第424射:いきなり現れる石壁
いきなり現れる石壁
Side:アキラ・ユウキ
今日も今日とて、ドローンからの監視の任務を終えて、しばしばする目を抑えながらモニター室から出てくると、遠くに大きな石が建っていることに気が付いた。
「なんだあれ?」
前日はあんな構造物はなかったはずだけど、俺の目が酷使しすぎておかしくなったか?
連日のモニター監視でついに異常をきたしてしまったのかと思い、何度か目をパチパチさせて、田中さんからもらった目薬も差してから改めて見てみるが……。
「まだあるな? ということは幻覚じゃない?」
となると夢の可能性だが……俺は自分の頬をそれなりの力でつねってみると。
「いたい。夢でもないか。つまりアレは現実っておい」
俺が次に大きな石を見てみると、なんか横に倍になっている。
どういうことだ?
あそこって……。
そんなことを考えていると、またいきなり大きな石が出現する。
ここまで妙なことを見ていると逆に冷静になって……。
「ああ、田中さんの砦づくり動き出したんだ」
確か、何かしらアイディアを求められたけど、俺としては生活空間がしっかりしておいた方がーぐらいだ。
田中さんからアスタリのことを指摘されて、ちゃんとトイレとかはもちろん、多くの人が収容できる部屋とかを用意ってぐらいで。
とはいえ、その規模は万単位だ。
ちょこっと家を用意すれば済む話じゃない。
「となると、様子を見に行くか」
実際どういう風に作っているのか気になっていたので、そのまま足を運ぶことにすると、声をかけられる。
「やぁ、アキラ。仕事は終わりかい?」
振り返るとそこにはノールタル姉さんが立っている。
確か、姉さんも今はドローンの監視要員として組み込まれているはずだ。
ここにいるっていうと……。
「ええ、今終わったところです。ノールタル姉さんは今からですか?」
「いや、私は夜明け番だね。だから、アレ気になっているから見に行こうと思っているんだ。アキラもそうだろう?」
「あ、はい」
その通りだったので素直に頷く。
「じゃ、一緒に行こう」
「はい」
ということで、俺はノールタル姉さんと一緒にどんどん増えていく石壁の方へと向かっていく。
「しかし、砦を作るとは聞いていたけど、なんでああいう風な石壁なんだろうね?」
「さあ?」
俺に聞かれてもサッパリわからないので、そう答えるしかない。
てっきり俺としては、船と同じように完成品をドンと出して終わりかと思っていたんだが、様子を見るにそうではないようだ。
「まあ、タナカのことだ。色々考えているんだろうね」
「それは……そうですね」
こっちの想像もつかないようなことをやっているんだろうなって思います。
ただの砦を作るわけはないだろうというのは分かる。
で、そんな雑談をしながら歩いていると、看板が立っているところまでやって来た。
「……意外と遠かったね」
「……ええ」
どんどんと石壁が見えているから、歩けばすぐかと思っていたら意外と遠く疲れていた。
ついでに看板には「この先工事中危険。関係者以外立ち入り禁止」と分かりやすく書いてある。
ヘルメットを付けた人の絵がある、日本では定番のものだ。
普通なら、関係者ではないので引き返すところだが、俺はいまこの砦工事の関係者だ。
だからためらいなく踏み込むのだが、改めて自分の環境を考えてしまう。
いやー、なんだろう。
勇者としてよびだされて、冒険もして、軍事訓練っぽいこともしてきたけど、流石に建設をしたことはない。
テントぐらいならあるけど、軍事施設として使うような立派な建物とか、ちゃんと建築関連の勉強しないと無理だしね。
建材とか、耐震性とかさっぱりわからないし。
レ○ブロックで、お城を作りかけて諦めた経験しかない。
その程度だ。
そんなことを考えていると、不意にノールタル姉さんがつぶやく。
「えーと、入っていけばいいんだろうけど、これからまだ先は遠そうだね」
