第446射:勝利したけどこれからどうするの
勝利したけどこれからどうするの
Side:ナデシコ・ヤマト
ノスアムの砦に寄せた敵は3日の準備を終えて、撤退していきました。
違うのは、その敵軍の中に戦車が紛れていることです。
つまり、ジョシーさんが予定通り敵について行って本国への話し合いに付き合うということです。
「……本当に大丈夫なのでしょうか?」
「心配だよね~」
私の言葉に光さんも同意してくれます。
田中さんやユーリアは今回のことは、良い機会と言って納得していましたが、つい3日前まで殺し合いをしていた連中の中に少数で紛れて話し合いに行くというのは、心情的には納得できない物があります。
しかも、こちらが相手に多大な被害を出したのです。
勿論死者も沢山出ています。
そんな相手を納得して同行を許せるものでしょうか?
確かに、上の意向はわかりますが、下が大人しく言うことを聞くとは思えません。
何せ、正規の軍人というわけではなく、徴兵された一般人です。
ジョシーさんにいきなり襲い掛からないとも限らないのですが……。
『いや、そんな奴は返り討ちだろう』
『はい。ナデシコが心配なのはわかりますが、あのジョシー殿がただの兵士にやられるとは思えません』
私たちの心配も、田中さんやユーリアにとっては取るに足らないもののようです。
まあ、2人の言っていることが間違っているとも思いません。
その光景が目に浮かぶ気がしますし。
ですが、私が心配しているのはそう言う所ではなく……。
「……私や光さんが心配しているのは、その恨みを誘発してジョシーさんを追い詰めないかと思いまして」
「うんうん。ジョシーって敵と見たら問答無用でしょ? そこを突かれる可能性ってあると思うんだけど?」
そう、あえて恨みのある一般兵をけしかけて反撃させ、難癖をつけて捕らえたりというのはありそうですわ。
そういう物語はよく聞きますし。
『あー、まあ、可能性はないこともないだろうが……』
『冒頭の懸念は分かりますが、後半はないかと。ジョシー殿が大人しく捕縛されるでしょうか?』
「それは分かりますが、そうなると話し合い自体が無効になるのではありませんか?」
「うん。だから、田中さんとかがそこらへん釘を刺しているかと思ったんだけど?」
目的は敵の事情を調べるためと言うのがあります。
その相手を殺戮してしまえば情報を得られなくなります。
そう言うのは信頼を築くというのが大事なのではないでしょうかと思ったのですが……。
『ああ、そういうことな。まあ、そうなればそうなったで、ある程度目的は分かるんだ』
「え? なんで?」
『つまり、そういう風にちょっかいを仕掛けてくるってことは、上の方は話し合いが成立するのは避けたいって言っているようなものなんだよ』
「……なるほど。戦争をすること自体がなんらかの利益につながるということですわね」
『ナデシコの言う通りです。つまり上層部との対話は不可能ではありますが、目的が見えてきます。なので、そういう時は色々手を打つことも出来るのです』
ユーリアも一緒に説明してくる。
確かに、ジョシーさんを怒らせるようなことをするということ自体、話し合いをするつもりがないという風に取れます。
その場合、対話をするにも相手の目的や狙いを知らないと同じ席につけないというわけですわね。
逆にここで上層部が対話を試みるなら、それはそれでよいと。
『ま、そんなことをしてくるなら、その場にいる連中は必要最低限を残して、文字通り木っ端みじんになるだろうが』
「「……」」
確かに殺戮をするとは思いますが、ジョシーさんは意外とそこのところは考えて戦う方ですから、必要最低限は残しそうな気はします。
被害はどれだけになるかは分かりませんが。
『こほん。まあ、その時はその時で考えましょう。いまは、この南側の戦線はある意味落ち着きました。なので、話し合いが終わるまでに何が出来るかの話し合いをしたいと思っているのですが、タナカ殿、時間は取れそうですか? 監視などとかも含めて?』
『監視のことを考えると、全員は無理だな』
確かに、誰かがモニターを見ている必要はあります。
