第434射:まずは自分たち
まずは自分たち
Side:ナデシコ・ヤマト
ちょっと焦っていたところを、晃さんにたしなめられ、下手に軍を倒す方が問題があると理解できた。
倒し方一つでも色々あるのだなーと、また一つ世界が広がった感じがしました。
とはいえ、ルーメルに来てからの初めての戦闘訓練の時も同じ感覚でしたが、結局のところ物の見方ということなのだと、改めて思います。
戦争と戦闘訓練、そして勉強なども結局のところはそういうこと。
なんて極端なとおもいましたが、それが大事なのです。
戦うこと、勉強、そして戦争。
全て何かに影響するのです。
それを考えて動くこと。
そうでもなければただ悪戯に混乱を広げるだけになるでしょう。
それを理解してからは、田中さんたちの会議がそれなりに長引いてはいますが、まだ1日経った程度。
焦ることはないと自分でもすんなり納得してしまう。
そんなことを考えながら落ち着いてノスアムの周辺の偵察を行っていると。
「ねえ、撫子。今大丈夫?」
同じようにモニターで監視をしている光さんが話しかけてきます。
「ええ。どうかいたしましたか?」
私はモニターから視線をそらさず光さんの呼びかけに答えます。
別に普通に返事をしただけなのですが、今は夜で人気はすでになく、その静けさの中で私の声はひときわ大きく聞こえてしまいます。
ですが、やはりそれは気のせいなようで、光さんは気にした様子もなく話を続けます。
「いやー別にモニターには異常はないよー。ただ、話し合いはどうなるのかなーって」
「ああ。どういう結果になるのか、やはり気になりますか?」
「うん。どっちにしろ、兵士さんっていうか、無理に徴兵された人たちは逃げるしかないし、ご飯はないし、野盗になるしかないのは分かるんだけどね~。この軍を見てるとさ……」
私もそう言われて、光さんが見ている画面を拡大してみます。
夜なので進軍は停止しており、各々休んでいて焚火を囲んで寝ているのが目に入ります。
勿論上級将校、つまり偉い人たちはテントを張ってその中で休んでいるので様子は見えませんが、兵士と徴兵されている人の差というのは露骨でした。
何せ、兵士として雇われている人たちは、しっかりとした鎧や武器を持っているのですが、徴兵された人は鎧は使い古しのようなものが多く均一ではなく、なんとかそろえたような物であり、武器に関しても槍と剣を持ってはいるけど、良い物のようには見えない。
何より、全体的に健康そうに見えない。
痩せている人が圧倒的に多く、私が知る健康体とはとても言えない。
それを光さんは見ていたのだというのが分かります。
「……この人たち、やっぱり徴兵。無理やりつられてきたんだなーってわかるんだよ。だって、ほら、ここの人震えている」
そう言われて光さんのモニターに視線を向けると、そこには焚火を囲んでいる一人の男性がいるのですが、決して屈強そうにも見えない人の好さそうな青年が震えて膝を抱えています。
それが純粋に寒いのか、これからの戦いを案じてなのか、それともほかに何かあるのか……。
「逃げ出せばって思うけどさ、田中さんから聞いたけど、別に負けてもないのに逃げ出せばその後が酷いんだってさ」
「……それは、日本でもあったことですわ。第二次大戦中の日本では意思の統一を図られていましたから反戦を叫べば当人だけでなく、家族や親類にまで被害が及んだという話はよく聞きました……」
「うん。僕も知っている」
今の日本からすれば何を馬鹿なと思いますが、それが昔は当たり前でした。
そして今ならその意味も分かります。
戦争に乗り出してしまったのです。
やり始めたのなら勝つしかなく、反対を唱える人々は上の人たちにとっては士気にかかわるモノだったでしょう。
まあ、その戦争自体も悪かったのかといえば、アジアの植民地化が進んでいたあの時代、日本の戦争のおかげで解放されたという国々も沢山いますので、何が正しかったのかといわれると、私には判断しかねます。
ただわかるのは……。
「ですが、あのような人たちが犠牲になっていいとは思いませんね」
「だよね」
そう命を無駄に散らせてはいけないということ。
でも、でも、その手段が私たちにはない。
今私たちは敵の進軍を受け止める側。
でも、ノスアムを攻め取ったのは私たち。
ですが元をただすと、東側に攻めあがったこと。
いえ、西側は魔族を作った連中を追いかけて?