「ですね」
工事現場に踏み込んだはいいけど、見えている巨大な石壁はまだ遠く、歩いていかなくてはいけないのは明白だ。
ここまで遠いとなると、工事をしている田中さんを探すのも大変だとようやく思い至った俺は即座に耳に付けているイヤホンを通して呼びかける。
「聞こえますか、田中さん。結城です。いま、工事現場の看板を越えたところなんですが、どちらにいますか? ちょっと見学に来たんですが、見当たらなくて」
俺がそう言うと、すぐに返事が返ってくる。
『ああ、お仕事ご苦労さん。えーと、場所を言うのが難しいな。下手に入り込むと事故の可能性もあるし、俺の方から向かおう』
「え? いや、お邪魔なら、このまま帰りますが……」
様子を見に来ただけで、仕事の邪魔をしたいわけじゃない。
だから、わざわざ時間を取るならと返事をしたのだけど。
『結城君、気にしなくていいぞ。ちょっと休憩がてら、今作っている物の話もしたかったからな』
『そうそう。なんか近くだとどうなっているのかーとかちょっとよくわかんなくてさー』
『ですわね。現場で作っていると、そういう視点がないので、意見を貰えると助かりますわ』
おや、どうやら田中さんの所には光や撫子も集まっているらしい。
まあ、これだけド派手にやっていれば誰だって気になるか。
「わかりました。じゃあ、待ってます」
「わかったよ。まあ、焦らずに来てくれ」
向こうが話したいことがあるというなら、俺もノールタル姉さんも何も言うことはないのでそのまま待っていると、石壁の足元からにゅーっと出てきて、人が歩いてくるのが確認できた。
起伏があるから、足元が確認できてなかったんだな。
そんな納得をしているとこちらに田中さんたちが到着する。
「改めてモニター監視お疲れさん。ほれ」
田中さんはそう言って、俺に缶コーヒーを渡してくる。
おそらく即席で出したものだろう。
内容はブラックだ。
コマーシャルで見たことがある働く男のってやつだな。
俺はすぐにプルタブを開けて、飲む。
口の中に苦さが広がって……。
「ああ、なんか目が覚めます」
「うへー。コーヒーってそういう飲み方する?」
「本来は香りやその苦みや酸味を楽しむものですけどね」
「まあ、目覚ましにはなるな」
俺のブラックコーヒーの飲み方に女性陣はそう文句を言うが、田中さんは仕事の休憩なのかタバコに火を点けながら……。
「いいんだよ。仕事じゃ飲んで目を覚ますっていうのはよくあるしな。戦場じゃクソ不味い飲み物を軍の嗜好品ってことで支給していることもあるしな」
「うへー。そんなのでよく文句出ないよねー」
「いや、出てたんだが、下の兵士が騒いだところで、補給品が良くなることは滅多にないからな。不味くても、一応支給されているんだから、試すんだよ。確かクソ不味いチョコとかもあったな。あえてそういうのを配っていたらしい。と、そこはいいとして、砦を見に来たんだよな?」
そう言われて、俺はコーヒーを飲むのをいったん止めて、頷きつつ。
「はい。なんか、仕事が終わって砦の建設予定地を見ると、いきなり石の壁がドンドンと出てきているから」
「うん。私もびっくりしたよ。だからちょうど居合わせたアキラと一緒にきたのさ。それでいったい何がどうなっているんだい?」
いったいどういう工事が行われているかを聞いてみる。
だけど、田中さんも珍しく歯切れがわるく、悩んでいて……。
「あー、いや、なんだろうな。俺のスキルで出すっていう方法だからな。どうなっていると説明しようとすると通常のモノとは違うからな」
なるほど、確かに普通の方法で作っているわけじゃないから、混乱しないように説明をするっていうのは考えることなんだろう。
「とりあえず、聞いてみてくれ。わからなかったら、説明をし直すことにする」
「わかりました」
ということで、俺たちは田中さんの砦工事の話を聞くことになった。




