第426射:砦の工事相談
砦の工事相談
Side:ヒカリ・アールス・ルクセン
僕たちは早速、工事のことを伝えにノスアムの領主館に戻って来た。
いやー、最初は簡単にトントンと作って終わりかと思っていたけどさ、規模とかを考えると簡単にはいかないってことが分かった。
震動一つでもノスアムの人たちは驚きそうだし、ちゃんと伝えないとみんなが混乱しそうだからね。
田中さんも領主館に向かう途中で。
『結城君とノールタルが来なかったら気が付かなかったな』
と、珍しく言っていた。
まあ、戦車とか重火器とかの轟音が響く戦場で戦っていたから、あの程度の振動は特に問題と感じなかったんだろうな。
なにせ、工事のためのものだし、僕もアキラたちに言われるまでそれが問題だとは思っていなかった。
撫子も同じだったし、まあ、工事現場の人たちって本当に大変だったんだなーって思っている。
というか、大変なのは今からだけど。
「はい。私にお話だとか?」
首を傾げたジェヤナが執務室で待っていた。
幸い僕たちの訪問はすぐに受け入れられて、執務室へと通されたんだけど、ジェヤナはあの年齢でノスアムの町を運営するための書類仕事をしている最中で、手元には多くの紙が置かれている。
僕も最初は驚いていたけど、あくまでも最終確認は領主の娘であり、跡継ぎの彼女の裁可が必要なんだってさ。
叔父さんとかが代わりにとかおもったけど、それは簒奪とみられかねないので、駄目だって叔父さんは首を横に振っていたし、ジェヤナに問題があるならともかく、ちゃんと政務をこなしているのだから、何も問題はないと。
一臣下として支えるって頑ななんだよね。
僕たちは面倒だと思っているんだけど、田中さんはもちろんユーリアやマノジルお爺ちゃん、カチュアさんも当然のことっていっているから、そうなんだろうねー。
と、そんなことを考えているうちに田中さんが工事のことを話始める。
「なるほど、砦を作るというお話は聞いていますが、やはり、あの振動はその工事によるものだったのですね」
「あ、こっちにも聞こえていたんだ」
僕がそう聞くと、ジェヤナは苦笑いをしならがら……。
「はい。振動を感じた町の人たちが慌てて、敵の軍勢が来たのではないかとか、天変地異だとか、そんな感じで慌てていましたが、まあ、工事の関係だとは思っていたのでそういう風に伝えて混乱はありませんよ。とはいえ、あそこまで振動がくるとは思いませんでしたが」
うげー、思ったよりも大騒動になっていたんだ。
そうなると、一気に砦の全体を出すとかした場合の騒動は物凄いことになりそう。
ここに相談しに来て正解だったなーと思っていると、田中さんが工事の内容について話始める。
「やっぱりそういう騒動があったか。すまない。こちらの不手際だった」
「いえ、一応工事とは聞いていましたので、それで納得してくれましたし、こうしてお話に来てくれたので大丈夫ですよ。それで、工事の進捗具合はいかがでしょうか?」
「ああ、それに関してだが……」
ということで、用意しておいたミニチュア模型を使って、叔父さんたちを集めて説明し始めた。
最初はそのミニチュアに目が行っていたけど、田中さんが説明し始めてその有用性に気が付いたようで真剣にその模型を手に取ったり、ノスアムの町はもちろん、建設予定の砦をしっかり見始めた。
「ということで、これを作ろうとしているわけだが、現在は地面がいきなりへこんだりしては大変だってことで、壁を一部を置いてみているわけだ。土地を均すためにもな」
田中さんはそういって壁の一部、と言っても星形の一辺の長さもない。
せいぜい一片の3分の1ほど。
それを見て、ジェヤナたちはもちろん、ほかのノスアムの家臣たちも眉を顰める。
「あの振動でもあの騒ぎでしたから、それ以上の振動が起こるとなると……」
「町は大混乱になりますな」
「事前の通告は必要不可欠でしょう。むろん、ルーメル側からも何らかの配慮や説明があれば助かるのですが……」
