第423射:砦の設計をしよう
砦の設計をしよう
Side:タダノリ・タナカ
さて、東側連合の上層部があーだこーだ言っている間に俺たちはノスアムに戻ってきて、砦の建設計画を立てることになる。
もちろんやって見なければわからないことではあるが、土地の測量や、適した場所などを考えるだけでも無駄にはならない。
そして、その新しい砦作りに関して、地元のノスアムの連中はというと……。
『はい。特にノスアムから徴収するようなことはないのですよね? 人手を使うにしても、給与や食料提供があるのであれば、ノスアムの領主としては文句はございません』
と、お嬢ちゃんを筆頭に重臣たちは特に文句を言わなかった。
むしろ、こっちが裕福になり、防衛能力もあがるなら喜んでという所らしい。
まあ、普通ならノスアムに多少なりとも負担を強いて砦を作るんだろうが、今回に限っては俺がほぼ一人だしな。
向こうが断ることなんてほぼあり得ない。
無償で安全と快適が手に入るんだからな。
とはいえ、これが地球ならまずありえないけどな。
ああ、いや、どうだろう?
一応この土地は俺たちが占領しているんだから、その期間での開発に口を出せるわけもないか。
だが、多少なりとも反対派が出て小細工をするとは思うが……。
向こうの知識がそこまで追い付いていないってやつだろうな。
「ま、そこは喜んでおこう」
そんなことを言いながらパソコンを前に腕を組んでいる。
モニターには写真でとったノスアム隣接のデータを入力して、そのデータを元にどんな建物、つまり砦を建てるのかというのを、仮想で作っている最中というわけだ。
「敵の基本は歩兵。そうなると角地が敵が攻めてくる位置になるよな。そうなるとやっぱり五稜郭、星型が理想か」
あの砦なら、死角が存在せず絶えず損害を強いることができる。
昨今、砦なんてものは基本的に意味がないが、敵が陸から律義に来るなら話は別で高い壁に意味はある。
「地球ならミサイルや爆発物であっという間だからな」
現代において、基地というは兵士や物資、そして指揮所があるもので防衛する物ではない。
いや、防衛はするにはするが、あくまでもスパイとか民間人相手を想定している。
敵が軍なら押し寄せてきた時点で守れるか守り切れないかが確定しているからな。
まあ、面子の関係上無条件で明け渡したりはしないだろうが、勝敗は覆せないことが多数だ。
何せ基地の真上を制圧されているってことだからな。
これでどう勝てと。
だが、こっちは歩兵しかいない。
「とはいえ、その高い壁をどれだけにするかって話だよな」
俺は参考にノスアムの写真を見てみる。
ノスアムの防壁は高さ5メートルと言ったところだ。
十分高いと言えるが、そのレベルは向こう、東側でも普通に見た。
つまり、当たり前に対策が立てられているということだ。
「5メートル以上は確定か。それかこっちに合わせて鉄条網か? いや、鉄条網は兵器が揃っていて、砦の前に展開できる方が理想だ。どっちかじゃない」
そう、どっちも用意できるならどっちも用意した方がいいものだ。
つまりやっぱり砦は作る。
それに現代で砦がないわけでもない。
軍事拠点はそれぐらいしっかりしているところもある。
即席の拠点じゃなくて、司令部みたいなレベルだが。
「……まて、この場合この拠点はどう扱うつもりで作るんだ?」
俺は改めてこの砦の意義を考えてみる。
俺がここの砦作成に乗り出したのは、東側連合の動きが遅いからだ。
そのままだとどうしてもこっちが割を食うから、ルーメルが所有しているノスアムというのを利用して、自己完結で拠点を作ってみるということになったのだ。
もちろん東側連合としては、自分たちが動くまでの繋ぎ程度のしょぼい砦を想像していることだろう。
何せ、物資を運ぼうにも、ルーメルには伝手がない。
その物資を運ぶには東側連合の手助けがいると思っているわけだ。
だが、そこで予想を反してしっかりした砦を作って、進軍速度を上げると同時に、ルーメルの有用性を改めて上げるという意味もある。
もちろんノスアムに下手に介入されないようにだ。
ということは、ノスアムにしっかり腰を下ろすってことだな。
「前線基地ではあるが、しっかりとした拠点として機能する砦が必要だな。もともと、東側連合の数万の援軍を収容できるようにも計画していた。なら、西側攻略の前線基地ではあるが、峠にある総司令部よりもしっかりしたものがいいだろうというか、あっちを移設する感じか?」
いや、あそこを落とされると敵が東側に流れ込むからあそこから軍が動くことはまずないか。
それならいずれあそこの補強もするべきか?
