第447射:何がベターなのか?
何がベターなのか?
Side:タダノリ・タナカ
「ふぅ~……」
タバコをふかしながら、新しく作った砦の城壁の上でのんびり景色を眺める。
青空と雲が広がり、鳥が飛んでいてのどかその物だ。
とはいえ、この青空の向こう、精々数百キロの範囲で戦闘が行われていると思うと、どこも同じだなーと毎度思う。
しかし、ノスアムの連中にどう伝えるかね。
お姫さんや爺さんは東側連合の妙な横やりを避けて追い返したというだけ報告の判断だったが、俺としてはそれも含めて伝えていいと思っていたんだよな。
結局のところ、誰が敵で味方かっていうのがある程度区別つくからな。
もちろん、背中を撃たれる可能性があるのは嫌だが、一番厄介な時に背中を撃たれるのは避けたいから、さっさと割り出せるなら割り出すことに越したことはないだろう。
そして、それはノスアムの安全にもつながると思うんだよな~。
東側からすれば初の拠点であるわけだ。
良い悪いにしろだ。
つまりちょっかいを出されるのは、ノスアムとなるわけだ。
表向き所有を許されてはいるが、邪魔になれば追い出したいという感情は出てくるだろう。
その場合、対外的に東側連合がルーメル軍を追い出したでは、俺たちに対して角がたつ。
流石に表立って俺たちと喧嘩を売りたい馬鹿ではないだろうし、俺たちを追い出すのであればノスアムの連中に手を回すはずだ。
ノスアムの連中に出ていくようにというやつだな。
ま、逆に結託する可能性もゼロじゃないが、こちらとの戦力差を理解したうえで敵対するかっていうと微妙なんだよな。
あのお嬢ちゃんを筆頭にノスアムの重臣、そして住民に至るまで最近は好印象というか、実際に仲は悪くない。
何せ、ノスアム大砦を作った時に仕事や物資をさらに大盤振る舞いしていたからだ。
そこで味を占めたってわけだ。
人は目の前の幸せにぶら下がるっていうのは基本的なことだ。
他所からやって来た実績のない軍隊を招き入れる可能性は低いだろう。
だからこそノスアムの連中を懐柔する方法を取るだろうって話だが。
下手するとノスアム大砦、ああ、今更だが俺たちが作ったこの砦はそう名付けられた。
そこを落とす必要性があるから、敵対は絶対に避ける。
だからこその内側からの突き崩しなんだが、そう簡単にもいかないだろうというの想像はある。
「ともかく、今はジョシーが何かしらの情報を引っ張ってこれるかってのが大事だな」
俺はタバコの煙でわっかを作っりそれを眺める。
俺たちは敵を押し返したという事実を持って、まずは戦線の安定化を成功させたということになる予定だ。
追加の人員が送られてくるか、それともほかの戦線が動くのかは予想出来ていないが、どちらにしろ数日で大きく動くことはない。
せめて数か月はいるだろう。
「さーて、とにもかくにも、敵にも味方にも色々思惑があるのは最初から分かっていたことだ。何が出てくるのやら」
俺はタバコをポケット灰皿で処分して、砦内に戻ることにする。
また引き続き会議だ。
時間は守っているはずだが、会議室には全員が揃っていた。
「ん? 待たせたか? 悪いな」
俺がそういうと、お姫さんは此方に視線を向けて。
「いえ、私たちはこのまま休憩をしていましたから。あ、爺は違いますが」
「ははは、タナカ殿と同じように一服していたのですよ。まあ、顔は合わせませんでしたがどちらに?」
「こっちは城壁の上だな」
「私は出たところのテラスですな。外は晴れて気持ちよかったですから屋上も気持ちよかったでしょうな」
「ああ、気分爽快でしたよ。あとは皆さんも行ってみるといいですよ。気分転換になるでしょう」
そんなことを言いながら俺は席に着く。
その姿を確認したお姫さんは口を開く。
「全員集まったようなので、先ほどの話の続きを行います。内容は、ノスアムと東側連合へどう伝えるかですが……」
「俺は包み隠さず全部伝えた方がいいと思う」
俺は先ほど考えたことを伝える。
