第445射:潜りこむための準備
潜りこむための準備
Side:タダノリ・タナカ
「なかなか面白い話になっているな」
俺は、結城君との連絡を終えてジョシーと改めて今後について話をしていた。
『別に面白い話でもないだろう。こっちで引き取っている捕虜の返還に伴い、色々話し合いの窓口を設けたいって話だ。今までの状況がありえなかったんだ。当然だろ』
確かにジョシーの言う通り、軍使としてのやり取りすらなかったっていうのが驚きなんだよな。
上層部が相手が何を考えているのかわからないっていうのもおかしいし、何より敵が運用しているキメラというか合成怪物とか。
そう言うのがあるから警戒していると言えばもっともらしいが、それでも窓口が無ければ終戦のしようもない。
無限に物資を飲むこむだけの戦争に参加しているわけだ。
東側の連中だってそんな先の見えない戦いに挑むなんて馬鹿だと思っていたからこそ、今回の話し合いに応じたと。
勿論、こちらが大損害を与えたというのも一つの理由だが。
「窓口がなかったか……。さらに上はあったと思うか?」
『そりゃあるだろう。圧倒的戦力差で一息に押しつぶせるならともかく、もう半年どころか一年近くあの境で戦っているだぞ。物資を無限に飲み込むなんて損失でしかないからな。下にも不満がでてくるだろう。だから、それを納得させるだけの何かがあるわけだ。窓口はもちろん、契約とかがあるに決まっている』
「だよな。だからこそこの戦争を続けている。戦争はあくまでも手段の一つだからな」
『当然だろ。何も得るものがない戦争なんて狂人でもやらないよ』
そう、この意見は一致する。
衝動的な殺人はありえるが、衝動的な戦争は起こりえない。
何かしらの始まり、目標があり、それを達成することが終わりとなる。
勿論、自分たちが負ける可能性も十分あるけどな。
とはいえ、負けると思って戦争を起こす奴はいない。
いや、負けたとしても、目的を達成できればそれでいいのだ。
さっき言った、戦争とは目的を達成するための手段の一つだからだ。
例えば、かたき討ちで戦争をしたいと一人が言っても誰もその案には乗らない。
だが、それが国の面子に泥を塗るようなことであれば、今後の国のためにも泥を塗った相手には痛い目を見てもらわないといけない。
勿論、傍から見れば理解できなというのは存在するが、それでも目的があるわけだ。
「ここで改めて上の考えを調べる機会が出来たってわけだ」
『そうだね。こっちとしては敵の大軍を押し返したってことで時間を稼げる。向こうも無意味な被害を避けるためにと言い分けが立つ』
「お前が向こうに行って殺されないとも限らないけどな」
『はっ、それならそれで楽しめるだろうし、目的も見える。それは戦争自体が狙いとしか言えない』
そう、ここでジョシーが襲われて殺害されるようなことがあれば、戦争をすること自体が敵にとっての目的となっている可能性が高い。
理由は分からないまでも、その一端が分かるのは大きい。
『そうだろ? まあ、下っ端の私たちがそれ、戦争目的を考えているっていうのは珍しいけどな』
「そうか? 上の意向は隠されて、無駄に浪費する戦場に送られないためには調べることは多々あっただろう?」
『あー、そういわれるとそうか』
ジョシーの言う通り、基本的に一兵士はそういう戦争の目的とか、どういう風に終わらせるかとかは考えることはまずない。
なにせ、そういうことは戦うことを鈍らせかねないからだ。
鈍るということは死ぬということ、目の前の任務達成だけに従事すればよいというのが下っ端の考えだ。
とはいえ、上の建前の目的だけを信じていると、その目的達成の生贄にされかねないというのもある。
特に傭兵団とかはな、使い捨てにされやすいからそこら辺の意図をしらべて、使い捨てにされないようにするのが大事だ。
もちろん、目的の全容を知ると逆に消されかねないとかもあるので、良い塩梅というのがある。
本当に面倒だが、結局のところこういう戦争にも、程よい付き合い方が求められるということだ。