……そんなことを考えてキリがないことに気が付きました。
よく報復の連鎖だとか言いますが、そういうモノなのかと思ったのと同時に、とてもくだらないことが発端なのではとも思ってしまいます。
今となっては知りようもありませんが、発端を知ったとしても、今モニターの向こうで進軍している敵の皆さんは命令として動いているのです。
私たちは対処しなくてはいけません。
言って止まるのならさっさと止まっています。
だから……。
「光さん。これは間違いだとはわかっていますけど……」
「ん? 間違いが分かっているの?」
「はい。これはどうしても間違っているのです。だけど、そうしなくてはいけない。私たちが倒れれば、それだけ被害が広がる。きっと、いえ、絶対にこれは傲慢です。ですが、私は負けてやるつもりはありません」
私がそう光さんを見ていうと、一瞬ぽかーんとしていましたが、すぐに笑顔になって。
「うんうん。そうだよね。確かにあの人たちは可哀想だ。でも、だからって僕たちが負けてやる理由にはならない。ノスアムの人たちだって、そしてユーリアやマノジルお爺ちゃん、ゴードルのおっちゃんにノールタル姉さん、イーリスもいるんだしね」
「それにゼランさんもいます。というか、今回のことは船から物資を運んできているっていう風にしていますから、負けてしまえばゼランさんの負担も増えますからね」
「あはは、それは僕たちが勝ってもあまり変わらない気がするけどね」
「確かに」
そう言ってお互い吹っ切れた感じで笑顔になっていると。
「交代と、方針が決まったってさ」
そんなことを言いながら晃さんが入ってきます。
お互い顔を見合わせて、すぐに話を聞きます。
「簡潔に言うけど、普通に撤退させるんだってさ」
「てったい?」
「それは撃破するということでしょうか?」
「いや、違う。俺も最初はそう思って聞いたんだけどさ、田中さんから苦笑いされたよ」
『いやー、俺も悪かったな。敵を倒す、殺す、そして相手を降伏させるだけの戦闘も多かったからな。撤退させる。つまり敵を引かせるっていうのも戦術の一つだ』
ということを田中さんが言ったそうなのです。
敵は徹底的に叩くことが大事とはよく言われました。
私たちは舐められやすいからと。
確かにその意味は分かっています。
何せ私たちは若造なんですから。
なので、今回の方針の撤退という意図を掴みかねているのを晃さんもわかったようで……。
「具体的にいうと、こちらから適度に理解できる範囲で攻撃して、敵の判断で撤退してもらうってことになったんだよ」
「ん? それって難しすぎない? 普通、戦車で吹き飛ばせはこっちの人たちはすぐに逃げ散ると思うけど?」
「ですわね。敵が冷静に撤退できるような状況にはならないと思いますが?」
「だから、そこは調整するんだよ。敵が逃げ出さない程度にこちらが有利に進めて、撤退した方がいいと思わせるってこと」
「「……」」
晃さんの言っていることはわかりますが……。
「そんな器用なことができるわけ? ジョシーたちと僕たちが合わせて動くの?」
そう、ヒカリさんの言うようにそう簡単にできるわけはない。
戦場なんて特にです。
「まあ、俺もそう思うけど、田中さんたちは何とかなるんじゃないかーって言ってる。詳しい話は聞いてみるといいさ」
「晃さんは作戦の詳細は聞いていないのでしょうか?」
「方針は決まったってことぐらいだな。詳しく聞こうと思ったら交代の時間だしさ、俺の代わりに聞いてきてくれよ」
「なるほど。うん、わかった」
「わかりましたわ。詳しい話を聞きに行きましょう」
こうして私たちは晃さんと監視を交代して、田中さんに作戦の内容を聞きに行くことになりました。
図らずとも、犠牲の少ない方法が出るといいのですが……。