「私は一部を伝えて、東側が妙な動きを見せないようにするべきかと思います。ノスアムの上層部も同じです。まさか敵の本国に話し合いに行ったなどと報告すれば、背任、つまり裏切りと取られる可能性もあります。ノスアム側にも東側も敵になるかもという不安を与えることになるでしょう」
お姫さんの言うことも先ほどと変わらずで、別に否定するところはない。
結局の所、どちらをとってもどれが正解かはわからないのだ。
もっと詳しく言うのであれば……。
「タナカ殿はすぐに伝えて相手の動きを見るというやつですな。そして姫様は一旦時間を置いてジョシー殿の結果を知ってからが良いという話ですな?」
マノジルの爺さんがそう簡単にまとめてくる。
その通りなので俺は特にいうことはないが、お姫さんの方はというと……。
「そうですね。マノジルの言う通りです。今、早急に言ってしまえば相手が動きかねません。確証が得られるまで隠しておくことが大事かと思います」
「姫さんの言うことは分かるが、その確証が得られるというのはいったいどういう時期だ? そこをはっきり決めなければズルズルとなるだろう? 背中を撃たれるまでなのか、それともジョシーが会談を終える時期なのか」
「それは……」
言っている本人もわかっているのだろう。
絶対的な証拠が手に入ったからと言って、それで何が出来るのかという話が。
どちらも思惑があるのだから、素直にそれを認めて「はい、すみませんでした」で終わるわけがない。
そんなんで戦争から手を引くならそもそも戦争なんぞ始まってはいない。
だが……。
「敵味方の目的が分かっていない状態で動くと利用されるという可能性があるのは十分にある。だから様子を見るという案も悪くはないと言える」
「はい。私もそれを懸念しております。今ですら既に西側の領地を削っていて、下手をすると孤立しかねない状態になっているのです。無論、私たちなら後方遮断をされようがやっていけるとは思いますが、わざわざ敵を増やすような真似をする必要があるのかと。それに我がルーメルに協力してくれた国々も立場を悪くします」
「ま、そこもあるな」
確かにルーメル単独なら、俺たちだけだからどうにでもなるが、この大陸にはルーメルに脅し……協力してもらっている国が存在する。
そこに攻撃を仕掛けられる可能性もある。
だから、その状態を詳しく知る。
「ゼランとしてはどうだ?」
そう、こっちで活動をしていたゼランに話を聞く。
「正直、ユーリア姫の言う通りだね。私の商売にも響く。これからの伝手が使えなくなるから、行動範囲が狭まるから、避けては欲しいねぇ。冒険者ギルドとしてはどうだい?」
そしてゼランはシシルとギネルに視線を向ける。
「はい。私たちとしても東側と関係が悪くなるのは望んでおりませんので、冒険者ギルドとしてはなるべくルーメルとその協力国のフォローはしますが限界があります。上が敵と認めれば、難しくなるでしょう」
「シシルの言う通りです。冒険者ギルドはそれなりの力を持ってはいますが、国に楯突ける戦力はありません。ゼランさんの言う通りトラブルは避けた方がよいかと。ですが、どこに問題があるのかわかりませんので、避けようもないですが……」
ま、結局はそこに行きつくよな。
トラブルを避けたいとは言いつつも、何が問題かわからなければどうしようもない。
かといって。
「俺が懸念しているのは、隠しておいたことがバレた時の方が問題じゃないかってことだな。素直に言っておけば、適当に流すんじゃないかと思うわけだ。馬鹿だと思った方がやりやすいと思うだろう?」
隠していた方が、普通に問題視されるんじゃないかってことだ。
「……なるほど。確かにそれはありますね」
「一度疑えば、それ以降はという話ですか」
「ま、それはあるね。しかし、行ったのはジョシーと側近の数名だけだろ? そこを真面目に報告する必要もあるのかって話になるけどな~。姫様やそこの旦那が行ったわけでもないし。実際軍はヅアナオまで後退させているんだから、動けないのも事実だしな」
「「「ふーむ」」」
そんな感じで、全員が改めて考え込む。
さて、ゼランの言うことは最も、お姫さんの言うことも尤も、俺のいうことも事実。
さあ、どう決着をつけるのが無難かね?




