第427射:砦の更なる強化案と敵の動き
砦の更なる強化案と敵の動き
Side:タダノリ・タナカ
ミニチュアを用いての話し合いは意外なことに長引き二日に及んだ。
いや、普通こういう都市開発計画みたいなことは、二日どころか数年かけるようなものだが……。
『いやー、本当にお前さんのなんでも作る?出す?力は便利だねー。私は銃器がせいぜいだったのに』
「お前は試してないだけだろう。それに死んであっさりその力を亡くしやがって」
『やったのはダストお前だけどな』
「手加減してたら俺が死ぬからな」
『当然だ。で、結局、話はまとまったのか?』
「一応な。今から地面を均して、堀った場所に入れるように砦の壁を出す」
『作るんじゃなくて出すっていうのがびっくりだよな。お前ほんとびっくり人間だな』
「使えるものは何でも使う。それはどこでも一緒ってことだ。いつお前のように使えなくなるかわからないからな。で、お前の希望は隠し武器庫を設置しろって話だったな」
そう、ジョシーに連絡をしているのは砦の計画を聞かせて、こいつの意見も一応聞いてやろうということだが、こいつらしいというべきか、武器がいつでも補充できるようにしろいう話だった。
砦の中に敵が入り込んでいる時点でアウトな気もするが、なければ敵が入ってきたところで逃げもできなくなると考えれば、一応必要性はあるか?
まあ、否定してもうるさいだけだしやるしかないが。
『ああ、ダストといつでも連絡、接触が取れるとも今後は限らないからな。いちいちそっちを待って補充するなんて面倒でしかないし、いざという時弾切れで戦えないとか馬鹿らしい』
ジョシーの言うことはもっともだ。
現在別行動をしているし、今後も状況によっては別行動する可能性は十分あるだろう。
その際の補給で俺が出向かないとできないとか不便すぎる。
拠点があるというのはそういう意味でもありがたいわけだ。
それに、先ほども言ったように、いつ俺の力が無くなるか想像がつかない。
なので、ここでしっかりと独自の砦を用意できるのであれば、物資の貯蓄なども合わせてやっていく。
物資というのは食料などはもちろん、武器に関するモノもだ。
上手く作れるのであれば、地下に燃料庫はもちろん、兵器庫も作りたい。
ここに来れば補充できるというのがあればありがたい。
もちろん、その分ここのセキュリティは万全にしないといけなくなるが、いつかどこかでやらなくてはいけないことだしな。
政治的にも状況的にも、今この場所が一番望ましいだろうと、俺は判断している。
おそらく、俺に色々要求しているジョシーも同じだからこそ、色々仕込めと言っているんだろう。
「わかった。まあ、俺も物資をためておくことは必要だと思っていたからな。そこらへんはやっておこう」
『うし。それならいい。あとは、どれだけで動くかって話だな。今の砦建設を独自にやっているってなると、まだ上は判断ついてないんだろ?』
「まあ、普通に拠点を作ろうにも事前の準備もあるからな。普通に考えれば、ジョシーたちはそこに陣取って敵の監視、迎撃要員だろうな。で、物資は足りているのか?」
『そこは問題ないが、進軍が止まって連中やる気が落ちている。そろそろ入れ替えをしたいな』
「いれかえか。ああ、連中基本的に徴兵された連中だったか」
この世界、基本的には専門軍人、あるいは戦争のための傭兵というのは少人数だ。
いや、どの世界も同じか。
戦うことを専門としている職業が大半を占めるとか、地獄どころか、自分たちの食い扶持も生産できないだろう。
で、じゃあ足りない分はどうするのかというと、こっちの世界は民間人の徴用、つまり兵隊に仕立て上げるってわけだ。
いや、地球でも民間から軍人に採用するんだから、システム的に同じだろうと思うだろうが、まあ、全然違う。
とりあえず、自前の武器を持って集まる。
それで終わりだ。
軍人のための訓練などは滅多にしない。
軍人じゃないからな。
それじゃ戦えないだろうと思うだろうが、戦いに必要なのはこの世界は数が基本だ。
というか民間人に力を持たせるのも嫌という意見もあって、あまり戦う術を教えないというのもあるらしい。
俺たちからすれば、そんなのいくら数をそろえてもと思うが、まあ数が多ければ相手がビビるというのも事実である。
