第425射:工事は意外と大変本当に
工事は意外と大変本当に
Side:タダノリ・タナカ
結城君とノールタルが工事の様子を見に来て説明を求めてきた。
それは至極当然の話だ。
進捗とか、そういうのを気にするのが上にいる連中のすることだからな。
ああー、工期を短くしろとか予算を減らせとかいうのは、無しな。
どうしようもない理由ならともかく、ただ単に決まった期間と予算を削りたいだけなら、ただのクソだからな。
いきなりの仕様変更とか納期を早めるとかふざけるなよ。
「えーと、田中さん。なんか憎しみが出ているような気がするけど?」
「あ、すまん。説明だったな」
日本での仕事や、傭兵時代の無茶な命令とかを思い出して、ちょっとそこら辺の気配がでてしまった。
さて、とりあえず俺がやったことをどう説明するかだが……。
「田中さん。こういう時はミニチュアを出して説明するのをよく見ますが……」
「ああ、それいいな。大和君の案採用だ」
俺は早速、テーブルを作ってその上に模型を置くためのミニチュアのプラスチック容器を置いて、その中に土や草など、このノスアムに似せたものを出す。
というか、やってみてびっくりしたが、写真を見ながらやるとここまでできるんだなと、内心驚いていた。
「うわ、すっげー」
「凄い出来だね。これだけでも売れそうだよ」
「間違いなく売れるでしょうね。ジェヤナたちは今後の改築とかを考えるのに使えるのは間違いありません」
「あー、こういうの使う方がイメージしやすいもんな」
大和君の言う通り、こういうミニチュアは一度町の建設の前に作って実際と比べることはよくあるし、このミニチュアは建築物だけでなく、船や車などの耐久性や性能を図る指針としても作られることがある。
ちゃんと計算ができればの話だが。
と、そこはいいとして、俺は説明を続ける。
「ま、必要がなくなればあのお嬢ちゃんたちノスアムの連中に売ってやるのは問題ない。まずは、俺が作ろうとしている砦の話だ」
俺はそういって、まずは手元の星の形をした防壁を作り出す。
「これを、俺はノスアムの近くに設置する予定だ」
そのまま星の形をしたプラスチックづくりの防壁をポンおく。
「あ、これって五稜郭ってやつですか?」
どうやら結城君は分かったようで、この砦の種類を言い当てる。
「ごりょうかく?」
なぜか手伝っていたルクセン君の方から疑問の言葉が飛んできて、大和君が説明を始める。
「知らなかったのですか? これは函館に実際存在するお城の防壁ですよ?」
「え? 存在したの? こんなでかいのが?」
「あー、いえ壁の大きさは違いますが、形として近いというか見本にしたのですよね?」
「ああ、参考にさせてもらった。まあ、あっちは艦砲射撃を中心に大砲による一斉射撃とかもあって防壁は意味をなしてなかったようだがな」
「うへー。それは意味ないっしょ」
「待ってください。流石に大砲一つで防壁が崩れるものですか? 今の砲弾ならともかく、昔の鉄球ですよね?」
今度はルクセン君ではなく大和君から質問が飛んでくるが……。
「確かに鉄球で、炸裂弾などはないが、失念していることがある。防壁も進化してきたんだ」
「あ」
幸い大和君はこういうことには察しがいいのですぐに理解したようだ。
「そう、俺たちが今見本にしているのはコンクリート建築方式で、中に鉄筋も入れているものだ。強度に関しては鉄球が飛んできても一か所が崩れるぐらいだろうな。いや、下手をするとひびぐらいで済むかもしれない。とはいえ、昔はそこまでしっかり作っているわけじゃないからな。厚さもなければ強度に関してもそれほどもないから、あっという間だ」
「その通りですわね」
「というか、撫子。五稜郭が落ちたのは防壁を飛び越えて、中の指揮官に当たって指揮系統が崩壊したのが原因かもって言われているからな。防壁自体がほぼ意味なかったんだよ」
「まあ、結城君の言う通りだな。それが現代で防壁をほぼ作っていない理由だ。もちろん、人の出入りを制限するために作ることもあるが、現代兵器の前では基地の周りを囲うだけの壁は意味がない」
残念ながら、これが現代の壁だ。
