第45射:面会の約束を取り付ける
面会の約束を取り付ける
Side:タダノリ・タナカ
「……というわけで、聖女様との面会をしたいんだが、頼まれてくれるか?」
「ふむ。そういう報告で面会したいとは思わなかったな。まあ、若さというところかのう」
「それでいいんじゃないか? 俺たちのように、腐ってるよりマシだと思うがな」
俺は今、リテアの冒険者ギルドに来て、グランドマスターと聖女ルルア様との面会の件で話をしている。
その過程で、なぜ面会に踏み切ったのかを説明すると、大和君たちの行動を聞いて、意外そうな顔で驚いていたので、俺たちよりはましだと言ってやったわけだ。
「腐るか……。それはお主だけであって、わしは該当しとらんよ」
「そうか。そりゃ悪かったな。ま、世間に揉まれた大人ということで」
「もうちょっと、お主は言葉を選ばんと敵を作るぞ?」
「この程度で敵対してくれるのなら万々歳だな。一々味方にする必要もない。さっさと始末する方があとぐされなくていい」
「……分かってやっておるのか。しかし、年の割には修羅場をくぐった意見じゃのう」
「この程度で修羅場をくぐるとか言ってると、向こうの戦場じゃ生きていけないぞ」
「……恐ろしい世界じゃな」
「どこの世界も変わらんさ、油断すれば死ぬそれだけだよ。で、そんな事より、どうなんだ? 聖女様との面会はできそうなのか?」
話がずれてきたので、話を戻す。
この手の爺の話に付き合うと全部素性を話すことになるからな。
しれっと、俺の環境を聞き出してきやがったしな。
ま、別に聞かれて困ることでも、詳細を話したわけでもないからいいが。
「うむ。絶対とはいえんが、近いうちに面会はできるように取り計らおう。面会する理由も納得の話じゃしな。お前さんが、聖女様をヤルというなら無理じゃったが」
「こっちは別に騒ぎを起こしに来たわけじゃないからな?」
「わかっておるが、わしの紹介で何かあってみろ。冒険者ギルド全体の評判に係わる。お主とて見たじゃろう? このリテアの状況を」
「僅か2日で全部理解できるか。とは言え、色々うごめいているのは分かった。特に聖女様の評判は凄いな。あれじゃ、面白く思っていない連中も多いだろう」
昨日の行動力を見るに、確かに行動力や決断力、そして街の人々の評判を見ればそれだけ支持されているのはわかる。
だが、非道な孤児院を成敗するために、わざわざ聖女が出てきたというのが、どれだけ国が暴走、腐敗しているかが分かる。
つまり、部下に任せていたら有耶無耶にされると思っている証拠でもあるのだ。
こんな雑事に、わざわざ国のトップが出てくるというのがおかしい。
まあ、これが一回だけというのなら、国民の支持を上げるためのパフォーマンスといえるが、周りの話を聞く限り、既に何度も聖女様がご出陣していることが分かる。
それだけ粛清していて、それでもまだまだ埃が出てくる状態だ。
これは、リテアの内部は割れているとみていいだろう。
粛清された連中は当然聖女を恨み、聖女についている連中は今後の栄達を狙っている。
そして、素直に、教会を綺麗にして国民を救いたいと思っている連中もいるだろう。
で、極めつけは、背信者地区のスラム住人。
勢力としては、反聖女派、聖女派(昇進狙いも含まれる)、教会清浄派、背信者派。
リテア内部に存在している勢力は分かっているだけでこの4つ。
で、俺の答えに頷いてから、グランドマスターは口を開く。
「そうじゃ。聖女ルルア殿の手腕は見事じゃ。だが、いや、だからこそ歪みが出てきておる。いつかは誰かがやらなければいけないことではあるが……」
「まあ、それを自覚してやっているんだから、それも覚悟の上だろうし、対策は練っているだろう」
「……」
あれ? 同意の言葉が出てこなかったぞ?