色々話したが、そういう連中が戦っているのは食べるものと報酬があるからだ。
だが、現実は食べ物はともかく、報酬と呼べる略奪品はなし。
それで他国でじっとしていろという命令。
やる気はなくなっていくだろう。
というか、報酬は略奪品だけでもなく、多少は給与が出ているようなので、それを持って地元に帰りたいと思うのは事実だろう。
それを率いている軍人だって、自分の家などもあるだろうしな。
『そう言うこった。激戦区ならともかく、今は抑止力として砦にいるだけだからな。しかも砦には全員入らない。幸いお前から提供してもらっているテントとかで代用はしているが、冬になれば厳しいぞ?』
「あー、確かにそうか」
忘れていた。
ジョシーが同行している軍は1万人を超える。
砦の方は精々1000人が詰めるぐらいの規模。
10倍の大きさでもなければ無理であり、なおかつ、冬が来ればテントと焚火でしのげるかというと、こっちの冬は知らないが、ジョシーが言うくらいだ。
多分死者が出るレベルだろうな。
『そうなれば、士気は崩壊して兵が離散する。そこらへんも伝えてくれないか。上等なテントと暖房器具があれば持つだろうが、それでも上の許可が必要だろう? ダストの一存でくれてもいいが……』
「緊急時は物資の融通はいいが、そうでもなければ俺が部隊を懐柔していると思われるからしないぞ。この状況下で身内で争うとか、本当に面倒でしかない」
戦争でも味方に気を付けるのは当然のことではあるが、わざわざ敵を増やす理由もない。
何より、俺たちはこのノスアム以外は基本的に根無し草だ。
まあ、協力してもらっている国や冒険者ギルドには迷惑をかけたくはないというのもあるにはあるが。
『じゃ、交渉頑張ってくれ』
「ああ、わかった。だが、そっちの方は何か動きはないのか? 情報は集まらない状態か?」
『あー、降伏してきた連中もノスアム所属だったっていうのは覚えているな?』
「覚えている」
『ま、情報封鎖の一環だろうな。この砦は本当に足止めのためだけのものだ。あと私たちを勢い付かせるもの。ほれ、未だに向こうの町ヅアナオだが、兵士が続々と集まっているだろう?』
「ああ、既にさらに3000ほど追加されたってな」
結城君たちからそう報告が来ているし、俺もその映像を確認している。
俺たちを誘い込んで迎撃するための戦力は着々と集まっているようだ。
まあ、あれから一週間ほどで3000だから、動きは鈍いと言わざるを得ないが……。
『お前ならどの数で動く?』
「……そうだな。ジョシーの戦力が把握できているなら動かない。が、そんなわけないし、こっちの勝利条件も砦の部隊をなるべく減らさないっていうのがあるからな」
そう、ジョシーが率いている戦車隊だけで戦い自体は負けはないが、兵隊を減らされてこちらが撤退に追い込まれる可能性もある。
そうなればノスアムでの決戦となるが、それはなおのこと面倒になる。
まあ、だからこそ砦を作っているわけだが。
「……大体倍ぐらいだな。砦は無視して、ジョシーたちの部隊に攻撃を仕掛ける。あって意味のないようなものだしな」
砦って言うには価値がありそうだが、こと大軍と大軍に限っては意味はない。
砦を取る意味があればいいが、今回砦の価値はものすごく低い。
中には1000人程度しかいないし、無視しても抑えを置けば後方を心配する必要もない。
というか打って出てきたら砦はあっという間に落ちるだろう。
つまり砦は動けないのだ。
だから、そこで主力であるジョシーたちを疲弊させれば、向こう側としては勝ちというわけだ。
まあ、俺たちの弱点をつくならと条件はあるが。
『私も同意見だ。ということはだ。現在敵の数は1万5千ほど。さらに一週間で1万8千。二週間後には2万1千。ここで動くと思う』
「ああ、言いたいことが分かった。迎撃するか一旦仕掛けるかって話だな」
『そういうこと。本部の返答を待っているわけもいかないだろ。何せ砦を作るまでこっちは死守って命令のようだし』
一月二月で砦ができるわけもない。
つまり、その前に敵は攻撃してくる可能性が高いわけだ。
で、矢面に立つのはジョシー。
動くぞって言っているわけだが。
「作戦は?」
『そりゃー、色々』
ジョシーの声には楽しさがにじみ出ていた。




