第438射:攻城兵器の対応に関して
攻城兵器の対応に関して
Side:ヒカリ・アールス・ルクセン
「……ということで、敵の進軍遅れは雨と、兵器と、軍が増えたのが原因だな」
と、田中さんが特にこともなげに言ってきた。
あまりにも簡単に言ってくるんで、どう返事をしたもんかと思っていると……。
「あの、田中さん。敵の遅れが分かったのはいいですが、兵器を持っているというのは警戒するべきことではないでしょうか?」
「あ、うんうん。撫子の言う通り、兵器とかってあれでしょ? お城とか砦を簡単に攻略するためのモノでしょ? 不味くない?」
撫子の言葉で正気に戻った僕は、頷きながら危なくないのかと聞いたんだけど。
「いや~、危ないって何が?」
「何がってジョシーがいる砦とか、簡単に攻略されるってことでしょ?」
「どうやって?」
「どうやってって……。こうじょうへいきっていうんでしょ? お城が攻められて……」
「その前に戦車が突撃するのにか?」
「「あ」」
その返しで思い出した。
そうだった。
敵は砦で追い返すんじゃなくて、戦車がひき殺して追い返すんだった。
で、意外と驚いてなかった晃が苦笑いしつつ。
「二人とも、鉄で精巧につくられた戦車と、木材で作られた攻城兵器、ぶつかって壊れるのがどっちだと思う?」
「「攻城兵器」」
晃の質問に僕たちは即答した。
答えるまでもない。
「その通り。むしろ敵の戦意を挫く明確な目標が出来たわけだ」
「明確な目標ですか? それは今の話から攻城兵器ということでしょうか?」
「ああ、敵さんは砦を攻略するかはわからないが、こちら、ノスアムを本格的に取り返すつもりだっていうのは分かる。攻城兵器をあれだけ持ってきているんだからな」
「砦は無視するの?」
「そこは分からなないが、あれだけの数を小さい砦だけっていうわけじゃないだろう」
あー、確かにそうだ。
総勢4万近くに攻城兵器なんだから、ジョシーがいる千名程度の砦を落としてはい終わりってことはないとは思う。
むしろ、本命は絶対にノスアムだーっていう話が信じられる。
「話を戻すが、攻城兵器は砦を攻略するために用意したものだっていうのは分かるだろう?」
その質問に僕と撫子は頷く。
「つまりだ。その攻城兵器をあっという間に粉砕してしまえば敵は此方との力の違いに気が付きやすくなるわけだ。攻城塔っていう梯子と防御壁を合体させたような物は大きいから、それが倒れれば動揺するだろう」
「なるほど。遠くの兵士が轢かれても分かり辛いですが、大きな攻城兵器となるとそれだけ分かりやすいということですね」
「そういうこと。それをわざわざ作ってくれるんだからありがたい話だ」
うん、僕もよく理解できた。
相手が持ってきた攻城兵器は絶対に砦やノスアムを取り返すために用意したものだから、それだけ信頼があるってわけだ。
それを戦車があっという間になぎ倒せば、敵は驚くってこと。
それは兵士だけじゃなく指揮官たちもってことだから、敵が引き返すにはちょうどいい理由になるかもしれないってことか。
そう考えていると、晃が田中さんに質問を始める。
「じゃあ、あの軍に対しては特に何もしかけないってことですか?」
「ああ、行軍中の連中には仕掛けない。変える部分は砦から出て迎撃するってところだな」
「え? 砦で迎え撃つの?」
「そりゃ、そうしないと敵は攻城兵器をつかわないからな。敵も砦をあっという間に落として、抵抗は無意味だと思わせたいかもしれない。そうすればノスアムが降伏するかもって思うからな。敵も無駄に戦いはしたくないのさ。俺たちを倒したとしても、あの山脈には本隊がいるんだしな」
そっか、敵からすれば僕たちは最終目標じゃないってことか。
まあ、言われればその通りだ。
ノスアムは僕たちが占領したんだし、元々の領地を取り戻すだけ。
敵を追い返すには本隊を叩かないといけないっていうのは分かる。
でも、本隊よりもこっちの方が強いとは思うんだけどねー。