どうしても火力の方が高くなるからな。
むしろ、倒壊させられて邪魔になりかねない。
「と、話はずれたが、この五稜郭のメリットだが……」
俺は五稜郭の性能について知らないであろうノールタルに説明をしていく。
「へぇ、確かにどこを攻めても、死角がないから攻撃を届けやすいわけか。それに端っこに関しては、遮蔽物もないし、接点はかどだから最小ってことだね」
ノールタルも説明を簡単にしただけで、すぐに理解するところを見ると、やはり妹のリリアーナがいうようにそういう才能もあるんだろう。
何故パン屋なんかを……と思うが、まあ人のやりたいことはそれぞれだ。
人を殺すことを生業にするよりなんかずっとましだろう。
「ん? なんか間違っていたかい?」
「いや、理解が早くて助かる。それで、続きというか、俺たちが今やっていたのは、これを完成形に、壁を一部だけを出現させていたわけだ」
俺はそういって、次は星型の壁ではなく、一枚の壁を出現させて、それを片手でつまんで置く。
「なんで一気にやらないんですか?」
もっともな疑問を結城君が聞いてくる。
「まあ、俺もそうは思ったんだが、あることを考えたり、指摘されてやめたわけだ」
「それは?」
「晃たちもわかったんじゃない? ドシーンとか大きな音が」
「「あ」」
指摘されて気が付いたようで2人とも声を上げる。
「そうです。ただの防壁の一部であれだけになりました。なら、この模型通りの重量物を一気に出せばどうなるでしょうか?」
「あー、騒音被害とか凄いことになるよな?」
「いやー、振動もあるし、そういった意味でもあぶないんじゃないか? 下手するとノスアムの方まで伝わって大きな騒動になるかもしれない」
「それだけで済めばいい。地盤沈下とかになればもっとひどいからな。地面も慣らさないといけないってことになったわけだ」
「ああ、なるほど」
「重い物を載せて床が抜けるってやつだね」
「概ねそういうことだ」
そう、俺としては、ドンと置けばそれで終わりかと思っていたが、大和君が地盤沈下とかのを危惧してその可能性に気が付いた。
勿論、この模型のように上にドンと置くだけのような真似はしない。
地下に最低10メートルは石壁を埋めて、地下の侵入も防ぐ予定だが、そのさらに下に大空洞が無いとも限らない。
俺も流石にそういうレベルの規模の計算はやり方は分からんが、作った後で足元から崩壊したなんてのは洒落にならない。
なので……。
「まずは予定の場所に分けて置いて、地面を慣らすのと同時に、地盤沈下などが起こらないか確認中ってわけだ」
「なるほどなー。簡単にはいかないんですね」
「建物一つ建てるだけでも大変だね」
本当にな。
「まあ、そういうわけで地面を慣らしている途中でな。その影響でいつ地盤沈下とかが起こるかわからないってわけだ。そこで、結城君たちのように見学に来る連中も出てくるだろうから、ノスアムのお嬢ちゃんに連絡をしてくれないか?」
「わかりました。それは必要ですね」
「だね。ケガでもされちゃ、砦の建築に反対されかねないし、言っておかないとね。でも、工事の期間とかはどれぐらいを予定しているんだい?」
「あー、そういうのも確かに必要だな」
ノールタルの言う通り、どれだけ時間がかかるかっていうと正直分からんが、不透明じゃノスアムの住人たちも不安に思うし、こんな工事音が続いていたらストレスになるだろしな。
「田中さん。そういうのって一度で終わる話じゃないでしょう? ちょっと考えた方がいいんじゃない?」
「そうですわね。日中の一定の時間帯だけとか、そういうのは工事でもよく聞きますわ」
「確かにな。そこら辺を詰める必要もあるか……よし、あのお嬢ちゃんには俺から説明するべきだな」
「それだったら僕もいくよ。ジェヤナと話すなら同じ女の子がいた方がいいし」
「ですわね。私も同席いたします」
「じゃあ、俺は仕事が終わったばかり何でここで休みつつ部外者が来ないようにしておきますよ」
「私もアキラに付き合うよ」
ということで、俺たちはノスアムに工事の説明をするために向かうのであった。




