第436射:思ったよりも進みが遅い
思ったよりも進みが遅い
Side:アキラ・ユウキ
あれから意外と時間は穏やかに過ぎて、俺たちは普通にノスアム要塞の建設を進めていた。
敵軍がノスアム西砦に迫っているって聞いたときは驚いていたけど、結局のところその時にできることなんてのは多くなくて、俺たちは田中さんから普通に。
『この砦をさっさと完成させよう』
という判断に従っていつもの通りに仕事をしていた。
搬入にトラブルが起こっていたのも今は解消されて、物資はどんどん運び込ませ、内装の工事は既に8割を終えている。
既に稼働している砦の施設もあって、宿泊施設はもちろん、それに伴いトイレや風呂、そしてキッチンも動いている。
あ、もちろん歩哨とかの警戒態勢もばっちりだ。
空調、つまり冷暖房も完備なので、こっちで働いたことがある人はこの砦に居住したいというモノまでいる始末だ。
いやーまあ、冷暖房付きの部屋から、そういう設備がない家に戻るのって普通は嫌だよね。
こっちじゃ、薪代だって馬鹿にならないんだし、暑さはどうにもならないから。
「あー、なんていうかコンテナよりも、マジで楽だよね~」
「それはそうですわね。あれは移動することを前提にした小さい拠点でしたから」
一緒に休憩している光もコンテナよりも、砦内での管制室というかモニター室の方が心地がいいようで、そうつぶやいている。
まあ、撫子の言う通り、コンテナのモニター室は無理やりって感じだったもんな。
それに比べて、今の管制室は広々としていて、移動するのに周りに気を使わなくてもいいし、会議の時も大きなテーブルを囲んでできる。
別のコンテナに移動する必要もない。
とはいえ……。
「あ、そうだ。晃、テーブルの上の敵軍の駒動かして」
「わかった。それで敵はどれぐらい進んだんだ?」
「およそ、砦から50キロという所ですね」
そういわれて、俺は敵軍の赤い駒を砦がある位置へと近づける。
これが唯一面倒というべきか。
パソコンでデータ上はすぐに更新されてはいるんだけど、こういう風に地図と駒を使ったモノもいるってことで、田中さんが用意して、それを反映させる役目を俺たちはおっている。
なぜなのかというと、これをそのままノスアムのジェヤナたちに教えるためだ。
流石にモニターを通じて教えるわけにもいかないってことらしい。
いやー、もういい加減パソコンとかドローンを教えてもいいと思うんだけど、何せ東側連合の上には教えているんだし。
と言っても、まあそういうのはタイミングが大事っていうのはわかるから何も言いませんけど。
で、そんなことを考えながら、改めてテーブルの上の地図を見て敵の進軍状況を見ているとあることに気が付く。
「……なあ」
「なに?」
「何か問題でもありましたか?」
「いや、問題というか、今まで日付ごとに記録してたよな。ほら」
俺は指を向けると、駒の進行方向の後方。
つまり、今まで敵軍が進軍していたルートには、丸が記載されていて、その日の距離と速度が記載されているんだが……。
「一日の進軍速度がここ最近5キロ前後だろ。これだとあと10日はかからないか? 予定だと二週間だったろ?」
そう、ジョシーさんから連絡が来た当初は、最初の速度ならあと14日かかるだろうって話だが、すでにあれから10日はかかっている。
つまり、予定よりも10日はずれているってことになる。
「ん? そりゃ、遅れているからじゃない?」
「ですわね。確か途中で援軍も合流したのもあるのではないのでしょうか?」
「それは聞いたけど、さらに追加で1万だっけ? それでそんなに進軍が遅れるか?」
そう、確か2日前に敵の援軍が合流したってのは聞いた。
映像も確認したけど、てっきり再編とか、これからの打ち合わせとかで遅れていたと思ったんだが、流石に2日も経っても進軍速度が上がらないとか何か異常があったと思うだろう。
「うーん、人が多くなったからかな~って思ってたけど?」
「まあ、追加した人数もかなり多いですからね。進軍速度が落ちるのは当然かと。特に軍の列に乱れはありませんし、気にしすぎでは?」
「そうか?」
俺はこの遅れは気になるんだけど、2人はそこまで重要だと思っていないらしい。
