第433射:戦い方を考える
戦い方を考える
Side:タダノリ・タナカ
会議は意外と長引いた。
理由はどうしても、被害を免れないからだ。
殺すにしても、捕虜にするにしても、絶対漏れが出る。
それが、今後ノスアムやヅアナオの周囲に被害をもたらすことは避けられないと全員が一致した。
前のノスアム侵攻前にやった南側の最前線は突破するのが目的だったので、俺たち東側連合以外の被害はどうでもよかったが、今回はノスアムやヅアナオに被害が及ばないようにしなければいけない。
まあ、とはいってもこの前の前線突破の際には後方遮断もして、母数も少ななかったので取り逃がしに関してはそこまでもなかったというのがあるが、今回はそれは無理だという判断だ。
要は守るモノがおおく、制限がついてしまったということだ。
とはいえ、出来ることが限られるのが人。
あとはどれを選択するかになるだけ。
死体を増やすか、捕虜にするか、あるいは追い返すか。
俺たちが敗北をしてノスアムを明け渡すというのもあるが、それは今の所メリットが存在しない。
「「「……」」」
沈黙が会議室を覆う。
長いことあーだこーだと言ってきたが、そこでノスアムの領主であるお嬢ちゃんが口を開く。
「会議に会議を重ねた結果。私は追い返すというのが最善だと判断いたしました。皆さんはいかがでしょうか?」
「私はジェヤナさんの答えに賛成いたします。敵全てを殺すことも、捕虜にすることもまずできない。そうなれば、こちらの実力を示してある程度敵を削り、敵の意思で撤退してらう。それが最善でしょう」
お嬢ちゃんの意見にこっちのお姫さんも賛成をする。
だが、俺の方からは言っておかなければいけないこともある。
「追い返すのはいいが、その後の展望は考えているか? 下手に撤退させると面倒なことも起こりえるぞ?」
そう、今回だけの話ではない。
ノスアムに俺たち東側連合が踏み出したのは、西魔連合をどうにかするためだ。
つまり戦闘自体はまだまだ続き、終わりは見えていない。
何せ前線で戦っている指揮官も、上の考えが分かっていないようだしな。
いや、詳細を知っているような前線指揮官なんて普通は存在しないんだけどな。
で、その俺の言葉に二人はというと……。
「それも考えましたが、今ここで対策を打たなくてはノスアムやヅアナオも荒れます。それこそルメールはもちろん東側連合も足止めを余儀なくされるかと思います」
「そうですね。今はあるかもわからないことを想定するよりも、足元を固める方が大事だと私も思います」
「そうか、2人がそういうなら俺も反対しない」
結局のところ、何を選択して、その後のデメリットを受け止める覚悟があるかって話だ。
トラブルが起きた時になんで、どうして、なんて言って後手に回るのは構わんが、士気に影響したら面倒極まりないからな。
トラブルは必ず起こるモノ。
それに対して備えて、慌てず対処するのが一番というか、神様でもないんだから相手の動きを予想できないのだから、そうするしかない。
その時上が慌てれば下も慌てるし不安になる。
だからこそ自信満々にしておかなければいけない。
士気に影響したら面倒というのはそういうことだ。
「意外ですね。もっと何か言うかと思っていましたが」
俺が素直に納得したのが驚いたようでお姫さんがそう聞いてきた。
「もっと動揺していたら会議をするべきだとは思ったがな。今こうして落ち着いて納得しているならいい。問題はトラブルが起こったときに不要に動揺して、下の連中にそれが知られることだ。そうなれば混乱するからな。どれだけ大丈夫だったとしても、上が混乱してたら下は状況を把握していない分もっと混乱する。そうなればうまくいくものも上手くいかない。結局のところ、問題はどれをとっても出てくる。それに適切に対処できるかってのが大事なんだよ」
珍しく作戦概要でもないのに長ったらしく話してしまった。
傭兵が戦略、戦術に口を出すとかないしな。
まあ、ないが動きを見て俺たちをどうするのかを考えることは山ほどある。
そうでもないと、使い捨ての戦場に送られるからな。
こっちだって商売でやっているが、死にたいわけじゃないからな。
ということでちょっと口出しをした。
上が混乱すると、下の俺たちも巻き込まれるからな。
「なるほど。こういうことのご経験がおありで?」
お嬢ちゃんの方は驚いてこちらに質問をしてくる。
「経験なら沢山あるな。そこのお姫さんから聞いているとは思うが、俺は元々は傭兵だ。戦場で飯を食っていた。おかげで、上の混乱で勝てるところを負けた経験とかはそれなりにある」
「タナカ殿がいて負けたのですか?」
俺の回答に驚いたのはお嬢ちゃんだけじゃなく一緒にいた叔父のおっさんも驚いていた。
「そりゃ、負ける。こっちが負けてなくても上が負けたと判断すれば撤退しなければいけないしな」
「ああ、そういうことですか」
うんうんと頷いているが、あれは俺が無敵だと勘違いしているな?