敵は止まったとはいえ、他の方向から何か来ないとも限りません。
空のルートもあり得るとも言われていましたし、注意を怠ることはありえません。
そう思っていると……。
「あの、別に会議室に集まる必要はないんじゃないですか? こうして俺はモニターを見ながら話は聞けますし。まあ、集中している分話半分にはなりそうですけど」
と、現在監視をしている晃さんが話に加わってきます。
『まあ、聞く分だけならそうだな。俺も監視に加わるか。それならちょうどいい』
『それでタナカ殿は今後のことを詳しく話せるのでしょうか?』
うん、晃さんはというとあれですが、こういう今後の予定を立てるのは田中さんが中心となるはずです。
もっと集中して話す必要があるのではと思ったのですが……。
『詳しく話すのはその後だ。会議では現状のまとめと、これからの方針を決めるぐらいだからな』
確かにそう言われるとそうです。
砦を新しく作ると決めても、設計図とか中身をどうするなどは後で詳しく決めました。
『……確かにその通りですが……』
『ま、お姫さんとしては大事な話を顔も合わせずにっていうのがあるかもしれんが、こういうことは往々にあるもんだ。慣れとけ。大和君とルクセン君もな』
「え?」
「僕たちも?」
『ああ、いつ起こるかはわからないが、何かをしながら作戦とか今後の予定を立てるっていうのはあるからな。戦闘中での戦況変化で撤退とかもすることもあるだろうし、その時に聞きながら活動するための練習と思ってくれ』
そういうことですか。
考えたくはないですが、戦闘中の連絡で足が止まって、その隙を狙われて命を落とすということもあり得るというのはよくわかります。
「そっかー。ま、戦闘中に足止めるとか自殺行為だしねー」
光さんもそれは理解したようで頷いています。
『納得したようで、このまま会議に移るぞ。といっても、さっきも言ったように詳しい話はまた後でってことにはなるが、基本的な方針だ』
ということで、即座にジョシーさんのことからこれからの話し合いに代わります。
『基本的に俺たちがやることは監視と砦の完成だ。それに付け加えて、ジョシーからの情報次第で逐次行動を起こすことになるから、緊急にたたき起こされる可能性があるって所だな』
あっさりと今後の方針を言われました。
これ以上ないぐらいシンプルで。
「ざっくりしてるな~。って言っても詳しいことはあとでか~」
『そうなる。まあ、監視に関してはジョシーの近辺が加わるぐらいと、砦の完成は予定通りだ。一つモニターが増えるだけだな。あとは、ノスアムの方にどう報告するかだが、そっちはお姫さんの判断だな』
そうです。
ノスアム砦での戦いを勝利したのであれば、これは素直に報告してジェヤナさんたちを安心させるべきでしょう。
『……そうですね。確かに戦闘の結果は報告するべきですが、話し合いのことはどう話ましょうか?』
珍しくユーリアが迷いを見せています。
「え? 素直に教えちゃだめなの?」
『教えるのは教えるのですが、下手に全部伝えても嘘か、あるいは負けないと思われても困るのです』
「あ、そっか。ノスアムの戦力は俺たちだから、妙なことを考えかねないってことか」
「晃さん。しかし、あのジェヤナさんがそんなことを考えるでしょうか?」
私がそう質問をすると、その質問に対して答えたのは……。
『ああ、ノスアムの中で下手に話すと、こっちの上に伝わるってことの懸念か』
『はい。東側連合が話し合いを待つかということになりますから』
「「「あ」」」
そうか、下手にノスアムに大々的に伝えれば、それは東側連合にも届くことになります。
敵の狙いが分からないからこその話し合いですが、それは味方側の狙いも読めないという話でもあります。
下手にばれると……。
『背中を撃たれるのは面倒だな。そこはジェヤナとノスアムの重臣ぐらいだな。戦争が激化するとか脅しを付ければなんとかなるんじゃないか?』
『……それしかありませんわね』
そんな不安な返答をユーリアがして本日の会議はあっさり終わりました。
といっても詳しい話はまた後日するのですが。




