第439射:予定に基本的な変更はなし
予定に基本的な変更はなし
Side:タダノリ・タナカ
「……ということで、敵の進軍が落ちている」
『はぁー。おもちゃを持ってきたのはいいが、速度が落ちるとかないわー』
攻城兵器のことをジョシーに伝えた結果はこの通りだ。
何とも思っていない。
むしろ、進軍速度が落ちていることを心底嫌がっている。
まあ、それも当然か。
おもちゃというのはあれだが、本当に俺やジョシーにとっては木細工のおもちゃでしかない。
幾ら積み木を積み重ねても、大人は倒せない。
それが大木ならあれだが、それも数に限りがあり、質量も戦車のパワーには及ばない。
つまり、どう考えても敵に勝ちはない。
だから、ジョシーとしては退屈な時間が長引くだけだ。
「言っておくが先走るなよ。そのおもちゃをぶっ壊すのを見せ付けて撤退させる予定なんだからな」
『あー、確かにそりゃあ効果的だ。上っていうのは歩兵がいくら蹴散らされようが、個々人の責任って思いがちだからな』
「そういうことだ」
俺もジョシーも上がどれだけ鈍重かは知っている。
いや、まあ、上に立っていれば歩兵の犠牲なんて当然のことだしな。
全戦力の3割でも削れない限りは引かないだろう。
微々たる損失ってやつだ。
幾ら、こちらに戦車という未知の戦力がいたとしても、こちらが砲撃でもしない限りは、歩兵に対して多少有利な兵器としか認識できない。
数で押せば何とかなるってな。
これが、現代なら兵器の存在というのは脅威度が段違いだから調べはするんだが、それでも歩兵というか、俺たちのような傭兵団はそういう兵器の戦力評価に使われる側だからな。
消費されて当然ってわけだ。
そして、敵側の主力のほとんどは基本的に徴兵してきた一般人。
言い方は悪いが、その連中がどれだけ死んでも困るのは、そこの土地の連中だ。
軍を率いている上にとっては、代わりのきく消耗品。
これが、鍛えた軍隊ともなれば、多少なりとも損失は抑えるようにするだろうが……。
お金や食料を消費していくのだから、むしろ減って助かると考えている可能性もある。
俺たち傭兵とかは全滅すればお金を払わなくていいとか、戦果を持っていけるとかな。
うん、やっぱり効果的な、わかりやすい戦果が必要だな。
そう思っていると、ジョシーから提案が飛んでくる。
『おもちゃを壊すのはわかった。とはいえ、それだけじゃあれだな~。指揮官も何人か始末した方がよくないか?』
「指揮官な~。その話はあったんだが、その部隊が瓦解しそうなんだよな~」
軍というのは、指揮官がいなければ動けないというのは常識だ。
いや、組織としての常識だな。
だからこそ、首狩り戦術、指揮系統の撃滅を狙うというのは戦いにおいては常套手段と言える。
しかし、そんな弱点を露骨にさらすことは、こちらの世界においてもない。
敵指揮官は後方にいて、敵の攻撃にさらされない位置から指示する。
まあ、当然のことだ。
とはいえ、そこは技術が発達していないこの世界の弱点があり、後方とは言ってもたかが知れているわけだ。
地球だと、敵の司令部なんざ数百キロ後方なんてザラだが、こちらは精々数キロだ。
おかげで、こっちもわかりやすいんだが。
そして、ありがたいことに。
こっちの世界は隊伍を組むとか馬鹿なことをしていて、その戦闘とか中央に部隊指揮官がいるのでやりやすいんだよ。
下手すると戦闘で将軍とか、こっちで言えば左官、いや尉官クラスが率いてくるからな。
とても狙い撃ちしやすい。
つまり、今回の場合は指揮官を簡単に戦車でひき殺せるわけだが……。
そうなると、今言った心配事が出てくるわけだ。
『部隊が瓦解することなんてよくあることだろ。一人二人はひき肉にした方が効果的だろ?』
「あー、まあ、そうだな。でも敵軍の司令官はやめろよ。本当に瓦解する」