おいおい、まさか……。
俺が不安そうな顔をしているのが分かったんだろう。すぐに口を開く。
「いや、対策というか、対策は行っている。リテアの治世を取り仕切る3大貴族とも軋轢はないし、話し合いをして協議の末に、違反、非道を行っている貴族を粛清してはいるが、恐らく足りん」
「足りん?」
「ああ。ルルア殿は若い、若いゆえに見通しの甘さがある。お主は見えたか? すべての問題にしっかりと対応できると思うか?」
「会ってないから何とも言えん。だが、言いたいことはわかった。崩れたら一気にって感じか?」
エリートにありがちな話だな。
挫折とかを経験していないから、そういう時に脆いというやつだ。
いや、エリートでなくても誰でも想定外のことは弱い。
どれだけ経験を積んできたかが勝負となる。
「恐らくな。まあ、それは会ってみればわかるじゃろう。だが、何度も言うが、彼女は決して愚かではない。経験を積めば、更に名が高まる聖女となるじゃろう」
「……経験が積めればいいな」
その前に死体になっていそうだが。
もったいない。じゃなくて、可哀想に、遠目から見てかなりの美人さんだが、こういう事情だと、表向き殉職させられてプロパガンダの引き金ってところだな。
「まあ、心配しても仕方がないさ。案外、思わぬ方法でその場を乗り切るかもしれないんだしな」
「まあのう。若者が成長してくれるのであれば、こちらとしても嬉しい限りじゃが……」
「というか、爺さん。こういうのは誰だってあることだ。何でそこまで聖女様に肩入れする? ここまで俺にしっかり説明していると、まるで、俺たちに助けてほしいように聞こえるぞ?」
「うーむ。助けてほしいとも思ってはいるが、お主がいること、そしてそちらの事情を聞くになかなか難しいとは思ってもいるのだ。肩入れする理由は、別に珍しい物でもなく、会った時に、将来有望でまっすぐな若者だと思った。だから死んでほしくない。そう言う理由じゃよ」
「なるほど。至極まっとうな理由だな」
見知らぬ他人を救いたいという意味でも、政治的に重要な人物だからという意味でもなかった。
ただ、自分が会った若者で、光が見えたから死んでほしくない。
良くある話だ。
「とは言え、それで俺たちがトラブルに巻き込まれるのをよしとするわけにはいかん。それに、どう考えても勇者の介入は更なる混乱を呼ぶぞ?」
「それは分かっているが、せめてと思ってな。それにお主が加わってくれるならルルア殿の生存率は高まるじゃろう?」
「俺にそこまで期待をするな。あの子たちの世話で手一杯だ」
「……そうか。ルルア殿の才覚、成長に期待して、頑張ってもらうしかないか」
がっくりと肩を落とすグランドマスター。
しかし、こっちもできないことをOKするわけにはいかん。
要人護衛は、物凄く難易度が高い。
それに加えて、結城君たちもと来たら、流石に無理だ。
とはいえ、グランドマスターには面会や俺たちのリテア活動で手を貸してもらっている。
ここらで貸しを作っておくのは、今後の展開としては何かあった時に頼れるか。
「だが、俺たちも聖女様には面会時に世話になるし、その人を助けるというのは結城君、勇者殿たちは喜んで引き受けるだろう。勝手に彼らに依頼されても困るし、聖女様が生きてもらえればこっちにも利点がある。なんで、協力体制を組んでみてはどうだ?」
「人を腹黒いような言い方をするでない。協力体制?」
「こっちとしては、付きっきりなんてのは無理だ。それが分かっているから、あきらめているんだろう?」
「まあのう。しかし、協力体制というのは?」
「別に俺だけが、四六時中って言うのは冒険者ギルドが依頼を出していると思われるだろう? それは、聖女様が邪魔な一派としては敵対行動になる」
というか、俺が真っ先に狙われる。