「ええ、それはもちろん。ノスアムの無用な混乱は私たちとて望むことではありません。それで、こちらのやろうとしていることは理解されましたでしょうか?」
「はい。ここまで大きな砦を作ろうとしているのは驚きでした。しかも、人手も借りることもなく。民衆は少しがっかりするかもしれませんが」
なぜか、ジェヤナはそういって苦笑いをする。
「ん? 何でノスアムの人たちががっかりするの?」
「ああ、ヒカリさん。こういう砦の工事というのは、普通近くの町や村から人手を集めて建築するのです。そして、少なからず食べ物はもちろん給金も出ることがありますので、良い食い扶持になるのですよ。そして今は戦時、ノスアムと周辺の村はこの地方から独立して繋がりがない状態です。物資に関してはルーメルの皆さんが配給してくれますが、金銭収入についてはあまり芳しくはありません。ゼロというわけではありませんが……」
ああ、なるほど。
仕事がないってことで、色々みんな不安になっているってことか。
「ふむ。確かにそれは問題ですね」
話をきいたユーリアがそうつぶやいて、田中さんに向き直る。
「タナカ殿。砦の外周は建物は仕方ありませんが、中の家具などの運び込み等は人手を雇うということは出来ませんでしょうか? ジェヤナ殿の言う通り、今のままでは住人は不満に思うでしょう」
そうユーリアはいうけど、僕としては、砦内の情報が出回るってことだし、どうなんだろう?
中の様子がわかるとかそういうので大変な気がするけど……。
そう思って田中さんを見ると。
「いいぞ。それでいこう」
「え? いいの?」
「いいのですか?」
僕と撫子が思わず聞いてしまった。
それで視線が集まる。
なんか僕たちだけが反対しているみたいだけど……。
「あー、ほら、中の様子とか見られると問題なんじゃ?」
「そうです。防諜関連で心配にはならないのでしょうか?」
そう、それ防諜。
こういう守りが硬いところは内側からってよく言うしね。
「そこはないとは言えないが、一般の人から情報を集めてなってことになる。その程度でどうにかできるほどのセキュリティは用意しない。というかお嬢ちゃんやお姫さんが言うようにノスアムの住人たちが現状に不満を持って爆発する方が困る。なるほどな、物資を配給するだけじゃダメか」
「ええ、健全な生活というのは自らの意思で働き報酬を受け取るということが不可欠です。もちろんどうしようもない場合は配給などは必要ですが、それは私たちの判断一つでどうこうできることです。それは、自分たちの意思で何かをできているとは思いづらいのです」
「ジェヤナ殿の言う通りです。民衆はものではありません。意思があります」
珍しく田中さんは説明される側になっている。
まあ、2人の言っていることもわかる。
ただ、配給をされるだけじゃなにも変わりがないないし、頑張っている意味があるのかわからないってやつだ。
「じゃあ、そうなると金銭や物資はこっちもちってことでいいか?」
「それしかございません。そちら側が人手を集める側ですから。私たちは補充するすべがほかにはない」
「店舗の方もすっからかんって話だもんな。そこらへんも仕入れをさせてやるべきか」
「それが理想ですが、村とのやり取りぐらいしか今はありません」
「そこも砦内で商人相手の仕入れ関連をやってみよう。それでなんとか店舗での物資は賄えるし、一般の売買もできるだろう。ルーメル側の食品を出してもこっちの商店を圧迫するだろうしな」
「確かに、炊き出しなどで配っていただいた食事は素晴らしいモノでした。それと町の飲食店を比べるのは酷ですね。そこらへんも調整が必要でしょう」
なんか色々難しい話になってきたなー。
まあ、そこからは予想通り、砦内に卸売り場とか作る話になって、場所はどーの、人はどうするのとミニチュアをもって移動してみんなでワイワイ話し合った。
というか、やっぱりみんなミニチュアを触ってみたかったようで、目を輝かせていた。
うん、僕も実際楽しかったしね。