「つまり、ジョシーさんには敵が攻城兵器を作るまで待ってもらうというわけですか?」
「そうだな。まあ、通り過ぎるなら後ろから攻撃されることになるから、部隊を分けることになるだろうな」
「部隊を分けられたら問題じゃないかな? ジョシーが抑えられるんでしょ?」
「抑えられると思うか?」
「……無理かな?」
考えてみたけど、ジョシーが戦車を使っていれば、部隊を分けて1万とかを押し付けられてもあっという間に粉砕すると思う。
「だろ。というか、あの西砦の方には一万ほど部隊をやっているからな。敵は4万でも下手に部隊を分けると負ける可能性があると思うだろうな」
「そうですわね。意外と数の差は4対1と大きくは……無いのですか?」
「まあ、防御拠点に籠っている敵を落とすには数倍の数がいるって言われてはいるな。でもこっちには英雄とかそういうわけのわからないのがいるからな。そこが心配点だ」
「そういえば、そうでしたね。レベルの高い敵とかがいれば戦いは難しくなる。でも、前の戦いはどうだったんですか?」
晃に言われて思い出した。
僕たちって剣と魔法のファンタジー世界に追加でステータスっていうゲーム要素がある世界に来たんだった。
つまり晃が言うようにレベルが高い人は強くて苦戦するはずなんだけど……全然記憶にない。
そこらへんどうなっているんだろう?
「いや、前の戦いの結果は知っているだろう? ノスアムも、戦線突破も。戦車であっという間だ。レベルがあろうがなかろうが、意味のない状態だ」
確かにそういわれて、今までこちらで起こった戦いを思い出した。
戦車を出してそれで終わりって感じだ。
東側で遭遇した魔族がゾンビを連れた列も、田中さんが爆発物を設置して、まとめて吹き飛ばした。
レベルがどうのとかいう話以前の問題だ。
圧倒的火力で敵を粉砕したって感じ。
「もちろん、今回は戦車での突撃だから、そのレベルが高いってやつらへの注意は必要だろうが、正直戦車の複合装甲を貫けるとは思っていない。結城君たちに散々試してもらっているしな」
「「「あ~」」」
田中さんの言う通り、僕たちは戦車の耐久に関しては散々調べて知っている。
あの装甲を抜ける魔術は今のところ、存在しない。
核レベルのものがあれば行けるだけど、そんなものを使えば僕たちにまで被害が届くし、じゃあ同じ戦車砲を使ったり、対戦車砲とか使えば行けるのはわかっているんだけど、それ、敵側がどうやって用意するのって話になる。
つまり、残るは行動不能にするぐらいしかないんだけど……。
「あとは、結城君たちがやった落とし穴を掘るとかだが、その場合はこちらでいったんしまって、後で出せばいいと対応は決まっているしな」
そう、行動不能作戦も対策済み。
というか、戦車が落ちて動けなくなるレベルの落とし穴とか敵の兵士たちだって動けなくなるから、意味がないんだよね。
「……つまり、何も心配はいらないというわけですね?」
「ああ、むしろ進軍速度が落ちている分、敵の負担は大きくなっているし、それに伴い疲労も溜まっている。頼みの綱である攻城兵器があっという間に破壊されれば、敵の指揮官も無理だと考える可能性が高くなる」
だよねー。
一生懸命運んできた奥の手があっという間に破壊されれば力の差を、戦力差を無理やりでも理解できると思う。
「ま、問題があるとすればジョシーがどうするかだな」
「え? 作戦通りにするんじゃないの?」
「いや~、あれは現場判断で色々動くからな。問題なく予定通りに進めばいいが、こういう戦場で予定通りっていうのはまずない」
そう田中さんが言葉を切る。
うん、確かにあのジョシーなら展開が変われば独自に判断して結果を出す。
僕たちの想定以上のことになるのは大体予想がつく……。
「ま、一番厄介なのはいつでもどう動くかわからない味方ってわけだ」
言っていることはわかるけど、理解したくないなー。
と、僕は思うのだった。




