居るわけじゃない。
「タナカ殿。ある程度情報を隠して報告するということでよろしいでしょうか?」
「ああ、構わない。東側が混乱してこっちの足を引っ張られるのは勘弁だしな」
そう、混乱した結果、俺たちが出動になるのは目に見えている。
そんなのは俺にとっては面倒だ。
ジョシーなら喜びそうだが、後始末が本当に面倒だ。
つまり、今回は敵の狙いを俺たちだけでしっかり見極めてから動く必要があるってわけだ。
味方にも怪しいのがいると理解したうえで。
「では、次に具体的にどう伝えるかですが、私としてはただこちらの砦を見て引き返したと伝えればいいかと」
「ふむ~、威容にひるんだというわけですな……」
お姫さんの言葉にマノジルの爺さんは歯切れが悪い。
まあ、言いたいことはわかる。
「それはちょっと無理があるだべなー」
代わりにゴードルが答える。
「どうしてでしょうか?」
「戦闘なく引き返すには敵の数も調整しないといけないだべ。そうなるとノスアムの人たちにも聞き取りがあるべさ」
「なるほど、確かに辻褄が合いませんね。しかし、そうなるとどう報告をしたらよろしいでしょうか?」
「普通に隠す必要はないだべよ。タナカ殿の戦車で追い返したって。どうだべ?」
そういってゴードルは俺に視線を向けてくる。
「そうだな。隠すべきはジョシーが向こう側に言って話し合いをしていることだけだ。追い返したが、こっちは占領するほどの戦力がない言えばいい。敵はこちらの4倍を超えていたんだしな」
「数を疑われたりは?」
「本部の連中もドローンを利用しているからな、それでヅアナオまで見てもらえばいい。あるいはこっちの映像を見せればいい」
「追い返しは出来ても、撃破をするには数が足りないべ。そういえば納得するべよ」
「そういうものなのですか?」
お姫さんは戦争についてはいまいちって感じだな。
いや、戦力を正しく把握しているからこその意見だと思えばいいのか?
それはそれで問題なんだが。
さて、どう説明したものかと思っていると……。
「姫様。確かに敵を四散させることは出来ます。ですがそれでは戦争は終わらせられないのですよ」
「というと?」
「わかっておると思いますが、先の戦い撃破するだけなら、敵を散々に戦車で滅多打ちにすればいいでしょう。ですが、誰と交渉をして戦争をやめればいいと思うでしょうか?」
「……なるほど。前に言っていた誰と話すべきかという話ですね」
「その通りです。最終的に王を見せしめに殺すとしても、その前に降伏を受け入れ、臣下の行方を決めることが必要なのです。こちらが勝ったと。そうしなければ、残った敵は負けを受け入れず敵として残り続けるでしょう」
マノジル爺さんが上手いこと説明をしてくれる。
そう、結局のところ、下手に全滅させると泥仕合になるから避けたいって話だ。
そのためにジョシーは探りに行ったんだからな。
何より……。
「それに、こちらの実力を仔細まで伝える必要はありませんのう。強いぐらいで十分です。それは姫様がよくご存じでしょう。勇者とういう名前が付いたご友人がいるのですから」
「……いいように使われるということですね」
「その通りです。自分たちがその立場になりかねないのです。最初から怪しんでいたのですから、全部を開示する必要がありません。もとよりどこまで話すかという会議ですからのう」
うんうん、爺さんの言う通り、東側連合に今回の経緯をどこまで話すかっていうことだからな。
最初俺は東側連合がどういう意図をもっているのかということで、ジョシーが交渉に行ったことまで話そうと思っていたわけだが、下手すると東側連合が割れて、戦争どころじゃなくなる可能性があると指摘されて、思い直したわけだ。
それで逆にお姫さんは、敵は砦を見て簡単に引き返したと伝えようとしたわけだ。
真逆であり、一見いい話かもしれないが、聞かれればバレる嘘の類だ。
それはまずい。
だから、塩梅のいい虚像をどう作るかって話になる。
勝ちすぎることを伝えても無茶をするだろうし、勝てたとしても限定的だと言えば無理はしないだろう。
なにせ、敵の方が数が多いんだ。
数はそれだけで脅威になりえるというのは東側の上も理解しているだろう。
物資だって無限じゃないんだしな。
俺以外は。
ま、俺もいつできなくなるかはわからないが、出来る以上、使えるものは全力で使う。
戦場での掟というか、常識だ。
「わかりました。では、東側連合の本部には撃退したといことを伝えるわけですね」
「ああ、数も伝えてくれ。それで下手に押し込もうとはおもわないだろ」
「だべ。むしろ他の方面に力を入れる可能性があるべな」
「うむ。ゴードル殿の言う通り、こちらに数万を集めているのであれば、他は手薄になっていると思う可能性はあるのう」
そうなればいいなーぐらいだが、お姫さんにはそういう希望を言っておくのも大事だろう。
こういう言葉でも上がどういう判断をするかである程度測れることもあるしな。
それで会議は終わったものだったのだが、お姫さんは難しい顔をしてこう聞いてくる。
「……東側のトップがこちらに襲い掛かる可能性はあるでしょうか?」
「無いとは言えない。何せ、俺たちの戦力が予定を狂わせている可能性は十分にあるからな」
「だべな~。おらたちが来てから戦局は動いたべ。一応表向きは喜びはするだろうども、裏で拮抗とか戦争自体が目的だったとしたら何かしらそろそろ動いてくるかもしれないべ」
俺の回答に、ゴードルも同意する。
ま、何か裏でやっているならそろそろ動く可能性はあるだろうな。
なにせ、数万の敵を約一万程度で追い返したんだ。
ここでお姫さんの首を狙っても別に不思議じゃない。
偉い人なんざどこでだって命を狙われるもんだしな。
「そのことで、タナカ殿。今回は報告にも参加してほしいのじゃが?」
「ああ、そういうことな。ま、それはいいだろう。俺も様子は見たいしな」
それに、怪しい連中の目星は付けたし、仕掛けを付けることもしたいしな。
「こっちはどうするべ?」
「砦の方はゴードルが指揮をとってくれ。結城君たちもそれでいいだろう?」
俺は会議を聞いている結城君たちに確認を取る。
『はい。ゴードルさんなら安心です』
『うんうん。おっちゃんならいいよ~』
『問題ありませんわ』
ということであっさり居残り組は決まった。
後は、俺たちが本部に行って無事に戻るだけってやつだな。
あ、ノスアムのお嬢ちゃんたちにも説明があったな。
まあ、そっちはそこまで問題はないだろう。