『そこは分かっているって。ちゃんと調整はするさ。上を切り取ったあとはゲリラになることもあるしな』
ジョシーの言う通り、司令官を始末すると組織的な抵抗が出来なくなり、ゲリラというか、こちらでは野盗などになる。
それが俺たちが一番懸念していることだ。
ノスアム周辺を荒らされると、こちらも治安維持に力を入れないといけなくなるからな。
そんなことをされると、俺たちの予定が遅れる。
だから、こういう作戦を取っているわけだ。
「本当に頼むぞ。敵を後退させるのがこっちの狙いなんだからな。話し合いができる余地は残しておきたい」
『話し合いね~。ま、今のところは東側連合のいいように動いているだけ、ノスアムのお嬢ちゃんたちは何にも知らない。そうなると、情報を握っているのは今度来ている連中ってことか』
「ああ、ノスアムのお嬢ちゃんたちにはそこの所詳しくは話していないが、こちらも情報は欲しいからな。西魔連合全員を相手取るとか、無駄なことはしたくない」
『そりゃそうだ。私としては戦いを楽しめるからいいともいえないしな』
「あん? オマエは引き金を引ける的がいるのが嬉しいんじゃないのか?」
『戦意があるならな。逃げ腰の一般人を撃って面白いとかはおもわないね。美味い飯と娯楽を用意してくれるんだし』
「ああ……」
こいつが楽しみたいの戦場だったな。
敵でもない徴兵された一般人を後ろから撃って喜ぶ変態じゃなかったか。
多少は良識はあったな……こいつと話しているとつい忘れがちだ。
『そうだ。ちなみに予定が延びている話だが』
「ん? どうした? そっちで何か問題があったか?」
『問題と言えば問題だな。上から命令がきて迎撃態勢を整えちゃいるが、敵がこないからダレてるな』
「そっちか。ジョシーがまとめられないほどか?」
『いや、本番になればしっかり動くように躾けちゃいる。だが、連中の気持ちもわからないでもない。だから、ちょっと物資の追加をよこせ。車なら一日もかからないだろう?』
「いや、ドローン越しに映像があれば即座に出せるのは知っているだろう。わざわざ人を割く理由もない。場所を指定しろ、そこに物資は出してやる」
『おおう。意外と気前がいいじゃないか。てっきり手順を踏むかと思っていたんだが』
「物資がノスアムとか東側連合の物だったら手続きはするんだが、こと物資に限っては俺の自由だからな。それで士気が保てるならやるさ。俺もお前も物資不足には泣いたからな」
『まあなー。飯がまずいのはいいが、無いのは本当にな。弾薬は食えねえし、最悪弾も現地調達の時もあったしな』
あったあった。
雇い主の誤情報で本当にひどい目にあったんだよ。
弾切れで敵から奪って何とかしていた。
だから、そういうのは出来るなら避けるべきだ。
「で、何が欲しいか具体的にデータを送れ。それで指定した場所に出す」
『わかった。じゃあ、後でデータを送るから待っててくれ』
「ああ。だから、ちゃんと押さえて、目標を達成しろよ」
『できたらな』
そんな軽い返しが来て連絡は終わる。
とりあえず、ジョシーが率いるノスアム西砦の士気に関しては問題なさそうだな。
あとは、敵が砦に押さえを置いて、こっちに向かってきた時の備えも必要か。
まあ、その場合はこっちとしても敵の兵士数が少なくなってやりやすくはあるんだが……。
「いや、踏み込まれての撤退だから、敵もある程度四散するか」
そうなるとノスアム周辺にとっては迷惑か。
じゃあ、こっちに来させないようにするしかない。
「道を戦車で塞ぐのが最適か」
西砦でジョシーが完全に撤退させる。
となると、戦車の追加発注もいるか。
そんなことを考えながら、敵軍の動きを眺めながら、決戦の日を待つのであった。
ちなみに、ジョシーから来た追加物資の内容は、酒とつまみが7割、そして残りは美味い飯だった。
飲みすぎないように注意するのであった。




