第440射:ゆっくりした戦闘準備
ゆっくりした戦闘準備
Side:ナデシコ・ヤマト
『こちら、敵を確認。やっぱり敵は確実にこちらを仕留めてから移動の予定だな』
そんな風にジョシーさんからは、特に何も緊張した様子もないのんびりした声が返ってくるのですが……。
上空のモニターに映っているのは、砦とその周辺にいる友軍1万と、少しの戦車。
それに対して、敵は4万に攻城兵器だと。
戦車よりも大きいので、確かにこれはと思いますし、数の圧倒的な違いに、これは少し脅した程度ではひいてはくれないというのが理解できました。
田中さんたちが、敵をひき殺すというのがどれだけ甘い方法を取ってくれたのかと理解しました。
私なら、この威容見た時点で戦車での砲撃を実行したに違い、いえ、絶対に砲撃をしていたと思います。
相手が一般人だろうが、四散してノスアム周辺で野盗になろうが、そんなの生きて帰らなければ意味がないと思わせるほど、数があるというのはこれだけ危機感を抱かせるモノなのだと思いました。
「……ねえ、撫子。前も、ゴードルのおっちゃんが連れてきた10万近い相手とアスタリで戦ったんはずなのに、今の方がちょっと怖いと思う僕はへんかな?」
私がそんなことを考えていると、横にいた光さんも同じように恐怖を抱いたようで私に話しかけてきます。
「確かに、アスタリの町を守った時の方が敵が多かったはずですが……」
なぜ、この程度で私たちは恐れや怖さを抱いているのでしょう?
「ああ、それってあれじゃないか? アスタリの時は基本的に魔物がドンドンやってくるって感じだったけど、今回は人だろ?」
「あ、そういえばそうだ。あれだけ戦線の突破の時には魔物がいたのに、こっちにはいないね」
「その通りですわ。今更ながら気が付きました。田中さんはこのことは何とお考えで?」
私は今更知ったことに対して、田中さんに意見を求めた。
「ん? いや、知らん。何らかの事情があるとしか言えないだろうな。予測なんざ色々立てられるが、圧力を感じている理由は分かる」
「え? なんで。人だから何が違うの?」
「魔物とは違って意思があるからな。目の前にただ進む獣とは違うんだよ。明確にこちらを倒そうって意思がある。それにアスタリの時は大半が森に隠れてたからな。散発的だったんだよ。それが今は平原にズラ―っと並んでいるから、見た目も迫力があるってわけだ」
「「「ああ」」」
そう言われると腑に落ちました。
確かに、アスタリの時は10万と言われてはいましたが、森の中から魔物がグループになって出てくるぐらいで、それを迎撃するという方法でした。
まあ、グループとはいえそれでも数百単位で大変だったのは間違いありません。
ですが、それでも映像の向こうに広がる数万の軍隊と比べると見劣るするのは間違いありません。
『雑談中悪いんだが、敵さん目の前でのんびりおもちゃを組み立て始めたぞ』
ジョシーさんから連絡があり、映像を改めて見てみると、確かに木材を垂直に立てて組み立てているように見えます。
ですが……。
「ねえ。作るにしても近すぎない?」
光さんの言う通り、敵が組み立てているのは、本当に砦からすぐのような場所です。
距離にして一キロもない気がします。
すると、答えは意外なことに晃さんが答えてくれます。
「この世界の技術力じゃ、近くで組み立てて、それを寄せるぐらいしかできないんだよ」
「どういうこと?」
「そのまま。荷馬車とかならともかく、攻城兵器っていうぐらいだし、それなりにでかい。そんなものを作ったまま移動できる運搬技術がないんだよ。確か地球の方でも、大昔は部品どころか、材料を敵の前の近くの森とかで切り出してたって話もあるぐらいだぞ」
「まじ?」
「本当なのですか?」
何とのんびりしているのでしょうかと思うと同時に……。
「それって攻撃されない?」
「ですわよね」
光さんの言う通り、そんなのんびり作っているのなら、敵だって黙ってやられるわけもないでしょう。
「そりゃもちろん攻撃してくることなんてよくある。だから、ほら、ああして守ってるだろ」
「ん?」
「え?」
そういわれて改めて映像をよく見てみると、確かに攻城兵器を作っている周りには盾を持った兵士たちが構えているのが見えます。
「……あ、えーと、守ってる?」
「確かに守っていると言えば守っているのですが……」
なにか違う気がしてなりません。
すると田中さんがタバコに火をつけながら……。
「ま、違和感はわかる。兵器なんていうのは目の前で堂々と作るなんてことはないし、敵に見せるなんて現代においては馬鹿のすることだからな。何せ目標だとしれていますと超ロングレンジ、または隠密、そして最優先破壊目標として認識されるからな」
そうです。
私の認識としては田中さんのいう戦い方が基本だと思っています。
「だが、こっちは結城君の言う通り、基礎の技術力がないし、運搬も一苦労。だからこの場で作ることにしたわけだ。隠さないのは、別に壊されると思っていないからってやつだな。まあ、隠せるようなものでもないしな。むしろこっちにとって隠しているのは高レベルの敵だろうな」
「そっかー。って、今度は高レベルの人が不味くない?」
「いえ、その話も前にしましたね。以前の戦線突破では戦車相手に敵は何もできなかったと」
そう、田中さんも警戒はしていたと言っていましたが、結局のところ評価対象外となってしまったわけです。
「まあ、それは砲撃が基本になってたことだからな。今回は突撃だ。そこは注意しとけよ」
『わかってるって。とはいえ、数十トンの戦車を止められるような人がいればそれこそ攻城兵器なんぞいらないと思うけどな』
……確かに。
そんなスーパーマンがいるのであれば攻城兵器どころか、数なんて必要はないでしょう。
そう思いながら攻城兵器の準備をしている映像を眺めていると……。
『……なあ、作るの待ってるの暇なんだが、攻撃していいか?』
「だめに決まってるだろ。予定通りにしてろ。ほかの部隊も動かないようにちゃんと言い聞かせておけよ。砦に入りきらない連中が勝手に突撃なんざしたら、作戦崩壊するからな」
田中さんの言う通り、ジョシーさんがいる砦には一万もの兵士は詰めることができず、砦を中心に左右に配置されています。
話は多少したことはありますが、戦闘に逸っている人が多いように思えましたので、確かに心配です。
『そっちの方は心配いらないさ。我慢出来たら酒や飯を食い放題って言っているからね。あと、私に殺されたいならって言ってる』
……それで言うことを聞くというのはどうなのでしょうか?
まあ、それぐらいじゃないということを聞きそうにないとは思いますが。
「なら、問題はお前だけだな。向こうに対しての通告もあるんだから、ちゃんとしていろよな。っと、敵が一騎出てきたな」
田中さんがジョシーさんに注意を促している最中、敵の陣から馬に乗った人が前に出てくるのが確認できます。
そして、ある程度まで砦に近づいた後停止し……。
『東側の侵略者たちに告げる! 我が軍は精強であり不敗! たちどころに貴様たちを砦毎殺し壊し尽くすであろう! だが、武装解除をして降伏、砦を明け渡すのであれば、命だけは保証しよう!』
ああ、なるほど。
「降伏勧告か。まあ、向こうもノスアムはもちろん、そのまま最低戦線を構築してたところぐらいにはいきたいだろうしな。無駄な戦闘は避けたいか」
田中さんの言う通りだと思います。
敵は確かに数の上なら、砦にいるジョシーさんたちは圧倒できます。
ですが……。
『さーて、返答はどうする?』
その降伏勧告を受けているジョシーさんの声は、どうしても笑っているように聞こえました。