大将がやられて敗走したとかそういう風に考えているのだろう。
……とはいえ、わざわざ説明するのも時間の無駄だ。
既にいままでの会議で時間も十分に使っている。
予定が決まったならすぐに動くべきだ。
俺はそう判断して、口を開く。
「納得してもらえたようで何よりだ。それで、追い返すというので方針は決まったが方法についてはどうする? ジョシーたちにやってもらうか? こっちまで引き込むか?」
「あ、そうですね。今も向かっているのでしたね。敵軍の位置はどの辺りでしょうか?」
お嬢ちゃんはまだゆっくりしている暇はないと気が付いたようで俺にそう聞いてくる。
それにこたえるようにテーブルの上に広げている地図に手を伸ばし。
「進軍速度から考えて現在はここだな。あとで詳しい位置は報告しなおすが、おおよそ間違いはないはずだ」
「砦からまだまだ余裕はありそうですね。連絡をして迎撃態勢は整えられますか?」
お姫さんは分かり切ったことを伝えてくる。
「当然できる。あとはどう追い返すかだ。向こうには戦車も配備しているからな。遠距離から攻撃することも可能だ。とはいえ、向こうが大人しく撤退するには……」
「ちゃんと戦って敗北したという事実が必要ですね」
意外とお嬢ちゃんは戦いの意味が分かっているようだ。
そしてそれに同意するようにマノジルの爺さんも頷き。
「確かに、タナカ殿の兵器は強力じゃが、敵は何をされたかもわからない内に瓦解したとなれば混乱しすぎて敵は四散するじゃろう。それでは意味がない。秩序を持って撤退してもらう必要があるのう」
流石は爺さん。
今回の追い返す意味をよくわかっている。
ノスアムはもちろんヅアナオに被害を出さないようするには、敵には秩序を持って撤退してもらわなくてはいけない。
そのためには俺たちもそれに合わせて動かなくてはいけない。
つまり……。
「戦車からの砲撃などはやめた方がいいでしょう。マノジルの言う通りわけもわからず軍がやられて崩壊してしまうのは目に見えています。しかし、そうなると兵と兵がぶつかることになります。数で負けているのにそれは……」
お姫さんの言うことはもっともだ。
確かに砦にいる兵は1万とちょっと。
対して敵は3万に届くかって所。
普通は勝ち目はない。
そしてこっちは戦車の砲撃や銃撃をしないということになっている。
どんな縛りだよって思うが、別にそこまで難しいことではないので。
「別に問題はない。あの戦車、何でできていると思っている?」
「え? 何ってあの戦車はヒカリさんたちから見せてもらいましたが、分厚い鉄でできたものですよね?」
俺の質問の意図がわからないようで首を傾げているが、隣のおっさんは俺の意図が分かったようで。
「なるほど。あの鉄の戦車を破壊できるものなどいない。それで前衛でも蹴散らせば……」
「攻略方法が無いと敵は撤退するか。ふーむ……行けるとは思うが、ちょっと詳しく話し合おうかのう」
「ああ、それがいい」
俺が全て決めてはノスアムの連中の面子もたたないだろうしな。
それに戦車がいきなり敵本陣を踏み荒らせばそれは頭が居なくなって混乱を呼ぶ。
戦車を走らせて突撃も駄目とか馬鹿らしいほど戦力差があるのだ。
あとは、どう加減をしていくかという話に移っていくのであった。