別にそれはいいが、芋蔓式で、結城君たちに被害が出る可能性が高い。
それは避ける。
「ああ、そういうことか。冒険者を入れかえてルルア殿の所におくることで、依頼の達成を報告しているということにするのか」
「そういうこと。それで、面会の約束を取り付ければ、定期的に安全確認できるし、面会ができ無くなれば……」
「危険が迫っているということじゃな」
「そういうこと。まあ、この程度は爺さんも思いついていただろうがな」
「いや、今のは思いついていなかった。こういう手段がさらっと出てくるとは、経験があるのか?」
「そら、そういうお仕事も含めてしていたからな。まあ、どういう理由で連絡を密にするかはしらんが」
「ふむ。ならば、最近の教会の不正規活動の調査隊ということにするかのう」
「……それを表向きに言うのはどうだよ?」
「無論。表向きは貴重な薬草や薬の話にするわい。見つかったから近いうちに会おうとかな」
それが妥当だろうな。
「しかし、クスリね。高名な回復魔術の使い手にクスリなんているのかね?」
「もちろん。聖女だからといってなんでも治せるわけじゃないからのう。欠損にしてもつなげるためには短時間じゃないと無理じゃし、大けがだって程度によれば治療が間に合わぬ。その時代わりになるのが、エリクサーというものじゃ」
「ああ、なんか聞いたことがあるな」
結城君がよく言っていた。
RPG系でよく出てくるアイテムで、最高峰の回復薬だと。
「ま、話は極端じゃが、そういう回復魔術師がいない時の代用できるクスリというのは重宝するのじゃよ」
「あー、クスリは沢山あってもこまらないってやつか」
「そうじゃ。で、リテア内部のこともあるが、街道に出てくる魔物の件もあるからな。その件と回復薬の購入もかねて連絡を密にしてみるかのう」
「で、あとは、報酬の件だが、貸しがいいか? 現金で払うか?」
「ふむ。お主にとっては貸しの方がいいのではないかのう?」
「わかってるじゃねえか。何かあれば助けてくれ」
「限度があるぞい。お主で手に負えないことがわしでどうにかなるとは思えん」
「組織的な力ならそっちが上だよ。クォレンを頼ったのもその関係だ」
「なるほど。そっちなら構わん。だが、化け物相手は任せるぞ」
「まあ、こっちもできうる限りだがな」
お互いそう言って、いったん会話をやめて、テーブルに出されているお茶を飲む。
「すっかり冷めてしまったのう」
「爺さんが、変なことを頼むからだ。しかし、その話も終わったことだし。俺はそろそろ宿に戻る。昨日の孤児院の話を聞かないといけないからな」
「ん? 孤児院の件というとルルア殿が直接踏み込んだ件か?」
「そうだ」
「その情報ならこちらから聞かせてもいいぞい? 別に情報料を取るまでもない話じゃ」
「ああ、そういう意味で話を聞きたいわけじゃない。孤児院の子供たちを事前に保護したって話は、面会理由の時に説明しただろう?」
「おー、子供たちが戻ってきているかもしれんのか」
「そういうこと。現場の人間の話を聞いてみようと思ってな」
「それは貴重じゃな。後でわしにも教えてくれ」
「おう。これは協力体制の内ってことにしておこう」
下手に足元みると反感かうしな。
ここは恩を売るのがいいだろう。
しかし、面会する聖女様が俺たちの想像以上にできる人だと、俺たちは無用な心配や根回しをしなくて助かるんだがなー。
と、そんなことを考えながら、宿に戻るのであった。
とりあえず、ミコットの治療のために面会を取り付けることとなったが……。
裏ではこの通り、いろいろ田中さんたちが動いていくのでありました。
そして、田中さんと聖女ルルアの出会いはどのように行われるのか?
事件は何もないのか?
アロサたちは無事なのか、その答えが次回、わかるかもしれない。