「……そこは今は考えるべきじゃないな。まずはここが落とされないような拠点を作るのが先か。それなら……」
ある程度考えがまとまったので、俺はさっそくパソコン内で建築を試していくことになる。
そして、気が付けば2時間ほどたっていて……。
「田中さ~ん、だいじょーぶ?」
そんなことを言ってルクセン君が声をかけて顔を上げた。
「ん? ああ、問題ない。って時間が経っているな」
「うん。全然出てこないから様子見に来たよ。あと、コーヒー」
「ああ、ありがとう」
差し出されたコーヒーを受け取りつつ、俺はモニターに視線を向けていると、ルクセン君は興味があったのか覗き込んでくる。
特に俺も隠すつもりもないので、感想を待っていると……。
「これ、壁ってどれぐらいの高さなの?」
「ああ、分かりにくかったか」
確かに完成図だけでは、壁の高さは分かり辛いだろう。
ということで、隣にノスアムの壁を比較として置いてみると。
「うげっ、4倍はない?」
「あるな凡そ20メートルだ」
「20メートル!? ……えーと待ってそれって高いのかな?」
「まあ、大体7階建てのマンションって所か?」
「うーん、イメージわかないけど。何となく高いってのは分かる」
「あー、そうだ。お台場ガンダ○が20メートルだった」
「それならわかる。けど、そんなにでかくない?」
「さぁどうだろうな。とはいえ、簡単に登れるような高さじゃないのは事実だ」
そう、20メートルの高さっていうのは、こっちの相手にとっては簡単に超えられる高さじゃない。
砦であっても、精々10メートルがいいところだ。
その倍だから、まず敵が攻城用の梯子などの道具が意味をなさない。
その時点でこっちが有利だ。
そして何より……。
「あれ? これって反ってる?」
「ああ、反っているな。梯子を下からかけにくいようにしている」
そう、この壁は下から上に斜めになるように反っているのだ。
高さが足りなくても真ん中ぐらいまで高さを稼いでそこからっていうのを避けるためだ。
「うへー。そしてちゃんと下を狙える穴もあると」
「そこはちゃんとしないとな。まあ、この構造からは遠目からどこでも狙える奴で……」
こうして一通り説明し終えるて、感想を聞くと。
「うん。僕はよくわかんないけど、凄く守りやすいっていうのはわかった。でも、これって実際作れるの?」
「そこが問題だよな。ま、今からそれを試しに行くわけだ」
ここまで設計図が出来たのなら、後は作るだけ。
言うは簡単だが、実際にできるかはわからない。
「ついていっていい?」
「いいぞ。というか、俺が倒れたら移動して治療を頼む」
この前の戦艦を呼んだ時みたいに吐血しちゃたまらないからな。
下手をするとルクセン君の時みたく気絶することもあり得るだろう。
その時のフォローを頼もうと思っていたので、こっちとしても助かる。
「わかった。でも僕一人だと心配だし、撫子呼んできていい?」
「ああ、いいぞ」
一人よりも二人の方が安全が高まるのは分かるので俺は素直に承諾した。
さて、俺はルクセン君が大和君を呼びに行っている間に、データを保存して、タブレットで持ち出す準備をする。
あとはこれを実際に作れるか、だな。