「別に後で田中さんが確認するんだしね~。ま、気になるなら、田中さんに伝えに行ったらどう?」
「そうですわね。この遅れが気になるのなら、直接田中さんに伝えていいと思いますわ。今は休憩中ですし、交代はそのあとでもいいですから」
「ありがとう。ちょっといってくる」
二人の許可は取れたので俺は管制室を出て、砦の中で引き続き工事をしている田中さんのところへと向かう。
最近の田中さんは内装は報告だけを聞くだけで、確認とかは俺たちに任せてくれている。
じゃ、何の工事をしているのかというと……。
「田中さん今いいですか?」
「ん? ああ、いいぞ。配置は終わったしな」
そういわれて、周りに人がいないのを確認して、ある部屋に入ると、そこには一面武器が壁に立てかけられていた。
「うわ~。いつ見ても物凄い量ですね」
その壁にはどこかで見たことがある武器が壁にかけられていて、弾薬も十分に設置してある。
とはいえ、バラエティに富んでいるというわけではなく、どこも同じ武器をこうしてかけてある。
つまり……。
「まあ、いざという時の隠し武器だからな。これぐらいないと辛い。ほかと連携が取れないことを予想しているからな」
そう、これは隠し武器庫だ。
ボタン一つというわけでもはないが、よくあるパスワードを入力すれば壁が動いて、この武器庫が現れるわけだ。
それを使う時がないことを祈りたいけど、田中さんがやっているということは、そういうことを想定しているんだろうなというのがわかる。
そして、この作業だけは俺たちは手伝えない。
武器の知識もさることながら、部屋の改装に関ることなんで田中さんしか作業ができないからだ。
もちろん、ノスアムの人にばれるというわけにもいかないから、人がいないところで田中さんは隠れるように作業しているんだ。
「で、どうした。何かあったのか?」
「はい。二人には話したんですけど、気にしすぎじゃないかって話になって……」
「俺に確認しに来たわけか」
「はい。それで、何が気になったかというと……」
そこは田中さん、俺が言いたいことをあっさり見破って話を聞いてくれる。
なので俺も進軍速度がかなり落ちていることを伝える。
「なるほどな。結城君はそれがおかしいと思っているわけだ」
「そうです。やっぱり田中さんも気のせいだと思いますか?」
「いや、速度が遅くなっているのは事実だから気のせいではないだろう。何か遅れる理由があるんだろうな。まあ、それがどういう理由かはわからないが」
「調べる必要はあると思いますか?」
「あるな。一日に5キロだと相当ゆっくりだな。二次大戦の陸戦隊でも一日の進軍速度は10キロ以上だっていうのはあったから、それ以下だ。まあ、全員が訓練された兵士ってわけでもないからな」
「え? 二次大戦の兵士でも10キロぐらいだったんですか? 車とかもありましたよね?」
びっくりな情報に思わず聞き返す。
なにせ、第二次大戦中は汽車はもちろん、船や飛行機まで使っていた時代だ。
それで10キロだけしか進めないっていうのはおかしくないだろうか?
「まあ、状況も違うから、一概に何とも言えないが、二次大戦中とはいえ、機械化歩兵になっていたわけじゃないからな。全部隊に車がいきわたっていなければ、それだけ進軍は遅れる。わかるな?」
「ああ、なるほど」
「そして何より、こっちと違うのは、敵地に進むってことはかなり警戒を要するわけだ。こっちとは違って、砲弾が遠距離から飛んでくるからな。そういう警戒をすると遅くなるのもわかるだろう?」
「確かに」
そうだ、こっちとは違って砲弾が飛んでくるんだから、敵地を進むときは慎重になる。
そうなると納得の速度だ。
「でも、こっちは違うでしょう? 向こうはそこまで警戒しているように見えませんし」
「こっちは、せいぜい弓矢が飛んでくるぐらいだしな。だから馬を先に走らせて、それを追うぐらいでいいんだろうな。で、遅れている原因はちょうどいいから、管制室に戻って一緒に探るか」
「わかりました」
どうやら田中さんはすぐに調べる必要があると思ったようで、隠し武器の配置を終えたらすぐに俺と一緒に管制室に戻ると言ってくれた。
いったい敵軍内部で何が起こっているのか、俺はそこが無性に気になっていた。