面倒だよな。
「ま、そこの感覚はジョシーに任せよう。死んだら死んだでそこがアウトだったということだしな」
『私をやれるような奴がいるなら是非とも見てみたいね』
「相手は魔術とかいうのを使うんだ。それを不意撃たれたら何とかなるだろ」
『はっ、こっちの腑抜けどもにそんな狡猾なことができるなら今の戦争だってさっさと終わってるさ』
「……そこは否定できんが、何か狙いがあるのは間違いない。で、向こうに出せる戦力はよくて戦車5台までだな」
『あん? 5台も持っていくのか?』
「そりゃ、一応お前はルーメルというか東側代表の軍使って扱いになるからな。こっちが戦力を出さなければ、舐められるんだよ。かといって軍を送り込むというのも相手を刺激しすぎてよろしくない。となると、ほどほどって感じだな」
そう、さっきも言ったが良い塩梅というやつだ。
多くもなく少なくもなくって感じで。
『いや、確かに20両近くで蹴散らしたが、別に5両、いや台日本語めんどいな』
「両が正式な数え方だからな。ま、言葉なんて意味が通じればいいさ。で、5台がなんだって?」
『ああ、5台あればあのレベルの敵ならどうとでもなるだろう?』
「だからだよ。1台、2台ぐらいなら行動不能にできる可能性がわずかにもあるが、5台ともとなるとまずないだろ?」
『そういうことか。ま、そんなときは砲撃してしまうけどな。いいんだろ?』
「話し合いができる相手は残してほしいがな。残党になれば厄介でしかない」
よくある敵の頭を討ち取ればって話はあるが、それは一部だ。
敵の首都を木っ端みじんにする奴は早々いない。
なぜなら、そんなことをすれば停戦も出来なくなるからだ。
つまり、対テロ戦へと移っていく。
目に映る人を殺さないといけなくなるのは面倒だ。
ちゃんと国として対応していきたい。
『そこまではしないさ。適当に減らすって意味だよ。無政府状態の相手をするのがどれだけ面倒かは私も知っているからね。素人とはいえ、全員疑わないといけないのは面倒だ』
「ま、それならいいさ。ともかく、そっちが会談に臨む間というか、向かっている途中は連絡は常にオンにしておくからな。インカムも付けてろ」
『適当にアクセサリーとでも言っておくが、怪しまれはするだろうさ』
「そりゃな。ま、そこらへんも含めてお前の腕次第だ」
とはいえ、あのジョシーに交渉事が出来るのかと不安になるが、実際使者を迎え入れて話し合いはしたんだから出来るとは思いたいが……。
いや、考えるだけ無駄か。
代わりに俺が行くのも、結城君たちが行くのも無理だ。
お姫さんたちは論外。
つまりジョシーしかいない。
だから出来るかどうかを心配するだけ無駄というわけだ。
「それで、出発は何時になるんだ?」
『敵さんが撤退準備ができるのが3日後だな。死体の回収をしたいってさ』
「あん? 死体を持って帰る風習でもあったのか?」
『あーいや、身に着けている物の回収だとさ。金品を身に着けているから、許されるならって話だから許した』
「ああ、そっちか。確かにこっちの連中は下手な徴兵された連中は、飯も自前だったりするしな」
『みたいだね。賃金として渡した金銭とか武具も回収したいってさ』
「世知辛いね~。電子マネーならそんな苦労もないだろうに」
『そんなもん、こっちにはないからね。ま、現金の方が信じられるっていうのは分かるさ』
「それはわかる」
カードとか電子マネーはハッキングとかを得意とする連中からすればカモだしな。
俺としても現金の方が安心できる。
なにせ俺たちが向かう戦場は電子マネーとか使えないからな。
現金が一番だ。
とはいえ、現金でも物資不足の場所ではただの紙だけどな。
食い物とか飲み物とか生きるために直結するものが強かったりする。
「まあ、追加の物資とかがあれば言ってくれれば用意する」
『ああ、3日の間に相手の好みでも調べるさ。まずは適当にその手の物だしてくれないか?』
「了解」
ということで、俺は相手さんが気に入りそうな物を砦の倉庫に出していくのであった。




